15-15
「私さ、サバ缶の骨好き!なんか好き!」
「お目が高いっすねウイさん!!超分かるっす!!」
サバ缶、食べたことあるけど…
骨とか気にしたことはなかったよ。
エイジくんも好きらしいけど
この子の着眼点はいちいち不思議だ。
「5本!!私のとこ5本入ってたもんね!!」
「ウイさんウイさん!俺11本!」
ドヤ顔で取り分けた煮物から骨を選り分けてる二人。
本数勝負?で負けたらしいこの子はぐっと息を詰まらせて悔しそうにエイジくんを睨み付けてた。
…味しないじゃない。
骨なんて。
「でも私のヤツのが全体的におっきいし!」
「総量は俺のがあるし!!」
「おっきい方が稀少だし!それどうせ全部元は一本が砕けただけだし!!」
「でも11口分楽しめるっすもん!!」
「…下らねぇ事で騒ぐな」
どうでも良い事で張り合ってる二人を制したのはキャプテンの呆れた声。
片目だけ細めてギャーギャー騒いでる二人に目を向けてる。
なんなんだろう、この子は。
なんて言うか掴めない。
キャプテンが好きなこの子がどんな子なのか。
好きな人の好みの女の子になりたい。
でもこの子に近付く為にはどうすれば良いの。
やる事なす事突拍子が無さすぎる。
この子がどんな子かが掴みきれてないこの状況じゃ、近付こうと努力しようにも無理だ。
「アンさんもサバの骨好きだよね!!?」
「骨なかったらおにぎり具なしくらいがっかりするっすよね!!?」
「…いや、あの…、考えた事なかった、です」
この子みたいに、それを好きって設定にすれば良かったのか。
それともキャプテンが下らないって言うように気にした事ないって答えて正解だったのか。
重要だからこれからは考えて!!って
真剣な顔で巻き込んでくるこの子の頭の中身が知れない。
好き…、なんだよね?
キャプテンのこと。
皆そう言うし、キャプテンかあの子に向ける態度は確実に“特別”なもの。
でもなんだか
こういう子なのかは知らないけど
この子からはそれを感じない。
甘えるのも声かけるのも
頼み事するのも何をするにも
皆にそうなの。
キャプテンだけじゃない。
寧ろ
この子はキャプテンには、あまり自分から寄っていかない。
夜は賭博。
なんとなく、そんな気はしてたけど
この子もやるんだ。
勝手な偏見だけど、賭け事なんて
寧ろ麻雀なんて男の人、それも年配の人の遊びってイメージだった。
「シャチ気をつけて!!振ったら飛ぶよ!!リーチ!!」
「マジかよ…」
「やべぇウイさん…マジ引き強ぇ…」
「あんまバラしちゃダメ!!」
あの絵柄が何なのかすら分からない。
あの子が今どれだけ凄い状態なのかも。
女らしくないと思ってたこのゲームが
あの子がそれをした途端にルールを知らない自分がダメみたいに思えてくる。
「安牌ねぇんだけど…ウイちょっとあっち向いてて」
「やだよ。早く切ってよ」
もう部屋に戻ろうかな。
皆残ってるから、私もここで本を読んでる。
でも同じ空間に居てもなんだか疎外感。
ルール教えるから一緒にやろう!って誘って貰った。
断ったのは私。
ここで一人輪に入れずに居るのは私のせい。
「ローン!!親満12000!!」
「これは事故。仕方ねぇ。降りきれねぇよこんな序盤のリーチ」
「リーチ七対ドラドラ、しかも筋引っかけだもんなー…これはキツいっすよねー」
「それは皆同じだよ!振り込んだシャチがカス!!」
ジャラジャラ麻雀牌を混ぜる皆が喋ってる言葉が、まるで異国語。
ひねくれてないで教えて貰えば良かったのかな。
私も覚えたら、この子が居ない時に皆に混ざってこれを楽しめたかな。
「ねぇアンさんトランプは!?ダウトとか大富豪とかドボンとか!」
「わ…たし眠くなっちゃったので。今日は寝ます。おやすみなさい」
そお?って、残念そうに眉を下げるその顔から目を逸らして
皆のおやすみって声に返事をして部屋を出た。
なんで私ってこうなんだろう。
この一週間は
とてつもなく長く感じた。
隙あらば話し掛けて来るあの子を避けて避けて
ふと目に入るあの子と皆の楽しそうな様子を悔しい気持ちで眺めて
キャプテンとあの子が話してるのを見て胸を痛めて
そんな一週間も今日でおしまい。
今日で丁度一週間。
やっと終わる。
「アンさん!つなぎ出来たから着てみて!どこか不具合あったら直しちゃうから!」
「あ、はい…」
早く早く!って
連れて来られたのはあの子の部屋。
ハイ!って渡されたのは綺麗に畳まれた白い布地。
それはよく見る、皆と同じつなぎ。
この子が何も言わないだけで
私のこの子への態度はそれはそれは酷いものだったと思う。
それなのに
ちゃんと作ってくれた。
「うん!良い感じ!!お腹周りとか絞っちゃったけど動き難くない?」
「大丈夫、です」
つなぎに着替えた私を見て
満足気に、嬉しそうに笑うんだ。
「似合うね!良かった!!アンさんにはね、着替え分多目に準備しといたよ!」
嫌な顔一つしないんだ。
女の子だもんね!皆には内緒だよって。
袋につなぎを詰めてくれるの。
「ウイさんは…キャプテンのこと好きなんです…よね?」
