16-55
「──俺は8歳で母を失い、10歳で父を殺した…“幹部”以上のメンバーは長く苦楽を共にした俺の“家族”だ」
ドンキホーテファミリーを名乗る以上殆どの者はドフラミンゴの人となりや幹部達との結び付きを頭に入れている。
「俺にはこいつらしかいない…!!家族を笑う者は俺が許さん…!!!いいな」
「「「「「は…はい!!!!」」」」」
例え事実
声があり得なかろうが
見た目が醜かろうが
その性格が残念過ぎようが、それを馬鹿にする事はここでは死罪に値する。
例えいつか、不測の事態に陥りその作戦の為命を犠牲にしろと指示が下ったとしても
幹部達に悔いなど1つもない。
ドフィは作戦の失敗は過失である事を知っている。
わざと失敗する者も、手を抜く者もここには存在しない。
悪人と呼ばれる彼らには彼らなりの、確かな信頼関係が存在していた。
さて所変わって
ローとゾロを抱えたルフィが王宮へ向かう為進んだ直進コース。
二次元で見れば線であるその道のりは、勾配の激しい険しき道。
“ゴムゴムの風船”で衝撃を緩和しながら、ルフィは距離を短縮する為迷うことなく崖を飛び降りた。
「ロー!」
「どのツラ下げて現れやがったクソガキ!!」
「ロー兄ィ!?ほぼ記憶にないけど!」
運か悪いと言うべきか何と言うべきか…
「“麦わらのルフィ”!!」
「トラファルガー・ロー!!“海賊狩り”!!!」
落ちたそこは工場襲撃に備え配置されていたドンキホーテファミリーの腕利き幹部が数名。
そして付近に居合わせた海軍が続々と押し寄せ、あっという間に四方を囲まれる。
「えれェ所に落っこちた!!」
「おい麦わら屋。錠が解けたらまずお前から殺してやる!!!」
流石のルフィも唖然とする状況。
騒ぎを聞き付けた国民達まで駆け付け、相手の力量はさておき人数的に厄介な状況が出来上がっていく。
「言っとくがどこに落ちても“えれェ所”だ。この国中が敵なんだからよ!!とにかく走るぞ!!」
まともな事を言うクルーも居たのかと、海楼石の手錠であまり力も入らず担がれるがままのローがゾロを感心して眺めた瞬間
常識人ぶったゾロは真正面に見えている王宮とは真逆の方向へ走り出す。
「ゾロ!そっちじゃねェぞ!!」
そう言いながらルフィが指す指の先もまた、王宮とは違う方向を向いていた。
何とかローの指示で正しい方向へと駆け出そうとするルフィ達の前に、ファミリーの幹部と国民そして海兵が立ち塞がる。
そこには海軍大将、藤虎の姿も。
どちらも実力者。
迂闊に手を出せぬせいで膠着状態に陥りかけた現場を───
ドォォォォオオオオオン!!!
ガラガラ…ガラララ…!!!
爆音と共に打ち破ったのは上空を覆う黒い影。
陽の光すらも遮り立ち塞がるのは
「さァ…我がファミリーに楯突く者達は…俺が相手に──「ぷーっ!!!声!!!高ェ〜〜〜!!!あっはっはっはっ!!」
最高幹部ピーカ。
先程の気の立つ出来事が、傍観していろというボスの指令を無視してでも彼を現場に向かわせた。
ヤル気満々の彼が今同化しているのは王宮本体の100倍はあるのではなかろうかという石で形成された傀儡の体。
それでもやはり、声は変わらない。
むしろ──図体が大きくなった分、声とのギャップまで100倍に膨れ上がった。
「似合わね〜〜っ!!!あっはっはっはっは!!!変な声〜〜っ!!」
「“麦わら”……!!!」
石像の体で目を見開き怒りに震えるピーカに、気が気ではないのは末端のファミリー達。
普段以上のこのサイズで暴れられようものならば、怒りの標的に付随して受けるとばっちりも広範囲。
巻き込まれる、即ち、死。
案の定怒りの鉄拳を下そうと振り上げられたピーカの拳は、直径4、5階建ての建物にも相当するサイズ。
「ルフィ!!お前敵をおちょくるのもいい加減に──ぷーっ!!!」
「ホラお前も笑ってンじゃねェか!!」
「てめェら…!!」
例え一撃が強力だろうが、当たらなければ意味のない話。
それはそうなのだが…
楽天的過ぎる麦わら一味のやりとりに、担がれ己の意思ではどうにも出来ぬローはただただ額に青筋を浮かべていた。
ズッドォオォオオオオン!!
