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『“SAD”をローが!!?』
「…ああ。これで“裏切り”は確定だ…!!」


パンクハザードを守る者たちにとって最も重要な場所
SAD製造室にローの侵入を許した一報を受け、ヴェルゴは最短距離で現場へ急行していた。


『フッフッフッフッ…──だと思ったよ!!フッフッフ!!!俺ァあいつを弟の様に思いずっと成長を見守ってきてやったってのに…──残念だ』
「わかるよ」


急ぎはするものの、ヴェルゴは息一つ乱さない。
上司への報告も怠らなければ
恐らくは半分は本音で半分は茶番、そんな会話への相槌も忘れなかった。


『“SAD製造室”か…!!俺ならこうするねェ……まずは──その部屋をぶち壊す!!!』


でんでん虫を通してパンクハザードへ届くドフラミンゴの声。
それは残念だと言う者の声色とは到底思えない代物。


『更にシーザーを誘拐か…いやあ…俺ならブチ殺す…!!なぜならシーザーは世界でただ一人』


どこか愉快さを孕むその口振りは
昔可愛がっていた“弟”が、自分やその部下達に敵わぬ事を思うが故か。


『“SAD”の製造法を知る男だからだ──しかしそんな事をされちゃあ…困るのは俺だよヴェルゴ!!俺が困れば次はどうなる?』


ヴェルゴはその問いかけに返事どころか相槌すら打たない。
ただ足は休めず、目的の場所へと向かっていた。


ヴェルゴは知っている。
彼らのボス、ドフラミンゴは今怒っている。
そしてそんな時彼は、例え問いかけようと人の意見等求めてはいない。


『──その次はどうなる?その次は!!?…フッフッフッフッフ!!!不幸は連鎖する!!』


問いに対して
誰が如何なる返答をしようとも、ドフラミンゴが下す決断は揺るがない。
いや、揺るがしてはいけない。

ドンキホーテファミリーにとって、ドフラミンゴは絶対の存在。


どんな結論であろうと、それが全て。


『おまえもツラいだろうがヴェルゴ…ローはそこで始末してくれ。──この世に生まれた事を後悔する程に…無惨に殺してくれ!!!』


ドフラミンゴは決断した。
ローに懸けていた僅かな可能性を捨てる事を。






受話器を片手に元ファミリーの始末を言い渡したドフラミンゴにとって
人は履いて捨てる程代わりの利くただの一個体。


だとしても
そんな中でも、ローは“特別”な存在。

その人間性を見込み自身の右腕として育て上げた。
そして己の悲願を果たす事が叶うこの世で唯一のオペオペの実の能力者。


だがしかし
歯向かうのならば
使えないのならば、話は別。


『承知した。死体の耳でも削いでおまえに見せよう、ドフィ』
「フッフッフ!!楽しみにしてるよ」


彼も人間。
感情も心も持ち合わせた、ヒトという生き物。

人それぞれ、価値観や譲れぬものは異なるだろう。
ドフラミンゴにとって情というものの優先順位が著しく低いだけのこと。


“鳴かぬなら、殺してしまおうホトトギス”


彼の心情をこれ程表した言葉はない。
ヴェルゴとの通話を終えたドフラミンゴは、そのままでんでん虫で他の仲間を呼び出した。


『シーザー、モネ、聞こえるか』
「はい、ジョーカー」
「おお!ジョーカー!!」


僅かな躊躇いはあったのかもしれない。
だがしかし
腹を決めたその後は、迷い等皆無。


『ローは勿論だが麦わらにも充分気をつけろ…!!!あの小僧は“覇王色”の覚醒者だ!!ローより器は上かもな…!!』


確実に敵の芽を摘む為、ジョーカーに抜かりはなかった。
ローだけではない。
それに付随する全てのものを完膚なきまでに叩きのめす。


『幹部をそっちへ迎えに行かせる。事が済んだら全員一度ドレスローザへ来い!!』
「「了解!」」


まずはパンクハザードの沈静化。
“SAD”の保持と敵の排除。
そこからある程度は受けるであろう損害への対応、すべき事は山積みだ。


伊達に長年七武海の称号を持ち続けてはいない。
ドレスローザの国王の座に君臨してはいない。
闇の密売網を掌握してもいない。


でんでん虫を切った後、ドフラミンゴは外の景色を眺めた。
眼下に広がるのは虚像の幸せの中を生きる国民で栄えたドレスローザ。
口端をつり上げたこの男は今、その胸中で何を思うのか。

