16-7
お酒も美味しいし
おつまみも美味しい。
他の人が居ないせいかな。
ローが普段より口数が多い気がする。
不言実行って言葉をそのまんま形にしたような人。
そんなローがこれから動こうとしてるパンクハザードの事を話してくれて
見解を聞いてくれたのはなんだか嬉しかった。
何であんなに気にしてたんだろ。
凄く楽しい。
もっと話が聞きたい。
話したい。
…くっつきたい。
お酒飲んでるからなのかな。
昼間ローに頭ぽんぽんされて、久しぶりに甘やかされるっていうかスキンシップっていうか
そういうのがあったからなのかな。
私の好きな人はエース。
でもエースは傍に居てくれない。
抱き締めてくれることも
キスしてくれることも
頭を撫でてくれることもない。
ローのことはもう、好きじゃない筈。
恋愛として。
人としては大好きだし尊敬してる。
大切な友達、の筈なのに
「おまえあとふた月したら忙しいんだろ?アイツら、ベポの故郷で待たせてる。暇が出来たら顔出してやれ」
なんでこんな事思うんだろう。
エースの事を好きになってしまいましたって、その話を聞いてくれない今
二人きりのこの状況でローがそんな感じだったらどうしようって心配してた。
受け入れたら駄目なんだけど
理由も話せない。
そうならなければ良いなって思ってたのに私、今それを期待してた。
「どうした」
「…お酒って、駄目だね。ローも気を付けた方が良いよ」
綺麗に輪郭を描く顎のライン。
灰色の、鋭い瞳。
今はそんなでもないけど、やっぱり若干隈は健在で
すっと通った高い鼻とか
グラスを揺らす骨ばった手とか
いけない気持ちがそれを期待するように見つめさせてた。
ビッチか私は!
何好きな人が居る癖に他の人にそういうの期待してんだ!
「何に」
「…色々と?んー…飲み過ぎてる気がする!お薬貰えるとしても早めに寝よう!今日は!」
自分が危ない気がする。
このまま飲み続けたら
エースに顔向け出来ない事をしてしまいそうな自分が、怖かった。
「付き合えよ。おまえと二人で飲むのも中々ねぇ機会だろ」
「それはそうなんだけど…私結構酔っ払ってる気するし。日本酒だと酔いやすい人居るって聞くけど私もそうなのかな」
実際聞いたことある。
どんなにお酒強い人でも日本酒は酔いが回りやすいとか。
このまま飲み続けない方が良い。
自制が効かないならこんな状況でローと一緒に居ちゃいけない。
そうは思うのに
「どうせ明日やらなきゃいけねぇこともねぇんだろ?安心しろ、でんでん虫鍋に仕舞おうとしたら止めてやる」
「それはどうも」
継ぎ足されるお酒を
酔いが回った頭は欲してしまう。
頭の片隅に僅かに残った理性が、“もうやめておけ”って警笛を鳴らすのに
ほわほわしてて気持ち良いからもっと飲みたい。
何かやらかしてもお酒のせいにできるんじゃなかろうか。
そんな本能とずる賢い思考が
アルコールと人恋しさ
今欲しいものを手にする為にそれを無視しようとしてた。
「俺も飲みてぇ気分だ。ずっと…───」
あの後、私はどうしたんだろう。
何を話して、何をしたんだろう。
一回だけって言った記憶を飛ばしたお酒の失態。
それを宣言した日に早速二回目が訪れるとは夢にも思ってなかった。
変な事、言ってないって思いたい。
してないって信じたい。
朝目が覚めればとんでもない倦怠感と頭痛。
でもベッドで一人で寝てたの。
何もなかった。
きっと楽しくローと話をして、それでちゃんと寝たんだ。
呆れ顔で薬をくれたローも特段変わった様子はなかったし。
何もなかった。
記憶が抜け落ちてる間の私は、ちゃんとしてた。
きっとそう。
大丈夫。
確かめたくても聞けない。
もし何かやらかしたり言ったりしてたらどうして良いかわからないから。
そうじゃなくあって欲しい希望を捨てたくないから。
危惧してることの原因、ローにぎゅってされたいとか思ってた気がするのを
なかった事にしてしまいたくて。
毎朝起きたらおはようって話しかける、炎を纏う大好きな人の写真。
なんだか今日はそれを見られそうになかった。
「おまえあとふた月したら忙しいんだろ?アイツら、ベポの故郷で待たせてる。暇が出来たら顔出してやれ」
安全で、かつ長期滞在させても問題なさそうな場所
新世界でアイツらの安全な退避先を考えた時
思い浮かんだのはベポの故郷、ゾウだった。
島じゃねぇあそこならログも辿れない。
万が一があっても海軍もドフラミンゴも早々に手は出せない。
そして現実的な見解を、ペンギンにだけは話している。
あそこに居れば、アイツが上手いことやってくれる。
…なんだ?
「どうした」
「…お酒って、駄目だね。ローも気を付けた方が良いよ」
視線を感じたのと
投げ掛けた言葉への返事がなさすぎた。
どうしたのかと思ってそれを聞けば
返って来る返答は的を得ない。
「何に」
「…色々と?んー…飲み過ぎてる気がする!お薬貰えるとしても早めに寝よう!今日は!」
とろんと微睡んだ目。
放っておいてもいつまでも勝手に飲んでるようなヤツが自制しようと言い出す。
珍しい。
これはあと少し呑ませれば、もしくはもう既に
記憶を飛ばす域に入ってるんじゃねぇか?
