16-19



取り敢えず…戻るか。


シーザーが混乱の対応に追われてんのか
それとも俺の動向に気を配る余裕があんのか

それによって出方も変わる。


ただこれがチャンスな事には変わりねぇ。
麦わら屋なら、巻き起こす混乱はそう小せぇもんじゃねぇだろう。


これは逃せねぇ。






「ホラこれ軍艦じゃねェか!」
「じゃあ海軍が来てんのか!?」
「えー!?さっきまでここには何も……」






遠くで聞こえる、気の抜ける間抜けな声。






「あそこ!誰かいるぞ!!」
「……麦わら屋」






…外に居たか。
てっきりラボの奥で暴れてんのかと思っていたが。






「あれ〜〜!!?おまえは〜〜っ!!!おーい!!おまえじゃんかー!!俺だよ俺〜!!あん時ゃありがとなー!!!」


何の因果か
ここまで来ると信じちゃいねぇ“運命”とやらの存在を疑いたくもなる。


「トラフォル…トラ男!!ジンベエと同じように!あいつも命の恩人なんだ!!!」
「……」


映像でんでん虫で見た火拳屋の様子。
あの男にとって麦わら屋は、相当に特別な存在だった。


そしてウイは、きっとそれを知っていた。





目の前に死にかけたコイツが居て
既に火拳屋の命が潰えたと知った上で





直感に近いものは確かにあった。

ただ打算的な思考、それが全くなかったとは言い切れない。


「こんなトコで会えるとは思わなかった!良かった!!あん時ゃ本当にありがとう!!」


目の前に救えるかもしれねぇ命があった。
そしてそれは俺にしか出来ねぇことだった。


火拳屋に縁のある麦わら屋をあの時助けたのは…


「──よく生きてたもんだな、麦わら屋。だがあの時の事を恩に感じる必要はねぇ。…あれは俺の気まぐれだ」


何の含みも疑いもなしにただ礼を言うこの男。


だが悪いな。
俺が本当に救いたかったのは“麦わら屋”じゃねぇ。




あの時こいつを救ったのは
ウイの心を縛る鎖を、少しでも緩めたいが為だった。




「2年前の事は色んな奴に恩がある!ジンベエの次におまえに会えるなんてラッキーだ!!本当ありがとな!!!」


この前ウイに言われた、“聞いてねぇのに口にする言葉”。


俺にだって分かる。
こいつはバカ正直だ。


自分をどう見せたい、どう思われたい、
目の前で歯を剥き出しにして笑う麦わら屋は、ンな事抜きにして思った事をそのまま口にしてんだろう。


思うがままに、ただ心に生まれた感情や言葉がストレートに表に出る。














「ハァ…ハァ、スモーカーさん…!?──まさか…!!」
「中将っ!!」
「スモさーん!!」


白猟屋との勝負が決したのを察して、逃げ去っていた海兵達が戻って来たらしい。

手の中の心臓の持ち主、くたばってる白猟屋の元へ集まってくる騒がしい声が耳に届いた。


「わっ…海軍!?──あれ?もしかして…」
「おいマズイぞルフィ!!海軍だ!!!」


麦わら屋達もヤツラの存在に気付いたらしい。
鼻の長いのが鬼気迫る声を上げれば、締まりのない顔でへらへら笑っていた麦わら屋もその騒ぎの元へ視線を向ける。


「スモーカーさんっ!!!」
「やっぱケムリン達じゃねェか!!懐かしいな〜!!!」


人の形に戻った女海兵が、倒れてる白猟屋に駆け寄り悲痛の声を上げた。


…麦わら屋達も白猟屋とは顔見知りなのか。
締まらねぇやつだ。
本当にめでたい。


両の手を広げて、この場の空気も関係性も抜きにして
見知った顔との再会を喜ぶこの男。


中々大物だ。


「よくも!!!!」


麦わら屋の能天気な言動に呆れてた。
こいつの感覚と価値観は、異常だ。


そんな中、状況に適した行動にいち早く出たのは女海兵。


目に涙を滲ませ、鬼のような形相で刀を手に地を蹴った。


“ルーム”









