16-20



決めた。
決行する。






研究室を出て向かう先は書庫ではなく研究所の外。
コートの内ポケットには、“対外的に説明するのであれば”
この島に来たときに自分の心臓と引き換えに手にいれたモネの心臓が収まっていた。


ザクザクと踏みしめる雪の音以外は
雪に吸収されたかのように静まりかえった島内。


その静けさと、規則的に聞こえる自分の足音が
この計画に絶対不可欠な協力者の出方を頭に思い浮かべさせた。


乗るか反るか。
第一関門はそこだ。


その次への手はもう打ってある。
暴れ出して万が一のことがあったとしても、裏をかける準備はある。


後は本気で敵に回ったシーザーとモネ、その部下達の戦力か…



そこへ行けと伝えた場所。
研究所の裏口。


あの奔放な男はちゃんとそこに留まっているだろうか。
余計な騒ぎを起こしてはいないだろうか。










…怪しいとこだ。










「あれ?ローさん?どちらへ!?今…近くに海軍の奴らが…!!」
「…知らねぇよ」
「え!?」


気安く声をかけてきたのは、シーザーの部下。
この騒ぎで駆り出されのか何だか知らねぇが、なんでおまえに俺のすることを一々知らせなきゃいけねぇ。


聞けば教えて貰えるとでも思ったのか
ガスマスクで隠れた顔面は伺えねぇものの、その中から籠ったような驚く声が聞こえた。


仲間とも身内とも思われたくねぇ。
おまえらごときが、俺に干渉するな。







“アンピュテート”


「「…ぅわぁぁあぁっ!!」」




身構える間もなく飛び交う斬撃は
立ち塞がる男達の体をバラバラに吹き飛ばした。











「どこへ行こうと、俺の自由だ」















突然の事に言葉も発っせられずにいる男達の残骸を残し、先を急いだ。


縛られるのも、制約も、嫌いだ。
俺は俺のしたいように生きる。


俺を縛って良いのは、おまえらなんかじゃねぇ。






ドッゴォォオン!!!

ブゥオオオオオオ!!

「──った〜〜!!!」










大人しくしてねぇ気はしてた。
しかし予想以上に派手にやってる。












ブオオオオオ!!!

ドゴオオン!!








裏口より手前、その崖の下からとんでもない爆音と叫び声が聞こえる。
その声の一つに聞き覚えはあるものの、この島でこんな騒ぎを起こし得るヤツらなんてアイツらしかいねぇ。











少し距離を置いた場所で現場を確認すれば
麦わら屋達とやり合ってんのは…イエティCOOLBROTHERS。


本物の雪男なのか、コイツらもガキ共と同じ実験の被験者なのかは知らねぇし興味もねぇ。
ただ実力はそこそこ。
小規模な巨人族クラスの体格であの機敏さ。
兄弟で連携してのライフルでの狙撃。


麦わら屋達の実力を計るには丁度良い相手。






何かの因果
懸賞金額
人となり


そして、勘。


これに賭けると決めたものの
麦わら屋の戦闘力は2年前のシャボンディで垣間見たそこから先は未知数。


曖昧な根拠でも間違った判断はしない方だ。
でもどこまで任せるかを判断する為にも、どこまでやれんのかを知る必要がある。



















…なんだ、あの暴走気味の怪物は。








見覚えがあるような気もしなくはない巨体の怪物。
あれは恐らく、正面玄関で扉を蹴破ったでけぇタヌキ…だと思う。

なんであんな風貌になってんのかは知らねぇが、その仮定タヌキはイエティブラザーズが投げて寄越した特大の氷塊を抱き込むと







「ブゥオオオオオオッ!!」


ドッゴォォオン!


