16-32



てめぇ…今、わかったっつったよな…!!!














開いた口が塞がらねぇとはこの事か。
そんな場合じゃねぇと言っているのに、今や麦わら屋達は飲めや歌えやの大騒ぎ。


出航に了承した筈だった男の華麗過ぎる掌返し。
目の前の光景を視界に納めながら、ただ呆然としていた。


そもそもガキ共はともかくなんでG-5まで一緒になって騒いでンだ…!!


例えはみ出し者と認識されてようとヤツらは海軍。
海賊と宴なんて事が上に知れたらただ事では済まねぇ。
それも相手は海軍上層部もマークしている“麦わら一味”だ。


余興を始める者、それを囃し立てる者、飲み比べを始める者、談笑する者…
そんな賑やかすぎる人混みの中、謀反も良いところ過ぎる奴らの親玉を探した。










宴の中を探し歩いても見つからなかった白猟屋。
人混みを掻き分け歩くうちに、受け取らされたスープ。


もうこれを中断させるのは不可能と諦めはしたものの、一緒に騒ぐ気になど到底なる筈もない。
静かな場所で飯だけでも食っておくかと向かった先に、探していた人物は居た。


「──流石におまえまで一緒になって騒いでやがったら切り刻もうかと思っていた」


湯気を立てる汁椀を啜っていた白猟屋が、目線だけをこちらに向ける。

計画の進行を妨げたこの宴、それに一役買いやがった目の前の男の部下達への恨み。
それを存分に込めて睨み付けた。


何も言わねぇスモーカーに、敢えて聞こえるように吐いた盛大なため息。


「ロー。まさか俺が海賊のおまえとの約束を守るとは思っちゃいまい…本気で口止めしたきゃ俺を消せる場面は何度もあった…」


聞いた事には答えねぇ癖に自分の話か。
こいつも中々勝手。

少し離れた岩に腰を降ろし、空腹であるには違いねぇ胃にスープを流し込んだ。


その味に驚く。


整い過ぎた完璧な味。
そしてそれは胃の中からじわりと染み渡るように体を温めていった。


中々の腕前の料理人。
ウイに会わせたら、アイツは暫く黒足屋から離れねぇんじゃないだろうか。


想像に易いそれ。
何が入っている、どうやって作る、あれも教えてこれも教えて…


女好きが滲み出まくった黒足屋が、鼻の下を存分に伸ばしながらウイとキッチンに立つ姿を想像して

無性に腹が立った。





「麦わらを利用して何を始める気だ」


胃に飯を入れて、緊張が弛んだんだろうか。
まだ油断出来る状況でもねぇのに計画とは違う方向に飛んでいた思考、それを白猟屋の問いかけに引き戻される。


思い返すのは同盟を持ちかけた時の麦わら屋の様子。


上手く使おうと思った。
使えるとも思った。

でも結局がこれだ…全く扱いきれてねぇ宴を楽しむ連中に、ため息が尽きねぇ。


──四皇を全部倒すとか抜かしてやがったな。


それを聞いた時はふざけるなと
無謀も良いところなその思考を思い直させようと躍起になった。


しかし落ち着いて考えれば、例え無謀を押し通そうとしようが立ち塞がる敵は強大。
現実を知り考えを改めるのも時間の問題かと放っておくことにした。


だが共に過ごす内にふつふつと存在感を主張する、別の可能性。


「利用ね…どっちがされてんのか…」


“こいつならやりかねない”。

現実的に考えりゃ有り得ねぇことなのに、なぜかそんな想いが胸を過った。


「おまえを生かした事に意味なんかねぇよ…白猟屋」


海軍でのヴェルゴの立場をなくさせる為に白猟屋を生かした。
だがもう、立場を失おうと現状のままであろうと
ヴェルゴは海軍内部の情報をジョーカーには渡せない。


アイツはこのパンクハザードで死ぬ。


利用価値のなくなった白猟屋。
ならば生かしたせいで起こり得るリスクを減らす為に今からでも確実に口を塞ぐか?








