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一匹の闘魚の追突で、柵に囲われた橋の幅は凡そ半分にまで潰された。
魚影を確認出来るだけでも橋に群がる闘魚の数は計り知れない。

何匹も追突して来れば当然道は塞がれ、柵を突き破られでもすれば船すらも大破させる体当たりを生身に食らう事になる。


「オイおまえら、何とかしろ」
「おまえがやれよ!!“七武海”!!!」
「…いや今俺は戦えねェ──来たぞ!!!」


本当に魚かと疑いたくなるのは、何も体の硬度だけではないようだ。
海面から飛び出して来た闘魚の跳躍力と言ったら…迫られる側からそれを眺める者の度肝を軽々抜いてくる。


このメンバーの中では懸賞金の金額を見てもローが最も強い。
しかしどれだけ闘魚が接近しようとも、逆方向から更に追撃が迫ろうとも
彼は一向に戦う気配を見せない。









「っくそ!!“必殺緑星”!!」


常に逃げ腰、弱音を吐き誰かに頼ろうとするこのウソップも、列記とした麦わら海賊団の一員。
必要に駆られ、やらねばならぬ状況に追いやられればやるのだ。

彼愛用の武器でもあるパチンコ、黒カブトは橋へと迫る闘魚の脳天目掛け火を噴いた。


「──“ドクロ爆発草”!!!」


ボカァンッ!!!
フゴォオ!!


直撃し炸裂する弾はその名の通りドクロを模した噴煙をあげ巨体の魚を弾き飛ばす。
しかし逆方向からは別の闘魚が迫っていた。









「“千紫万紅”“巨大樹”…!!」


ロビンが腕をクロスさせ目を閉じると、橋の外側にどこからか無数の腕が出現する。


「──“スパンク”!!!」


そこから伸びた一本の巨大な腕。
闘魚が魚としてまともに見える比率のそれは闘魚が柵にめり込む直前、その巨体の進路をねじ曲げロー達の居る部分への追突を華麗に防いだ。


「上出来じゃねェか」
「バカ言え!!どんだけいると思ってんだ!!!群れだぞ!!?──走り抜けよう!戦ってもキリがねェ!!!」


撃沈し腹を浮かせる闘魚を不敵な笑みで眺める司令塔。
しかし何度も言うが
この相手、数が多すぎる。


この戦わない宣言をした七武海、あまり人に指図される事を嫌うのだが…
それが全うなもので他に取る術がなければ一応は聞き入れるらしい。


黙って頷いたローとそれぞれがアイコンタクトを取ると、4つの人影は橋の先目掛け全速力で駆け抜けた。







逃げの一手を選択したものの、闘魚達は動く物体は餌とでも思う習性があるのか一直線に追ってくる。
ウソップとロビンがしんがりを務め追い付かれぬよう適度に攻撃を与えながら奔走するも
まだ橋の先、グリーンビットは見えて来ない。







「──鼻屋!!シーザーの錠を解け!コイツにも戦わせる!!」
「何を!!?」


先頭を走っていたローとシーザー。
比較的闘魚から遠い場所で身の安全を確保していたシーザーは突然の指名に反論の声を上げた。


何故ローが戦わぬのかは定かではないものの、逃げ延びるにしても必要な戦闘力はギリギリを少し割り込んだ状態。
いかにウソップの射撃の腕が良かろうと
ロビンが彼女の能力、ハナハナの実で腕の数を増やそうと
闘魚は無尽蔵に沸いて来る。


「そしたらコイツ空飛んで逃げるぞ!!」


同じ保身派のウソップとシーザーではあるが、心根と目的は全く異なる。
なんだかんだ言いつつも、ウソップはローの無茶が自身の属する麦わら海賊団の目的遂行の為と知っている。

しかしシーザーは
手枷さえ外れればこんな場所でこのチームに属している理由等皆無。


「下手なマネはできねェさ…」
「ギャァアッ!俺の心臓!!」


そんなことは承知の上、とでも言うように
ローはキューブに収納された心臓を手中に納め、さぁ行けと言わんばかりにシーザーを顎で使った。


「てめぇろくな死に方しねェぞ!!この天才科学者をコキ使うとは…!!!──“ガスティーユ”!!!」


ボン!!!
ブゴゴォオ!!!


