16-21
「──どうする、麦わら屋」
同類だろうと思いはすれど
返答次第。
折角思い付いた名案も、麦わら屋が乗って来なけりゃ夢物語で終わる。
──どう出る。
「その“四皇”って、誰の事だ?」
「ちょっとルフィ!何興味出してんのよ!!こんなヤツ信用できない!!」
全く動じた気配も臆した様子もない。
ただ純粋な疑問を口にした。
俺にはそう見えた。
…面白ぇ。
肝の据わり方が半端ねぇ。
それが真に器のでけぇ人間かただの馬鹿かは知らねぇが、結局は紙一重。
どっちにもなり得ねぇヤツはその土俵にすら登れない。
「“百獣のカイドウ”という男だ」
「ふーん…一人目はシャンクスじゃなきゃまぁいいか!四皇は俺が全部倒すつもりだから!!!」
…流石にこれには俺も動じずには居られねぇ。
「四皇を全員倒す…?利害は一致してる様だがナメすぎだ。奴らはかつて“白ひげ”ともナワバリ争いをしていた“海の帝王達”だ」
これは無鉄砲な馬鹿路線が色濃くなる返答。
あわあわ慌てるサイボーグビキニに同情すら沸いて来た。
新世界に入って来たばかり。
その辺を知らねぇから言ってるのであれば仕方ねぇ。
他人から口で言われた事なんて、さしてウェイトは締めねぇ重要度だろうよ。
それはわかった上で敢えて言おう。
「中でも“百獣のカイドウ”って男は、この世における最強生物といわれてる」
「え!?何?人間でもないの!?」
中身がビキニの着眼点もどうかと思うぞ。
…だがそれよりも今問うべきこと。
麦わら屋、おまえは正気か。
老いや拘りが白ひげという絶対王者をこの世から消し去った。
後で調べて分かった話だ。
白ひげが病を患っていた可能性が高かったことも
家族という仲間に人並み以上に執着していたことも。
それなくして、海軍は総戦力で挑んでもあの男を打ち落とせたかは怪しい線。
どんなに戦力があろうと対等な状況で戦ってそう勝てる相手じゃねぇ。
その白ひげと渡り合う海賊。
それがカイドウ。
ただじっとこっちを見上げる麦わら屋の目を見返した。
その真意を計る為
俺という人間を偽りなく見せる為。
俺はおまえを騙して乗せてぇ訳じゃねぇ。
同意を得る為の見せかけなんていらない。
だからこそ、実際の見込みは嘘偽りなく伝える。
「俺達の同盟はカイドウの首を取るまで…作戦成功の確率は…そうだな……30%…」
「何それ低すぎ!!こんな話乗る価値ないわよ!!ルフィ!!」
常識でしかものを見れねぇヤツは黙ってろ。
他人の意見など聞きそうもない、そんな麦わら屋だとでも
この案をなし崩しにする可能性が1%でもあるサイボーグビキニの全うな意見が鼻についた。
アレだな。
こんなに誰かの出方が気になる事は我ながら珍しい。
麦わら屋が乗ってくるのか。
それを待つ時間はとてつもなく長く感じる。
「……そうか…よし!やろう!!!」
「え〜〜〜!!?ちょっと待ってよ〜〜!!」
麦わら屋の首根っこを掴みガシガシ揺さぶるサイボーグビキニには申し訳ないが
ほっと、肩の力が抜けた。
第一関門の突破。
これで描きたい道筋に沿って事を進められる。
「作戦の詳細を話す。動くなら機は逃したくねぇ」
「ちょっ…!!待ちなさいよ!待って!!それ皆のところに戻ってからにして!!!」
ビキニも必死だ。
どうせルフィに話しても理解出来ないから!と合流を望む声。
「あー?まぁそうだな!!アイツらも心配してると思うし戻るか!!!」
されるがままに揺さぶられながらもニシシ、と白い歯を覗かせ笑う麦わら屋にため息が出た。
こいつは良くも悪くも人の話を聞かねぇ。
ここは大人しく従うか。
気付けばさっきまで驚異的な暴走を見せていたタヌキと思わしき怪物は
ふざけた懸賞金額でクルー達のネタになっていた麦わら屋のとこのトナカイへと化し雪に埋もれていた。
「「えぇえぇえ〜〜〜〜〜っ!!!!??」」
研究所裏口、積もった雪の所々から覗く沢山の瓦礫。
ここにはかつてシーザーの研究所とはまた別の、同様の研究所があった。
廃墟と化したこの場所は麦わらの一味の避難所となっており
そこには今、とんでもない音量の叫声が響き渡っている。
「“ハートの海賊団”と!!!?」
「同盟を組む〜〜〜!???」
顎が外れ目玉がこぼれ落ちる程に驚愕の表情を浮かべ、聞き間違いであって欲しいと叫ぶのは
一味の狙撃主ウソップと
先ほど体の方は大暴走を繰り広げて来た怪物タヌキこと、船医チョッパーの精神を宿したサンジの体。
彫りの深いミステリアスな黒髪美女。
麦わらの一味の考古学者ニコ・ロビンは特に表情を変えることもなく、それを話す船長と共に現れた長身の“同盟相手”を見据えていた。
「ナミを奪い返しに行っただけで何でそんなエキセントリックな話になってんだよォオ!!!」
長っ鼻の狙撃主は先ほどナミがそうしたように
ルフィの首根っこを掴みガクガクと揺さぶりながら拒絶の意を唱えた。
いや、叫んだ。
「こんな得体の知れねェスリリング野郎と手を組んだ日にゃ、俺ァ夜もオチオチ眠れねェよォ!!!」
「ほらね!ルフィ!!みんな反対でしょ!?やめましょうこんな危ない話に乗るの!!航海には私達のペースってものが…」
