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「なんだか賑やかだね。貴方が噂の紅一点?初めまして。ブラーヴェのディゼルです」
「初めまして。アンです」
「アンこいつ人当たり良さそうに見えて超性格悪いから!半端ないから!ペンギンなんかと比べ物にならないくらい禄でもないから!」
「てめぇ都合良く無視してんじゃねぇぞ」
本当に人当たりの良さそうな好青年。
この人も写真で見たことある。
ぎゃんぎゃん噛みつくカレンをまるで相手にしてないキャプテンは、食って掛かろうとしてるカレンのおでこを人差し指一本で押さえつけてた。
凄いドン引いた顔で。
「あんた自分の要件しか話さなければ人の話全く聞かないじゃない!!」
「おまえが聞いてもねぇどうでもいい話ぐだぐだ話すからだろ」
なんだかブラーヴェの人達と居るとキャプテンは普段と違う気がする。
新鮮だ。
「聞かれた事教えてやってんだから少しはこっちの話も聞きなさいよ!!」
「おいディゼル。この喧しい女どうにかしろ」
「あはは、やだなローってば。そんなとんでもない罰ゲームさらっと擦り付けないでよ」
うわぁ…
本当に爽やかな笑顔で結構な事言うな、この人。
「本当失礼!あんた達失礼過ぎる!!もう知らない!ペンギンのとこ行く!!」
「それが良いね。行っておいでよ、相手にして貰えない王子様のとこに」
「ほんっとむかつく!!もう知らん!!」
あ、本当に行っちゃった。
「二人ともあんまりカレンを苛めないでよー」
「どうせ秒で忘れんだろ」
「あはは!言えてるね。羨ましい頭してるよ本当に」
なんか
ぎょっとするような事ばっかり本人の前で言っちゃうから少し肝が冷えたんだけど
この人達にとってはこれが普通なんだろうか。
この子が打たれ強いっていうか、そっとやそっとじゃへこたれないのって
「アンさんもごめんね、煩いけど悪いやつじゃ…なくもないか」
「同感だな」
「だから二人ともカレンに嫌われるんだよ」
こんなやりとりが日常茶飯事そうなとこに居るからなんじゃ…
「ちょっとペンギン聞いて!!アイツら最低!!」
「あらあら。またこてんぱにやられたの」
こんな感じでも合同飲みに参加するくらいだ。
ディゼルさんに至っては一緒に仕事してる訳だし。
なんか…
別世界。
「ウイさんもだけど…なんて言うんだろう…個性的?な人達ですね、ブラーヴェ」
「個性的か…便利な言葉だな」
あの後やってきた金髪碧眼の王子様みたいな少年。
アオイくんって言うらしいんだけど
この人もどちらかと言うとカレン寄り。
キャプテンに全く物怖じしないで…失礼な部類に属する事をゲラゲラ笑いながら喋りまくった。
げんなりしてるキャプテンに苦笑い。
…あの子の仕事仲間だから
そんなになってもキャプテンはこの場に居るんでしょう?
「明日から、暫く空けるがアイツらのこと頼む」
「…私なんかがキャプテンに頼まれるような事なんて何もないですよ」
社交辞令でも
形式だけでも
キャプテンにそんな事言われると嬉しくなってしまう。
例え船を空けて行く場所が…あの子のところでも。
「ペンギンもジャンバールも居るから大丈夫だとは思うが…おまえにしか気付かねぇこともあんだろ。…なんかあれば連絡寄越せ」
「ありがとうございます。キャプテンも、何かこっちで出来そうな事あれば連絡下さい」
あぁって頷くキャプテンに
本当は何もなくても連絡して欲しいとか思ってしまう。
この声を聞けるのも
この距離でキャプテンの傍に居られるのも
暫くお預けなんだよね。
「寂しい…です…」
言ってしまって後悔した。
本当の事だけど。
これはキャプテンが目指す先の為に必要な事なのに
キャプテンから見たら、私はただのクルーの一人に過ぎないのに。
なんでこんな事言っちゃったんだろうって
後悔し過ぎて、船の床板が穴空くんじゃないかって程に見つめてた。
「…煩ぇあいつらも、居なかったら居ないでそういうもんかも知れねぇな」
ふって笑う声が聞こえて顔を上げてみたら
キャプテンは私の“寂しい”をどう履き違えたのか
ブラーヴェの人達とバカ騒ぎしてるクルー達を視線の先に捉えて
凄く優しい顔で笑ってたんだ。
変な空気にならなかったのは良かったんだけどね
きっとキャプテンは私の事をこれっぽっちも
そういう対象として見てないんだなって。
意識されないのはされないで、悲しくなった。
「じゃあキャプテン!先に行って待ってるからさっさと情報集めて迎え来てよ!」
「あぁ、おまえらこそ道中変なのに遭遇すんじゃねぇぞ」
ポーラータングの甲板で
海が隔てた先に居るキャプテンのお見送りに皆が集まった。
「留守中、頼んだ」
「あいよ。キャプテンも気を付けてね」
キャプテンと副船長が頷き合ってて
多くを語らない二人の間にある信頼関係が伺える。
感極まって泣き出すクルーも居たりするけど
本当に泣きたいのは私の方だ。
「じゃあさくっと送り届けて来ちゃうね!」
「愛の航海旅行、楽しんで下さい!!」
「ちっがう!!!エイジくんは少しはしんみりしてなさい!!」
キャプテンとただ別行動なだけなら
ここまで胸の中の黒いもやもやが疼く事はなかった。
ただ寂しいな
早く戻って来て欲しいなって。
それも本当言えば嫌なんだけど、これよりはマシだ。
「忘れ物とかない?」
「あぁ、おまえも…悪いな。頼んだ」
キャプテン今何してるかなって考えた時
嫌な想像しかきっと出来ないのは…この子とキャプテンが一緒だから。
