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「……あ〜〜、そういう事か」
「──くっ」
趣味の悪ィ顔で嗤うこの男の顔には嫌悪しか感じない。
しかしその顔がどうこう以前に、恐らくこれは俺の意図する所がヤツにバレた。
船とは反対側に引き付けた所でシーザーのみを船に飛ばし、ドフラミンゴは俺がこの橋で食い止める算段だった…!
原因を作った悲鳴、その更に原因は恐らく…闘魚。
アイツらはきっとその存在を知らねぇ。
「フッフッフッ!!!」
「待て!!あいつらは関係ねェんだっ!!!」
身を翻し悲鳴の元へと向かうドフラミンゴは、その能力“イトイトの実”の能力を知らなければまるで本物の鳥。
視認できねぇイトで空中を自在に動き回り、その体を翻した時衣類が風を切る音は羽音そのもの。
──追い付くか…!!?
サニー号安全確保チームの戦闘力では、ドフラミンゴ相手では即死も有り得る。
何とか止めねぇと!!!
「よく見てろロー!!目の前で同盟の一味が無惨に死ぬ姿を!!!」
「ドフラミンゴが飛んで来る!?何この悪夢!!私たち死んじゃうの!!?」
「いやだアァ〜〜!!!!!!」
手首のビーズをちぎりそれをドフラミンゴの飛び立った方角目掛け投げようとした瞬間
同じく空中を不可解な動きで移動する黒い物体が目に留まった。
タタタン…タタタン!!
「トラ男助け…「オイ!!──泣いて嫌がるウチの仲間に…っ近寄んじゃねェよ!!!!」
ガキィィィインっ!!!
桃色と黒は重なり、覇気と覇気の衝突と思われる閃光が花火のように散った。
「ほう…強そうなのが来たな」
「「「「サンジ〜〜〜!!!」」」」
どんな原理か知らねぇが
生身で空中を移動して来た黒脚屋がドフラミンゴを止めたようだ。
遠すぎて何が起こっているかよく見えねぇ。
しかし大歓声の巻き起こるあの船上の様子では黒脚屋は助けに入って、更には全く歯が立たない様子でもねぇんだろう。
振りかぶった腕はひとまず下ろすことにした。
黒脚屋は確か能力者ではなかった筈だ。
それがなぜ空中を自在に移動できる…?
俺もこれを使えば、地に足が付かずともある程度は動けるが…
流石に状況が分からねぇまま突っ込んでいっての空中待機は得策じゃねぇ。
目を凝らしながらもサイズの割には重量のあるビーズを握りしめ
飛び出すタイミングを伺った。
防戦一方でもないような戦局。
しかしドフラミンゴが黒脚屋に劣る、いやもし互角だとするならばここまでヤツの悪行が世に蔓延る事もなかっただろう。
例え楽観的に見て多少黒脚屋が劣る程度の実力差だったとしても、ドフラミンゴの能力を知らず背に荷物を抱えているあの状況ではそう長くはもたねぇ。
これは自分も割り込んで流れを変えるべきかと思案したその時、黒い方がピタリと動きを止めた。
いや──止めたんじゃねぇ…!!ヤツのイトに捕まったんだ!!!
投げたビーズは一度では現場に届かない。
間に合うか…!!?
目線は常にドフラミンゴと黒脚屋を捉え、シーザーを抱えながらももうすっかり慣れた移動手段を繰り返す。
ドフラミンゴの左腕から伸びる鞭のようなイトが、振りかぶる側と反対向きにしなりそれが黒脚屋目掛けて襲いかかろうとしたその時
やっと“良い距離”に到達しルームがそこに届いた。
「──“シャンブルズ”っ!!!!」
スパァン!!
ボコォン!!!!!
