16-53

 

ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる


「はい!こちら王きゅ──え!?港に突然海賊達が!!!?」


ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる


ローが状況の大枠を捉え、今後の動きを思案し出した頃
王宮のでんでん虫が次々と鳴り出す。


「はい!こち──しょ、少々お待ちを!!若様!!トレーボル様です!!」
「──なんだ、騒々し…」
『すまねェドフィ〜〜〜〜!!!!シュガーが気絶しちまったァ〜〜!!!』
「!!?…オイ何の冗談だ!!!」


その報せは天夜叉と呼ばれるこの国の国王にとって最悪のもの。


ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる


ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる


「若っ!!非常事態の報告が鳴り止みません!!!ドレスローザはパニックですっ!!!」







ローが目覚める少し前、シュガーを気絶させ国中のおもちゃを解放する為に
トンタッタ族とロビン、そしてウソップは作戦決行の為動き出していた。


元の作戦はシュガーの好物でもあり、いつも食べているグレープの実に激辛激マズの模造品を紛れ込ませそれを食べさせるもの。
余りの辛さとマズさにシュガーは気を失う筈だ、と。

しかし作戦は上手くゆかず、無理矢理口に放り込もうと奮闘したロビンとトンタッタ族は逆におもちゃにされてしまう。

絶体絶命のピンチで、それを成し遂げたのはウソップだった。
普段はあんな調子の彼も、心根まで腐っている訳ではない。

虚勢で英雄と持て囃されいい気になってはいたものの、自分以外が全滅で自分より強いロビンやトンタッタ族がやられるような相手。
無傷のウソップに残された道は逃げの一択…と思いきや──

傷だらけになりながらも自分の嘘を信じ続けるひたむきな小人達に、彼のミジンコ程の良心が逃げるのを拒んだ。

結果当たり前のようにシュガーの返り討ちにあい、ズタボロの瀕死状態で逆に激辛激マズグレープを食べさせられたウソップ。












どうやらその味の出来は完璧だったようで
とてつもない顔芸で味を表現したウソップの顔面に驚いたシュガーが泡を吹き、意識を消失。

結果として従来の目的は果たされ国中のおもちゃは解放されたのであった。


人生何がどう転ぶのか分からない。
災い転じて福となる、とはまさにこの事。


解放された元おもちゃ達はウソップを英雄、救世主と崇め立てた。







ローが拘束されている王座のある広間、その部屋の外では──

ローを救うべくコロシアムから脱出したルフィと、おもちゃ達を解放したところで諸悪の根元であるドフラミンゴを倒さねばと意気込むおもちゃの兵隊こと、キュロスが
千里眼を持つヴィオラに導かれ突撃の機会を見計らっていた。


突撃のタイミングとは
トンタッタ族とウソップ、ロビンの作戦が成功するその瞬間。


広間に鳴り響くでんでん虫の着信音をよそに、人間の姿へと戻ったキュロスは広間へ押し入った。

ヴィオラの姉であるスカーレットの夫。
リク王の孫娘であるレベッカの父。
おもちゃにされ忘れ去られてはいたものの、彼はコロシアムに銅像が立つ程の伝説の剣闘士で、リク王時代の軍隊長をも務めた男。


腕が立つのは言わずともお分かりだろうが
キュロスの振るう剣は呆気ない程見事にドフラミンゴの首を斬り落とした。








その様子にファミリーの面々は驚愕の叫び声を上げ、侵入者キュロスの排除へと動き出し
目立たぬ侵入等出来る筈もないルフィ達を追って更なるドンキホーテファミリーの援軍がボスの首が転がる王座の間へと集結する。


突如現れた男が何者か等知る由もないローはその光景にごくりと息を飲んだ。
全力で挑み手も足も出なかったドフラミンゴが、積年の怨みの対象の首が
呆気なく見知らぬ男に落とされたのだ。