「ぶほォ!!!」







投げ飛ばした。







サイズ的にデカくなってるタヌキの10倍はありそうな氷塊。
その軌道を空中で変え、更にはあの威力で投げ飛ばすってのは
どういう原理だ、ありゃ。




自分が仕掛けたそれをまんまと食らったブラザーズの片方は恐らく再起不能。

中々やるな、あのタヌキ。


それはそのままのそのそと振り返ったかと思えば






「ブオオオオオ!!!」
「わァ!!おまえいい加減にしろォ!!!」






今度は麦わら屋に襲い掛かり出した。











…大丈夫か、コイツら。






「ゴムゴムのォ!!エレファント・ガン!!!!」


麦わら屋の繰り出す拳は、巨大化かつ武装化しては暴走してるらしい怪物タヌキの頬を撃つ。


威力、覇気ともに申し分ねぇ。


「今日一番の大技〜〜!!!?」


ブラザーズの無事な方、その手に握られたサイボーグ野郎は確か…中身はビキニ女だ。


戦闘から離脱にシフトチェンジしたらしいブラザーズに連れ去られかけながらも
暴走するタヌキに容赦ない拳を繰り出す麦わら屋にそこを突っ込む気概はあるらしい。


確か、あのタヌキの中身はサイボーグ。
海軍を見るなり撤退して行ったアイツらから、俺がシャンブルズで入れ換えたもの。


それは中身であり精神。


自分のものじゃねぇ身体を制御しきれねぇこそのタヌキの暴走だとしても
戦闘力としては十分。


そしてそれを打ち負かす麦わら屋も。


統率が取れてんのかは怪しいとこだが、想像以上に麦わら海賊団は戦える。
シャボンディで覇気すら知らなそうな戦いぶりをしていたのが若干の不安要素だった。


ロギア相手では武装色の覇気なくしては歯が立たねぇ。


煙やガス、液体や炎…
その実の由来する物質に実体を変化させる事の出来るロギア系の能力者達に太刀打ちする手段。


それが覇気で武装色。
武装色は、ロギアを実体として捕らえる。




半端な訓練をして来た訳じゃねぇ。
努力も工夫も、人に負けたつもりなんてなかった。


「いや〜〜!ルフィ〜〜!!!」
「しまった!ナミ!ごめんなフランキーとチョッパー!後でチョッパーにケガ見て貰うから!!」


4年だ。
それを誇れる程に使いこなせるようになったまでの歳月。


武装色の覇気を初めて使えるようになり
それを維持出来るようになって

その強度を磨き、鬼哭にもそれを纏う術を学んだ
戦闘で活用出来る程の自在性も身につけた。


2年前の麦わら屋は覇気の“ハ”の字も知らなかったと思う。
それが自分より短い期間でここまで使いこなしてくるか。


「くそォ!雪山広いから!逃がすと面倒だぞ!!」


どうやらブラザーズの狙いはビキニが中に入ったサイボーグらしい。
それをこの場から連れ去ろうと崖を駆け上がる雪男に、麦わら屋が焦りの色を滲ませた叫びを上げた。





負けは認めたくねぇ。
ただ…


協力者に才があるのは歓迎すべき事だ。




「雪山は俺達の庭だ。追い付くのは不可能!──ん?」


小手調べにと距離を取ってその戦闘を見ていた。


だがもう十分。
自分の直感に狂いはなかった。

出方にはよるがこの男なら、組める。


「おォ!!おまえ…!!いい所に!今“麦わらのルフィ”がここに…!!」


正直、俺を目に止めてこれは好機と声を掛けて来る方と
氷塊を食らって伸びてる方のどっちが兄で弟かも認識してねぇ。










ただわかってることは
おまえらはもう俺にとって邪魔でしかねぇってことだ。



「“アンピュテート”」


スバババっザシュンッ…!!






