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続々と人が紫煙に飲み込まれていく中、広がる煙の速さに負けず劣らずの逃げ足でこちらへ向かってくる麦わらの仲間達。
必死過ぎる形相ではあるが逃げ延びてる。
中々の脚力だ。普通ならとうに死んでんだろうに。
「仲間か?“麦わらのルフィ”。シュロロロ…!流石におまえの仲間はしぶといなァ…!!──だがやがて息も切れ…ガスにやられる!!!」
こんなに人の顔面を見て気持ち悪ぃと思ったのは初めてだった。
その気になりゃ人間はこんな薄気味悪ぃツラが出来んのか。
煙にまかれ蝋人形の如く動かなくなる部下や海兵を嬉々と眺めるそのサマは
ドミノ倒しでも楽しんでいるガキのようだ。
己に陶酔するかのように勝ち誇る顔。
こいつにとっては、今も尚消え続ける命の灯火も
押されて倒れる牌とそう大差ねぇか。
「やがて広がる何も生きられない“死の国”!!この研究所の外にいる連中はもう誰一人生き残れやしない!!!──おまえらもなァ…!!!」
「!!?」
「わ!!!」
なんの演説かと問いたくなる程、身振り手振りの行き過ぎるシーザーの講演に眉を寄せていた最中
檻が稼働した。
「この殺戮兵器“シノクニ”の前には…4億の賞金首も…海軍の中将も!!!“王下七武海”でさえも何もできないと!世界に証明してくれ!!」
シーザーにとって
見せしめになる兵器の犠牲者はハクがあればあるほど良い。
己の力を誇示する為
世に己の有能さを示す為
上手く運べばこの公開実験は効果的なデモンストレーション。
海軍きっての腕利きも
巷を騒がせる最悪の世代ルーキーも
七武海も
手も足も出ずに散る。
こんな打ってつけの宣伝はない。
“シャンブルズ”
手の中で丸めたメモを
動き出した状況に更に動揺の色を濃くしたトニー屋目掛けて飛ばした。
頭に命中したそれの出所を探ろうとキョロキョロと辺りを見渡しながら
メモの中身を確認し目を見開く。
こっち向かねぇとこ見ると
能力はワープかと騒いでいた割に、俺からの伝言だとは気付いてねぇらしい。
気付いてねぇ癖に素直に従い今度こそちゃんと身を隠したトニー屋にほっと息を吐きつつ
やっぱり麦わらんとこのクルー達はどっかがズレてると改めて感じた。
普通この状況で、誰からかもわからねぇ指示に従うなんて
うちのクルーは絶対しねぇ。
クレーンで吊るされた檻の中。
そこにはヴェルゴが豪華と称する顔ぶれが収まっていた。
研究所から檻ごと運び出されていく彼らを、研究機材の影から心配そうに見守る1つの影。
巨大化実験に使用されたドラッグの成分を調べ終え、後は実際に治療するのみと意気込んでいたチョッパーは
続々と檻に放り込まれる顔ぶれに唖然としていた。
助け出したいけれど
敵は自分より確実に強い者達を呆気なく捕まえてしまう程の相手。
リスクは伴うものの、もう一度ランブルボールでひと暴れするしか道はないか…
焦るチョッパーの頭にその一か八かの手段がチラつき出した丁度その時
どこからともなく飛んできたメモ。
雑に丸められたそれに書かれていたメッセージは
“なにもするな”。
チョッパーは従順だ。
このメモが誰からのものかも分からぬまま
素直にそれに従った。
心配そうに
仲間達が収容されている檻が毒ガスの立ち込める研究所外に運び出されるのを、目で追いながら。
研究所の周りには、まだ煙は到達してはいない。
施設周辺に集うは、毒ガスの脅威から逃れようと逃げて来たシーザーの手下達と
