16-23
「さっきの二人組の刺客でわかる通り、シーザーはおまえ達と白猟屋のG-5を消し去りガキ共を奪い返すつもりだ。それが達成されるまで奴の攻撃は止まない」
多少、いやかなり。
頭の方が心配な連中ではあるが“新世界”に入ってくるだけの連中。
「シーザーは4年前の大事件で犯罪者になり下がった元政府の科学者。立入禁止のこの島に誰かがいるという事実が漏れればあいつはこの絶好の隠れ家を失う事になる」
ここに来るまでいくつも修羅場は潜り抜けて来た筈。
心底疑わしいものの、コイツらがここに居るという事こそがその実力を裏付ける証。
「だからおまえらを全力で殺しに来る。──懸賞金3億ベリー、殺戮兵器を所持する“ガスガスの実”、ロギア系の能力者」
同盟を組むのであれば、コイツらの足りねぇ頭にも現状と敵の情報は落としておかなきゃなんねぇ。
どの程度意味を為すかは分からねぇが、知ってるか知らねぇかじゃ結果は大分変わる。
「覇気を纏えない者は決して近づくな。ただの科学者じゃない」
麦わらがそれに該当する事は把握済み。
正直他の連中には期待してねぇ。
一朝一夕で習得出来るモンじゃねぇそれを、2年前シャボンディで共闘した時こいつらは存在すら知らなかった。
「こっちで覇気使えんのは俺とゾロとサンジ…あとおまえだろ?」
「まァ充分だ。俺は一足先に研究所へ戻る」
ゾロ…確か緑頭の剣士だったか?
それと黒足屋。
ただ黒足の方は今は頭数にいれない方が懸命か。
気をコントロールする覇気は、体がそれを覚えていてもそう簡単に扱えるもんじゃねぇ。
中にナミ屋が入った今の状態じゃ、それは使えないのと同義。
だが可能性として最善でこっちの戦力は4。
1と4では大分変わる。
これは思わぬ収穫だ。
ただ問題なのが
戦力にはなり得るコイツらの行動パターンが危なっかし過ぎる上に読めねぇ所。
規格外。
良いか悪いかは置いておいて。
いや、良いところ等実際何一つねぇんだが。
それは想像の遥か上を越えてきやがる。
「で、その“マスター”を俺たちとおまえで“誘拐”すりゃいいんだな?」
そこが理解出来てるなら、まあ上出来か。
俺1人であれば例えシーザーを誘拐出来たとしても、それ後の対応が後手に回らざるを得ない。
SADの唯一の製造者であるシーザーを、ヤツは死にもの狂いで追ってくる。
それを確保し、かわしながら次の手を打つのは至難の技。
「誘拐して誰から身代金取るの?」
「目的は金じゃない。“混乱”だ。成功してもいねぇのにその先の話を今する意味はない。とにかくシーザー・クラウン捕獲に集中しろ。決して簡単じゃない」
成功率は極僅かだった。
だが0じゃねぇなら、他よりマシなら
それが容易に起こり得ることじゃねぇなら。
今しかねぇと、そう踏んで動いた。
「俺の計画はそれを無事成し遂げた後にゆっくり全員に話す。ただし──その時点で事態は自ずと大きく動き出す。そうなるともう…引き返せねぇ…!!」
だが麦わらが居れば、話が変わってくる。
誘拐と製造ラインの破壊のみにとどまらず、モネを仕留められる可能性が見えてくる。
あちらに感知されるまでの時間、それは例え僅かであろうと状況を大きく変える。
一番でけぇのが戦力と人数の増強。
一人じゃなければ選べる選択肢は膨大に増える。
そしてそれは、奇跡のような可能性を現実的な数値に引き上げる。
「考え直せるのは今だけだが?」
「大丈夫だ!おまえらと組むよ!!」
1度決めた事を曲げねぇことはさっきので十分理解した。
麦わらは扱いずれぇが、己の目的を達する為の力はアテに出来る。
「──なら俺もおまえ達の希望をのむとする。残りの仲間もしっかり説得しとけ」
「ああ!わかった!!」
手間と時間を取られる面倒でしかねぇ同盟には無関係な要望。
だがそれを片付ければ、こんなちんけな労力と引き換えにならねぇ程の莫大な見返り。
麦わら達だけじゃなく、他の脅威をもこっち側に引き摺り込める。
まただ。
ざわりと血が騒いだ。
運命なんてものは信じちゃいねぇ。
だが今ここに麦わらが居る事が
その麦わらをあの時救った動機が
動くだけの材料が集まって今行動を起こしたことが
偶然とは思えなかった。
『ロー!!』
屈託ねぇ笑顔で名を呼ぶ
アイツの顔が頭から離れなかった。
シーザー誘拐部隊と別れた後
こっちはこっちの仕事をする為トナカイを連れてシーザーのラボへ向かっていた。
適当な相槌しか打たなくても甲高い声の重傷者は口を休める事はない。
トニートニー・チョッパー。
ヒトヒトの実を食べた青鼻のトナカイ。
船医。
さっきの暴走はコイツが開発した“ランブルボール”とやらの効能らしい。
標準装備の形状変化がそれを服用することで更に多様な変化が可能。
制御が難しいらしく、中にロボ屋が入った状況で使用したせいでああなった、と。
あれは覇気云々以前にデタラメなパワーだったが、そんなトリックがあったと言う訳か。
制約や負担を代償に瞬間的に力を増強させる。
“ランブルボール”にどんな成分が含まれてるかは知らねぇが、ハイリスクハイリターンな戦法だ。
手駒の能力が割れるのは扱い易くて助かる。
だがコイツも船長に似て危機感や他人への警戒心が薄過ぎだ。
同盟を組んだとは言え、先刻知り合ったばかりの人間にこうもペラペラと手の内を明かすのは如何なものか。
「おまえの能力便利だなー!ワープか!?今の!!」
「黙って袋に入ってろ。もう研究所裏口だ。メイン研究所には恐らく、シーザーともう一人女がいる」
コイツはラボで大人しく荷物のフリを出来るんだろうか。
頭に乗っていたトニー屋を鬼哭にくくりつけた荷物袋にしまったものの
こうも騒がしいと些か不安にもなる。
「俺は二人を何とか部屋から連れ出す。おまえはその間に薬の事を調べろ」
「でもおまえそんなに簡単に“マスター”に会えるなら強ェんだし、自分で捕まえたら良いじゃねェか!そしたら薬もゆっくり調べられるし…」
出来たらやってる。
「こっちの問題でな…それができねェからおまえらの力が必要なんだ」
「?」
正直
1を話して10を理解するウイやクルー達との会話に慣れ過ぎたせいか、こうも想定の斜め上を行く連中に何かを説明するのは億劫にもなる。
「とにかくおまえらは速やかにシーザーだけ拐ってくれりゃいい。後は俺がやる」
俺なら乗らない。
詳細の説明のないリスクの多い大勝負。
でもこいつらのぶっ飛んだ思考はそれすらも許容するらしい。
一長一短。
いや、一長十短ぐれぇか。
「うわァああ〜〜〜!!!!」
研究所の裏口へ足を踏み入れかけた時
遠方から徐々に近付いて来る叫び声が耳に入った。
振り返るまでもない。
嫌な予感しかしねぇ。
そしてこの予感の的中率は、外れて欲しい気持ちとは裏腹に
100%。
ドッゴオォオォォン!!!