「あァ!?ローか!……あのガキ…!!!」
間一髪。
背後で聞こえる爆音は
黒脚屋に当たる筈だったアレがドレスローザの建造物をぶった斬った音かなんかだろう。
「トラ男だー!!サンジが助かった!!」
ドフラミンゴと入れ替わった事で手の届く距離感になった黒脚屋を抱え込み、そのまま船へと移動した。
「ぬあァ!!!畜生またこの船にィ〜〜!!!」
「ドフラミンゴがまた来るぞ!!!」
「工場破壊はどうなってる!?」
ここからどう動くかはそれ次第。
トニー屋が空を仰ぎながらとんでもねぇ顔面で叫んでいるのを横目に黒脚屋を促す。
「場所はわかったが想像以上に大仕事になるとフランキーが」
「──まだ時間がいるか」
場所は割れたらしい。
そして見解が“無理”ではねぇならそこまで無謀な仕事ではないはずだ。
…ならば工場破壊はまだ諦めずに済みそうか。
船室から手元に移動して来たキューブ入りの心臓。
それを左胸に埋まっているモノと取り替えシーザーに放り投げる。
万が一、俺が心臓を撃たれるような事があれば命を落とすのはシーザー。
そんな些細な保険だった。
面白い程引っ掛かってくれた大事な大事な人質は余程不満なのかギリギリと歯を噛みしめ震えていた。
──ざまぁ見ろ。
「お前らとにかく、コイツを連れて今すぐ“ゾウ”を目指せ!!ビブルカードは渡してあった筈だ」
「ゾウ!?」
「えぇえ〜!!?ルフィさん達はどうするんですか!?」
なんでこいつらはこう、この急を要する状況ですら言われた事をすぐ実行出来ねぇのか…。
色々考慮した上で最善の指示を飛ばしてるに決まってンだろうが。
俺の野望でもあるが、これは打倒カイドウの為の一歩。
お前らとその船長の意思でもあると言うのに。
「工場破壊さえ完了すればこの島に用はない。俺達もすぐに後を追う」
「いやよ!!待つわよ!!船長なしで出航できるわけないでしょ!?私達は“麦わらの一味”よ!?」
この状況で
自分の命も守れねぇお荷物が大層な口をきくものだ。
多少時間を稼いだところで、ヤツらはいくらでも追ってくる。
中々ファンタジーな見栄えよろしく船ごと無重力状態で漂いながらこちらへ向かってくる海軍軍艦。
逆方向からはサイズ自体は艦の数千分の一にも満たねぇのに、破壊力はそれを越えるドフラミンゴ。
そして頭上からはまたしても隕石。
こいつらが麦わら屋のとこのクルーなのは紛れもない事実。
そして本人が残って死にてぇと言うなら止めるべきではねぇか。
「残るのは自由たがシーザーは渡すなよ──“ルーム”!!!」
ドフラミンゴも早ぇが
流石に通常の引力以上の力で引き寄せられている隕石の落下速度には敵わない。
軍艦との距離を目算し張り巡らせた俺の空間。
そこに隕石が到達するまでは“待ち”だ。
「ギィヤァァァアアっっ!!!空!!空から何か降って来るぞ〜〜!!!」
二度目かつ、今後の算段とその成功率を把握してる俺はさておき
初見で地球外からの燃え盛る落下物に狙われたコイツらが感じる恐怖は中々のもんだろう。
良い脅しだ。
「と、トラ男くん!!“ぐるわらの一味”出航しますっ!!!」
「早く行け!!」
バタバタと出航準備を始めるナミ屋を横目で見ながら
さっきすぐにでんでん虫に出られなかった原因と思われる、ドンキホーテファミリーの幹部であるジョーラの首根を掴み空を見据える。
黒焦げで大分傷を追っているジョーラは恐らく船番組にやられたんだろう。
──全く役にたたねぇ訳ではなさそうだな。
ゴォォオオオオオオオ!!!!
「“タクト”」
ドゴォォォン!!!
「大将!!船底に穴が!!!」
「おっとこらァ迂闊でした。真下にローさんがいやしたか…」
自分で撃った攻撃を自分で受けるとは皮肉なもんだ。
軌道を変えられた隕石の衝突により大ダメージは負ったものの、墜落は免れた軍艦が進路を変えドレスローザ方面へ漂い出す。
引きが良すぎるが取り敢えずこれで隕石と軍艦は良い。
残るは…
「フッフッフッ!!」
「さっきの鞭です!!」
アイツか…!
ドフラミンゴが狙ってくる場所。
さっき建物を綺麗にぶった斬ったあの技なら打撃は1発。
ならば狙いは──船の中央…!!!
「“超過鞭糸”!!!」
ガキィィィンッ!!!
