16-43
「同盟よ?ロビン!全く知らない間柄じゃなかったにせよ!唐突にこうなったんだから理由くらい気になるじゃない!」
「まぁ、それもそうだけど…」
まぁ良い。
結局やることは変わらない。
シーザーの引き渡しでドフラミンゴを引き付けている間にSMILEの製造工場をぶっ潰す。
政府とカイドウを敵に回し、その手に落ちて悪さが出来なくなるならそれも良し。
そこまで追い込めなくとも、これまでよりは格段にやり易くもなればあっちの戦力も削げる。
全てはコラさんの念願を果たし、ドフラミンゴをブタ箱に放り込んでからだ。
「おいナミ屋、ドレスローザにはあとどれくらいで着く」
「アンッタねぇ〜!!…そういうとこ言ってんのよ!!また人の話聞いてなかったわね!!」
既に見えているドレスローザの島影。
しかしここはグランドライン、目測の距離と航海時間が綺麗に比例する海じゃねぇ。
「全て片が付けば、何でもいくらでも答えてやる。今は目の前のヤマに集中しろ」
「──船長ってどいつもこいつもこんなんばっかりなのかしら、全く…!!…特に目立った海流や風もないし、一時間以内には船を付けられるわ」
シーザーの引き渡しに指定した時間まであと5時間強。
ドレスローザに着いて、ある程度の情報収集を行いながらグリーンビットへ向かう。
あまり長居するのも得策じゃねぇが、麦わら屋達が工場を見つけて破壊するだけの時間も考えればベストなタイミングか。
「うほーっ!!何だあのゴツイ島っ!!」
丁度船室から顔を出した麦わら屋も同じく、水平線を遮る岩壁に囲まれた島を視界に入れる。
「着いたぞーー!!ドレスローザ〜!!!」
「バカ!大声出すな!!ドフラミンゴに聞こえちまう!!」
「聞こえるか」
一行が目指す島の名は“ドレスローザ”。
ある者にとっては
天国と見紛う程の幸せと笑顔に溢れた国。
ある者にとっては
許せぬ理不尽の上に成り立つ虚像の王国。
ある者にとっては
未知の冒険の待つ栄えた国。
そして、ある者にとっては
越えねばならぬ関所。
ここに今、戦いの火蓋は静かに切って落とされる。
手を伸ばす
例えその先が闇であったとしても。
「着いたァ〜〜!!!」
「声がでけェっつってんだろルフィ!!!ここはもう敵地だぞ!!!」
「アーウ!!!今週の俺はスーパーだぜ!!工場の一つや二つ!!さっさと見つけてドカンだ!!!」
無事にドレスローザへと到着した一行。
未知の世界で待ちうける冒険に胸を踊らせ過ぎるがあまり、その上陸は些か騒がしい。
「おい、おまえにこいつを渡しとく」
「?ビブルカード?」
「これは“ゾウ”という島を指す。俺達に何かあったらここへ行け」
昂る気持ちのままに、じゃれ合いが発展し言い争いや取っ組み合いまで始まる麦わら海賊団とその他何名か。
その中でやはり冷静な男、ローは航海士であるナミに紙切れを手渡した。
「おい!!何もねェよなァ!!」
「さぁな」
ローの船の航海士、ベポが描いた地図を広げ今後の流れの確認が始まる。
「シーザーを引き渡すチームはドレスローザを通って、この北へ伸びる橋を渡りグリーンビットへ進む」
ウソップ、ロー、ロビン、シーザーの“シーザー引き渡しチーム”。
「船で行きゃいいだろ全員で!!」
「船じゃ不可能らしい」
「…あらそれは楽しみ」
「あ…安全に頼むぞオイ!!」
モモの助、ナミ、ブルック、チョッパー、サンジの“サニー号安全確保チーム”。
「カン十郎…!!無事だとよいが…」
「ねェ!!敵が来るってどういう事!?」
「えーっ!?船番安全じゃないんですか!?」
「そりゃここは敵の本拠地だぞ?でも船番はサンジも一緒だから…あれ!!?サンジ!!?」
シーザーの取引とは別に、ドレスローザに仲間が捕まっているというワノ国の侍、錦えもんとモモの助。