喜ばしい展開と信じられぬ気持ちが医者の海賊の胸中で葛藤する。


しかしその間も、キュロスは次々とファミリーの幹部達を捩じ伏せリク王を繋ぐ鎖を叩き切った。


「トラ男〜!!助けに来たァ〜〜!!良かった生きてて〜!!!」
「!!!…ここに用はない筈だぞ麦わら屋!!工場はどうした!壊したのか!!?」


ローの情報処理能力は常人を遥かに越える。
しかし目覚めてからの目まぐるしい状況の変化は流石の彼も頭を抱える程である。


ルフィの船のクルー達は色々騒ぎを起こしていたらしいが当の本人はコロシアムの中から出られないと聞いた筈。
それがなぜか囚われた自分を救出しに来たと目の前に──。

そして同時に──
それに連れられて現れた、いつぞやバーで哀愁漂う傷心の女を演じていた黒髪の美女。
幹部達に“ヴァイオレット”と呼ばれた彼女を見てローは確信する。

己の立てた仮説に概ね間違いない、と。







ローは計算高い男だ。
しかし──与えた以上の恩を売られるのは好かない。

ローがドフラミンゴに同盟の決裂を伝えたのは、ドフラミンゴに私念で楯突く上で同盟が続いていれば彼らに迷惑がかかるから。

“利用した”とは言え、SMILEの製造を止める事は新世界に入り誰の下にも付く気のない海賊にとっては有益なもの。
そこまでであれば、情報を渡しその原料をこの世から消した自分と手を組む事はウィンウィン。

しかし──
工場破壊ではなく自分を助けに来たと言うルフィの行動は、同盟がまだ継続している事を意味する。

ドフラミンゴがあんなに簡単にやられるとは思えない、もし不意を突かれ油断してのマグレであったとしてもここは王宮。
トップ亡き後もファミリーの幹部達ならいくらでも沸いて出る。


「折角来て貰って悪いが俺とお前らの同盟はもう終わったんだ!!」
「え!?お前勝手だな!そういうのはオレが決めるから黙ってろ!!」
「どっちが勝手なんだ!!!──同盟が切れりゃ敵同士!俺を逃がせばお前を殺すぞ!!」


私情で動く自分にルフィ達を巻き込む訳には行かないローは救いの手を拒絶する。

しかしルフィもルフィでその行動原理は自分が感ずる気持ちの赴く所。
彼はローと“同盟を組んでいるから”助けに来た訳ではない。
友達が怪我をさせられ拐われたから取り返しに来た、ただそれだけだ。


更に行ってしまえば、ルフィはこれまでローの言うことを一度も聞いては居ない。
何となく頭の片隅にその情報はあるのかもしれない…だが、
シーザーを捉えたのもコロシアムに出場していたのも
王宮の広間に今こうしていることも全て、ルフィ本人の意志である。


「あ〜!!もうお前動くなよ!海楼石触れねェからカギ外すの難しいんだ!!」
「しっかり!!」
「聞いてねェだろお前ら!!!」


ヴィオラがどこからか手に入れて来たローの手錠の鍵。
ルフィは鍵穴に鍵を差し込もうと奮闘するも鍵穴は小さく、能力者の天敵素材に触れる訳にも行かない。


錠を外して貰えば助かる以外の何物でもないというのに…
ここに来て口答えばかりのローも義理堅いを通り越し中々の堅物である。


ボコォン!!
「「「うわァ!!!?」」」


もう少しで鍵が差し込めそうだったその時、城の床である石畳が大きく波打った。







「フッフッフ…想像以上にしてやられたな…」
「うわァ!!!ミンゴが生きてるーっ!!!!」
「「「「若様っ!!!」」」」


波打つ床だけでも十分な怪奇現象。
しかし、首が落とされたドフラミンゴはそれでも言葉を話し
床に転がっていた筈の頭は手のひらを模した石畳の上に乗っていた。


「これはマズイ事態だ…!!“鳥カゴ”を使わざるを得ない…!!なァ…ロー…」
「“鳥カゴ”を!!?」


結局未だ繋がれたままのローはその言葉に目を見開き息を飲む。
そしてその反応に、生首状態のドフラミンゴはニヤリと口角を上げた。


「早急な対応が…必要だ」
「気味が悪い…!!!貴様、なぜまだ生きてる!!」


首から上を失っても、倒れる事のないその体。
胴体と切り離されて尚、何事もなかったかのように喋り続けるその頭。

通常“死”を意味するその分断を敢行したキュロスは更にそれを切り刻もうと剣を大きく振りかぶった。


「首の切り方を教えてやろうか」
「!!?」


一瞬の出来事。
駆け出すキュロスの背後に首の繋がったドフラミンゴの影が出現する。


「兵隊!!!」


それを確認し床を蹴るルフィ。
現れたドフラミンゴがキュロスに何をするつもりかを一瞬で察した彼は、キュロスの肩を鷲掴み


ズパン!!ドン!!