瞳の奥の覗き見えぬ濃い色の遮光ガラスはそれを周りに悟らせない。


ドフラミンゴはローの死を決めた後、朧気であった一つの選択肢を頭の中で手繰り寄せていた。




彼の脳内で
懇意にしている酒職人の女の顔が、悲痛に歪んだ。







やっぱそう上手くは、いかねぇか…


「ハァ…ハァ…!!ルーム!」


ヴェルゴと俺が共に存在するルーム。
この空間の中では俺が圧倒的有利の筈が

余裕ぶちかましてこちらへ寄ってくるヴェルゴに
頭の中の戦術パターン全てを打ち崩されるかのような威圧を感じた。


オペオペの実の能力を知って尚、この余裕。
それを脅威と感じねぇだけの裏付けがあるのかと思うと焦燥感が止まねぇ。


警備の雑魚共を排除すんのは赤子の手を捻るより簡単だった。
問題は想定より早く駆けつけて来たこの、ヴェルゴ。


「“シャンブルズ”!!戻れ心臓!」


スキャンで把握した内ポケットの俺の心臓。
それをウイに作らせたビーズと引き換えて掌に呼び寄せる。

手の中に収まるそれを左胸に戻そうとするも束の間
ほんの数秒、いや
0コンマ何秒かのあっという間の出来事。


ドカシャアァアン!!


目にも止まらぬ速さで襲い来る打撃に、ラボの手摺に全身を打ち付けられた。


「ゲホッ!!」


体内の免疫作用が脆くも塞いでいた内部の傷
それはいとも簡単に決壊し、口の端を血が伝う。


折角取り戻した心臓も
緩んだ握力と衝撃で宙を舞い、今やヴェルゴの手の中。


「うわああァアア!!!──ハァ…ハァ…」






体の内側に感じる臓器の軋み。
それが今体内になかろうと、ヴェルゴが握り潰すかの如く力を込めている“それ”は俺の命の中核だ。


何にも守られず敵の手中に収まる自分の心臓にかかる力に耐え、手摺に手をついた。







こんな所でくたばる訳にはいかねぇんだ。
何度しくじったって取り戻す。


その為の機会を…逃す訳にはいかねェ…!!


酸欠と、痛みだか苦しみだか知らねぇ体を襲う不具合を噛み殺して顔を上げた。


ゴキン!!
ドン!!


ひんやりと外気を感じる頭。


少し遅れて
殴られたはずみで帽子がふっ飛んだ事を知る。





ふと
冷えていく頭に


ウイが離れていってしまうような、そんな感覚を覚えた。










飛びかけた意識を手放すことも
満身創痍の体を休めることも

ンなことはいつでも出来る。


今が正念場。
ここで易い逃げ道を選び全てを失うぐれぇなら


「…“カウンターショック”!!」
「!!」


死んだ方がマシだ…!!






