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スモーカーは“自然(ロギア)系”の能力者。
一瞬呆気に取られたとは言え、彼もまたその実力で中将の地位を持つ者。

避けきれぬ超至近距離からの攻撃、咄嗟に武装化しガードを図るも、受けたダメージは武装色の覇気がヴェルゴに劣る事を意味する。


海軍中将、それは一般の人間が見れば化け物級の強さを持つ選ばれし者。
例え得体の知れぬ銃撃を受けようと、爆発に巻き込まれようと
それで終わるタマではない。


爆発の煙に自身を溶け込ませ
ヴェルゴの背後に回り込んだスモーカーが今度こそその頭を叩き割ろうと
具現化させた腕で十手を振り上げる。


覇気が劣ろうと
武装化していない生身の体への打撃ならば効果は及ぶ。


しかし自身の巻き起こした爆煙を眺めているかのように見えたヴェルゴは
背を仰け反らせそれをかわした。


素早い身のこなしで圧倒するヴェルゴ
ロギアの特性を生かし空中を自在に行き来しながらもそれを翻弄するスモーカー


熱くなっているのは後者であり、前者はどこか余裕の面持ちで相手をしている。
そんな余裕という名の油断が、スモーカーに勝機を生む。


十手を握る体本体とは真逆の方角から突きだした覇気を纏う拳
それはヴェルゴの顔面にのめり込み、その体を数メートル先へ吹き飛ばした。


「おまえがどれだけあいつらと長く付き合っていようと、百歩譲って“基地長”だろうと!!!基地を離れりゃ部隊の命は隊長が預かってんだ」


一発食らわせてもまだ足りない。
殺しても、何をしてもスモーカーの中に生まれた怒りの炎が消えることはないだろう。


同じ志を持つ者
上下関係があろうと、仲間

そんな相手を愚弄された怒り。


指示を出す分
働かせる分
その身を守るのは上に立つ者の義務

それを果たせなかった己に感じる呵責。


「俺の部下に!!手ェ出してんじゃねェよ!!!」


荒くれ者にも
はみ出し者にも

その中で生まれる関係がある。


スモーカーは彼らのことが
G-5の者達が


好きだった。




互いに手負い。
両者の力に大きな差こそないものの、やはりヴェルゴが上回る。


「ハァ…ハァ…」
「なぜ執拗に能力を使う…!?キミらしくない戦術だったなスモーカーくん」


彼が息切れ一つしていないのがその証拠。
そして有効ではない戦い方をする敵に、わざわざそれを教えるのも余裕の表れ。


負けぬ自信がヴェルゴにはある。
だからこそ敗北以外でも、相手を愚弄し貶めたい。


力のぶつかり合いで敵わず
戦術の立て方すらも的外れ。


それはただ戦いに負けるよりも惨めな指摘。


「格上の覇気使い相手に煙となり体積を増やせば“的”を広げるだけだ!!」


有言実行。
煙と化したスモーカー目掛けて振るわれた竹竿は


「俺の武装色をまとえばこのただの竹竿がどれ程の凶器に変わるか…知らぬ訳でもなし…」


ボキィィン!!!


体へのダメージを回避しようと割って入った十手を叩き折り


ドゴォッ!!!
「ぐっ…!!!」


スモーカーの身を撃った。


竹だ。
木材にしては柔らかくしなり、バネのある素材。
しかしそれは強い力を受ければいとも簡単に折れる。


しかしスモーカーの身にのめり込むそれは
鋼鉄よりもダイヤモンドよりも硬く重い、未知のモノ。


「海軍をナメきっている俺を消そうにも、実力がなくてはなァ…スモーカー。勇敢なだけでは部下もうかばれねェ」
「ハァ…ハァ…、ガフッ…」


地に伏したスモーカーがギロリとヴェルゴを睨み付けた。


片や重症、片や手負いとは言え見るからに余力を残している。
勝負はついたかのように見えた。













「俺の心臓…確かに返して貰った、スモーカー」
「!!?」


突如ヴェルゴの背後に響いた、同じく瀕死であった筈の男の声。
振り向いたその時には、彼が内ポケットに忍ばせていた筈のキューブ入りの心臓が
持ち主の体へと戻っていく所だった。