彼らがすべき事に、取引と工場の破壊、捕獲されたカン十郎の奪取が加わった。
「麦わら屋達はどうした?あいつら作戦のメインだぞ」
「おい!!俺達は誰が守ってくれるんだ!?」
役割や戦力を考慮して割り振ったチーム分け。
しかし計画通りになど行かぬのが麦わら海賊団。
作戦の要を握る主力部隊、作戦会議を待たずして街へ出発。
それだけでも既に先が思いやられると言うのに…
ルフィ、ゾロ、フランキー、錦えもんの“工場破壊&侍救出チーム”にはなぜか、“サニー号安全確保チーム”の戦力的要である筈のサンジの姿があったとか…なかったとか…。
王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴが治め“ていた”国、ドレスローザ。
ここは栄えた王国。
暮らす人々の顔は皆幸せに満ち溢れている。
特産品を使った美味しい料理に、広大で美しい花畑、街角で生演奏をバックに踊る情熱的な女達とコロシアムと呼ばれる娯楽施設。
観光で訪れるにも適したこの島には、初めて訪れた者なら驚くいくつかの不思議が存在する。
一つ目は、島の人々と共存するオモチャ達。
“彼ら”はただのオモチャではない。
意思を持ち、動き、言葉を話す。
外の世界でのオモチャとこの国のオモチャ達は似て異なるモノ。
国民は誰もがそれを不思議に思わない。
最初は驚く外の人間達も、次第にそれを受け入れる。
それがこの国の普通。
普通だからこそ誰も考えない。
オモチャ達がどこから来て、どのように生まれたのかを。
二つ目はコロシアムで、剣闘士と呼ばれる者達が命を賭けて戦い
それを国民達が“娯楽”として観戦し、楽しんでいること。
海賊であるドフラミンゴの治めるこのドレスローザであっても、外の世界と同じく殺しは違法。
しかしなぜか
このコロシアムでの戦いの最中、人が死のうとも観客達は心を痛めない。
殺めた側を批難する事もなければ、寧ろその者は英雄ともてはやされる。
三つ目は、そこらで情熱的な踊りを披露する女達。
彼女達が情熱的なのは踊りだけではない。
身を焦がす程に愛を求める彼女達は、恋の裏切りに遭うと驚く程簡単に男を刺す。
綺麗な女程、よく刺す。
道端にナイフの突き刺さった男が転がっていようとも、その場から泣き叫び立ち去る美女がいようとも
それもこの国にとっての日常。
そして最後にもう1つ。
この国には昔から“妖精”が存在する。
遥か昔からこの国に存在する、目には見えないドレスローザの守り神。
彼らはよく、この国の人々の物を黙って持っていってしまう。
しかしそれは仕方のないこと。
国民達はこれも普通のこととして目を瞑り受け入れる。
これがドレスローザの不思議。
不思議であって、それは日常。
普通であって、どこかが可笑しい。
この国に隠された秘密の鍵となるのはこの内いくつなのか。
はたまた全てが重要な鍵なのか。
作戦の確認を待たず街へと繰り出したルフィ達も、漏れなくこの不思議を目の当たりにする。
そして彼らも、この国に翻弄される。
「グリーンビットねぇ…あまり勧められねぇなぁ…研究員か探検家かい?アンタ達。命かけて行く程の用がねぇんなら、やめた方がいい…」
「あの橋は随分頑丈そうだけど?」
ドレスローザ北東のカフェにて、シーザー引き渡しチームは各々がある程度の変装を施しテラス席で店の主人から情報収集を行っていた。
「あぁ確かに“鉄橋”だよ。だがホラ、今じゃ入口は見た通り誰も使ってねぇ…」
ちょうどカフェの真ん前にどっしりと構える鉄の橋。
しかしその入口には“立ち入り禁止”やドクロの描かれた看板が立てられており、暫く誰かがそこを通った形跡もなければ通行人達も目すら止めない。
「グリーンビットの周りには“闘魚”の群れが棲みついててねぇ…そいつらが現れるまでは人の往来もあったようだが、200年も昔の話らしい…」