「──え?」
全身鏡に映る、ハートの海賊団の私。
これで私もキャプテンの部下。
キャプテンの束ねる海賊団の一員。
「あの…──えっと、」
「知らばっくれないで下さい。キャプテンのこと好きで、でも副船長のことだって…気持ち知ってて、それで良い顔してるんでしょう!?」
いつもへらへら笑ってるその顔が
ぴしりと固まった。
なんだ。
やっぱり鈍いだけで、ちゃんと面と向かって言葉を投げれば
そんな顔も出来るんじゃない。
「つなぎ、ありがとうございました。急に失礼なこと言ってすいません。でも私は──」
本当にキャプテンのことが好きなら
その笑顔はキャプテンにだけ向けてれば良い。
他の人にも愛されたいなら、キャプテンのことは諦めて。
「好きな人以外にも愛想振り撒くとか、そういうのちょっと理解出来ない。なんでも持ってるからって、調子良すぎると思います」
一週間。
溜まりに溜まった黒い感情は、最後の最後で爆発した。
目を見開いて固まってるこの子は
何にも知らない天然を装っておいて
あぶれてる私に気遣ってくれてるふりをしておいて
皆を独占してる自覚でもあったのかな。
キャプテンの気持ちも
副船長の気持ちも知ってる上で
どっちつかずに愛想振り撒いて期待させてるって
そんな自覚あったのかな。
「あの…アンさんあのねっ──「別に良いじゃないですか。私にどう思われてたって。どうせ皆はあなたの味方でしょう?…失礼します」
言いたい事だけ言って
逃げた。
この子はきっとね
キャプテンに、皆に告げ口とかしない。
良い子だもんね。
憎たらしい程に。
分かってて言った。
この一週間感じてた不満を吐き出せる捌け口がここにあって
ひたすら良い子でしかないこの子に腹が立った。
この子だって悩めば良い。
苦しめば良い。
私ばっかりがこんな思いしてるのは
不平等過ぎる。
「お!アン似合うじゃんつなぎ!」
「本当だー!似合う似合う!」
「そうかな、ありがとう」
今日はもう海へ潜るから。
甲板に出してた物を中に片付けてる皆がつなぎ姿の私を見て声をかけてくれた。
「ウイさんは?」
「お部屋に居るんじゃないかな。待ってて!私もこれ置いてきたら手伝う!」
もう、部屋から出てこなくて良いよ。
顔なんて出さなくて良いよ。
十分楽しい時間を過ごしたでしょう?
きっと出航する前に、キャプテンはあの子に声をかけにいく。
どんな顔するのかな、あの子。
流石にさっきの私の事、告げ口したりするんだろうか。
…バラされたって構わない。
私があの子に言った事は事実。
付き合いもしない、でも自分の事を好きな人達の気持ちを利用してちやほやされてる。
言いたいなら言えば良い。
でもどうしよう。
これであの子が気持ちを固めてしまって
キャプテンと付き合い出したら…
でもあの子って本当に、キャプテンのこと好きなの?
断言出来る事が1つ。
あの子に勝てるところが1つだけ。
私の方が、キャプテンを思う気持ちは強い。
私の方が
キャプテンのこと、絶対に好き。
コンコン
「おい、そろそろ行くぞ」
「あ、…ちょっと待って!!」
中からはガサガサと音が聞こえて来て、珍しく慌てた様子の声。
「ごめんごめん、もう時間?」
「あぁ、どうした。部屋にこもって。つなぎ、出来たんだろ?」
扉を開けにわざわざ出向いて来るとは更に珍しい。
何か見られたらまずいもんでもあんのかと
開いた扉の隙間から中を覗いてもそれらしき物は見当たらない。
「ちょっと…ね。ねぇロー。少しで良いから、今時間ある?」
「どうした」
…なんだ?
様子がおかしい気がする。
どこがと聞かれても分からねぇ。
でもおかしい。
「あのね、前から!前から話したいって言ってた話!…なんかずっとなぁなぁになっちゃってたでしょ?そのことなんだけど──「ちょっと待て」
本当にどうした。
なんで今更それを言う。
あの直後は、顔を合わせる度に何度だって話を切り出そうとしてきた。
でも二人きりにならないように
そんな流れにならねぇように
何度もかわし続けた結果
最近はこれを切り出そうとする事なんてなかった筈だ。
上手く調整出来ていた筈。
ドフラミンゴを討ち堕とす算段もついて
それを終えてこいつと真正面から向き合えるようになるまで
それまではこの曖昧な関係で居るのがどう考えてもベスト。
「急いでないなら聞いて欲しい!」
「ややこしそうな話なら今は聞きたくねぇ」
珍しく大人しく引かないウイに
つい口が滑った。
本音ではあるものの
俺が“その話”に勘づいてると思われるのも上手くねぇ。
「ややこし…いかもしれないけど!でも大事な話だよ!あの──「コートか。アレ頼んだから今言っとこうとでも思い立ったのか」
思い当たる節がそこしかねぇ。
ウイの中で言わなくても良い部類に収まってたそれを
今切り出す理由。
「違うよ!っていうかロー…私が話そうとしてる話、何の事だか知ってるの?」
むっとした顔で見上げてくるその顔に
肺の中の空気を全て吐き出す程のため息が出た。
あぁ知ってる。
知ってるからこそ、絶対にそれは言わせねぇ。