「選手交代だ、後は黙って寝てろ」


ヴェルゴの顔に初めて焦りの色が過る。

暫しの休息を得て回復し、心臓を取り戻したローが
ヴェルゴの視線の先に立っていた。






体を休めながら、目の前の戦いを見ていた。
最初のあの銃撃でヴェルゴの覇気が白猟屋のそれを上回る事は端で見てる俺にもに認識出来たこと。

当の本人が気付かねぇ訳がねぇ。


ヴェルゴも指摘していたように、白猟屋の戦い方は利口なやり方とはとても言えなかった。


頭に血が昇っている。
冷静な判断力を失ったかと胸中で白猟屋への評価を下げようとしたタイミングで
チラリとその相手と目があった。


何かを訴えかけるその視線は、激昂して我を忘れている人間のそれではなかった。


「そういう事か!!貴様!!!いつの間にっ!!」
「ハァ…ハァ…、…!!これで借りはナシだ。さっさとケリをつけろ!!」


煙が運んできたキューブに収まった心臓を見て、こいつも伊達に自分より長い年月を生きてねぇと感心した。
あの怒り様にはこっちまで騙された。


「そんなに海賊に借りを作るのがイヤか…」
「……海兵の恥だ…!!部下に合わせる顔もねェ」


この強情さが、俺をも欺いた一因だろう。


…嫌いじゃねぇ
この筋金入りの頑固さも
己に厳しい生き方も。


「──しかし助かったのも事実だな。これで終わりだ。ヴェルゴ“さん”…」
「やっと思い出したか。あるべき上下関係を、クソガキ…」


大分休めた。
それに、追撃は“もうない”。


手摺の先、SADの製造機器の隙間に落ちていた帽子をシャンブルズで手元に呼び寄せる。
在るべき場所に戻したそれは、しっくりと馴染むようだった。


物に何かを重ねるのは、女々しいと思いつつも俺の癖だ。
これと鬼哭と右耳のピアス、それがねぇと落ち着かねぇ。


「──そう思ってろって事だ。いつまでもそのイスに座ってられると思うな“おまえら”!!」


反撃の準備は整った。
さっさとこの序章を終わらせよう。


「聞こえてんだろ?“ジョーカー”!!!」


ヴェルゴの胸ポケットに収まるでんでん虫。
あの男は内心俺に怒り狂ってる筈だ。


殺す気で心臓を握ってきたヴェルゴは恐らく、俺を殺せと命じられた。
ならばあの男は、殺してぇ程ムカつく俺の最期の断末魔を聞きてぇんじゃねぇか?









『フッフッフッ!!』


案の定聞こえて来た腹立たしい笑い声に身が引き締まる。


さぁ、吠え面かかせてやろうじゃねぇか。




「ヴェルゴはもう終わりだ。おまえは最も重要な部下を失う。シーザーは麦わら屋が仕留める。──つまり“SAD”も全て失う…!!!」


どうせもう気付いてるんだろうが
敢えて手の内を俺の声でヤツに伝えた。


「──この最悪の未来を予測できなかったのはおまえの“過信”だ…!!いつもの様に高笑いしながら次の手でも考えてろ!!」


早くぶっ飛ばしてぇのに、目の前にヤツはいない。
仮に居たとして、真正面からぶつかっても恐らくは敵わねぇ。

それが分かっていても
積年の怨みを抱く対象と今、言葉を交わしてる。


殺しても気の済まねぇ相手。
今は叶わねぇなら、せめて感情を逆撫でしてやりたくなった。


「──だが俺たちはおまえの笑みが長く続く程、予想通りには動かない」
『!!?──フフッ、フッフッフッフッフッフッ!!イキがってくれるじゃねェか小僧!!フフフフ!!大丈夫かァ!?』