上司が捕まり右往左往していたG-5の海兵達。
クレーンで吊るされた檻の中を視認した海軍きっての荒くれ者達は
捕まったままの上司に悲痛の叫びを上げた。
この絶望的な状況が打破できる可能性があるならば、それを成し遂げられるのはスモーカーとたしぎしかいない。
G-5の彼らへの信頼はそれほど厚いものだった。
迫りくる死。
自分たちはどうなるのか、死ぬのか。
助けを求める部下達の声に奥歯を噛み締めるたしぎ。
そんな彼女にヴェルゴの話でもしてやってはどうかと笑うスモーカー。
麦わらの一味達は相も変わらずのほほんと研究所の良く出来た造りを褒めはやしている。
「…ヴェルゴの登場は想定外だったが…麦わら屋…俺達は“こんな所で”躓くわけにゃいかねぇんだ…!!」
そんな中、七武海の男は動揺も見せずに淡々と言葉を紡いだ。
「作戦は変わらず──今度はしくじるな…!!反撃に出るぞ」
檻の中
海籠石で縛り上げられた体。
到底冗談等口にしそうもないこの男の発言こそが、今は最も場違いで見当外れ。
ローは一体、何を企み
どうするつもりだというのか──
「反撃するって!?」
「ああ…さっさと片付けよう…!!──この中で誰か物を燃やせる奴は?いなきゃ別にいいが」
トニー屋とは違う。
檻の中の麦わらのクルー達の呑気さは、ズレてるのもあるが肝が据わってんのが大分でけぇ。
「火ならフランキーだ!ビームも出るぞ!そうだおまえ!ビームでこの鎖焼いてくれよ!!」
「“ラディカルビーム”は両腕しっかりキメねぇとでねぇ!!今出せるのは尻から“クー・ド・ブー”くらいだ」
…屁か。
屁なのかその技名は。
ビームという言葉に若干心が踊った。
ロボなら有り得るのかもしんねぇが、発射された光線の出所がケツってのはなんともいただけねぇ。
…まぁいいか。
屁でもなんでも。
目眩ましになりゃそれで良い。
「向かって右下の軍艦を燃やせるか?」
「それはお安いご用だ兄ちゃん──“フランキーィ…
ファイヤーボール”!!!」
すぅ、と深く息を吸い込んだロボ屋の口から発射されたのは
その名の如く火の玉。
こいつは実際ロボなのか人なのか…
それはさておき、風上に位置する船に早速燃え移った炎は瞬く間に燃え広がり俺らの元へと煙を運ぶ。
「ゲホ!!ゲホ!!おいこらトラファルガー!!煙がこっち来たじゃねぇか!!」
「おまえがやったんだろう」
「おめェがやらせたんだよ!!」
燃やせば煙が出んのは当たり前。
こっちに向かって風が吹いてんのも誰にでも分かる情報。
なぜ火を着けた張本人が
当たり前の事に対して文句を垂れるのか…理解出来ねぇ。
「ゲホ!ウェッホ!あははは!何やってんだよ!」
こっちのバカと何かは紙一重な男は煙にムセながらもこれをイベントか何かと捉えてんのかご機嫌だ。
大した男だ
本当に。
「さて──これで映像でんでん虫には映らねぇ……すぐにはバレずに済みそうだ…」
白煙の漂う檻の中、頃合を見計らい窮屈で仕方なかった鎖を解いた。
驚愕に目を見開く獄中仲間の顔を眺めるのは中々に愉快。
敵を欺くには味方からって、よく言うだろ。
「え!?」
「何だおまえ…どうやって“海楼石”の鎖取ったんだ!!?」
海楼石なら俺でも抜けられねぇ。
“海楼石”、なら。
「なに、初めから俺のはただの鎖だ。能力で簡単に解ける。──俺がどれだけここにいたと思ってんだ」
薄く張ったルームの中、シーザーの研究室の片隅に投げられていた鬼哭をシャンブルズで呼び寄せる。
「いざって時にすり替えられる様に、普通の鎖を研究所内にいくつも用意しておいた。何かの間違いで俺らが捕まった時“海楼石”だけは避けられる様にな…」