辺りに一瞬、赤い閃光が走る。
シーザーの口から吐き出されたガスに引火した炎、それはもう火炎放射の如し。
辺りはむっとした熱気に包まれた。



「おぉ!!強力!!流石3億の犯罪者!!」
「今だ!駆け抜けろ!!!」


飛びかかってくる闘魚を何とか3人で捌きながら4人は走った。
ただがむしゃらに。







シーザーの加勢が効いたのか、一応足を止めずに駆け抜けられている一行。

余裕が出て来ると、それに伴い不満を感じやすくなる。
ウソップは一番戦闘力が高い癖に全く戦おうとしないローに噛み付いた。


「だからおめぇは何で戦わねェんだ!!!」
「俺の能力は使う程に体力を消耗する…!!帰り道こそ本領を出さなきゃならねェ、わかるか!?」


何の理由もなくただサボっているだけかと思われたこの男には、戦えぬ理由があった。


「少しでも温存しておくんだ!!!相手はドフラミンゴだぞ…!!!」


そう。
この闘魚も厄介ではあるものの、真の敵はドフラミンゴ。
こんな雑魚ごときに力を使い本番に障りでもしたら本末転倒。

今奮闘している3名が本気で束になってかかったところで、ドフラミンゴが相手では手も足も出ない。
同じ土俵に上がれるだけの実力を持つローこそが、万全の状態で挑まなければならないのだ。


「おい…ヤベェ!!橋が壊れてる!!向こう岸は霧でよく見えねェ!!!」


やはり闘魚の追突を何度も食らえば、持ちこたえられぬらしい。
負荷に耐えきれず陥落したかのような橋であった筈の道、それはとても飛び越えられるものではない。


背後には闘魚の群れ、前方は堕ちた橋。
四面楚歌とは正にこの事か。


「島まで飛べ」
「はぁッ!?」


ローの命令をふざけるなとでも言わんばかりにはねのけようとするシーザー。
しかしこのチームの司令塔は表情一つ変えず、さっと右手にキューブ入りの心臓を構えた。










「ロー…てンめェッ!!本当に覚えてろ!!人3人浮かすのにどれだけエネルギー要すると思ってやがる!!俺は大切な人質だぞ!!」


ガスを溜め込み、まるで気球の如く膨れ上がったシーザーの体は橋から離陸すると、チームメイト3人を乗せふよふよと空を漂う。


「なんだ、最初からこうすれば良かったな」
「便利な能力ね」


流石にこの高さでは闘魚の突進も届かない。
快適な空の旅にウソップとロビンは観光気分で景色を眺め、ローは読めぬ表情で鼻を鳴らした。







「ハァ…ハァ…。着いた…ゼェゼェ…」
「まだ誰も来てないみたいね…」
「しかしまー…随分野生丸出しの森だなー」


ドレスローザから橋が繋ぐ先の島、グリーンビット。

ここは人の手が全く入らぬ野生のジャングル。
常識では考えられぬ程巨大化したキノコや草木花々はその模様も毒々しく、怪しげで危険な香りの漂う島である。


ローとドフラミンゴが交わした取引。
ローは本日午後3時、この島の南東ビーチにシーザーを放り出し、それをドフラミンゴが回収する。
それ以上の接触はしないと、相手方には伝えてあるが…さてどうなるものか。


「あ!逆の海岸!!アレ見てみろよ!!海軍の軍艦じゃねぇか…!!!」
「!?」


ウソップの指し示す指の先に目を止め、シーザーは顎が外れる程驚愕した。


「島に突っ込んでるぞ!!岸に乗り上げたってレベルじゃねぇ!!どうやったらああなるんだ!?」
「植物の傷がまだ新しい…。あの艦はついさっきここへ到着したようね…船体も思った程損傷してはいないわ」


