16-50
可能なら俺が討ちてェ。
知らねェ場所で知らねェうちにカイドウに殺されるよりも
俺自身の手でこの男を討取りてェ…!!
ズパパパァン!!!
ガギィィン!!
そうは思いはすれど
じりじりと後退を余儀なくされ、徐々に背後にはドレスローザの街並が迫る。
斬撃は変幻自在なあの能力に阻まれる──ならば…!!!
「“メス”!!」
指から繰り出される鋼のように堅いイト。
それを鬼哭で受け、次の一手が繰り出される前にがら空きの左胸目掛け腕を突き出した。
しかしそれは腕をかすっただけで避けられ、避けるにしても深く反り過ぎな身のこなしを怪訝な目で見下ろす最中
ドカァァン!!
頭とは反対側から武装化した蹴りを食らいものの見事に吹き飛んだ。
「“弾糸”!!」
キュン───ドドドドッ!!
ズザサァッ!!
「うあ!!!!……ウ…」
着地点目掛け放たれたのはイトの弾丸。
討取る以前にこの男をドレスローザに戻らせねェのが最低限。
だがそれすらもこの有り様。
どれだけ鍛練し強くなろうとも、これが俺とこの男の差か。
「……ハァ、ハァ…」
「さァどうするロー。ドレスローザはすぐそこだぞ」
こっちは全力で挑んで満身創痍。
片や向こうは、多少かすり傷を負った程度で息すら上がってねェ。
普通にやっても、破壊行為が行われようとしてるにしては静か過ぎる背後の街で
それが起こって済むまでの時間を俺は稼げるんだろうか。
『──おいドフィ』
「あァ悪い…話の途中だったな──」
別に聞かれて困る話はしてはいねェが、こいついつからでんでん虫を繋いでやがった…?
優勢なのは言うまでもねェが、戦いの最中にのうのうとでんでん虫で話す余裕を見せるドフラミンゴにギリリと奥歯が鳴る。
聞こえてくる会話から得られた情報は3つ。
“ヴァイオレット”という名の幹部が裏切ったらしいこと。
そいつが黒脚屋を任され、裏切らなければ俺達の作戦がバレていたこと。
SMILEの工場に幹部達が配置されたこと。
最初のはこっちにとって悪い話じゃねぇが、最後の1つは最悪だ。
「暫く見ない内に腑抜けたようだな、ロー。この作戦には奴らへの絶大な信頼が必要…なぜそこまで麦わらを信じる!?」
一進一退なら正攻法じゃここは抑えられねェ。
一か八か…、やり方を変えてみるか。
「…D」
「あ?」
いつかコラさんが言ってたな。
名にDを持つ俺はこいつと一緒に居てはいけないと。
「モンキー・D・ルフィ、…ハァ、『Dはまた…必ず嵐を呼ぶ』…!!!」
「!!!」
麦わら屋もDだ。
正直そこであの男を同盟相手に選んだつもりはない。
完全なる後付け。
余裕ある状態のドフラミンゴとこのままやりあっても押し負けるのは確実。
ならば逆効果の可能性も大いにあるが逆上して出来る隙ってもんに賭けてみた方がまだ分は良い。
「Dは神の…なんだったか…」
「てめェ、本気で言ってンのか!!?あァ!?」
“元”だろうが天竜人なら
俺も噂でしか知らねェこれの真相を、お前は知ってンじゃねェのか?
俺もDだがここでそれを明かすのは上手くない。
だが既に効果は十分。
俺と麦わら屋の天敵らしい男の額には、今にも弾けそうな青筋がくっきり浮かんでいた。
「その様子じゃ…噂は本物みてェだな…“シャンブルズ”!!」
「…!!…!!?」
お互い派手に暴れたせいで、入れ替わる物なら無限にある。
この状況ならバックを取られる、そう思うだろうと予測したのは的中し
振り返り様に背後にイトの刃を放ったドフラミンゴの“その背後”に、ワンクッション挟んで移動した。
ザシュッ
ガキィィン!!!