狂ったような口調。
きっとアイツは俺を脅威とすら認識してねぇ。

それでもドフラミンゴが腹を立てている事には気付いた。


例え何年も昔の事だろうと
同じ釜の飯を食い共に過ごした相手。


何に腹を立てどんな相手にどの状況でそれを表すかくらい、手に取るようにわかる。


『目の前のヴェルゴをキレさせてやしねェか!?昔…!!覚えてるか!?どうなった!?おまえヴェルゴをブチギレさせて一体どうなった!?』


ヴェルゴへの多大な信頼。
だからこそこの挑発。


実際ブチギレてるらしいヴェルゴが、全身を武装化し竹竿を構えこちらを見据えていた。


『フッフッフッフッフッ!!!トラウマだろう!?消えるハズもねェ…ヴェルゴに対する恐怖!!』


確かに遠い昔、俺はヴェルゴをキレさせ酷い仕打ちを受けたもんだ。


『おまえのブッた斬り能力でもこいつの覇気は全てを防ぐ!!立場実力共におまえはヴェルゴに敵わねェ!!!』


アレは確かにトラウマにもなる。
まだ幼いガキ相手に容赦ねぇリンチだった。


だが…





俺も成長する。
強くなる。


さっきまで手詰まりだったのはヴェルゴの手に心臓を握られていたから。


白猟屋との戦いで見たヴェルゴの覇気は
昔のように怯えてやるに値するものとは呼べねぇ代物だった。







威圧感。
首の後ろがチリチリと焼けるように熱いのは、殺気か、覇気か。


…中々のモンだ。
これほどの使い手と、これまで対当した事がない。







高揚感。
それを確かに感じた。


これまで一心不乱に覇気を磨いて来た。
全てはドフラミンゴを倒す為。


守るべきもんを抱えていた手前
格上相手には挑みもしなかった。


負ける筈もねぇ相手をぶちのめすのとは違うこの感覚
幼き頃圧倒的な力の差を知らしめられた相手に










勝てる…!!















振りかぶって来たヴェルゴの動きがスローモーションに見えた。


神経を研ぎ澄まし、堅い意志を込めた鬼哭の刃先を











ズバン!!


ヴェルゴの胴体、そして目的のSAD製造機器、研究所もろとも

切り裂くように滑らせた。












「頂上戦争から2年…!!!誰が何を動かした…?おまえは平静を守っただけ」


ほんの少し
胸の中の靄が薄らいだ。


「白ひげは時代にケジメをつけただけ」


大きな節目。
これまで海に君臨して来た一大勢力の崩壊。


「海軍本部は新戦力を整えた!!!」


新元帥の着任。
それまでの大将の退任。

新しくそのポストに着いた者。


「大物達も仕掛けなかった──まるで準備するかの様に…!!!あの戦争は“序章”に過ぎない」


俺もまた、備えて来た。
世界の流れに身を委ねた訳じゃねぇ。


俺は俺の成すべき事の為
ずっと磨いてきたそれに更に力を入れた。

目的を早々に達すべき状況に事態が傾いた。
それに届くだけの力を身に付け、運も俺に味方した。


「おまえはいつも言ってたな。手に負えねェうねりと共に…!!豪傑共の“新時代”がやって来ると!!!」


おまえが言ううねりと
俺が思ううねりはきっと違ぇ。


世界に波紋をもたらすのは、俺だ…!!


「……歯車を壊したぞ、もう誰も引き返せねェ!!!」


きっと麦わらはシーザーを仕留める。
今ここで、既存のSADは全て抹消した。
それを作る術も。


さぁどうする。









これで俺ももう後には引けねぇ。
だがおまえも


胡座掻いてはいられねぇぞ…!!!





destruct at reality.