16-22
「“シャンブルズ”」
同盟は叶った。
色々と着いていけねぇ思考を一々考えるのはよそう。
ウチのクルー達も、ウイもブラーヴェも
中々癖の強ぇヤツらだとは思ってはいたが
麦わらだけならまだしもその仲間達までもが
結構なレベルでぶっ飛んでいる。
悪いヤツらではなさそうだが…
頭の出来が多少不安だ。
同盟の証…とは違うか。
逃げられて困る理由のなくなったコイツらの中身を元に戻してやった。
「ウオ〜〜戻ったぜェ!!!俺の絶好調ボディ〜〜!!!やはり俺は俺に限る!!!ん〜〜!スーパ〜〜!!!」
「俺も…戻ったけど!!何だこのボロボロの体!!!おまえら人の体に何してくれてんだよ!!!」
ついさっき愉快な仮装行列の〆を飾った決めポーズ。
それを一人ハイテンションに再演するロボは名をフランキーと言うらしい。
そしてロボ屋に好き勝手体を使われたトナカイは動けぬ満身創痍の体でその原因を作った二人に怒りをぶつけていた。
「「はあ…すいません。コイツが悪いんだ」」
説教を食らった麦わらとロボ屋は互いに互いを指差し責任を押し付け合う。
どっちも、謝ってる割に自分は悪くねぇと言いたげなツラだ。
「おまえがチョッパーの体で暴走するから!俺は止めるしかねェだろ!!!」
「だが何もクラーケンぶっ飛ばす様な技を出す事なかったろうがァ!!!」
やはりさっきのアレは暴走だったのか。
そして麦わらも麦わらで仲間相手に容赦ねぇなとは俺も思った。
「どっちもだ!!!」
「「はぁ…すいません」」
責任の所在はどうあれ申し訳ねぇとは思っているらしい。
頭を垂れる二人に半泣きで怒り狂うトナカイが心底気の毒に思えた。
「…おまえも大変だな」
「「元はと言えばおまえのせいだ!!!!」」
ただ単にトナカイに同情の言葉を掛けただけなのに、とんだとばっちり。
確かに中身を入れ換えたのは俺だが
実際トナカイをこうしたのは俺じゃねぇってのに。
非難の目が集中する中、背後から啜り泣く男の声が聞こえた。
「自分に戻れただけいいじゃないチョッパー!!」
体の方は別行動中らしいビキニこと、ナミ屋。
さっきまでロボの体に入ってたのが、今度は黒足屋の中に収まってもらった。
体と精神がルームの中にあってこそ戻せる。
揃ったヤツから戻した手前、これは致し方ねぇことだ。
「何で私だけたらい回しなのよ!!!フランキーの次はサンジ君!!?」
他人の不幸はなんとやら。
さっきまで言い争っていた麦わら屋達は自分の不遇を哀れむナミ屋に腹を抱えて笑い転げていた。
ゲラゲラのたうち回る仲間達に怒鳴り散らかすナミ屋の体は、黒足屋が侍の体捜しに持っていったらしい。
行動を共にしていたようだが、侍は麦わら屋んとこのクルーじゃねぇ。
なんで出会ったばかりの赤の他人にそこまでしてやってんのか、…謎だ。
ナミ屋の件は置いておこう。
ここでどうこう話して何とかなるもんじゃねぇ。
となると次は…
「コイツらか…」
「ああ!!助けてェんだコイツら!!」
さっきも見かけた巨大化したガキ。
今は揃いも揃って安らかに寝息を立ててはいるものの、鎖で縛り上げられてるこの様子じゃ
目を覚ませば縛っておかなきゃなんねぇ状況なんだろうよ。
「こんな厄介なモン放っとけ…薬漬けにされてるらしい…」
「わかってるよ!!調べたから!!!──だから家に帰してやりてェけど薬を抜くのに時間がかかるし…何よりこんなに巨大化してる!!」
…気の毒だとは思うが、状況が状況だ。