やめろぉぉおお!!と喉が張り裂けんばかりに声を荒げ息を荒げどうにか船長を思いとどまらせようとするウソップと
仲間を得たとそれに加担するナミ。
きっとこの場に第三者が居ればこう思っただろう。
“騒々しいにも程がある”、と。
刀身の長い刀を肩に掛け騒ぎを見守る麦わらの一味とは今のところまだ部外者の男。
彼らをこうも騒がせる原因を作った同盟相手の船長、トラファルガー・ローもまた
この現状にそれを思っていた。
特に言葉を挟む事はしないものの、基本的にポーカーフェイスのその顔にすら滲む
呆れの色。
彼にとって、船長の決定にここまで体当たりで否定的意見をぶつけるクルー達という麦わら一味の関係性は“異質”。
珍しいものでも見るようにただ黙ってそこに立つ男が様々な思いを頭に巡らせているその間も
ウソップとナミの必死の説得は続いていた。
「そうだルフィ!!だいたいまだ“四皇”を視界に入れるなんて早すぎるよ!!戦える訳ない!!」
サンジの体に宿るチョッパーの精神。
医者としても、それが自分の体だからこそ尚更
戻って来た見るも無残なズタボロで瀕死状態の己の体にトナカイの心は動揺を隠せない。
だが彼も麦わらの一味で、比較的常識人。
治療を行いながらも、船長の言う“同盟”の話を無視出来るかと問われればそれは否。
危険の香りが色濃い船長の意向を回避しようと、各々が必死の抵抗を見せる仲間達の中
ロビンは冷静。
海賊は仲間同士の絆が強い。
命の安全等保証もされない、寧ろ世間的には捕まれば打ち首。
そんな立場で、夢を追い生きている。
命を掛け、共に境地を乗り越える度にそれは尚深まる。
世間が認識する“仲間”という関係性。
それを越える次元での、言葉では言い表せない何かがあるものだ。
そして麦わら一味は殊更それが強固。
人生が変わる程のドラマを越えて
救われた命や心は、船長への絶大な信頼を生む。
破天荒でも。
破天荒だからこそ。
誰にも救えない、救おうとすら思わぬものをルフィはこれまで救って来た。
ロビンもまた、救われた一人。
例え船長の意向がどんなに無謀だろうと彼女はそれに着いていく。
「…ルフィ、私はあなたの決定には従うけど…海賊の同盟には“裏切り”が付き物よ。人を信じ過ぎるあなたには不向きかもしれない」
ただ、意見は述べる。
従うが決して手放しで賛同できるものではないと感じるのは彼女も同じ。
「え?おまえ裏切るのか?」
「いや」
「あのなァ!!!」
けろっと張本人へそれを聞き
何てことなく否定するローの返答を、だよなぁと真に受けるルフィにウソップが心の底から叫んだ。
そういうところを言っている。
この場の誰しもが同じ言葉を心に浮かべただろう。
実際、ローはルフィの力を利用したいとは考えているが裏切ろうとはしていない。
しかし麦わら一味にとって彼はほぼ初対面の能力者。
それも海賊で、各々の情報量は異なるものの得てして良い噂など皆無。
まず大前提として
裏切る人間がそれを素直に認めるか。
勘弁してくれ。
きっとそれが、この場に集う旗頭二人を除く者達の
純粋な気持ち。
「とにかく“海賊同盟”なんて面白そうだろ!?トラ男は俺いい奴だと思ってるけどもし違ったとしても心配すんな!!!」
そう言い切るルフィの顔には自信がみなぎっていた。
「俺には2年間修行したおまえらがついてるからよっ!!!」
「「「「え〜〜〜〜〜!!?」」」」
「ルフィおまえ…」
どーん!!
そんな言葉が後ろに見えるほど
腕を組み胸を張り、満面の笑顔を浮かべるルフィに先の事への不安等微塵も見えない。
仲間達の“心配ないってそっちかよ”の突っ込みが言葉になる前に口をついた驚きの声が雪原に響く中
いい奴だと称された男の心はとてつもない衝撃に襲われていた。
船長。
それは仲間達を守り率いていく立場。
同じく船長を務めるローにとって、他力本願で仲間の命運を分けることなどその選択肢すらハナから皆無。
頼りにしていたとしても、褒められた事では決してないそれをこうも誇らしく言える等正気の沙汰とは思えない、と。
しかし
彼の度肝を抜くのはどうやら船長だけではないようだ。
船長が船長なら、クルーもクルー。
「や…やだもールフィったら照れる〜〜」
「そりゃな!俺達は頼りになるけど」
「よ…よしルフィ!!俺達にどんと任せとけ!!ゾロ達もビビってやがったら俺様が説得を!!」
喜ぶとこじゃねぇぞ。
おまえらさっきまでの必死の説得はどうした。
なんて乗せられやすいヤツらだ。
理解出来ぬ価値観に、基本ポーカーフェイスを崩さない死の外科医の顔からは唖然とした表情が滲み出た。
ローは同盟を結びたい。
しかし先程までの麦わら一味のリアクションで、それは歓迎された事ではないと一目で理解した。
麦わら一味の決定権はルフィにある事もまた、一目瞭然。
最悪仲間の同意が得られなくとも事は纏まるだろうと彼は踏んだ。
だがしかしこれはどうだ。
頼られた事が嬉しいのか、それが見え見えな程に弛みきった締まりのない顔が立ち並ぶ。
衝撃的なものを見てしまったと言わんばかりに呆然と立ち尽くす長身の男の目の前では
和気藹々と麦わら一味の愉快な掛け合いが続いていた。