「くっ!!いいか!雲のない場所を探して進め!!ドフラミンゴはイトイトの実の能力者!雲にイトをかけて移動してる!!雲のない場所じゃ追って来れねぇ!!!」
やはり頭の回るヤツの思考はまだ読める。
ドフラミンゴは動物的な感覚で動くバカではない。
効率と目的遂行を優先する知能犯が放ったイトの鞭は、狙い通り船の丁度中央目掛けて放たれ
船に打撃を与える事なく俺の刀に巻き付けられていた。
ギリリッ!!
インパクト時点の衝撃は堪えたってのに、鞭を巻き取ろうとする力は肩をぶっ壊しにかかってるとしか思えねぇ程に強い。
なんとか切れ味自慢の鬼哭でそれを切り裂くと、丁度サニー号の出航準備が整ったようだった。
「“風来バースト”、いくぞ──!!!」
「ドフラミンゴ!!これを見ろ!!」
「ひー!!ロー!!あーた何て事を!!──若様あたくしの事など気になさらずに!!!」
ジョーラの喉元に鬼哭を突き立て、“出航”の時間を稼ぐ。
“風来バースト”、コーラの炭酸を利用し爆発的な早さでクラウチングスタートがきれるこの船独自の謎の機能。
ドンキホーテファミリーは基本、目的の為なら仲間の犠牲も厭わない集団。
しかし一瞬、ドフラミンゴの攻撃の手は止んだ。
これで十分。
ボシュッ!!!!
乗ってる側も中々の衝撃を受けるこの“風来バースト”。
船底が海面から離れ、船が空を飛ぶその最中
連れて行っても荷物にしかならねぇジョーラを抱えシャンブルズで鉄橋へと移動した。
桃色の鳥はこっちを、追ってきた。
闘魚はサニー号側に行ったのか、鉄橋の上は穏やかなもんだ。
波の音、カモメの声。
今目の前に居るのがドフラミンゴ本人って事の方が寧ろ嘘じゃねェかとすら思える。
「麦わらの一味を半分逃がして何になる…もう半分はドレスローザにいる。あいつら全員人質にすりゃシーザーなんてすぐ返しに来るだろうよ」
「──“そうやって”ナメきって大火傷をした奴らが、数知れずいるんじゃねェのか?」
さっき自分でそう言っただろうが。
この様子じゃあ顔は笑ってはいるものの、シーザーを取り逃したのはかなり効いているらしい。
「──残念だが麦わら一味との海賊同盟はここまでだ」
「あァ!?」
別に構いやしねェだろ、俺と麦わら屋が組もうが組むまいが。
元より心から協力し合いたくて同盟なんてモンを組んだつもりはねェ。
役に立つから手を組んだ。
アイツらのおかげで
シーザーという鍵も、工場破壊の可能性も残す事が出来た。
上出来、もう十分だ。
アイツらも工場さえ破壊したならばさっさとこんな国から出たら良い。
俺は四皇カイドウ討伐の為の同盟からは抜け
「手を組んだ時から、アイツらを利用してSMILEの製造を止める事だけが狙いだった!!もし、この戦いで俺がお前を討てなくても──SMILEを失ったお前はその後カイドウに消される」
「成程、刺し違える覚悟か…!!」
ここから先は俺は俺の都合で動く。
「お前が死んだ後の世界の混乱も見てみてェが、俺には──“13年前”のケジメをつける方が重要だ!ジョーカー!!!」
ドンキホーテファミリーはボスが最優先。
シーザーと違って人質にすらなり得ず、寧ろ後ろから寝首を掻かれるリスクしかねぇジョーラは今のうちに本島へと逃がした。
「お前のやってる事はただの逆恨みだ!!ロー!!!」
「恨みじゃねェ…俺はコラさんの本懐を遂げる為に、今日まで生きて来たんだよ!!!!」
二人だけになった鉄橋を、足場もろともバラバラに切り刻む。
“自分”が望む事の為に生きる我儘の為
この命がここに存在する意義の為
アイツを想う資格を得る為に俺は今…これまでの自分と決別する。
戦闘開始だ…!!!
足場を失い後方に飛び退いたアホみてェな成りをした今生の仇を
視線だけで殺せるならば数万回ぶっ殺せる勢いで睨み付けた。