「シュロロ…主人…トウギョとは?」
芳ばしい薫り漂うコーヒーに舌鼓を打ちながら、黙って店主の話を聞くこのチームの司令塔であるロー。
片や我が身こそ一番可愛いシーザーとウソップは、店主から語られる目的地へ渡る唯一の方法に不穏な空気を感じ取ってか徐々にその表情が強張りだす。
「ツノがある凶暴な魚だ。船なんかで近づいたらまぁまず転覆だな!!その為に橋も鉄に強化されたが…ムダだよ」
「ムダって…おい!鉄の橋でもその魚に倒されるってのか!?」
闘“魚”、名前からしても店主の話を取ってもそれは魚に違いないらしい。
しかしその魚は、鉄橋どころか船をも貫く強靭な攻撃力を備えているようだ。
「さぁ…橋がどうなってるかは行った奴しか知らねぇし、帰って来た奴も知らねぇし…」
「は!!?」
引き渡しチームに情報という名の不安を残し、店主は店の中へと消えて行った。
不穏な空気が概ね危険という現実へ変わりつつある中、顔面蒼白の二人は取引場所を変えるよう司令塔へ懇願する。
「──変えねェ。ここまで来てガタガタ騒ぐな」
何を聞こうともローは動じない。
変装にと、このチームの全員が目元をサングラスで覆っているのに加えて
ただひとり毛先のカールしたふざけた口髭を真顔で付けているくらいだ。
抵抗がないのか、自分の特徴を上手く消せると踏んだのか、ノリが良いのかセンスの問題か。
しかしこれから待ち受ける過酷そうな橋渡りは、ローの口元を飾る髭を完全に霞ませてしまったようだ。
「そんな事より俺が心配してんのはこの国の状況だ。王が突然辞めたのに…何だこの平穏な町は…」
ローの指がさす先には街を行き交う人々。
愛国心というものには差がある。
自国を愛して止まぬ国もあれば、行き過ぎて宗教じみた国も、反対に全く興味を持たぬ国も存在する。
例え国の政権に関心が薄かったとしても、だ。
ここは今朝方全世界の最前線、新聞の一面を飾った大ニュースの舞台であるドレスローザ。
それなのに
仕事に買い物、余暇を楽しむ者や一休みする者、彼らはまるで何事もなかったかのようにただ、生活している。
「早くも完全に想定外だ…!!」
「大丈夫かよ!!!」
ローの憶測では、ドレスローザは今混乱の中にあるものと踏んでいた。
彼の計画の中に、国民が混乱していなければならない動きが組み込まれていた訳ではないものの
流石にこれは不自然が過ぎるというもの。
そしてローの気がかりがもう一つ。
作戦の確認を待たず街へと繰り出した、もう1つの要である工場破壊チームの動向。
出だしは既に完全アウト。街に出た彼らがその後しっかり任務を全うしてくるのかも怪し過ぎる。
実力は十分買っているのだ。
ただそれ以外の部分にどうしても、問題が多すぎる。
「さて…どうしたもんか…」
ぬるくなり出したコーヒーを一気に口へ含むと、時刻はシーザー引き渡しの一時間前。
ローが立ち上がれば、ロビンがそれに続く。
怖じ気づく二人も、結局は渋々それに従った。
「うわああああああ〜〜っ!!」
ドン!!めりめりめり──
フゴっ!フゴゴゴ!
「出たァ〜〜〜!!!鉄橋頼りねェ〜!!」
「ギャアアアァァァっ!!!」
橋を進み初めて数十メートル。
早速噂の生き物のお出ましである。
「“闘魚”って、てっきり魚かと…」
「魚じゃねェか」
胆の据わったロビンとローは、橋に食い込む巨大な生き物をまじまじと観察しながら言葉を交わす。
「もう魚じゃねェだろアリャ!!」
「海獣とかわらねェ!!獣だ!!!」
現状突き破っては来ていないものの
鉄の柵は闘魚の体当たりに堪えかね歪み、みしみしと軋む。
形はかろうじて魚。
海に生息する所もまぁ、魚。
しかしサイズや行動、体の強度がどうしても
魚に分類して良いのかが悩み所である。