16-31


その頃
研究所の外ではまた状況が目まぐるしく変わっていた。


モネとヴェルゴ、シーザーを迎えに来たドンキホーテファミリーの幹部は
SAD輸送に使うタンカーの甲板で瀕死でこそあれ倒れているシーザーの姿を確認した。


早々に確保を試みるも、そこに立ち塞がるのはフランキー。


ドンキホーテファミリーの幹部。
モネやヴェルゴのように、迎えの任務を全うするこの者達も勿論腕利き。


実のところフランキーは
付近でシーザーが伸びている事など気付いていなかった。
無論、なぜか攻撃を仕掛けてくる二人組がドンキホーテファミリーの幹部だということにも。


そして幹部達も
シーザー奪還を阻むこのロボが、まさか事を引き起こした麦わらの一味のクルーとは露程も思わず…



お互いに訳の分からぬままの戦闘。
そこに挑む気持ちに堅い意志等なく、胸に巻き起こるクエスチョンマークの嵐。


“こいつは誰だ”
“なぜ攻撃してくる”


そんな気持ちの乗らぬ戦いでこそあれフランキーは














結構中々強かった。















絶対的なフランキーの優勢。

訳がわからぬながらも目の前の敵を如何に倒すか、シーザーをどう回収するか。
幹部二人がよろけながらも立ち上がったその時



「「「「「出ェたア〜〜〜っ!!!」」」」」


SAD運搬トロッコ用の線路、普段はそれが通ってくるトンネル。
そこから勢いよく飛び出して来たのは、子供特有の甲高い歓声。


「え!!?」
「!!?」
「やっと来たかあいつらァ、待ちくたびれたぜ!!」


更に驚きの色を強める幹部二人。
この状況でようやっと、手強すぎるこのロボが麦わらの一味であることを悟る。


「バッファロー!!……!!おまえは…ベビー5か!!?」
「…ロー!!!…あなた本当にジョーカーに楯つく気!?」
「この裏切り者がァ!!ジョーカーはおまえのために!まだ“ハート”の席を…」


