16-14



「俺の大切な秘書、モネの“心臓”をおまえに預かって欲しい。…いいな?モネ」


何を言い出す。
それじゃてめぇの首を余計絞めてんのと同じじゃねぇか。








「…ええ、いいわよ」


良いのかよ。
おまえも。


なんて事ないようにそれを了承するモネに、コイツらの意図が見えなくて困惑する。


「そのかわりに…!!おまえの“心臓”を俺に寄越せ!!!それで契約成立だっ!!!」
















…なるほど。
それは困る。


どうしたもんかと思考を巡らせれば、思わしくない状況のせいかこの男の態度が癪に障った。


人の事言えねぇがコイツの礼儀も中々なっちゃいねぇ。
初対面の人間に上から指差して物を言うとはどういうつもりだ。


近すぎるそのツラを嫌悪の籠った目で睨み付けた。


「互いに首根っこ掴み合ってりゃあ、おまえも妙な気は起こせねェ。俺も安心だ…!!」
















ここで拒否すると、どうなる。
間違いなくジョーカーに通報されて、追っ手がかかる。

スキャンで中の状況を把握するにしても、文献の類を隅から頭に叩き込むには時間もかかれば
シーザーを拐って行く手筈もまだついていない。













中々鋭い攻めには違いねぇが、まだ初手だ。
勝った気で居るこの男を油断させて反撃の手を考える。


確かにハンデくらいくれてやった方が“本番”の慣らしには丁度良い。


「ルーム、…メス。これで満足か」
「あぁ…!!仲良くやろうじゃないか!!トラファルガー・ロー…!!」


俺の心臓を手のひらで弄ぶシーザーに堪らない嫌悪を感じた。
代わりに俺の手の中には、モネの心臓。


「早速だが書庫に案内しろ。俺は政府の研究、その内容を確認しにここに来た」
「あらせっかち。お茶でも淹れようと思ったのに…案内しても良い?マスター」
「あぁ連れて行ってやれ!部下達の足、それもしっかり頼むぞ!!」


こっちよ、そう言って立ち上がったモネの背中から表れた白い翼。
恐らく、ではあるものの
高い確率でファミリーの幹部のこの女。

能力者であったところで何も驚かねぇ。


よく見れば脚も鳥のようなそれ。
ゾーン系か…


「シュロロロロロ…!!」


よほど機嫌が良いのか、シーザーの高笑う声が背後で響いた。




…さて、どうしたもんか。







カビ臭さと埃っぽさが気になる書庫。
それだけ古い書物の並ぶ場所。


案内された場所で早速背表紙の文字を頼りに片っ端から本を引き抜いた。


ある程度溜まったそれの中身を開く頃には、モネの姿は部屋にはなかった。


「…ルーム」


薄く、決して感知される事のねぇほどに薄くルームを張る。
この建物全てを覆い尽くす大きさで。


中は区画分けされていて、人も多い。
その殆どがあのふざけた浮き輪で移動した囚人らしき男達。


あとは





…ガキ?
巨人族…にしては小せぇのも居るな。


なんでこんなところに…?


まぁ良い。
結論の見えねぇ分析なら後回しだ。


他の場所に意識を飛ばせば
モニターに機材の山…


流石にこっち方面は専門外過ぎて何がどれかは分からねぇ。

だがざっと概要は把握した。


さて、どうする。
まず考えるべきは二点。


部下と呼んでいた囚人達。
俺の心臓があっちの手にある以上、更に相手の要望を全て叶えちまえばこっちの分が悪過ぎる。

これだけ人数が居るなら一気にやっちまうのは得策じゃねぇな。
それは滞在日数で除した人数、そこで調整すれば良いだろう。


俺がここですべき事を“どこまで”にするか。
重要なのはこっちだ。


情報収集のみ
SADとその製造ラインをぶっ壊す
もしくは…シーザー誘拐までをやり遂げるか…






それによって考えるべき事も変わってくる。


情報収集、それはもう出来たも同然だ。
時間さえあれば機械の中身以外の情報は抜ける。


SADとその製造ラインの破壊。
これもまぁ、タイミングによっては容易な部類。
心臓を取り戻してから島を出る手筈を整えて、出がけにぶっ壊せば良い。


ただそれだと、俺の期待する程度までは効果は及ばない。






情報だけ得て戻ったとして
後からそれを実現出来る状況、それは今やるのとどっちが勝率が高い…


SADの供給が途切れはしても
それで起こる混乱は微々たるもの。


カイドウが必要としてる“SMILE”をあの男が二度と作れねぇ状況が欲しい。
待っていればまた得られるのであれば、計画の調整次第でカイドウがそれを飲む可能性が高い。