いや…必要ねぇだろ。
こいつは生かしておいて良い駒。
生かしておいた方が良い駒。


なにが俺をそうさせたのかは知らねぇ。
でも白猟屋は生かしておいた方が良い、そう直感した。




たまにはらしくもねぇそれに従ってみるのも悪くねぇだろ。



「──ところで俺は…“グリーンビット”へ向かうつもりだが…──さて麦わらの一味は俺の手に、負えるかどうか…!!」







互いに言葉は発しない。
ただ体を芯から暖める汁椀の中身を胃に納めつつ、未だどんちゃん騒ぎを続ける連中を遠目に見ていた。


ぶん殴って怒鳴り散らしてでもさっさとここを発ちたい。


それが本音で優先させるべき事の筈なのに
呆れる程愉快なその光景は、張り詰めていた緊張を宥めていくようだった。






麦わら一味と子供たち、そしてG-5の宴はその後小一時間続いた。
あのせっかちな医者の七武海が、よくもまぁ待てたものだ。







「コドモらの出航を確認しねぇとウチも絶対船出さねぇってナミとチョッパーが言うからよ、アレで先にコドモ出してくれ!」


人数の割に多すぎる料理の数々、それがほぼ皿の上から消えた頃
未だ骨付き肉をかじり続けているルフィがスモーカーに声をかけた。
彼の指差す先にはSAD輸送に使われていたタンカー。


「船にのれガキ共〜!!」
「ウチへ帰してやるぞー!!」
「「「「わーーい!!」」」」


長い間親元から隔離され過ごして来た子供たち。
家に帰れると聞くやいなやその顔はぱあっと綻ぶ。


「おうおう麦わらの一味〜!!タンカーが海軍のもんなら…こうだ!!こっからこっち入んじゃねェ!!これが正義と悪の境界線!!」


タンカーは麦わら一味のものとして引かれていたその線。
海軍が使って良いのであればと、G-5の荒くれ者達は陣地を区切り直した。


「またかよ!さっきまで一緒に宴やってたじゃねぇか!!」
「バカバカバーカ野郎っ!!それに関しちゃ本当にごちそう様でした!!」
「だがおまえらは海賊!!人間の恥だ!!」


ルフィは面倒くさそうに頬を膨らまし文句を垂れる。
そんな事にはお構い無しに悪だ!恥だ!と騒ぐ彼らの表情には、言葉とは裏腹に憎悪や嫌悪の色が微塵も見えない。


「ナミお姉ちゃーん!!」
「チョッパーちゃーん!!」
「ロボはー?」
「あれー?海賊のにーちゃん達はー!?」


たしぎに誘導されタンカーに乗り込んだ子供達は、そこでやっと自分たちを助けてくれた海賊達の姿が周りにないことに気付いた。


「バリヤー!!海賊など目の毒だ!!」


境界線だけに止まらず、子供たちから海賊が見えぬようにとブラインドを立て所属を区切り騒ぎ立てるG-5に
半ば呆れ顔の麦わらの一味。


「──でも無事乗り込んだみたい」


しかしナミは
ブラインドの隙間にタンカーに乗り込んだ子供たちの姿を確認し、ほっと安心したように表情を緩めた。




「市民を泣かす海賊どもをブッ殺すのだ!!」
「海賊どもはこの世のクズでェ!!」


相も変わらず続く海賊批判。
しかし…これはわざとらしいにも程があると言うもの。


「キャンディの治療のことはベガパンクに相談してくれるって」
「ホントか!?よかった!」
「じゃ!俺たちも出航だ!!」


麦わら一味はこの罵倒を相手にもしていなければ気にもしていない。


「俺たちこそが正義!!」
「ガキどもにこいつらを見せるな!!」


にも関わらずG-5は一方的なそれを緩めるどころか更にヒートアップさせていく。
その表情は、とても…ぎこちのないものだった。


「ぐるぐる兄ちゃーん!!」
「かいぐんがじゃま!!!」
「どいて!!」


麦わら一味が出航の準備に取り掛かる中、黙っていれないのは子供たち。
海軍が正義の味方であろうと、子供たちにとってこの場で一番信頼出来るのは自分たちを助けてくれた麦わら一味。
G-5の声に打ち消されぬように、子供たちは金切り声を上げ恩人を呼んだ。


「ぬぅ…!!!海賊どもと挨拶なんかするやつは悪いガキだ!!」
「礼なんか言いやがったら島に置いてくぞー!!!」


ジャキンッ…!!