「ぐっ…!──“超過鞭糸”!!!」
振るった鬼哭に、肉を斬る確かな感触を感じた。
討ち取る為に必要な布石は何も1つとは限らない。
どこかの島での下らねェ罰ゲームのかかった“お遊び”
その中で、ウイが俺に教えてくれた事だ。
直ぐ様再びシャンブルズで移動したものの
さっきまでいた場所の延長線上──ドレスローザの街並はヤツのイトによって瓦礫の山へと変わっていた。
自分の国だろうとお構い無しか…!!
何度も同じ手は通用しない。
次の手を思案し出したその矢先、背後の空気がさっと動いた。
「──やってくれるじゃねェか、ロー!!!」
背後に向けて構え直す間も
シャンブルズで移動する間もなく
丁度背骨の中央に入った打撃は地から足を浮かせた。
キレさせる作戦はやはり一長一短。
隙も生まれたが動きのキレがさっきより数倍増した。
ローとドフラミンゴの局面以外でもドレスローザの各所で状況は動く。
穏やかに見える街並に、最初に不穏な気配を持ち込んだのはこの二人である事に違いはないのだが。
グリーンビットへ架かる鉄橋付近だけに留まらず、そこからドミノが崩れるように建造物は切り刻まれ崩壊していく。
そして建造物の一部であった瓦礫の山に、叩きつけられたのは“元”七武海の方。
「おい!トラ男!!お前何でミンゴと…!!!」
コロシアムの中からそれを目撃したルフィも、付近に居合わせた工場破壊チームの何名かも民衆も
平凡そのもののの日常が突如一変し満身創痍のローに銃口を突き付けるドフラミンゴという事件を目の当たりにし動揺する。
カチャリ、と撃鉄を降ろす音は喧騒の中でも不思議とよく響いたとか。
「ガキが……図に乗りすぎだ!!」
民衆の目があるにも関わらず、ドフラミンゴはトリガーを
ドン!!ドン!ドンッ!!
「アァ!!!!…ガフッ」
「トラ男〜〜!!!!!!!」
引いた。
それも一度のみならず何度も。
騒然とする民衆にドフラミンゴは
“今朝の誤報はローがドフラミンゴを国王から引きずり降ろそうと企てたもので、たった今犯人を退治した”と取り繕う。
ピクリとも動かぬローと
国家崩壊の危機が去ったと沸く民衆。
そして──
「おい!ミンゴーーー!!!お前!よくもトラ男を!!!!」
「麦わらァ、てめェにとやかく言われる筋合はねェ…!!ローは元々俺の部下!“ケジメ”は俺がつける!!!」
同盟が放棄されたと知らぬルフィは仲間を目の前で傷付けられ、その頭は怒りで煮えくりかえっていた。
いやきっと、この男は同盟という形式等どうでも良いと考える類の人種だが
それはまぁ今は良いだろう。
コロシアムの外に居る錦えもんとゾロに生死の分からぬローの身柄を確保するよう指示を出すも
それは居合わせた藤虎率いる海軍に阻まれる。
そうこうしている内に、ドフラミンゴはかつての部下を抱え王宮へと去っていった。
抱えられた医者の青年は腹に数発鉛弾を食らっていた筈ではあるが
瞳は閉じられ脱力した様子であったにも関わらず、その体から滴る血液は見受けられなかったとか。
地上では果実へと変化を遂げた能力は、“まだ”誰かには引き継がれていない。
それは──風の悪戯だったのだろうか。
ローは撃たれ、生死の分からぬままドレスローザ王宮へと連れ去られた。
さて他の面々はどうしていたのか──。
サニー号安全確保チームはローと合流する前、ジョーラという幹部の襲撃にあっていた。
人間や武器ありとあらゆる物をアートにし無力化してしまう厄介な能力者ではあるが、ブルックの機転によりジョーラを撃破。
グリーンビット近海を飛び立った後、ナミの航海術を存分に生かし
ドレスローザに続く雲のない海をゾウに向けて順調に航海中である。
ここに合流したサンジは途中まで、工場破壊&侍救出チームと行動を共にしていた。
しかし意図せずはぐれた原因を作ったのは勿論──“女”。
それも絶世の美女である。
これが先ほどドフラミンゴに裏切りを密告された“ヴァイオレット”。