ロボ屋にニコ屋、麦わら屋を縛る鎖に切っ先を滑らせれば
大した力も要らずそれは断ち切れた。
力加減も、切りてぇものも
俺の意図した通りに力を振るう鬼哭。
アイツがいなけりゃ巡り会えなかった、俺の最高の相棒だ。
「うおーーー!!自由だ〜〜!!!」
「叫ぶなバカ!!──さァ“おまえら”を…どうしようか……少し知りすぎたな。おまえらの運命は俺の心一つ…」
ここに置いていくにせよ働いて貰うにせよ
海楼石に囚われたこの海兵を入れ換えておくメリットはもうない。
3本の指を翻し、中身をそれぞれ宿主の元に返してやった。
「どうするかはもう決めてあんだろ、さっさと…あァ!?」
「え!!?……早く鎖を解いて下さい!何でも言う通りにしますから…!!」
自分の体に戻った事に驚いたのも束の間、たしぎとか言う女海兵が物分かりの良い態度を見せる。
俺はどっちかと言えばこの女が嫌いだ。
直情型、身分不相応な物を得られると勘違いしてやがる。
でもそうか…
「フザけんなたしぎィ!!海賊に媚びてまで命が惜しいか!!?」
「今は!!土下座してでも命を乞うべきです!!私達がここで死んだら!!部下も全員見殺しにし!!ヴェルゴもこのまま軍にのさばらせる事になり…!子供達だって…!!」
体が半分になっても斬りかかってくる程だ。
この女海兵は白猟屋を心底慕ってんだろう。
だがそんな上司に怒鳴りつけられても怯むことなく反論する。
自分だって俺に媚びたく等ねぇだろうに。
人にも何にも惑わされねぇだけのモンを持ちそれを貫くってとこは
まぁ、悪くはねぇ。
「女の方がいくらか利口だな。おい白猟屋。おまえを助ける義理はねぇが…おまえらが生きて帰る事でヴェルゴが立場をなくせば俺にも利がある」
好き嫌いの話は今はどうでも良いか。
こいつらをどうするかの判断材料は、俺に益があるかどうか。
「ただし俺の話、ジョーカーの話についてはすべてを忘れろ──これは“頼み”じゃねぇ、“条件”だ…!!おまえの命と引き換えのな」
海兵としての威厳を守り死ぬか
ここは形振り構わず生き抜き
“部下”を“拐われた子供”を守り、海軍に忍び込んだ悪の芽を摘むか。
奥歯を噛み締める白猟屋の返事は、聞かずしてもう決まっているようなもんだ。
敵ながら知っている。
こいつはそんな下らねぇ意地の為に、判断を誤る男じゃねぇ。
目を閉じ深く息を吐き出す男を縛る海楼石に、刃を突き立てた。
「交渉成立だな。精々役に立ってくれ」
ガシャリと音を立てて地に落ちる鎖。
こいつらが海軍本部に戻ればヴェルゴは居場所を無くす。
それは即ち、ジョーカーの海軍に張った情報網が断たれる事を意味する。
そしてこいつらは今この場でも、戦力として役に立たねぇことはない。
向かう敵が同じであるこの瞬間は、立場もバックグラウンドも違えど
同志で味方だ。
「おーいトラ男ー!!どうやって中入るんだ!?」
「!!?おい!!なんであいつ檻の外に!?勝手なマネを!!」
「網破って出てった──網は海楼石じゃねぇし。おい、それより俺はサニー号を何とかしてぇんだが」
自由にした途端さっそくこれか。
いつの間に檻の外、研究所の閉ざされた入口の前で両腕を振り声を上げた麦わら屋に頭を抱えた。
幸いなことに、立ち込める煙がその姿を映像でんでん虫に映すのを阻んではいる。
まぁ良い。
ルームの中の反撃要員
念の為にと多目に仕込んでおいた研究所内側の小石に意識を集中させ
「シャンブルズ」
壁の内と外のそれを入れ替えた。
──反撃開始だ。