意識のねぇまま運ぶにしても図体がデカすぎれば
意識が戻れば禁断症状でドラッグを求め暴れ回る。
ちんたら治療してられる状況でもねぇし、ここでこのガキ共に時間を割くのは目的の遂行上良策とは言えねぇ。
「…本気で助けてぇのか?…どこの誰かもわからねぇガキ共だぞ」
「ええ。見ず知らずの子供達だけど、この子達に泣いて“助けて”と頼まれたの」
さっきまで自分だけが元の体に戻れずに喚いていた筈のナミ屋が、至極真面目な顔でそう答えた。
黒足屋の体。
見た目上男。
でもそう話すナミ屋の表情が、誰かと重なって見えた。
アイツがここに居ても、同じことを言うと思う。
『ローお医者さんでしょ!!助けてあげて!』と。
「“マスター”はうまく騙してここへ連れて来た様だけど、本人達だってもうとっくにあの施設がおかしいと気付いてる」
シーザーに対する憎悪を滲ませる横顔は、やはりどこかウイを思わせる。
見ず知らずのガキを助けようと単身海賊に捕まりに行くような、あのバカ女。
「この子達の安全を確認できるまでは…私は絶対にこの島を出ない!!」
ナミ屋は目を伏せながらも、眠るガキの背を撫でながらそう言い切った。
…ちょっと待て。
「…じゃあおまえ一人残るつもりか?」
別に同盟を組んだからと言って麦わらのとこのクルー全員の行動を制限するつもりはねぇ。
ナミ屋本体の戦いぶりは知らねぇものの
懸賞金も低い、身のこなしも強ぇヤツのそれとはまるで違う。
ガキを救いてぇのは構わない。勝手にしたら良い。
だがコイツ一人でそれをなんとか出来るとはとてもじゃねぇが思えねぇ。
これはまさか…
「仲間置いてきゃしねェよ!ナミやチョッパーがそうしてェんだから俺もそうする」
何言ってんだおまえとでも言うように、当然の如く自分も残ると言い出した麦わらは
さっき同盟を組むと、カイドウを引き摺り落とす策に乗ると
そう言わなかったか…?
「あとサンジがサムライをくっつけたがってた!おまえ俺達と同盟組むんなら協力しろよ!?」
……。
…聞き間違いじゃねぇよな?
協力。
ガキ共を家に帰すのと
侍の体を元に戻すのに、協力。
なんだ。
俺がおかしいのか?
俺は麦わらと
“カイドウを倒す”名目で同盟を組んだんだよな?
目的と利害が一致したからこそ、“その目的の為に”手を組む。
それが同盟。
何も間違いちゃいねぇ。
さっき話してたのはそういう事だ。
それで合ってる筈なんだが
ガキの件も侍の件も…カイドウに何か関係等あっただろうか。
俺か。
俺がおかしいのか。
至極当然のように関係ねぇコイツらの都合に協力しろとふんぞり返る麦わらを見てると
自分の考える普通に疑念すら抱き出す。
話が通じねぇにも程がある。
コイツの頭ん中はどうなってやがンだ。
「あァ…おまえ言っとくがルフィの思う“同盟”って多分少しズレてるぞ」
「友達みてェのだろ?」
鼻の長ぇのが神妙な顔で麦わら屋の“同盟”の認識が一般とズレてる事を俺に忠告して来る。
それに対してちゃんと理解していると言いたげに返答するコイツの答えはやはり的外れ。
「主導権を握ろうと考えてるならそれも甘い」
「そうなんだってよ」
鼻クソほじりながらのうのうと相槌を打つこの破天荒な珍獣は
確かに楽に飼い慣らせるようには見えない。
分かっていた。
普通じゃねぇことは。
ただ、これは少し…想像以上過ぎる。
「思い込んだ上に曲がらねェコイツのタチの悪さはこんなもんじゃねェ!!自分勝手さでは既に四皇クラスと言える」
「大変だそりゃー」