アイツにしか作れねぇんだ。
また手に入るなら大人しく宥められた方があっちも得だろうよ。




一番最悪なパターン。
カイドウへの対応と新しい製造ラインの目処が立てば、ドフラミンゴの怒りの矛先は間違いなくこっちに向く。


打つ手がねぇままアレとやりあうのは
何もしねぇより確実に分が悪ぃ。









つまり、だ。









滞在期間の間にSADの製造ラインをぶっ壊してシーザーも拐う。
実際選択肢はそれしかねぇと、そういうことだ。








一番難易度の高いそれ。
寧ろ可能かどうかすら怪しい。


どうしたものか。











きっとこれは絶望的な状況。
あっちに心臓が握られてる今、反旗を翻した瞬間にそれを握り潰されてゲームセット。

目的が弱味を握られている張本人の誘拐。
普通に考えりゃ不可能だ。


だが手を引こうと思えば退路もあれば、時間もある。
それに加えて敵は未知の要素ばかり。








ぞくり、と背に何かが走った。

この感覚はアレだ。
ウイとチェスを打ってる時のそれに近い。


俺はきっと今、この状況を楽しんでる。







保身に走る自分もいる。
守るべき存在が俺にはいる。


思い通りに事を進めたいタチだ。
これはあの時からのずっと念願だった事であるから尚更。







ただ、なんだ。
この高揚感は。


越えられるか越えられないかのギリギリのライン。
不可能ではないものの、自分の出方次第で勝算の低いヤマをひっくり返せる可能性がゼロではない。














『ローってたまに言動が厨二っぽいよね』














あれはいつの事だったか。
何かの折に呆れ顔のウイがそんな事を言った事があった。














違いねぇ。
これじゃ全くもってその通りだ。












俺は俺にしか出来ねぇこの現状に興奮してる。
例え対価として失うものがデカかったとしても、ただ呼吸をしてるだけの人生を歩むなんてのはまっぴら御免だ。











男なんてきっと恐らく誰もが“厨二病”。
存在する意味と同等とも言えるくらい、その価値観を生まれた時から備えてる。





あれからひと月が経った。
入手できる情報は一通り浚った。


その中で掴めねぇことが2つ。


目当てであるSAD、人造悪魔の実の情報が全くないこと。
機械の中身がスキャンで把握出来ねぇ事が何より戻かしい。


オートメーション化されているその過程は
製造場所が把握出来ても、何をどうやって製造してるかが掴めねぇ。

材料でも掴めりゃ、他に手立てもあるかと踏んだんだが。






それともう一つ。
あのガキ共だ。

こんな場所にガキが居る理由。
時折増える普通サイズのガキと、徐々にその大きさを増していくガキ共。

いつかのウイとドフラミンゴの会合。
あれを踏まえて多少なりとも心得た読心術で、全てではないにせよガキ共の会話から推測出来る事があった。


あのガキ共は恐らく実験体。
そしてその実験は、人体の巨人化を謀るもの。

気になるのはそれの依頼主が誰か、だ。











SAD、ガキの巨人化以外でも様々な実験や研究、製造が行われている中で
紙での情報が全くないのがこの2つだけという点を踏まえると…

恐らくこの2つは特に重要な機密事項。


SADの方は分からなくもない。
作り方が明るみに出でもすれば
ジョーカー、ドフラミンゴにとってのシーザーの価値は激減する。

使えるヤツでいた方が便利。
あれは強力な後ろ楯だ。


ならばガキの方はどうなる。
同じように考えれば、こっちもドフラミンゴか…または同程度、それ以上の権威か金のある相手からの依頼と見るのが妥当。


こっちの依頼主とドフラミンゴやカイドウとの関係性、それによっては

これはシーザーを動かすネタになる。


人間の巨人化なんて大それた研究、確実に戦力の高い兵隊を作る為の実験だ。
ドフラミンゴ、もしくはカイドウと敵対関係にある勢力の依頼だとしたら…




これは恐らくシーザーは双方に隠れて動いている可能性が高い。
いや、100でそうだ。


敵の増強に一役買ってる相手に大事なもんは普通に考えて任せねぇ。

敵の味方が供給してくるもんなんて、何か盛られてんじゃねぇかと疑う方が至極全う。







武力行使に出られない
以外と情報の守りが堅い


そんな状況で今んとこ新しく得られた道はそんくらいだ。





ラボの中も通常通り。


シーザーの部下達に今日の分の“足”やら“腕”を付けてやって
今日はどこを覗くか、読みかけの文献を開きながら思案していた丁度その時


ほぼ占領していた書庫の扉が乱暴に開かれた。







「ロー!!出番だ!!!」
「なんだ…騒々しい」


現れたのは自称この島のボス、シーザークラウンだった。


聞けば侵入者が部下達を次々に斬り捨ててはここへ向かってるらしい。


「“立ち入り禁止”にしては随分客の多い事だな」
「悠長な事を言ってる場合か!!?行ってこいロー!!始末しろ!!」


丁度暇してたところだ。
こんな生活続けてりゃ体も鈍ってくる。


だがな…


「これは“交渉”には含まれてねぇ。自分で何とかしろ、俺は忙しい」
「ボスの命令は聞け!!ここは俺の島!俺がルールだ!!」


規約以外の事で当然のように俺を好きに使おうとするこいつが気に食わねぇ。


相当なやり手なのか、シーザーの慌てようは尋常じゃなかった。


その侵入者とやり合うのは別に許容の範疇。
寧ろ新しい可能性を秘めた材料だ。


ただ、不当な労働を強いられるのが癪だった。


「…ここの文献、データ化かなんかされてねぇのか?この分じゃ数が多すぎて目当ての文献に行き当たるのがいつになるかも知れねぇ」
「人の話を聞いてんのか貴様ァ!!?」


米神に浮き出る青筋が物語るかの如く、“ボス”は今相当困ってるんだろう。


別に構わない。働いてやる。
その代わり…


「その“話”をしてるつもりだ。俺がどうにかしてやっても良い。だが今は時間が惜しい。そこに費やした時間分、俺に何か見返りでもあんのか」


対価を寄越せ。

実際の所、一通り全ての文献に目は通した。
俺はここじゃ得られねぇ情報が欲しい。


「…分かった!!コンピュータでデータ検索させてやる!!だからさっさと行って来るんだ!!」
「…場所はどこだ」


実際のところ、“侵入者”こそこの代わり映えのない状況を動かす鍵になり得る。





…話の分かるヤツだと良いんだがな。


「走れ!!さっさと行ってこい!!」
「…シャンブルズ」










煩ぇな、俺に指図するんじゃねぇよ。




destruct at reality.