ヴェルゴの体に与えた電撃。
それは一瞬辺りを黄色に染めた。


「…ガフッ……!!」


吐血。

動かねぇ様子からしてもそれなりにダメージは与えられた筈。






「…ジョーカーから伝言がある…」
「!!」


喋れんのか。
この状況で。

流石ドンキホーテファミリー最高幹部。
流石1から階級を上げて中将までのし上がった男。


「『残念だ』と…!!!」


あの男が俺をどう思おうと興味はねぇ。
何をどう思おうが、ぶっ飛ばす対象であることに変わりはねぇからな。


ズキズキと痛む殴られた右頬。
散々心臓に圧をかけられたせいで全身の倦怠感が半端ねぇ。


あっちも無傷ではねぇが…どうする。


「シーザーから心臓を奪い返す算段はついていた……おまえの登場だけが誤算だった、ヴェルゴ」


心臓があっちの手にある以上、ルームの中であろうと絶対的に不利。
相当の距離を取らねぇと、シャンブルズで心臓を取り戻しても寄られて奪い返される。


取れるか?
この状況で距離を。


「何度も言わせるな。ヴェルゴ“さん”、だ」
「うァアアアアっ!!!」


これまでで一番の苦しさ。
威嚇の為じゃねぇ。


「アアアアアっ…!!!」


ヴェルゴは本気で俺の心臓を握り潰すつもりだ。


視界が白みかけて
酸欠のせいか頭の先から熱が引いていく感覚を覚えた。

薄れゆく意識は痛みで引き戻され
そこにはない心臓に感じる激痛。


処刑というより…拷問だ……!!






「ァアアアア──」
「──今取り込み中だが…今じゃなきゃイカンかね…。スモーカー中将…!!!」


…助かった


他に注意が移ったことで止んだ胸の痛みに、ここぞとばかりに息を吸い込む。

体に染み渡る酸素は僅かに、葉巻の煙の臭いがした。


「どの道キミの口封じもするつもりだが」
「早い方がいいね…視界に入るゴミクズを、眺めてんのもやなもんだ…“海賊”ヴェルゴ!!!」


ぜぇぜぇと喉が鳴る。
一命はとりとめたとはいえ、中々厳しいコンディションだ。


他力本願ってのはイケ好かねぇが
そうこう言ってる場合じゃねぇ。


白猟屋がヴェルゴの注意を引いている間に
なんとか持ち直す…!!




「ヴェルゴ──おまえの真実は部下達には知られたくねぇな…あいつらおまえをまるで親のように慕ってやがる。こんな裏切りはねぇ…」


十手を片手に紫煙を燻らせるスモーカー。
その眼下に広がるのは
現在協定を結んでいる七武海の男が瀕死の状態で地に伏している姿と
手を下しただろう“元”上司がそれを見下ろす様。


「──もう手遅れだろう。ついさっきあいつらには会ってきた」
「!?……あいつらに、何をした!!!ヴェルゴォ!!!」


ガキィィイン!!


先陣を切ったルフィに続いて先を進んでいたスモーカーは、しんがりを次々沈めてきたヴェルゴの所業を知らない。


頭に昇った血を力に変え、裏切られ散った部下達の上司は鋼の十手に全身全霊の力を込め殴りかかる。


受け止めるはヴェルゴの竹竿。

鋼と竹。
素材の強度をとってしても、どちらが丈夫かは一目瞭然。


しかしヴェルゴの手に握られた竹は折れない。


「熱くなるじゃないか、スモーカー君…!!──所詮あいつらは海軍のはみ出し者…。そもそも基地長の私が何をしようと勝手だろう」
「……!!」


ギリギリと軋む両者の獲物。
怒りを露にする煙の中将は、その十手に込めた力もろとも
“基地長”の頭をカチ割ってやりたい衝動に震えていた。


都合の良い時だけ“基地長”。
そして、所詮という言葉で見くびられた者達は
はみ出し者であろうと苦楽を共にし背を預け合いいくつもの戦局を越えて来た大事な部下。


スモーカーはカチ合う鋼と竹を緩急付けた力で押し込み、直ぐ様それを返した。
ビュン、と風を切る十手の速度は残像が見える程。


当たればひと堪りもないそれをヒラリとかわしたヴェルゴが


「俺の正体を知ったおまえ達はどの道、消えるのだしな」


竹竿であった物に呼気を込めた。


例えそれがゴム風船であってもあり得ない程一瞬の出来事
更に言えば“それ”は竹だ。


目の前で突如球体に膨らむ竹の節にスモーカーが面食らった次の瞬間


ボッ


拳銃の如く先から飛び出た弾丸は大の大人一人を容易に吹き飛ばし爆音を上げた。


ドオオォン!!!






忘れてならぬのは
ヴェルゴは海軍に“潜入した”海賊ではないということ。


自身の力で階級を上げ、中将へとのぼりつめたということ
それ即ち


その実力は折り紙付き。





destruct at reality.