出会って数秒、『殺して欲しい男がいる』と涙ながらに懇願するヴァイオレットにサンジの心は射抜かれた。
しかし彼女に課せられた使命こそが
女好きであるサンジを誘惑しその頭の中を覗くこと。
これによりドフラミンゴは麦わら一味とローの同盟の真の目的や作戦の詳細を暴こうとしていた。
しかし裏道に連れ込まれ、ファミリー末端の荒くれ者からリンチを受けボロボロになったサンジは
騙されたのは明白な状況にも関わらずそれでもヴァイオレットを信じぬく。
口先だけなら何とでも言える、とヴァイオレットが“ギロギロの実”で覗いたサンジの頭の中
それは──
敵意や憎しみ、怒りでもなく
海賊同盟の作戦でもなく
隙間なくぎっしり詰まったヴァイオレットとの甘くピンク色の妄想であった…。
女の涙を疑わないと頑なにヴァイオレットを信じるサンジに心を動かされ
彼女はファミリーへの謀反を決意。
その能力で逆にヴァイオレットの頭の中を覗き見たサンジは現状の全てを理解、そこでローへ連絡、と
物語は繋がっていく。
今は意識のない元七武海の男は
“裏切り”“黒脚”“覗く”、このワードから
1つの可能性を疑っていた。
“ヴァイオレット”とは、1年以上前バーで隣に居合わせたあの黒髪の女ではなかろうかと。
こちらに不利な情報をドフラミンゴへ流さなかった、女好きに打ってつけな、遠方を覗き見る事の出来る美女。
まず彼女が真にドフラミンゴに遣えているならば
島への接近も作戦すらも密告され、今以上に過酷な状況であった筈なのだから。
さて。
ローと取引の時間まで一時的に別れた筈がいつの間にか地下へと移動していたウソップとロビン。
彼らは森を探索中、グリーンビットに暮らす小人達に敵と判断され彼らの住まう地下へと連れ去られていた。
ウソップはともかくロビンは戦闘の前線を任されることもある腕利き。
そんな二人がなぜ、手のひらにすっぽり収まるサイズの小人等に捕えられたのか。
それは──
彼らトンタッタ族はその小さな体に、普通サイズの人間以上の力と機敏さを持っているから。
そして彼らは皆、揃いも揃って騙されやすい。
誰も信じぬような言葉でも、それを信じ真に受ける。
ドレスローザをドンキホーテ一族が治めていた頃、王族はトンタッタ一族と約束を結ぶ。
それは少しの労力と引き替えに資源と安全を保障する不可侵条約。
しかし実際には──彼らの身体能力を存分に活用する為の奴隷契約であった。
それはドレスローザに新王リク一族が君臨する今から900年前まで続く。
リク一族は、トンタッタへの非道な扱いを耳にするなり涙を流し謝罪した。
そしてこれまでの償いにと、生活に必要なものを何でも国から持ち出して良いと彼らと約束を交わした。
これがドレスローザの守り神、妖精伝説。
トンタッタ族はリク王の優しい心を称え、いつしか進んで国を緑豊かな美しい花々の咲く土地へと変えた。
小人達は植物を育てるのが得意であったから。
しかし再びドフラミンゴが治め始めたドレスローザでは、またしても小人達は奴隷と同様の扱いを受ける。
SMILE、人造悪魔の実の製造工場で労働力として働かされているのは他でもない、彼らトンタッタ族。
彼らは同胞を解放する為、ドフラミンゴ王政の転覆を目論む。
そんな彼らの元へ捕まった二人。
ご存知だろうか。
ウソップがその名の通り、中々の虚言癖持ちということを。
常人であれば、それは笑い話や鼻で笑ってしまう程度で済む話。
しかし、トンタッタ族は騙されやすい。
ウソップが英雄だというホラを信じ混んだトンタッタ族は此度の国家転覆への作戦に参加して欲しいと懇願。
反乱を先導する勇者として祭り上げられたウソップとその仲間ロビンは今、地下のトンタッタ族と共に国家転覆の為動きだそうとしていた。
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