そこには何事もなく到着したとは言い難い、力業で無理矢理岸に乗った形の巨大な戦艦。
双眼鏡でそれを観察するロビンによると、対岸とは言え海兵達がこちら側に辿り着くのも時間の問題のよう。


「あの闘魚の群れの中を進んで…!?」
「!!!え〜!!?まさか取引がバレてるのか!?それはきいてねェぞ!!!」
「しーっ!!バカ科学者!おまえ声でけェよ!!」


橋を渡り終えたと同時に再び海楼石の手錠を填められたシーザーは烈火の如く怒り出した。


「おい!俺は賞金首だ!!ボスであるジョーカーが七武海をやめた今俺を守る法律は何もない!!海兵のいる島に錠付きで放り出されたら俺は…!!!」


無事に解放される算段であったシーザー。
しかし取引の場に海軍が居るのであればそれは話が変わってくる。
快適で優遇されたボスの元での研究所暮らし、それがボスと共に檻の中の生活となるやも知れぬこの状況。


「…悪い顔してるわよ?」
「──偶然だ。なぜ俺が海軍を動かせる」


そうは言いつつも、ローは昨日のとある出来事を思い返していた。


『俺はグリーンビットへ向かうつもりだが──』


煙の中将に告げたこの場所の情報、だからどうしろと指示した覚えはないものの
ローは誰がこの軍艦をここへ呼んだのか、検討がついているようだった。






なんとしてでも助かりたいシーザーはこのままこの場所で取引を続行させる訳にはいかない。


「ここでの取引は不当だ!!中止しろ!!!」
「海軍が敵なのはこっちも同じだ。俺は“麦わらの一味”と手を組んだからな」


そう、一応処分はまだおりていないものの
ローも今七武海としての地位が保証されているかがわからぬ身分。

しかしローは取引現場に海軍が居ようと、それを取り止める気等更々ない。


「てめェンな事言ってまさかハメやがったんじゃねェだろうなァ!!!」
「あと15分だ。…お前らは援護を頼む。誰が潜んでるかわからねぇ、森に異常があったらすぐに連絡を」
「ええわかったわ」


シーザーは所詮人質。
この取引や一連の流れに意見する資格もなければそんな立場でもない。
ギャンギャン騒ぐ大切な人質様は華麗に無視され、打ち合わせは進行する。


ロビンとウソップは森に潜み取引の援護をする事にしたようで
それまでの時間は下見も兼ねて森の探索に当たるようだった。

ローとシーザーは見渡しの良いビーチで、辺りを警戒しながらその時を待つ。
いくら喚いても聞き入れられぬ事を悟ったシーザーも、ならば取引前に海軍に見つかる事は避けようと大人しくローの後ろに控えた。













特に会話もないまま刻一刻と時間は過ぎる。


ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる


約束の時刻より僅かに前、その静寂を破ったのは取引相手の来訪でも海軍の襲撃でもなかった。


ガチャ!

『おい!!ロー!!こちらサンジ!!』
「黒足屋か…工場は見つかったか?」


何やら焦っている事が伺える口調。
丁度あちら側の動向が気になっていたローはまず何より先にその進捗具合を確認した。


『それ所じゃねェ!!よく聞け!!すぐにそこを離れるんだ!!!』
「…?何言ってやがる。これからシーザーの引き渡しだ」


勝手に持ち場を離れ別チームと街に繰り出したサンジ。
しかし女さえ絡まなければ麦わら一味の中では比較的常識人に部類されるこの男。
その尋常ではない様子に、意味不明な言動を聞き流しながらも不信感は募る。


『…!!ドフラミンゴは七武海をやめてなんかいねェっ!!シーザーを返しても何の取引も成立しやしねェんだ!!俺達は完全にハメられた!!!』
「…!!!?」




世の中、そう上手く事は運ばない物である。



destruct at reality.