ローがファミリーに在籍していた頃からの顔馴染み。
迎えの任務を受けた二人の幹部は思い思いの言葉を叫んだ。


「ん?誰だ?あいつら友達か?」
「──いや」


同じくトロッコに同乗していたルフィに問いかけられたローは、元仲間達の姿に一瞬驚くも
その表情を普段の読めぬポーカーフェイスへと戻す。


「“敵”だ!!!」







ローが裏切ったという情報は幹部二人も既知の事。
しかし実際に現れた元家族の姿に、僅かばかりの期待が生まれる。

だからこそ気は確かかと問い、思い直すやもしれぬ餌をちらつかせた。


ローがファミリーの幹部達に向けてはっきりと口にした
“敵”という言葉。


それは彼らに、交渉の余地がないことを突き付ける。

ならば別の手を…
二人が下した決断は同じもの。

多勢に無勢。
数の多さだけに留まらず…

相手は新世界にも名を轟かす、麦わら海賊団。
そして海軍G-5と
七武海、トラファルガー・ロー。

分の悪さを瞬時に察した二人は、シーザーを回収し退却を図った。












二人は上手くシーザーをドフラミンゴの元へ送り届ける事が出来るのだろうか。







答えは
















否。















普段
戦いの最中では目立って頭角を表さない者。


麦わらの一味、航海士ナミ。
そして狙撃主ウソップ。


彼らとて懸賞金付きのお尋ね者。
その額や戦闘力は他に埋もれて目立たぬ部類であるものの、戦う術を持たぬ訳もなし。


しかし自ら戦いの中で先陣を切ることは殆どない。
仲間のサポートや戦いとは別のところで盤面を動かすのが主。


そんな彼らが強気に出られる場面というものが存在した。









「戦意を失い遠くにいる敵なら恐くないのよ!!!」
「手負いで背を向けた敵なら任せろォ!!!」












胸を張って言う事か。
ビシリと標的を指差し、声高らかに宣言した二人は、有言実行──





全速力で空を飛び退却を図る幹部二人を打ちのめし

シーザーの身柄を確保した。







「どうだ?やるだろあいつら」
「…よし…第一段階は成功だ」


仲間達の活躍を誇らしげに話すルフィと、その特殊な攻撃方法と鮮やかさを素直に褒められる性格ではないロー。


ここにようやくパンクハザードの戦いが終結する。













「ん…あー……ちょっと寝すぎたな……どっちだ?パンクハザード」
「もうすぐです。どうやらなにか…あったようですね」


パンクハザード近海
二人の男を乗せた小舟が一隻、島を目指し進んでいた。






パンクハザードの突出したこの岬はこれまでSADの運搬にのみ使われていた。
島の中心部から離れたここには“シノクニ”の魔の手も及ぶ事はない。


脅威の去ったパンクハザード。
確実に安全とは言えぬものの、各々が僅かに気を緩め
戦いでくたびれた体を休める。


しんしんと淀む空に舞う雪華。
それは時折雲間から射し込む陽の光を受けて、銀色に輝いた。









G-5は基地からの迎えの船をここで待つ。
スモーカーのすべき事は山積みだ。

ヴェルゴの件の報告、誘拐され薬物中毒となった子供達の治療の手配と親元の特定、シノクニで犠牲になった者の殉職報告と家族への連絡…
それはつむじの痛むものばかり。


そして
口ではやれ海賊、やれ悪党、と罵る部下達が
下手くそに取り繕ったその内側で麦わらの一味に寄せる感情。
スモーカーはそれに気付いていた。

G-5の海兵は良くも悪くも度を越えて正直。
規律より己の感情に従って来たからこその、はみ出し者。
素直な感情がこの麦わらの一味をどう感ずるか…


だがしかし
例えどんな人物であろうと、彼らと自分達は相容れぬ身の上。
部下を思い、海兵としての誇りを思い、スモーカーは部下達に
海賊共と馴れ合うなと、そう伝えた。

馬鹿正直な彼らは港に一本の線を引き、それを“正義と悪の境界線”と呼んだとか。











隔てられた2つの勢力の片側
麦わら海賊団の船、サニー号の医務室ではローが薬物中毒の子供達の治療を行っていた。
邪魔だと追い出され、覗くなと言い付けられたのをチョッパーが守れぬのはもうお約束。

