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『俺ずっと思ってたんだけど。ウイちゃんは口が悪過ぎるよね』
「空気読まずに冗談ばっか抜かす人からの説教とか聞きたくないわ!!」
何をしれっと…
しかもそんなの今更じゃん。
特に!
特に今の状況でお行儀だとかそういった良識的なお説教はペンギンからは聞きたくないぞ。
『冗談じゃないのに。深刻なのに』
「今はそういう話してるより大事なことがあるでしょ!!まずはローと連絡取るのが絶対大事でしょうが!!!」
こんな打っても打っても全く響かない人相手に必死で捲し立ててる自分がアホらしくなってきた…
もう問答無用で受話器を置いてやろうとか決意してみる。
構ってられない。
『誰がそんなこと決めたの。俺はウイとお話タイム、キャプテンへの連絡と同じかそれ以上くらいには大事なんだけど』
「ペンギン副船長でしょ!ローに留守任されたんでしょ?!後で聞くから!後で!!」
ちょっとトーンの下がった声色でペンギンの機嫌を損ねたことが伺いしれる。
悪いけど…拗ねたって折れないよ。
ペンギンはハートの海賊団の副船長だ。
別に積もり積もった話を聞かないとか、そういうことを言ってるんじゃない。
今の状況なら、ペンギンの立場なら、
まずはローへの連絡が最優先なのは誰からどう見たって紛れもない事実だ。
『──俺はウイと話しする時、絶対“ハートの海賊団として”接しないといけないの?……なにそれ面倒臭』
ブツッ──
「…もう……なんなのよ本当に…!!!」
目的通りでんでん虫は切れた。
これで皆のところでも私のところでもローから連絡があれば着信出来る。
いつ連絡が取れるかか分からない人。
とても危険な状況に身を置いてる人。
「ペンギンにとっても、ローって大事な人でしょ?…もう、本当訳分かんない…」
誰も居ない本部の事務室で、こんなに言い訳がましい自己弁護の一人言が止まらないのは
ペンギンの言う事も一理あるって思ってしまったから。
純粋にローや皆を心配する気持ちだけじゃなく
出方によってはローの敵討ちの援護が出来るかもしれないこのチャンスを逃したくなくて
更にこれは皆にバレたら怒られる後ろめたい事なのも
本当は全部解ってるから。
ペンギンとのでんでん虫を切って沈んだ気持ちのまま能面ヅラのカタツムリの目元に隈が現れるのを待つ。
待ったけど。
待てども待てどもそれが現れる気配はなくて。
そうこうしてる内にソニアは帰っちゃってるし、私も今日はフリーウィングに戻ることにした。
昨日まではずっと、ただローが心配で。
気付けば毎日そればっかり考えてぼーっとしてる自分が何か嫌で。
気を紛らわしたくて掃除したり、手の込んだ料理を作ってみたり、服のデザイン考えたりって過ごしてた。
ほんの1日。
寧ろ夕方からの数時間ぽっちなのに、今日は色んな事が起きすぎだ。
「…聞いて欲しい事が山のように増えたよ」
シードルのコルクを抜いて、定位置に来てから空を見上げる。
「相変わらず、綺麗だなー…」
夜独特の空気感。
視界には星の散らばる夜空の大パノラマ。
深く息を吸うとね、全身の力が抜けるような感じがするんだ。
今日も1日頑張ったなって。
今日ももう終わりだって。
安心して、ほっとして、落ち着くの。
「ねぇ、──私、意地になってるように見える?」
──まぁ。ウイは頑固だ!決めたら絶対曲げねぇじゃん。
よく言われるけどさ、私ってそこまで頑固?
これって普通なんじゃないの?
「すぐに曲げちゃうくらいだったら…決めなきゃ良いと思う」
──ハイハイ。出たよウイのあー言えばこう言う。
だって!!
悩んで悩んで、考えて考えて決めたことでしょ?
