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「なんですか」
「乙女の病に苦しんでるらしいから。ハイ、これあげるね」
少し離れたとこから
投げて寄越されたのは湯タンポ。
流石チャラ男。
女の事情をわかってる。
「昨日、ごめんね。言い過ぎたかも」
聞こえてくるため息に
わざわざそんな事言いにこれを届けてくれた事に
整理が付かない気持ちが重く疼く。
「なんでだろうね。俺本当に、アンに手厳しいね」
「本当ですよ」
違う
私が悪い。
何か言われる度に反論したくなる。
でも、結局
副船長は間違ってない。
私が捻くれてるだけで
どんなにあの子を下げても私が上がる訳じゃない。
「誰も言わないんだろうなって思ったから言ったのかね。偏屈過ぎる女の子は可愛くないよ」
「…そんなの、私だって分かってます」
きっと他の人にこれを言ったら
表面では同調してくれるんだろうけど、内心絶対引かれてた。
「なんか、上手く出来ないんだよね。アンには」
「上手くやって下さいよ。モテるんでしょ?」
投げられた湯タンポをお腹に押し当てる。
それはじんわり、痛みを溶かしてくれるみたいだった。
「アンが戦うべきは俺じゃなくキャプテンでしょ。勝てるように助言してるつもり。余計なお世話かもだけど」
「…副船長は、…狡い。あの子みたい」
酷いことしか言われないのに
私を傷付けてしか来ないのに
少し経って落ち着くと、なんでか否定したい気持ちは萎えてくの。
「俺は流石に、あんなんじゃないっしょ」
「そっくりだもん…。おやすみなさい。もう寝る」
嬉しいのに
こんな醜い本音を晒け出しても湯タンポなんて持ってきてくれる副船長が
あんなにこてんぱに言う癖に見捨てないでてくれる副船長が
本当は凄く嬉しい。
今度こそ本当に、見限られたと思った。
「お大事に」
こんなにナーバスになるのは、生理のせい。
乱れてるホルモンバランスのせい。
副船長が出て行った後で
誰もいない、何もない部屋で
あの子がくれたワンピースが目に入った。
可愛いと思ったけど
でも絶対に着てやるものかって
負けたくない意地が、捻れた決意を生んだんだ。
わかってるよ。
あの子には敵わない。
私の恋心は
叶わない。
「結局言えなかった…なー…」
──気になんのか?あのアンってヤツ
皆と別れて
そんなに散らかってはなかったけど船を片付けて
サボってたお洗濯とか掃除もしちゃって
簡単に夜ご飯を済ませれば、もう空には星が輝いてた。
「それは…ねぇ」
──モテる女はツラいな
ししって、きっとエースはこんな時白い歯を覗かせて笑うんだろうな。
今はもう夜だけど、瞼の裏に思い描くエースの顔は
いつでも真っ青な空と海を背負ってる。
「エースも、早く言って欲しいでしょ?…でもなんか、ローって最近本当に全然そんな感じじゃないじゃん?」
──そうか?
違うよ。
何か違う。
前はもっと、…何て言うんだろ。
二人の時とかは視線っていうか、話す事っていうか…
「こう、良い雰囲気的な感じに持ってこう!って感じが前はあったのにさ!最近全然ないじゃん!!」
──なんだよおまえ不満なのかよ。
不満…?
不満…
え?
「そんな訳ないでしょ。中々言えないから、言わなくても問題ないなら寧ろ良かったなとか…どっか思ってたとこあったし」
──たまに乙女モード全快の惚けた顔でアイツのこと見てる癖に。
…煩いな。
意地悪そうな顔でニヤニヤ覗き込んで来る、私の中のエース。
なんだ。
今日はエースが意地悪だ。
性格悪い。
なんでだ。
「しょうがないじゃん。だってロー格好良いでしょ!」
──そうかよ。おまえはあんな目付き悪ぃ堅物な不能野郎がそんなに好みか。
あ…
これ本当に言いそう。
すっごい言いそう。
仕返しにヤキモチでも妬かせてやろうと口にした言葉は
思い通りにその顔を拗ねさせる。
ふいって顔をそらしてそっぽ向くの。
可愛いんだから、もう。
「嘘だよ。エースが一番格好良くて一番大好きだよ」
──…それはどうも。
ドストレートな直球には照れちゃうの。
あの時もそうだったね。
そうだよ。
私はエースが好き。
大好き。
もう一年以上、こうやって毎晩エースに話を聞いて貰ってる。
楽しかったことも
大変だったことも
悲しいことも
文句も愚痴も。
傍に居てくれないけど
抱き締めてもくれないけど
エースはどこにも行ったりしないから。
「ローさ、コート頼んで来たじゃない?あれって、…そういうことだよね?」
──なんじゃねぇの?
ローの恩人の名前。
それを改まっていつも着てるコートに入れて欲しいだなんて
ドフラミンゴの件、動き出す気で居るんでしょう?
──気になんのか?
「そりゃぁ…ねぇ。話もそれ片付いたら聞いてくれるって言ってたし」
簡単な事じゃない。
それだけ大きな敵だって、分かってるから。
エースを好きになって
ローの事を少し落ち着いて見れるようになって
今さらながら気になってる事がある。
『やるべきことを片付けたら迎えに行く』
あれはなんの事だろうって。
私が告白しようとした時にそれを言わせてくれなかったのも、同じ事が原因なのかな。
ドフラミンゴの件も、出会った時からずっと言ってた事だけど
それ私聞いちゃってるもんな。
絶対私には言うなって口止めされてるらしいから、きっと他のこと。
なんだろう。
それが片付かなければローは一生私の事どころじゃない訳だから、それはそれでありがたいのかもって思っちゃったりする気持ちが少しあるのは口が裂けても言えないけど。
そんな友達としてどうかと思うことは本当は願いたくないし、ドフラミンゴの件は区切りとしては丁度良いのかもしれない。
ローが私の事をもう好きじゃなくなってたとしても
本当は今も、想ってくれてるとしても
それが片付けば、ローはまた新しく一歩を踏み出す。
その時に、過去と一緒に私も置いていって貰おう。
アンさんの好きな人って、どっちなんだろう。
ペンギンとも二人で結構話してたし
ハートの海賊団に入るってことは、ローに着いて行きたいって思ったんだろうし…
変だね。
会う前は正直、ちょっと嫌だったのに。
私以外の“女の人”がいつも皆と一緒に居るって
何か嫌だったのに。
「諦め、ついたのかな…」
──なにがだ。
「なんでもないよ。」
皆進んでく。
色んな人と出会って
気持ちも変化してく。
自分じゃ手放せないから
捨てていって欲しい。
踏み出せずにいる背中をどついて欲しい。
私は、明けない夜の海で
ずっとこの人と一緒に居たいだけ。
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