鼓膜だけでなく心臓まで振動するかのような轟音を響かせ、ピーカの石の拳はドレスローザの街を粉砕する。
そしてその余りにも強力な勢いは直撃を避けた周辺にも、突風として襲いかかった。
吹き飛ばされはしたものの、三名は四面楚歌の窮地から脱する。
しかし“岩石同化人間”のピーカの突破方法は中々思い付くものではなく、頭を抱えていた所に
珍客達は続々と集結し始めた。
「キミの仲間、“ゴッド・ウソップ”に人生を救われた。キミ達への恩返しに僕がドフラミンゴの首を取る事にしたんだ。フフフッ…」
砂塵の奥から現れたのは、キャベツのような名の…アレだ。
お伽噺に出てきそうな白馬の王子的なのを意識した格好の痛いヤツ。
どうやら敵じゃねェらしいがとてもドフラミンゴの首を取れる実力があるようには見えねェ。
「ここにいたのか麦わらァ!!」
「待て待て逃げるな!俺達は元々この国にドフラミンゴの商売をブチ壊しに来た!あれしきの賞金じゃ俺達は動かねェ!!」
「──ついてはドフラミンゴをブチのめす事で己とゴッド・ウソップに恩返しをする事にした!!」
続いて現れたのはでけぇの三人に引き連れられた見るからに柄の悪い集団。
八宝水軍とか言うらしいが…これも麦わら屋の知り合いらしい。
「麦わらのルフィ…!!試合での事は水に流そう!!エルバフの戦士の誇りにかけて!ドフラミンゴを討ち恩返しをしたい!!!」
試合ってことは、こいつら全員コロシアムの出場者か…?
それにしてもどうなってやがる。
コイツもドフラミンゴには敵いそうもねェがなんでエルバフの巨人族がこんな所に…?
「我がプロデンス王国は予てよりリク王に恩があり──」
「いや奴の首を取るのは俺達だ!!」
「“ゴッド”にさした天からの光!忘れ難し!!」
「ドフラミンゴの首なら吾が取る!!!」
「破壊こそ恩返し!!!」
……。
使える駒は多いに越したことはねェが、なんだこの状況は。
「じゃあお前ら俺達の援護に回ってくれるってのはどう──「「「「バカ言え!!!ドフラミンゴの首を取る!!!」」」」
「…ダメだこいつら我が強すぎる」
頭のネジが数本飛んでるとしか思えねェゾロ屋ですらも呆れるレベル。
「お前らなァ!!どいつもこいつもいい加減にしろォ!!ドフラミンゴは俺がブッ飛ばすって言ってんだろ!!!」
「恩を返すと言ってんのがわかんねェのか!!!ガタガタ抜かしてっと息の根止めんぞこのタワケ恩人が!!!」
コロシアムで何があったかは知らねェ。
大方鼻屋に大恩がある連中らしいがそれもよく知らねェ。
だが、
なにやら一方的な恩返しの押し付け集団がこっち側についたらしい所までは理解出来た。
状況が変わったのは事実。
多少はマシな方向に傾いた…と思いたい。
だがしかし、喧しすぎるそのやり取りが祟って受刑者狩りに回った国民達が押し寄せて来やがった。
数にしてざっと100…いや200は超える。
手錠さえ外れれば俺が一瞬で蹴散らせるんだが…
「いたぞ!!3つ星に2つ星!!」
「首を取れ〜!!!」
「あいつら──共に地下にいたおもちゃだった奴らじゃねェか…!?」
「よくもぬけぬけと…!!」
「「「「「くたばれ恩知らず共がァ!!!」」」」」
ドカァァン!