そんなことをさ、皆簡単に変えたりしてるものなの?
「私が頑固なら、私は頑固じゃない人の価値観の方が分かんない」
──じゃあ気の済むまで貫け!でも違ぇなって思ったら、それを受け入れてみんのも良いんじゃねぇか?
「思わないし!!」
ついムキになって声が荒ぶった。
特に今は…エースには一番私の選んだ道を否定されたくない。
…変なの。言いそうなこと、考えてるのは私なのに。
──俺もぶつかってぶつかって、最終的にオヤジの息子になったろ?…楯突いてたのも、親子になったのも。全部間違いだとは思っちゃいねぇよ。
あぁ…、そっか。
それがあったか。
エースも私みたいに、寧ろ私以上に頑固だったもんね。
パパに出会って、エースは変わったんだね。
「エースもさ。…何があっても変わらずに好きでいてくれる、安心できる存在。欲しかったよ…ね?」
──それいらねぇヤツはいねぇんじゃねぇの?
ずるい返事。
きっとこういう時、エースは片目を細めて怪訝そうな顔をする。
照れ隠し。
私はね、エースもずっと寂しかったんじゃないかなって思ってる。
初めて二人だけでお酒を飲んだあの日、私は自分が欲しかった言葉をエースにあげたいなって思ったよ。
こんなに似たような気持ちをずっと抱いてる人、初めて出会ったから。
ずっと一人で耐えてきた。
ふとした時に押し寄せて来る、沢山の知らない大人達の“おまえなんかいらない”って声。
そんなことない、だって優しくしてくれる人は沢山居る、父様が特殊なだけ。
何度も何度も自分に言い聞かせて声を無視した。
聞こえないふりも気分転換も、上手になったし慣れた。
落ち込んだ時や一人ぼっちの夜にこそ襲ってくるあの声を、大人になるにつれて上手くやり過ごせるようになった。
でも本当は、こうなりたかった訳じゃない。
夜の海で一人、耳を塞いで踞っていた頃
あの寂しさと恐怖を自分で何とか出来るようになりたいって思ってた訳じゃなかった。
“そんなことないよ”
“いらなくなんてないよ”
“あの人が普通じゃないだけ、気にし過ぎだよ”
“だって俺には、おまえが必要だから”
本当はあの時、私そう言って貰える本物の声が欲しかった。
誰かに助けて貰いたかった。
だからね、私以上にもっと過酷な経験をしたエースは同じことを思ったんじゃないかなって。
エースは私よりも強い。いつでもニカッて笑ってるあの笑顔はまるで太陽だ。
もしかしたらそんなもの欲しくなかったかもしれない。
でも、あの時の自分が欲しかった言葉をエースに届けたいなって。
エースの生い立ちを聞いたばっかりの頃はそう意気込んでたんだ。
懐かしい。
…結局いつも私が愚痴ってはエースに元気付けて貰ってたけど。
エースの優しさに甘えすぎて、そんな言葉一つもあげられなかったけど。
ごめんね
いつまでも一緒に居られると思ってたから。
いつかまた、そんな機会があればその時でいいやって思ってた。
ねぇエース。
私が貰って嬉しかったあの約束は
本当はエースが欲しかったもの、だよね?
「私、エースが大好きだよ。でも…今こんな状況だしローのことが心配なのも本当。それはエースも解ってくれるでしょ?」
──まぁ…ウイが人の心配全くしねェのも異常か。
ほら!
誰に向けてでもなく、我ながら見たかと言わんばかりに凄い勢いでふんぞり返った。
これも悲しいけど“言ってくれそうな事”であって“実際言われた事”じゃないんだけどね。
…私今日、内心相当面白くなかったんだと思う。
違う、ソニアは解ってないって
私は間違ってないって解って欲しくてしょうがなかった。
「ローが心配でも好きなのはエースだよ!…私ね、エースのこと過去にも一人にもしたくないって思ってるけど──実際はこの時間に凄く助けて貰ってる」
──盛大な一人言タイムに?