「おいおい…よせ、そういうドロ臭ぇのは嫌いなんだ」


敵討ち。
誰よりもその気持ちはわかる。


ただ、この女海兵はどんなに怒りに身を任せても
その憎しみがどんなに強かろうと、俺に敵うことはない。


“シャンブルズ”


「たしぎちゃァ〜〜ん!!」
「畜生二度までも!!」







入れ換えたのは、精神。


体は無傷でも、その体に宿った伸びてた白猟屋の中身がその体を地へと伏せさせた。






死んでねぇってのに。


「懲りねぇ女だ…!そう深刻になるな」


受ける恨みや怒りに心当たりがあるなら仕方ない。
だが白猟屋は別に伸びてるだけで死んでねぇし、そもそも仕掛けて来た時点で何があっても自己責任。


俺が一方的に白猟屋を仕留めた訳じゃねぇ。


本当に好かない。
主観でしか物を見れねぇ感情的な雑魚。






「ルフィ!急げ!!ここはヤベェ!!」
「うん!!そうだ、おいトラ男!!ちょっと聞きてェんだけど!!」


わらわらと集まってくる海兵達に、麦わら屋たちは一度退却するらしい。


話ならこっちもある。
ただ、まずはシーザーの所に戻らねぇと。







「研究所の裏へ回れ…おまえらの探し物ならそこにある、また後で会うだろう。──互いに取り返すべきものがある」


麦わら屋本体を目に止めてざわめき立つ海軍。
指揮系統を失ったこの悪人ヅラの集団は、ただの荒くれ者と変わりねぇ。


ボスの心臓を人質に取られたアイツらはもうこっちに下手な手出しは出来ねぇだろうし
トップ二人も伸びてる。


長居は無用だ。










この騒動の始まりの場所、正面玄関の扉を潜れば
当たり前だがあの愉快な仮装行列一行の姿はもうなかった。


扉と錠を閉めて、暗い廊下を進む。











麦わら屋
子供達


シーザー
SAD












これはもしや
願ってもねぇ程の好機か…?