酒の場をお開きにしようと言う言葉とは裏腹に、求められてるんじゃねぇかと錯覚しそうな目線。
それに危うく手を伸ばしかけた
「付き合えよ。おまえと二人で飲むのも中々ねぇ機会だろ」
「それはそうなんだけど…私結構酔っ払ってる気するし。日本酒だと酔いやすい人居るって聞くけど私もそうなのかな」
日本酒が酔いやすいとか
それは現実的に考えて有り得ない。
アルコール度数の割に飲み口が軽い分、本人が思ってる以上に飲み過ぎてるだけだ。
「どうせ明日やらなきゃいけねぇこともねぇんだろ?安心しろ、でんでん虫鍋に仕舞おうとしたら止めてやる」
「それはどうも」
逃げられる訳にはいかねぇ。
一度だけと言っていた記憶を飛ばした酒の過ち。
そう弱くねぇウイに次がいつ訪れるか
そうよくあることじゃねぇのは確かだ。
「俺も飲みてぇ気分だ。ずっと念願だった事が動き出す。祝杯か決起かは知らねぇけどな」
「んー…それも、わかるんだけどね」
目を伏せた後、見上げて来たその目には
期待したくなる何かが
籠っている気がしてならなかった。
「じゃあ、じゃあさ!私の話聞いてよ!どうせ飲んでるし語らってるなら変わらないでしょ」
「それは全部片付いてからっつったろ」
んだよ、自己中
聞こえて来たぼやきは耳を疑う程ガラが悪い。
更にはこいつ、舌打ちまでしやがった。
結局切り上げることは諦めたらしいウイが不貞腐れた顔でグラスに口を付ける。
記憶を飛ばす可能性があるとしても、それがどこから先かはわからねぇ。
酔ってはいるんだろうが、割と普段通りなこいつのその境を見極めるのは至難の技。
覚えていないのが確実ならば
何度も聞きたい事ではねぇものの、本番で聞く前に情報収集しておきたい気もすんだが…
「なんでそんなに急ぐ。聞くって言ってんだろ、後で」
「ねぇ、ロー私が話そうとしてること…分かってるよね?検討ついてるよね?絶対」
肘をついて、口を付けたままのグラスを両手で包むウイが
疑るように細めた目をこっちへ向けた。
…結論、喋らせなきゃ良い訳だ。
こっちにとっても、この話題は使えなくはねぇ。
「知らねぇって言ってんだろ。そもそも検討付いてたらわざわざ時間取って聞く必要ねぇじゃねぇか」
「じゃあなんで?らしくない。…なんでも知っておこうとする人じゃん。ローは」
全くもってその通りだ。
可能性を見逃さない為に、情報はあって損がない。
こいつは俺をよく理解してる。
「検討付いてないなら、なんでこれに関してはそうじゃないの」
自分を理解してくれてる人間が
そんな自分を好きで居てくれる。
それが愛した女ならこれ以上に望ましいことはない。
でも
今こいつが言おうとしてるのは、俺を突き放す言葉。
それをどうにか話そうと考えては悶々としてるこいつに腹が立った。
勢いに任せて
ぶつぶつ文句を吐くその唇を、食らいついて塞いでやりたいと思った。
「なんでその話に検討が付いてたら、俺がそれを聞きたくねぇとおまえは思う」
「…良いの?話して」
僅かに強張った体と、怯えたような目。
散々話したいと言っておきながら、いざそうなるとこれだ。
なぁ、おまえも
言いたくはねぇんだろ。
なら言うなよ。
死んだ男に…義理立てなんてするな。
“死”は鎖。
人は手に入らないものを欲する。
生きて共に過ごせば、どんな人間にも見えてくる欠点が死者に垣間見えることはない。
美化されることはあっても、その記憶が悪く塗り変えられる事はもうない。
いくらでも思い付きそうな死者への執着が強い事の理由。
理屈じゃねぇ。
それが一番わかってんのは俺だ。
俺はそれを貫き通すのに
ウイにはそれをして貰いたくない。
「補足なしで20文字以内で完結する話なら聞いてやる」
「え!!…えっと……」
必死の形相で指を折るその様子を、なんとも言えない気分で眺めてた。
声にはならないものの
文字を数えるついでに唇が言葉の形を型どる。
“エース”
酔いが回った頭のせいで注意が浅くなってんのか
唇は確実にその言葉を紡ぐように動いた。
ハナからこれに関しては絶対に近い確信があった。
やはりこいつが言おうとしてる話の内容はそれで間違いねぇか…
「って!!無理に決まってるじゃん!!何20文字って!!“実はこの塩辛賞味期限切れてるの!”とかくらいしか言えないじゃん!」
「なんの文字数数えてんだおまえは。…ジャスト20か」
“実はこの塩辛賞味期限切れてるの”
20文字だよな。
内容はともかくよくきっちり埋めて来たもんだ。
「ちっちゃい“ょ”も一文字なら21文字!残念!!」
「残念なのはおまえの頭の中身だ。…腹壊さねぇんだろうな、これ」
作って4日目だから大丈夫!と胸を張る目の前の酔っ払いに本気のため息をついた。
真面目な事考えてんのかと思えばすぐこれだ。
だが…
ウイの唇が火拳屋の名前を型どったのは見間違いではねぇと思う。
話をそらそうとしたのか
いつもの意味わかんねぇ思い付きかは知らねぇが。
「聞いてやったからこの話は終わりだな。よかったな、すっきりして」
「こんな下らないホラ話吹こうと悩んでた訳ないでしょうが!!」
ふざけんな!とテーブルを叩いては更に酒を煽ったウイの空いたグラスに、すかさず酒を継ぎ足した。
「絶対おちょくられてる!最低!」
ぷんすか怒ってるこいつも
嫌いじゃねぇ。