16-3
「「「「「「かーんぱーい!!」」」」」」
フリーウィングの甲板で、そんな陽気な声が響き渡った。
久しぶりのハートの海賊団とブラーヴェの飲み。
楽しみだったよ?
すっかりお酒の楽しさを覚えたシュウも参加して
楽しい人ばっかりでの宴。
でもね
今後の予定を考えると心から楽しめない…!!
「ウイ、新作のこれアイツらに配ってみても良い?」
「あ、うん!大丈夫だよ!感想貰って改良しよっか!」
シュウが初めて自分で作ってるお酒。
パイナップルの、あんまりお酒感を感じない発泡酒。
アルコール度数も低めで、飲み口は本当にジュースみたい。
これはどっちかって言うと、お酒が得意じゃないアンさんにこそ飲んでみて貰いたいヤツ。
…でもきっとローを送る話アンさんも聞いてるんだろうし。
そっちも気掛かりだけどまずは私だよ!
どうすんだ明日から!!
「うぇーい。どしたのウイちゃん頭抱えちゃって」
船縁に手をついて悶絶してたら
持ってたシードルの瓶がカツン、って涼しげな音を立てた。
「なんでもないよ。ペンギンこそ例のアレ、ローに仕掛けられたの?」
「まだ。そろそろ頃合いかなーって思ってたんだけど。別行動なっちゃうから暫くお預けよね」
いつものペンギンの思いつきのイタズラ。
でもそれは色々考えると結構面白そうで。
いつ実行するのか楽しみにしてた。
すんごい怒り狂うんだろうローを想像して。
きっとすぐに誰の犯行かバレちゃう。
でもペンギンもペンギンでバレても笑い話に出来そうな現状証拠をいくつも作ってて。
楽しみだったよ。
それが決行されるのが。
でもごめん、今は頭がいっぱいいっぱいだ。
「悪いけどよろしくね。キャプテン、聞き分けねぇんだ。コレに関しては」
「ペンギンはさ、何か聞いてるの?」
目的も
送っていく先も
何も聞いてない。
果たして聞いても答えてくれるのかな。
「んー…まぁ、ぼちぼち?言っても聞かねぇじゃん。キャプテン」
「ペンギンも大変だね。私は途方もない程心配で仕方ないよ」
そう。
心配なのも本当なんだ。
きっとこの別行動は、ドフラミンゴ絡みだから。
「なんか浮かない顔ね。楽しみじゃないの、キャプテンと二人旅」
ニヤニヤ人の顔を覗き込んで来るこの人にも
言わなきゃいけない。
アンさんの好きな人はペンギンじゃなかったけど
前に似たようなこと言ったときムカつくって言われたけど。
だからああして、こうしてっては言わない。
でも伝えなきゃ。
ローの後にはなっちゃうけど。
「どうせドフラミンゴの件で別行動取るんでしょ?…そっちが心配過ぎてそれどころじゃないよ」
本当のこと言えないって、難しい。
心配なのも紛れもない事実なんだけど
それより今私が気掛かりなのは明日からのことだ。
最近全く、私を好きとかそういう素振りは見せないローだけど
でも確定って訳じゃないし。
アンさんが気にするくらい。
きっとローは皆に私の事なんてもう好きじゃないよ的な事は言ってないんだろう。
…もしそうだったとしても
言わなそうな人ではあるんだけどさ。
「ふーん。勝算なく動く人じゃないでしょ。まぁ相手が相手だから気持ちは分かるけど」
「違う!ローだからとかじゃなくて!…なんか底見えない人だなっては私も思ったから!!」
私の好きな人は、恋人はエースだよ。
好きな人じゃなくたってこんなの心配だよ。
なんだかそこに関しては勘違いされたくなくて
ついムキになって反論してしまった。
「いや、俺も“相手”って、ドフラミンゴのこと言ってたつもりだけど」
「…あぁ、そう。ごめん勘違い」
なんかこれ、すんごい恥ずかしいぞ。
私が勝手にローを好きだから心配してるとか思われてるのかなって
勘繰り過ぎて勘違いしたみたいじゃん。
「でも別行動中はペンギンがキャプテン代理でしょ?頑張ってね」
「面倒くさーい。…あんまふざけらんないじゃんね」
突っ込まれなくて良かった。
気にしすぎな自分が嫌で逸らした話に乗ってきてくれたペンギンにほっと息をつく。
面倒臭いとか言ってても
この人はちゃんとその役目を果たすんだろうな。
ペンギン、意外と面倒見良くてしっかり者だもんね。
「アンさん!うちの一番弟子から試飲とか頼まれた?」
「私お酒飲めないので。残念ですけど」
皆と話してた姿を見かけて
なんとなく反応は予想ついたんだけど、声をかけてみた。
「度数も低いしお酒っぽくないの!本当に寝る前とかで良いから是非是非飲んでみて!」
「ええ。機会があれば」
…仕方ないんだけど
素っ気ないなぁ。
話すつもりはないよオーラ全開のアンさんにトホホって苦笑い。
折角の女の子同士、仲良くしたいんだけどな。
「やっぱり嫌、ですよね」
「なんのことですか。私は別に誰彼構わず愛想振り撒くのがどうかと思うだけですけど」
つんって
怒ってるのはローと私が明日から二人になる事だよねってぼんやり確認した事は認めてくれないアンさんに更に苦笑い。
なんだかこの人、素直じゃないようで凄く素直。
絶対悪い人じゃない。
こんなこと言ったら絶対余計怒らせるってわかってるんだけど
でもやっぱり凄く可愛いんだ。
見た目は綺麗!って感じだし
年上だし
つっけんどんなんだけどなんでか凄く可愛いく見えてしまう。
「なんですか。人の顔じろじろ見て」
「あ、ごめん。綺麗だなーって思って」
じと目で睨んでくるこんなとことかもやっぱり可愛い。
なんて言うんだろ。
アンさんのこれは嘘じゃないからかな。
あの時は正直、びっくりしてちょっと呆然としちゃったけど
アンさんの言葉は紛れもない事実だった。
誰からも何も言われなかっただけで
私のこの状況をそう見える人が居るんだから、それは誰かにとっては事実なんだ。
言いにくくて黙ってた。
思い当たるとこなんて有りすぎる。
恋愛じゃなくても
ローっていう人間を、私は今も大好きだし尊敬してる。
散々大好きで仕方なくて
駄々漏れにローの気持ちを欲しがって
そんな人に“ぶざけんな”って言われておかしくない気持ちを抱いちゃってるのが
エースを好きになってしまったのが
誰にも、エースにも言えないけど私はきっと
ずっと後ろめたく思ってた。
人のせいにする訳じゃない。
いや、してるのかな?