これが叶えば
どう転んでも事態は動く。









因果応報。
したことは返ってくると。
良いことも、悪いことも。






あの邪心の全くない、麦わら帽子から覗くくったくねぇ笑顔が頭に浮かんだ。


俺は何だかんだでこの種類の馬鹿が好きなのかもしれねぇ。
ウイも、クルー達も、全部ではねぇが馬鹿ばかりやってる連中だ。






賭けてみるか。
麦わら屋に。


いつか救ったその命。
それに到った動機と、今回の潜入。


ここであの男に出会したのは
ただの偶然には思えなかった。




「早速だ、死んじまったぞモネ!」
「そう…うふふふふ…それは期待外れ…ローと同じ“最悪の世代”で政府が“黒ひげ”に劣らず危険視してる一味よ」


シーザーの研究室。
その応接ブースに集うのは部屋の主シーザー・クラウンと、その秘書モネ
そして、一時的に滞在しているトラファルガー・ロー。


話題に上がったのは、今このパンクハザードに混乱の渦を巻き起こしている麦わらの一味。


シーザーの部下、それも腕利きがその排除に出向いていた。
彼らより届いた、“海賊狩りのゾロ”、“泥棒猫ナミ”、“ソウルキングブルック”の死亡の報せ。


「“完全復活”なんて仰々しく記事になっていたからもっと骨のある奴らかと…──ね?ロー…」


ローがこの場に戻る前、シーザーとモネは侵入者についての議論を交わしていた。
最大限に警戒すべき相手であり、この状況は思わしくないと。


そんな中、意外な程あっけなく入ってきた
懸賞金で言えばナンバー2の戦力含む3名の死亡の報せ。


モネはソファーにその身を沈めながら
滞在者であり、貴重な用心棒である男の顔を覗き見た。


「──よく知ってるんじゃない?2年前のシャボンディ、そしてマリンフォードであなたは“麦わら”と二度関わってる」
「…なに?」


その視線は他者からは見えない。
分厚すぎる眼鏡はその奥に隠された瞳の向く先を、周りに悟らせない。


一見その手にある書物のページに目を走らせているようにしか見えないモネの一言。
それにシーザーは反応した。


「おまえが呼び込んだって事はねェよな…」


ジャキリ


堅い表情のまま
この島のボスは滞在者に銃口を向けた。


弱味は握っているものの
それなくしては成り立たぬ関係。


シーザーにとってローは、心臓を握っていなければ危険因子でしかない。
そんな人物が、自分の城を混乱に陥れている人物と縁があると…


これは当然の行い。
シーザーとて守りたい物と地位がある。


「……玄関で鉢合わせるまで、あいつらが研究所に捕らえられてたなんて知らなかったと言ったろう」


その人差し指に力が籠められるだけで、向けられた拳銃は己の身を抉る鉛弾を撃ち出す。
そんなことなど物心ついた子供でも解ること。


それでもこの場に席を構える“部外者”は大きなため息を付くだけで
動揺等微塵も見せなかった。




「知ってたら俺が警告してやった…部屋に閉じ込めたくらいで安心するなと…」


足を組み、ソファーの背もたれに腕をかけながらそう話すこの男から感じるのは僅かな苛立ち。


「おまえらのその“甘さ”で俺は海軍を追い払えなくなったんだ。ここがバレる事は俺にとっても都合が悪ぃ」


コートの襟元と、深く被った帽子の鍔のせいでその表情は良く見えない。
だが淡々と、筋の通った返答をするローにシーザーはこの滞在者を信用すべきかを按じた。










「…まァ、仲間を呼び込むならもっと上手くやるよな…わざわざ政府に媚びて“王下七武海”にまでなりこの島に来た男が、話の拗れる様なマネするハズもねェ…」


出会った時から、腹の底の見えない男だった。
冷静沈着、頭も回る、そして腕利き。


もし敵なのであれば、最大限に警戒すべきは麦わらよりもこの男。
ただこの男は、使い方次第では役に立つ。


話す言葉に矛盾もなければ
これが仕組まれた事にしてはお粗末過ぎる。


シーザーは銃口を降ろし構えを解いた。


「疑って悪かったな」
「あのガキ共…実験体なんだろ?麦わら屋の仲間達に随分懐いてたみてぇだが…?」


命をも奪い去る武器。
それが己から照準を外したとしても、この男はほっとした表情の一つも見せない。


その鋭い目は、相変わらずだるそうに銃をしまうシーザーを見上げていた。


「それは問題ない。毎日…ドラッグキャンディを与えてる。甘くてシュワシュワ覚醒ガスが発生する…!シュロロロロ……!!」


愉悦に浸った顔。
まだ幼き子供に、己の私利私欲の為だけにその人生を狂わせるものを投与して尚、その顔は笑っていた。


「ウチへ帰っちゃぁ貰えねェからなァ…!!!」
「趣味の悪ぃ男だ…誰かを思い出す……」


決して言葉を荒立てることはない。
その表情も微動だにしない。


しかしローの目にありありと浮かぶ嫌悪の色。


“誰か”とは誰のことか。


「戦闘は?」
「必要なら呼べ…誰の首でも獲ってやるよ」


部屋を後にしたこの男が
本意ではこの島を束ねるシーザーの方針に納得していたかと言えば、それは否。


元より人に従う事等好まない性分。


しかし彼の頭の中では、ある思惑が練り上げられつつあった。
その為ならば、この男もまた手段を選ばない。




destruct at reality.