おいG-5。
例え海賊との馴れ合いが良くはないことだとしても
保護した子供相手に銃口を向けるのはどうなんだ。


自分たちに向くそれに悲鳴を上げ、撃たれたくはないと両の手で口を塞ぐ子供たち。


「いいか!!海賊は悪で!!海軍こそ正義!!」


それでもG-5は声を張り上げ続ける。
何かを振り切るように、必死の形相で…


「…でも…助けてって言ったら助けてくれたんだ……じじょうも何もしらないないのに…」
「こんな大きい私たちをジャマにしないで連れ出してくれたんだ…」


遂に子供たちがしゃくりを上げ出した。


幼き子供が泣いてその感情を表す時、それはただ泣き喚くのがほとんど。


「何もない島で…誰も来てくれなかったのにっ…!!きてくれたんだ!!」
「別れにお礼も言わせてくれないなら…かいぐんなんて…」


しかし子供達はそれでは何の解決にならないことも
新しい世話役のたしぎがただ泣き喚いたところでその内側を察してくれぬのも、幼心に理解していた。

だからこそ震える声で
涙の理由を、心の内を紡いだのだった。






「待って!!ごめんね!!」


耳が痛くなるような泣き声の不協和音。
子供達の想いが、別れの前にお礼を言いたいと泣き喚くその姿が
たしぎの胸を打った。


「海賊は臭くて汚くて!一方海軍は!とても勇敢でェ!!正しくて…「やめなさいあなた達!!!みっともない!!」


野太い野次が犇めく中、一際通る女性の声。
たしぎに制されたG-5は一瞬しん、と言葉を途切れさせ
今度はそこかしこから子供のものとは違う嗚咽や鼻を啜る音が聞こえ出す。


「ウ…だ!!だがよたしぎぢゃん!!!…わ、悪口でも言い続けねェと!!俺たちァこの無法者どもを…!!!」


良くも悪くも正直者。
G-5は海軍、しかし


「「「好きになっちまうよォオ〜〜!!!」」」
「か…海賊なのによォ〜〜!!!!」


己に正直。


その咽び泣く声は空気をも震わせた。
G-5の全員が泣いていた。


スモーカーは頭を抱えたしぎは笑い、キンエモンとモモの助は幻覚でも見ているかのように唖然とその光景を眺めた。


「なはは!変な海軍」


G-5の心を動かしたのは、この一見能天気な麦わら帽子の青年とその仲間達。


「海賊のお兄ちゃんお姉ちゃん!!」
「助けてくれてありがとう!!──大人になったら僕たちきっと…!!」


「「「「海賊になるよーっ!!」」」」
「「「「なるなァーっ!!!」」」」


麦わら一味に好意を寄せてしまえど、幼き子供たちが将来海賊を目指すというのはいただけない。


思い直させようと必死で子供達に海軍の素晴らしさを説く荒くれ者の声等どこ吹く風。

遮るブラインドがなくなった今、子供達と麦わら一味は笑顔で手を振り合った。


「次会ったら覚悟しろォー!!」


それはどこかに、再会を望むG-5の言葉。


「またな〜〜!!」


細かい事など気にせぬルフィは、ただ純粋にまた会いたいと
子供達にもG-5にも思ったことだろう。


「次は敵だー!!」
「捕まえてやる〜〜!!」


サニー号に向かいながらの言葉の掛け合い。
徐々に小さくなっていくその声に、ふとため息をつく男がいた。
その口元は、仕方ねぇとばかりに優しげな弧を描いていたとか。


海賊と海軍、越えられぬ壁を飛び越え結ばれたこの絆。
それをなし得たのはこの一風変わった麦わら帽子の青年の人柄故と
ローも認めざるを得なかったのだから。



destruct at reality.