16-17
「……!!どこの極悪人かと思えば…!!テメェはスモーカー!!!…そしていつものカワイコさーん♡」
金髪黒スーツの男。
麦わら海賊団のコック、黒脚のサンジ。
ぐるりと渦を巻く眉毛が特徴の女好き。
生首を片手にギャラリーに気付いたサンジはその中の見知った顔に目を見開いた。
「マズイぞまさかの海軍だ!!!…ここは無理だ出口を変えよう!!」
「みんな中へ!!」
「「「「わああああ!!」」」」
この場に居る麦わら海賊団の中で最も戦闘力が高いのも、このサンジ。
彼が下した退却の判断に
ビキニこと、ナミが子供達を先導する。
ドタバタと慌ただしく扉の中へ駆け込んでいく集団を、未だ衝撃から抜けきれないG-5の面々はただ見ていた。
「あれ!?海軍ていい人達なんじゃないの!?」
「そうだな。じゃあ行け!」
「やだ!!あの人達ヤクザみたい!!」
子供達にとって、味方は一緒に歌って踊った海賊のお兄さんとお姉さん。
そんな彼らが逃げる相手。それも揃いも揃って悪人面。
子供は素直だ。
その感性に従い物事を判断する。
例え正義の名のもとに体を張る軍人であろうと、一見ヤクザ。悪者。敵。
人を見た目で判断してはいけない。
ただ、肩書きだけでも判断してはいけない。
わーわーキャーキャーと騒ぎながら走り去っていく喧騒が遠退き出した頃
ヤクザと称された集団のトップがやっと我に帰った。
「………!!!いるじゃねェか!!何が一人だ!!!」
「…いたな…今驚いてる所だ…」
米神に青筋を浮かべ吠えるスモーカーと、表面上冷静を装っているロー。
しかしローもローとて動揺していた。
嵐のように現れて、そして去って行こうとしている彼ら。
麦わらの一味の登場は彼にとっても予想外の展開。
「みんな!!“麦わらの一味”を捕らえます!!!」
「あっ…!!くそォ!!圧倒された!よし行くぞ!大佐ちゃんに続け!!」
例え立ちはだかるのが七武海であろうと、そこに海賊が居るなら話は別だ。
彼らは海軍、海賊を捕らえ海の平和を守る者達。
スモーカーに続いて我を取り戻したたしぎが剣の柄に手をかけ、駆け出す。
それに悪人面の海兵達も雄叫びを上げ続いた。
「おい!!待て!!」
「…!!あいつら──面倒持ち込みやがって…!!!ルーム!!」
海兵が海賊を追うのは本能。
そして彼らは他の海兵より僅かばかり、いや結構…かなり単細胞で猪突猛進。
走り出した彼らにボスの制止の声が届くことはなかった。
研究所に押し入らんと駆け出して来る海兵達に、ローは舌を打ちその能力を発動させる。
辺り一面が、外界とは違った空間に包まれた。
「“タクト”」
天を仰ぐ拳、一本だけ伸ばされた人差し指が
くいと上を向く。
ズズズズズ
耳慣れぬその音は、巨大な軍艦が河から引き剥がされる音。
「「「!!!」」」
「「「「ウオオオ〜〜!!!!」」」」
この海兵達の心臓は、この日だけで何度急激な伸縮と拡張を起こしただろう。
何度も飛び出そうになる目玉の眼圧は、後の生活に支障はないものだろうか。
巨大な、自分たちをここまで乗せて来た軍艦が空へと昇って行く。
「うわあああー!!!」
「軍艦が…!!宙に浮いたァーーー!!!」
「河底も一緒に…!!!」
「何だこりゃァ〜〜!!!」
騒然とするG-5。
それもそうだろう。
海に浮かぶ船が宙を舞う事など
“普通”、“有り得ない”。
そしてサイズがサイズだ。
「おまえらもう、島から出す訳にはいかねぇ…人がいねぇと言った事は悪かったよ……!!」
「ウオオ!!やっぱコイツヤベェ!!!」
この超常現象を為した張本人。
彼の人差し指に従うように、今も尚船は高く高く昇って行く。
ローのオペオペの実の能力を知ろうが知らまいが
この言動と立ち振舞いに、誰もが真実を悟った。
“これをやったのはコイツだ”と。
なぜ船を宙に浮かせたのか
何が起こっているのか
単細胞の頭ではこの短時間では状況が読み込めない。
だが彼らは直感した。
“コイツは敵だ、倒さねば”と。
「下がってろ!!」
抗議を込めて喚き散らしながらもローに向かって行く部下達をその手で制したのは
こんな状況でも葉巻二本を加え白煙をその先から燻らせる
スモーカーだった。
「おまえらごときじゃあ手も足も…バラされちまうぞ!!!」
スモーカーが自身の獲物である十手を片手に構え部下達を背に立ちはだかる。
そんな事は我関せずとでも言いたげに、ローは鬼哭を鞘から引き抜いた。
その長い刀身が、キラリと怪しげな光を放つ。
「“アンピュテート”」
恐らく海兵達には届かない程の呟き。
空を裂くように振るわれた刀のその先で数秒後、再び一同の度肝を抜く超常現象が起こる。
軍艦に走る一本の線。
それは見間違いかと疑う程の微かな軌跡だった。
しかしそれは、現実。
刃等届く筈もない空の上で、軍艦が…ズレた。
「なんじゃありゃァアアアーッ!!?」
「船!!スモーカーさん船!!船が!!!?」
騒然とする現場、しかしこれだけでは終わらない。
空へと昇り続けていた軍艦はよく見ると
彼ら目掛けて落下を始めた。
「「「「「ウォオオオォオ!!!?」」」」」