バキバキバキィ!!!
ズドドドドドドド!!
「「「「ぎゃぁああああ〜〜!!!」」」」
ほぉ。
「こんなのに構っている暇はない!僕は王宮に向かう!」
「そうだ王宮!!ゾロ!トラ男!行くぞ!!」
「大人しくすっこんでろと言うのがわからんのかっ!!!」
この連中、騒々しい上ハッキリ言って頭もすこぶる悪そうだ。
だが全く使えない訳ではないらしい。
雑魚相手であれば一瞬で10倍近くの殲滅が可能。
なるほど…。
王宮へ向かう道中、コロシアムでの妙縁はアレだけでは済まなかったようで
麦わら屋は角の折れた闘牛、“ウーシー”とかいう足まで調達しやがった。
数も戦闘力も機動力も騒音も増した状態で、一先ず向かうは先程ピーカが拳で粉砕した王宮前広場。
さっき見たSMILE工場付近に配置されていた幹部は3人。
つまり他の幹部達はドフラミンゴの身辺もしくは王宮と城下町の間に配置されているということ。
ドフラミンゴには絶対に敵わねぇものの
幹部達であれば、コイツら何人かは倒せるんじゃなかろうか。
“ウーシー”のお陰で移動スピードは格段に上がった。
だがしかし担がれていた時とは比べ物にならねェ揺れと振動がセットで付いて来る始末。
快適とは言えねぇ道中、更には海楼石の手錠は未だ外れる見込みもねェと来た。
…ダメだ。
理屈が通用しねェ連中ばかりなのに加えて、状況も混乱し過ぎる。
頭が回らねェ…。
酔いそうになる牛での移動の最中、思考は完全に放棄した。
無理で無駄だ。
いくら名案を思い付こうが、喧しすぎる上に我の強いこいつらにそれを従わせるのは不可能。
考えるのは状況がある程度固まって俺自身が身動き取れるようになってから。
それまでは体力と思考力を温存した方が懸命。
無駄な抵抗は辞め、心を無にしてただ状況を傍観する。
戻った広場で待ち構えていたのは、ピーカや末端のファミリー、そして海兵。
傀儡ではあるが
喧し集団は再び殴り掛かってきたあのサイズのピーカの拳を、避けるでもなく粉砕するという豪快な対処に出た。
あの速度と質量で向かってくる物体を砕くのは中々の技量。
しかし何より度肝を抜かれたのはやはり麦わら屋。
型破りだとは思っていたが、石像と同化したピーカを直接闘牛で登り始め
仕舞いにはそのまま頭を巨大化かつ武装化した拳で叩き割りやがった。
流石のこれにはダメージを受けぬよう同化を解除したピーカ本体が麦わら屋目掛け反撃に出るも、それはゾロ屋が食い止めた。
確かゾロ屋が麦わら一味のNo.2。
ウチで言う所のペンギンかベポの立ち位…。
ペンギンもベポも悪乗りも酷けりゃたまに理解不能な行動に出るのは事実。
だが戦闘力云々は置いておいて、この愉快な麦わら海賊団をウチのクルー達に当て嵌めるのはやめることにした。
アイツらにこんな事思ったのは正直初めての事だが、流石にこれと比較するのはアイツらに失礼だ。
戦闘力云々は置いておいて。
戦闘だけなら寧ろ恐らく及ばねェ。
ペンギンはたまに俺が手を妬く程頭のキレるヤツになったし、ベポも未だ海図や地図は壊滅的に下手くそだが目的地の方向を間違えるなんてふざけたヘマした事がねェ。
離れてみて初めて気付く事というのはこういう事か。
いつでも傍にいたから気付かなかった。
…ウチのクルー達は大分マトモだ。
この場はゾロ屋に任せる事に決めた麦わら屋は先を急ぎ、遠ざかっていく腕の立つ頭が愉快な麦わら一味No.2とピーカの戦いに
一応武運くらいは祈っておく事にした。