もう…!!
ムカッとして勢いよくシードルを煽った。
触れられたくないけど、本当はちゃんと現実をわかってて
エースとの時間に依存し過ぎちゃいけないと自制する気持ちは無意識にエースの言葉にも反映されてしまう。
「でも…本当に助けられてるし、エースは今もここでちゃんと生きてるよ」
胸に手を当てて目を閉じれば
白煙の中で笑ったエースの顔が昨日のことみたいに思い出せた。
本当はね、会いたい。
イビキかいて昼近くまで寝てたって良い。
食い逃げして来ても仕方ないなってお説教くらいで済ませてあげる。
だからこんなに自分に都合の良い言葉じゃなくて良いから、エースの言葉が欲しい。
触れて確かめて、抱きしめて欲しい。
あの逞しい腕の中で
あぁ私一人じゃないんだなって安心したい。
でもね、それはもう──叶わない。
その代わり、いなくなりもしないの。
ずっと一緒。
会えないけど、ずっと居てくれる。
嫌われることも離れていくこともない。
これはエースの為で、私の為。
考えたくなんてないけど、安否がわからない白ひげ海賊団の皆がエースを思い返せないで居るなら
こうやってエースを想っていられるのって私しか居ないじゃない。
私が絶対、エースを死なせたりなんてしないから。
夜空に散る光の欠片達の輝きはずっと一定じゃなくて
それがなんだか星達も生きていて呼吸してるみたいに思える。
良いの。
自分に都合の良い思い込みでも。
ここに居れば皆居る。
エースもパパも、母様も皆…
星の瞬く空は明るくても、海面は真っ暗。
規則的に波が打ち付ける水音だけが、ここは海に浮かぶ船の上だっていうことを知らせてた。
港から繁華街までは距離がある。
華やかな光の元で楽しくお酒を酌み交わす人の声は、ここまでは届かない。
変だね。
昔はあんなに怖くて嫌いだった一人の空間が、今では一番心地好い。
「ねぇエース。──ドフラミンゴの件が無事片付いたら、絶対ちゃんとローに話すからね」
──あのイケ好かねぇ偏屈野郎がハイハイそうですかって…聞くもんか?
偏屈って…
そんな事ないんだけどな。
確かに言葉数が多い方でもないし、自ら進んで何かを主張したり周りと関わろうとする人じゃないけど
だからと言って捻くれてるとかとも絶対違う。
…ハイハイそうですか、は確かにない気がするけど。
「でも話すよ?それは決めてた事だもん。このままなぁなぁなんて絶対良くないし、アンさんにも約束したんだから!」
──ウイはいつも、“端から見て悪くないかどうか”に必死だな。
え?
──“人にどう見られるか”じゃなく、“ウイのしたい事”ってなんだ。
なに?
急に背筋がピンと伸びて、体が硬直して動かなくなった。
呼吸がしにくい気もするけど、なんでか怖くも不快でもない感覚。
──ウイの人生、実際生きるのも道を決めるのも赤の他人じゃなくウイだろ?誰にも非難されねぇだけの虚しい人生、生きてて楽しいか?
「エー…ス?」
太陽は水平線の向こうに姿を隠した筈なのに
どこかに感じるお日様の匂いと日だまりみたいな温もり。
いつもと違う、私が考えた“エースが言いそうなこと”じゃない言葉。
でもそれは
いつも以上にエースが言いそうな言葉だった。
──そもそも。ウイの中の非難されねぇ基準ってのが、相手にそのまんま当てはまるとも限んねぇだろ。
「ね…ぇ!!エース!?そこに居るの!!?」
振り向きたいのに体は動かなくて
気配はするのに感触はない
来てくれたなら顔がみたい
そこに居るならあなたに触れたい
込み上げてくるいろんな気持ちが
ただ何も出来ないままの私の瞳に映る、夜の海を滲ませてた。
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