この子の船が特殊だって言うのは、前にベポさんに聞いた事がある。
ウイさんの意のままに、行きたい場所に安全な航路で連れていってくれちゃう魔法みたいな船。
嘘みたいなそんな話が嘘じゃないのは、あの子不在中の船で散々な目に遭ったらしい話を凄い嫌そうな顔で話すベポさんの顔が物語ってた。
そんな船なら、ポーラータングより
私達よりキャプテンを安全にパンクハザードに送り届けられるのは明白だって分かってる。
七武海になったキャプテンのおかげで私達は海軍公認で航海出来るけど
そんなの海賊じゃないあの子だって同じこと。
寧ろ天竜人お抱えの職人で、名の知れた企業の幹部。
道中どこかの船に出会す可能性があったとしても、きっとあの子の方が役に立つ。
利便性を考えてのこと。
きっとそう。
「じゃあ行ってくる」
「「「「「アイアイ!キャプテン!!」」」」」
頭でわかってたって
心が納得してくれる訳じゃないの。
…行かないで。
言える筈もない言葉は飲み込んだまま
帆船はどんどん
小さくなっていった。
「寂しい?」
「静かで清々する」
またまた。
ポーラータングから離れて
ずっと手を振ってくれてた皆も見えなくなっちゃって。
波の音とカモメの声しか聞こえないフリーウィングの上で、そんな事を聞いてみた。
嘘ばっかり。
皆の姿なんてもう見えやしないのに
ずっと遠くに見える黄色いそれから心配そうな目を逸らせないでいる癖に。
「それはそうと!目的地はどこなの?」
「パンクハザードだ」
「ぱんく、はざーど?」
あれ、どっかで聞いたことあるな。
どこだっけ。
聞いたことあるくらいだから行ったことあるんだろうけど…
「赤犬と青雉が壊滅状態にした島だ」
「…!!なに、しに行くのよ。そんなとこ…」
そうだ新聞…
一年近く前に赤犬が元帥に着任した事を知らせる記事に、そう書いてあった。
「“SMILE”の原料、恐らくその製造元がパンクハザードだ」
「え?……ちょっと待って。その“SMILE”の製造元行ってローはなにするの」
潮風が
ローのキャスケットから覗く短い髪を揺らしてた。
風を受けて、遠目に見える黄色を見据えてるローを
不安で堪らない気持ちがすがり付くように見つめさせて来る。
ドフラミンゴ絡みだとは思ってた。
でもこんな…核心付こうとすることだとまでは思ってなかった。
「まずは調査だ。内部の構造も、誰がそれを管理してんのかも。明確な情報がねぇ。…アテはあんだがな」
「それ知って、最終的にどうするつもりなの…?」
“ドフラミンゴ”
“SMILE”
“ローの野望”
この計画的な人がその“SMILE”に固執する意味。
「おまえならもう見当くらいついてンだろ」
ついには見えなくなったポーラータングからこっちへ向き直ったローの瞳の奥に
いつも以上に強い決意を感じたんだ。
「“SMILE”の製造を止める。ドフラミンゴもカイドウも、俺が普通に相手するには勝算が低すぎる」
「それって…つまり──」
確かにそれは、有効な手かもしれないね。
でも、
でもね…
「おまえの酒使ってでも機嫌取りてぇ相手だ。取引が止まってカイドウへの対応で後手に回らざるを得なくなったところを…叩く」
私に向けられてる訳じゃないのは分かってる。
でもローの覚悟が、その決意が
身をすくませたの。
勝てるの?
まず心に浮かんだ言葉はそれ。
ローは負けず嫌いだけど、現状を冷静な目で判断する。
思った言葉を口に出来なかったのは
ローのプライドを傷付けたくなかったからなのか。
それとも
普通に戦ったら勝算が低すぎるらしいその相手に一枚噛ませるとしても、勝てる見込みは大きくはないんじゃないかって予感を
言葉で聞きたくなかったからなのか。
「機嫌取りで済まなくなる状況にでもなってくれりゃ良いんだがな。怒り狂ったカイドウがドフラミンゴを潰す。一番理想的な勝ち筋はそこだ」
それは確かに…一番安全そう。
ラッキーパターン。
「でも待って!私“SMILE”が何なのかイマイチ分からないんだけどさ。…そんな大事なものならあっちだってそう手薄に守ってないでしょ!」
「だから俺が一人で行く」
私がこんなに慌てふためいてるのに
ローは眉一つ動かさない。
状況を聞きたての私が考え付く不安要素なんて
この人は全部頭の中でシミュレーション済みなんだ。
「これ以上外でごちゃごちゃやっててもラチが明かねぇ。中を見た上でイケるタイミングと状況なら、俺がそれをぶっ壊す。最悪情報だけでも入手する」
いくつもある起こり得る可能性。
そこから更に幾重にも分岐するありとあらゆるパターン。
きっとその答えは
この行動は
その何十、何百もの選択肢の中で一番期待値の高いもの。
ローが危険と成果の天秤をどこに設定してるかなんて知らない。
でもきっと
一般的な判断より危険の許容量は高過ぎて、成果の方は限りなく低い気がする。
相手が手強すぎる。
でもローがそこに懸ける想いも、強過ぎる。
「俺を送り届けた後はおまえも島を離れろ」
「ど、どうやって帰るのよローは!!」
ちょっと待って。
待って待って待って!!!
「まさか帰らないつもりとかないよね!?さっき皆を迎えに行くって!!ローそう言ったよね!!?」
死にに行くつもりなんじゃ…ないよね?
ちゃんと帰ってくるよね?
ローまで居なくなっちゃう事なんて
そんなこと、ないよね?
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