「マスター出て来ーーーい!!!おまえをブッ飛ばして誘拐してやるぞォ〜〜!!」
よく通る声に頭を抱える。
その出所に目をやれば、数時間前ぶったぎった軍艦の刻まれていない方の片割れ
それが正面玄関前にのめり込んでいるのが見てとれた。
…あそこにはG-5の連中が居たはず。
いや、居なくても…!!
「あのバカっ…誰が全軍相手にしろと言った!!!」
俺が言ったのはシーザーの“誘拐”だ。
“全員ぶっ飛ばして来い”では断じてない。
「ルフィ派手にやってるなー!!」
袋から首だけを出し、軍艦と共に戦場へ突っ込み早速派手に暴れてる麦わら屋の様子に目を輝かせるトニー屋もまともな感覚じゃねぇ。
“誘拐”だ。
その人物を拐えば良い。
普通出来る限り秘密裏に動くもんじゃねぇんだろうか。
派手にやればやるほど立ちはだかる壁は増える。
例えば。
例えば、だ。
生まれたての赤子を家から誘拐しようとした時
わざわざ両親、悪を取り締まる組織、それを目の前に
声高らかに宣誓するか?
しねぇだろ普通。
それが誘拐だろ。
麦わら達への指示の出し方が難解過ぎる。
何かを指す名詞、共通認識だと思っていたそれがこうも遥か斜め上に認識されるのが歯痒過ぎる。
そんな相手を頼りにせざるを得ないこの状況が
たまらなく不安だった。
「…まぁ、起きた事は仕方ねぇ。行くぞ」
「ルフィなら大丈夫だぞ!すんげェ強くなったんだ!!ここに来る前の魚人島でもな!!──」
麦わら屋が負ける負けねぇの話をしてる訳じゃねぇ。
勿論負けられたら困る。
…その場の事しか考えてねぇんだ。
目的を遂行する為には先を読んで最も有効かつ労力の少ない方法を選ぶべきなのに、コイツらはそれが笑える程に出来ねぇ。
結局道中ずっと喋り続けていた袋の中身を黙らせたのは、シーザーの研究室の少し手前。
ここからは遊びじゃねぇと凄めば、分かったと頷きトニー屋は袋に顔を引っ込めた。
少し重めの扉の先
薄暗い廊下とは打って変わった明るい室内に、一瞬目が眩む。
モネ一人…チャンスだ…。
「…“マスター”ならいないわよ?」
「そうか。どこへ?」
だだっ広い研究室の執務机。
定位置になっているそこで両の翼を広げ筆を走らせているのは、実質シーザーよりも警戒すべき相手。
「さァ…趣味の悪い人だから表の戦闘の見物でもしてるんじゃない?」
表の戦闘…?
麦わら屋のさっきのアレか。
正直結果論は好かない。
だがしかしあんなデタラメな方法も少しは役に立ったという訳か。
トニー屋入りの袋をソファーに降ろし、一人で済んだこの場から去らせる相手に目を向ける。
さて。どうするか。
「…データベースの閲覧。アイツは本当にそれをさせる気はあんのか?」
「どうかしら。まだ実用化されてない極秘事項の研究データもあるから……ここまで言えばあなたなら想像つくんじゃない?」
やはりそういう事か。
そもそもデータベースの閲覧なんて出来ると思っちゃいねぇ。
それを成し遂げる為に動いてねぇ。
「なるほどな…」
だがこれは好機。
それを対価に侍の対応に回った俺が、この島を出る言い訳にもってこいのその返答。
モネから見て、俺は麦わら屋とは無関係。
麦わら屋が誘拐を成功させたとしても、同盟を気取らせずに俺がこの場を離れられなければ意味がない。
「ならば俺はボチボチここを出るつもりだ。全部は読みきれてねェが…俺の探してる研究データはここにはないらしい」
「──そう。淋しくなるわね」
果たしてどこまでが本音か。
言葉のやり取り上は上手く誤魔化せている。
だがモネは、それが本音かどうかが怪しい類の人間。
どうこの場から連れ出すか…。