「ヤベェ逃げろ!!!!」
まるで蟻のよう。
半分になった船が向かう先を軸に、海兵達は外へ外へと散っていく。
「ぎゃ〜〜〜!!!」
「みろスモさん!!だからコイツと関わりたくねェんだ!!!」
寸での所で難を免れた彼らは、散々吠えた後に現場を見渡し、その奇怪な景色に息を飲んだ。
襲いかかって来た軍艦の半分は地にのめり込み、もう半分は
こちらも人工的に切り刻まれ積み木のように重なる氷河のてっぺん、そこに不自然に張り付いていたのだから。
まるでオブジェ。
誰が何の目的でこんな飾りを作るのか。
きっとこれと同じ物はこの世に2つと存在しないだろう。
スモーカーとたしぎ。
この二人だけは、そんな状況の中でもローを視界の先に捉え構えの体勢を崩さなかった。
「…あいつらも逃がす訳には……侍もいたな…」
大人数、そしていくら巨体も混ざっているとはいえ所詮子供の足。
扉の内側に意識を向けたローの視界には、喧しく騒ぎながら逃げようとする麦わらの一味と子供達の背中。
「…ルーム」
ローの作るサークルが、そんな彼らを包み込んだ。
これで足は封じた。
海軍の方は島から出られねぇ。
白猟屋はロギアだ。
武装化すれば捉えられない事もねぇがそれはあっちも承知の事。
この男は多少警戒しておく必要がある。
他の連中はカスだ。
数が多かろうと造作ねぇ。
睨みを存分に利かせている白猟屋に動く気配はねぇし
…こっちをどうにかするか。
「…ルーム」
麦わら屋の仲間達。
まさか本当に上陸していたとは。
こいつらは海軍じゃねぇ。
例え俺がここに居る事を知られようが
シーザーの実験体を逃がそうが
そんな事はどうでも良い。
だがこれは新しい駒だ。
…四人、か。
「“メス”」
ルームの中、ここは俺の手術台。
執刀医は俺だ。
手術台の上の患者を俺は、意のままに出来る。
鬼哭で突いたのは麦わら屋の仲間達の胸。
そして突かれ身体から飛び出た物は…内臓じゃねぇ。
「“シャンブルズ”」
親指と人差し指、そして中指。
伸ばした三本の指を捻った。
アイツらに知らねぇとこで暴れられんのも
折角の駒に逃げられんのも御免だ。
これでアイツらは“逃げられねぇ”。
必ず俺の元へ戻ってくる。
俺が入れ替えられるのは、実体のある物だけじゃねぇんだよ。
手を打ったこっち側はもう放っておいて良いだろう。
精々状況を引っ掻き回してシーザーの頭を悩ませてくれ。
「一旦引こうぜ中将!!コイツの能力気味悪過ぎる!!!」
「軍艦飛ばすわぶった斬るわそれブツけてくるわ!!!こんな奴とは戦えねェ!!!」
…問題なのはこっちか。
相変わらず煩ぇやつらだ。
扉の外に向き直れば、相変わらず隙のねぇ構えでこっちを睨みつけるスモーカーと
その後ろのカスの山。
「くそォ!!艦がなきゃ基地にも帰れねェ!!」
…だから斬ったんじゃねぇか。
アホかこいつらは。
チャキリ
肩に担いだ鬼哭の刃が鳴った。
流石、気が合うな相棒。
おまえもいい加減不快だよな。あの喧しい猿共は。
「“七武海”は政府の直属!!おまえ俺達に攻撃すんのは協定違反だぞ!!トラファルガー!!」
「本部にチクってやるぜ!!!」
「称号剥奪だァ!!!」
本当に、喧しい連中だ。
これは忠告か?
それとも
力が及ばねぇからと権力を振りかざし、強くでもなったつもりでいんのか?
…見苦しいことこの上ねぇな。
「…心配無用…!“スキャン”」
チクれるもんならチクってみろ。
本当にそうしたきゃ口より先に手を動かせ、馬鹿が。
視覚とは別の感覚。
ルームの中の空間を、俺は誰よりも“解る”。
胸ポケットの中、カバン、あと寸での所でダイヤルに手が届きそうだったそれ。
“シャンブルズ”。
研究所内に吹き込む雪の一粒一粒が、能面ヅラの虫へと形を変えて背後に積み上がった。
「え…あれ!?ねェぞ!!」
「まさか…!!俺のも…!!」
「あそこにあんの俺達のだ!!」
「でんでん虫全部盗られたァ!!!」
俺の背後を指差し吠えまくる雑魚共。
恨むならその回らねぇ頭を恨め。
こんだけ居て誰一人として先が読めねぇとは…
頭の悪ぃ部下しかいねぇ白猟屋が気の毒にすらなってきた。
「おまえらがこの島で見た物全て、“本部”にも“政府”にも報告はさせねぇ」
「“オペオペの実”の“改造自在人間”…!!!───だったな…!!」
ずっと黙って睨みを効かせていた親玉。
このタイミングを隙と見たのか、白猟屋が十手を片手に飛びかかって来た。
“モクモクの実”の煙人間。
その白煙が厳つい本人を形どったのは、俺のすぐ目前での事だった。
…嫌な感じだ。
別に受けても構わねぇ。
咄嗟の事だろうが刀身が長かろうが、鬼哭は俺の思うがままに立ち回る。
ただ、直感。
それが刃を交えるのを思い留めた。
“シャンブルズ”。
腕を煙と化し、通常よりもリーチの長い突きを繰り出した白猟屋。
…なるほど、そう戦うのか。
他人事のようにその様を眺めたのは、移動した先から。
ガラ空きの胴回りのすぐ脇だ。
“アンピュテート”
覇気を纏った相棒で、ガードのない胴を真っ二つにする筈だった。