「え!?──ぬぁ!!!」
「……てめェ何のつもりだァー!!!」


どんなにデカかろうと、機敏だろうと
切り刻んでそれが一個体とならなければただの肉塊。


バラバラに切り刻んだ兄か弟かのどっちかが、謀反を働く俺に驚いてその身を雪原に沈めれば
伸びてたと思っていたもう片割れが兄弟の危機を察知して牙を向く。


その身丈に相応しい刀身の刀を手に襲いかかってきたところで
手負いの雪男の始末など造作もない。


ガラ空きの懐に飛び込み
生き物であれば誰しもが急所である心の臓、そこに掌を押し当てた。


「“カウンターショック”」


掌から体毛に覆われた巨体に伝わるのは電気。
通常蘇生の可能性のある停止した心臓に使うこの能力。


ショックを与えてその鼓動を呼び覚ますこの力は
普通に動いている生身の体にはそれなりのダメージを与える。


「……!!ォ…!」


走らせた電気で一瞬白一面の景色に黄色い閃光が走った。


次の瞬間起こることは
それを一身に受けたこの雪男の、雪原へのダイブ。





ズズーン…!






図体がでけぇだけある。
ただ地に伏すのにもこの効果音か。


「…!?トラ男〜〜!!おまえナミを助けてくれたのかー!!」
「あ…ありがとう…!あ!違う!あんた私の体返してよ!」


さっきバラしてきた見回りらしきヤツらもブラザーズも
これで暫く動けない。


助けた…?


違う。
俺は俺の望むビジョンの為に行動した。


「…少し考えてな…、おまえに話があって来た…!麦わら屋」











さぁ、おまえはどう出る。




「おまえらは偶然ここへ来たんだろうが…この島には“新世界”を引っかき回せる程の──ある“重要な鍵”が眠ってる」


麦わら屋をこっち側に引き入れるのならば、誘う動機はドフラミンゴじゃねぇ。


俺にとっては仇で因縁の相手。
だがそれは“俺だから”だ。


麦わら屋にとって
新世界に乗り込んで来る程のルーキーが旨味を感じる口説き文句、それは…


「“新世界”で生き残る手段は2つ。“四皇”の傘下に入るか…挑み続けるかだ」


ドフラミンゴの取引相手。
カイドウならば、それは麦わら屋にとっても悪くねぇ話。


「誰かの下につきてェってタマじゃねぇよな、おまえ」
「ああ!俺は船長がいい!!」


だと思ったよ。


のってこい麦わら屋。

俺にはおまえの力が必要だ。
そしておまえにとってもこれは悪い話じゃねぇ。


「だったら“ウチと”同盟を結べ!」
「……同盟?」


麦わら屋と組めれば
新しいビジョンが描ける。


どの程度か計りきれない混乱に乗じて俺があの男の首を取るよりも
ずっと有効で、ヤツに痛手を負わせられる。


「おまえと俺が組めばやれるかもしれねぇ…」


その先すらも、現実的な観測で見えてくる。


「“四皇”を一人…!!!引きずり降ろす“策”がある」
「!!?」


中身がビキニのサイボーグが、俺の言葉に息を飲んだ。


それが全うな反応。
新世界に入って即四皇を相手どる。


「同盟ですって!!?あんた達と私達が組めば“四皇”の誰かを倒せるの!?バカバカしい…!!」


“普通”の人間はこれが普通。
海賊の中にも、常識や現実でものを判断出来る普通のヤツがいるもんだ。


「何が狙いか知らないけど!ダメよルフィ!こんなヤツの口車に乗っちゃ!!」


だがおまえは違ぇよな?麦わら屋。
海賊の、船長なんてやってる位だ。


天竜人相手に喧嘩も売れば
マリンフォードにすら兄貴を助けに乗り込む。


「いきなり“四皇”を倒せると言った訳じゃねぇ…!順を追って作戦を進めれば…そのチャンスが見出だせるという話だ…!!」


おまえは“こっち側”の人間だ。
おまえの基準は“普通に考えて”どうとか、そういうとこじゃねぇ。





やれる可能性が0じゃねぇ時に

それを“やりたい”か“やりたくねぇ”か
得られる結果が“欲しい”か“いらねぇ”か、だ。




destruct at reality.