他人事じゃねぇ、てめぇの事だ。
あまりにも能天気過ぎる様の麦わらが言う、麦わらなりの“同盟”の在り方。
流石に不当過ぎる気がして一般論で論破を試みた。
「…だがおまえの仲間の要求は…同盟に全く関係が…!!」
…無駄か。
そうだな。
人の意見に耳を傾けるようなヤツじゃねぇのはこれまで見てきた中でも十分わかった。
同盟を組む。
カイドウを四皇の座から引き摺り降ろす。
それを麦わらが了承するのであれば多少理不尽で不当だとしてもこっちもその要求を飲むべきだ。
時間を取られようと面倒事に付き合わされようと
関わらない選択肢よりもこの“同盟”は遥かに益がある。
「ああ…いやわかった時間もねぇ…!!じゃあ侍の方はおまえらで何とかしろ!ガキ共に投与された薬の事は調べておく」
そうと決まればさっさと片付けて本題に移るに限る。
堪えろ、俺。
指揮系統がまるで存在しねぇらしい呑気な集団。
それに苛立ちを押さえながら今後の指示を飛ばした。
「船医はどいつだ一緒に来い。シーザーの目を盗む必要がある」
俺1人では無理だ。
書庫の文献には綺麗さっぱりガキ共とSADに関する資料はねぇし
データベースの件もこの騒動が落ち着くまではシーザーは閲覧させやしねぇだろ。
ならば俺がシーザーとモネを引き付けている間に、ある程度知識のあるヤツが直接シーザーの研究所の資料を漁るしかねぇ。
「よっと!おまえでけぇな…ちょっと屈め!──よし!これで大丈夫だ!!」
「わりいな!俺今動けねェから!」
なんなんだ本当にコイツらは…
頭に感じる圧迫感と重み。
背後でどっと沸く麦わら達。
一緒に来いとは言った。
船医がどいつかは知らなかったものの、“それ”が動けねぇ程満身創痍なのは知っていた。
「良いなそれ!!」
「あら、良かったわねチョッパー」
人の頭を指差して笑う麦わら達。
げらげらと腹を抱えさせる原因になっているその指の先には
鼻屋にロープでトナカイを括り付けられている俺の頭。
なぜそうなる。
他に方法あんだろうが。
「よろしく頼む!!」
おまえもおまえで何普通にこれで移動する気になってンだ。
頭上から聞こえてきたトナカイの高い声に、己に今起こっている状況を受け入れ切れない体がわなわなと震えた。
なんなんだコイツらは。
俺か。
俺なのか。
おかしいのは俺の方なのか。
「チョッパー苦しくねェか?…ンだよこの帽子、安定感悪ぃな──」
帽子越しに縛られたロープの結び目を調整する鼻屋に
遂に堪忍袋の緒が限界を迎える。
ドコォッ!!
「ごふっ!!っにすんだてめェ!!痛ぇじゃねェか!!」
肘打ちで鼻の鳩尾に一発食らわせれば
吹っ飛んで雪原に尻餅を付くそれを見下ろしながら帽子を取ってトナカイを頭から降ろした。
「何すんだはこっちの台詞だ。──ンなふざけた頭でどうやって奴らの目を盗む」
落ち着け、落ち着け俺。
シーザーの所に戻る際の見てくれ以前に
近すぎる他人の気配への嫌悪がそれを無意識に拒絶した。
「でもチョッパーは今とても自分の足で歩ける状態じゃないわ」
「これで良いだろうが」
黒髪の女。
ニコ屋が頭から引き摺り降ろしたトナカイを気遣うように声を上げる。
歩けねぇとしても
あんな状態で戻る方が得策だとコイツは本気で思ってるんだろうか。
マトモそうなツラしてやがるがコイツも中々ぶっ飛んでる。
タチが悪い。
巻き付けられていたロープを鬼哭の鞘に縛り付け、帽子を被り直した。
平静を保て、俺。
ペースに乗せられたら負けだ。