オペオペの実の能力の詳細を知らぬチョッパーにとって
ドラッグを取り除く為、実際に体を切り刻むローの治療法は衝撃的過ぎるもの。
それはパッと見、惨殺事件。

そんな彼がローを人殺しと叫び船内を騒がせたのは想像に易い出来事。


悪人面。
他人に関心もなければ、冷酷で非道。

そういう認識をされやすいこの七武海も、所詮は医者。
命を救う為に日々その腕を磨き知識を蓄え続ける。


意外に彼は、面倒見が良いから。


人殺しと叫びつつも恐ろし過ぎる光景に腰を抜かし何も出来ずに泣きじゃくるチョッパーと
幼き故無遠慮にローにじゃれつく子供達。


鬱陶しげに眉を寄せながらも、治療の手を休めぬ男の目は普段より僅かに


優し気に見えた。



線を越えてはならないと声高らかに吹聴して回るG-5。
しかし唯一の紅一点であるたしぎは彼らのアイドル的存在。
更にたしぎの地位は大佐。

そんな彼女が線の向こう側に行くと言うのを、止められる者等居なかった。

たしぎが向かった先はナミの元。
ローによる手荒いが効果抜群な治療を終えた子供達に囲まれ談笑する麦わら一味の航海士を、彼女は呼び出した。





『お願いします!!子供達の事!私に預けて下さい!!』



最敬礼。
たしぎはナミに深々と頭を下げた。

子供達を救ったのが麦わらの一味であったとしても、ナミは海賊。
そしてたしぎは海軍。
誘拐された子供達を保護するのに、海賊の許可等通常不要だろう。


ナミとてそれは承知のこと。
だからこそその行動に驚き目を丸くし、いつまでたっても頭を上げず、それどころか肩を震わせながら必死に懇願するたしぎに目尻を下げる。


たしぎの胸にあるのは負い目。
悪である筈の海賊に子供達を救い出して貰った。
そもそも誘拐事件の首謀者は、例え知らなかったとは言え正義の立場にある筈の己の上司。

この件に関して、海軍に、G-5に落ち度があるのは明白。
だからこそその罪滅ぼしをさせて欲しい。


ナミにとっても、自分や仲間達の命すら危うい状況で尚子供達の救出は決して譲らなかった事。
彼女は助けを求める子供達の姿に、幼き日の自分を重ねたのかもしれない。

常に明るいこのオレンジ髪の航海士も、過酷な幼少期を過ごした過去がある。
ナミは助けて貰うどころか、助けを求める事すら許されなかった。

辛い想いなら痛い程知っている。
そんな想いに心を染める子供達を、放っておける筈等なかった。





でも託した。
子供達を、この女海兵に。




海賊である自分達の航路は危険が伴う。
送り届けても、相手が海賊では親が迷惑と感ずるだろう。

しかし決定打となったのは──
たしぎの瞳に、自分と同じ想いを感じたから。


子供達が無事出航するのは見届けさせて貰う、それを条件にナミは
たしぎに子供達を任せた。






「ん〜〜!いい香り…サンジの奴何作ってんだ!?楽しみだー!!」


岬に漂う空腹の胃を活性化させる、食欲を擽る香り。


炊き出しよろしく急遽設えた簡易調理場、そこでは冷えた体が芯から温まりそうなスープ、肉に魚に米…
戦いの火蓋が切られて以降何も口にしていないクルー達にと
麦わら海賊団のコック、サンジは食事の準備に勤しんでいた。


ルフィは人並み外れた大飯食らい。
だが麦わら一味は少数精鋭。
そこにロー、子供達、キンエモンとモモの助…


この人数のものにしては些かその食事は多すぎた。



「正義と悪の境界線はどうしたんだよ!!!」
「停戦で!」
「アニキ!!」


馴れ合うなと言われ、G-5の面々がおもむろに引いたその境界線。
それを易々越えてきた海兵達が、自分たちにも分けろと器を片手にサンジにすり寄る。


サンジも不満げな顔を浮かべしょうもねぇ連中だと罵りつつも、この量の食事…

元よりそのつもりであったのだろう。


「じゃあおまえら、タンカーから酒持って来い!!」
「ジュースも!!」
「喜んで!!」


分けてやる代わりにと酒を要求するゾロと、すっかりなついている子供達。
端で見ていれば微笑ましい事この上ないその賑やかな雰囲気に
長刀を肩に担いだ目付きの悪い男の影が忍び寄る。


そう、彼はこの場に稀少な常識人。



「おい麦わら屋、ガキ共の治療は済んだ。ゆっくりメシなんか食ってたら追っ手が来る!!ここは急いで離れるんだ。仲間達にそう伝えろ」
「そうなのか!よし!!わかった!!!」


わらわらと集まり出すG-5、配給の列に並ぶ子供達。
出航が遅れそうな気配をいち早く察知したローはトップを抑えにかかった。

例え腹が空いてようと、コックが居るなら出航してから食べれば良い。
いつドンキホーテファミリーの刺客が現れるやも知れぬこの場は、一刻も早く離るべき。


彼の意見は至極全う。
そしてルフィもそれに二つ返事で頷く。

今や境界線などどこへいったのか…
海賊海軍子供達、入り乱れごった返し食事へ群がる集団。


この騒がしい場所で仲間達に指示を出すには声量が必要。
ルフィは深く息を吸い込み、声を張り上げた。













「よーし!!宴だァーーーーーーーっ!!!」




destruct at reality.