「おだてても何もだしませんよ」
「本当なのにー。あ、ねぇアンさんこれ食べた?」
このままじゃダメだって心のどこかで分かってて、でも言えなかったことの
背中を押して貰えた。
自分じゃ踏み出せなかった
なぁなぁにしてしまおうとしてたことと、向き合わなきゃいけない気持ちにさせて貰った。
アンさんだって、言ってて楽しい事じゃないと思うのに。
アンさんのせいじゃない。
アンさんのおかげだ。
「それ最近ジャンバールさんのマイブームですから。よく出てくる」
「えー…いいなー。どうやって作るんだろ」
ほら、何だかんだでちゃんと答えてくれる。
羨ましがった私に少し得意気に顎を上げるアンさんは
やっぱり凄く素直で可愛いんだ。
ごめんね、ありがとう。
私きっと、ずっと甘やかされて来た。
皆にたまに怒られることはあっても
毎回謝って改善して、それで許して貰えちゃってた。
嬉しかったのかもしれない。
ああいうの言ってくれたことが。
本音で向き合ってくれてるって、そう感じられて。
いつかアンさんが私に笑ってくれる時が来たら
それは本当の心からの笑顔なんだろうなって。
そんな笑顔向けられたら
嬉しくて仕方ないんだろうなって
今はむすっとしてるこの綺麗な顔を見ながらね、こっそりそんな事思ったりするんだ。
明日からのことに関しては私も凄い気が重いし申し訳なさすぎるんだけどさ。
「おー!新しい女子!!美人じゃーん!初めまして。私カレンね!」
「…カレンさん?の方が美人ですよ。初めまして、アンです」
なんだか豪快な雰囲気で割って入ってきたのは快活そうな美人さん。
カレンさん、か。
この人もブラーヴェの写真で見たことある。
「カレンで良いよ!アンって呼んで良い?年とか大体同じくらいでしょ?」
「…多分。カレンは何歳なの?」
「アンさん私も!私もウイで良いよ!!」
必死の形相で呼び捨てにしてって懇願してくるこの子は
こんな態度しか取らない私になんでこんなに絡んで来るんだろ。
「永遠の二十歳!!レディに年なんて聞いちゃダメっしょ!」
「ふふ、そうだね」
「なんかズルい!!無視!?私は無視なの!?」
わなわなし出すこの子はなんだかとっても悔しそう。
私がカレンには友好的なのが悔しいのか。
この子が思い通りにいかない事とかちょっと気分が良い。
面白くなってしまって無視は続行だ。
「良いなー!海賊団ズってことは!毎日ペンギンと一緒居るんでしょ?超楽しそう!!」
「副、船長…?」
だってペンギン良い男じゃんって
指折りにエピソードを語るカレンにおののいた。
え?
この人、副船長が好きなの?
「絶対騙されてる。副船長禄でもないじゃない」
「禄でもないって…!!まぁチャラチャラしてるけど。あのコミュ障野郎よりは断然良い男!!っこの悪趣味女!」
「…カレンもう酔ってるの?」
この話の流れは、アレか。
コミュ障野郎って、キャプテンのことか。
「カレンはキャプテンの事嫌いなの?」
「嫌い…?好きではないな!自分勝手過ぎんのよあの男!アンもよくあの男の仲間になりたいとか思ったね!ドMなの!?」
SかMかって聞かれたら…
それはどちらかと言えばそっちよりだろうけど。
「そうかな。キャプテン結構優しいし仲間想いだけど」
「優しいのは仲間内にだけでしょ!もうあのコミュ障っぷりったらないわ!本当に!突き抜けてる!」
「おい聞こえてんぞ」
声は確かに大きかった。
でもなんてタイミングで乱入して来るんだ。
凄い蔑んだ目でカレンを見下ろすキャプテンは
コミュ障なんかでは絶対ないと思う。