刃と化したドフラミンゴの脚をすり抜けるように押し倒した。


キュロスの首を狙ったドフラミンゴの脚は王宮を壁ごと見事に分断する。
建物が斬れる音とキュロスが床に突っ込む音が響いたのはほぼ同時であった。


外したとは言え、強固な王宮をも分断する程の一撃。
だがドフラミンゴは攻めの手を休めない。

押し倒し押し倒された二人目掛け
首のあるドフラミンゴと、ないドフラミンゴが指にイトの刃を纏い同時に襲い掛かった。


なぜドフラミンゴが二人居るのか。
なぜ首を落とされて尚平然と動けるのか。

突っ込み所は多分にある。
寧ろこれは
有り得ない、反則だと勝負を無効に持ち込みたい域。


しかし戦いのスイッチが入ったルフィに雑念はない。
キュロスを抱えて尚、背面二方向から迫り来る攻撃をかわしたルフィは


「“ゴムゴムの──JET銃乱打”!!!」


2体のドフラミンゴ目掛け反撃に転じる。






ルフィの放った無数の拳は2体のドフラミンゴに命中するものの、どちらも武装色の覇気でガードされまるで効いている様子がない。
それでも尚拳を繰り出し続けるルフィの背後に首のないドフラミンゴが回り込み、背にイトの刃を走らせた。

斬り付けられた勢いで仰け反った顔面目掛け、正面のドフラミンゴが見るからに武装万全の拳を放つ。


ゴォン!!!
ザザザザ、ガンッ!!


「あう!!」


まるで重金属同士がぶつかりあったかのような鈍い音を立て、吹き飛ばされたルフィは壁に激突した。


「何だあの分身は…」
「糸でできたマリオネットの様ね!あんな技初めて見た」


“分身”“マリオネット”と称したくなる程、2体のドフラミンゴの息はピッタリ。
そして長年幹部であったヴィオラも、見覚えのないその光景には驚きを隠せなかった。


「ピーカ!!邪魔者共を外へ!!!」
「「ぅわああぁ!!!」」


ドフラミンゴの指示を受け、石畳の床が再度波打つ。
先程から石畳の形状を変幻自在に変えていたのはこの、“ピーカ”という名の最高幹部。

指示に忠実な石の動きは、ロー、ルフィ、リク王、キュロス、ヴィオラの5人のみを王宮の外に弾き出した。


ドンキホーテファミリーのみとなった王座の間。
そこでは首のない方のドフラミンゴの切り口、丁度首から
天目掛け、その体を形作っていたイトが立ち昇って行く。

ヒュンヒュンと音を立て昇っていくイトを横目に、反乱分子のおもちゃ達の枷を外され窮地に陥っている筈のドフラミンゴの顔は…笑っていたと言う。












所変わって弾き出された5人は
ルフィの“ゴムゴムの風船”の恩恵により、数十メートル上空から落とされたにも関わらず落下の怪我はなし。
しかし王座の間へは易々戻れる高さと距離ではない。


「ピーカがいる以上ドフラミンゴには近付けないわ!!」
「……!!始まった…!!“鳥カゴ”だ…!!!」


海楼石の手錠は外れぬまま、寧ろ座らされていた椅子ごと弾き出されたローは空を仰ぎ見た。

一点から立ち昇り、中心から島全体を囲うように散っていく銀のイト。
陽の光を浴び輝くそれは、何も知らぬ者が見れば中々に幻想的な光景。


しかしローがこれを“内側から”見上げるのは二度目。
基本焦りや動揺は表に出さない性分の彼の顔は今、絶望に歪んでいた。



destruct at reality.