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喧し集団の大半は広場でファミリーと交戦中らしく、まだ誰も追ってくる気配はない。
上段には上段でまた、新たなファミリーや幹部が配置されてるんだろうが…。


少し前まで居た王宮、王座の間。
行きは運ばれたらしいから気にとめなかったが
それは四段にも及ぶ台地の最上階、四段目に聳え立っていた。


ピーカの脱け殻が架け橋となり、一段目までは余裕で到達出来そうな状況の中
ただ距離を詰めるだけのその時間で俺は麦わら屋に──コラさんの話をした。


喧し集団の事は知らねェ。
口で言うのは簡単だが、ドフラミンゴに挑むならば命懸けレベルの覚悟が必要。
例え奴らが命を捨てたとしても、多少は戦えたとしても
悪いが見込みがあるようにはとても見えねェ。

そもそも見込みがあったとして
根も悪い奴らじゃねェとして。
だとしてもアイツらとは供託する気が全く起きねェ。


やはり俺が同盟を持ちかけたのは相手がこの男、麦わら屋だったから。
前を、目的の王宮を真っ直ぐ見据えるその横顔には
意思の強さとドフラミンゴへの怒りが犇々と滲んでいた。


本人は巻き込まれたなんて思っちゃいないんだろう。
だが実際こうなるきっかけを作った俺は、その経緯をこいつに話さなきゃならねェ。
それが筋なのも勿論あるンだろうが
言いたいと
知って欲しいと思っちまったのはなぜだろう。


「おい麦わら屋…」
「ん?」


振り向いたその顔はすっとぼけたもので
さっきまで纏っていた怒りや何かを背負った雰囲気は一瞬で霧散した。


切り替えが早ェとこまでそっくりだ。
何かに集中してる時、無意識なんだろうが顔付きがガラリと変わるとこまでも。


何人かのクルーとウイ以外に、初めてドフラミンゴとの因縁を話した。


13年前コラさんに命を救われ、それが原因でコラさんはドフラミンゴに殺されたこと。
コラさんはドンキホーテファミリーの最高幹部で、ドフラミンゴの実の弟であること。

“同盟”として持ちかけた作戦は最終的にカイドウの戦力を削ぐ事も可能だが
実はドフラミンゴを遠回しに潰す手段であったこと。




そして──
さっきは負けたが今度こそ、俺こそがドフラミンゴに直接一矢報いたいことを。






例えそれで麦わら一味と俺がカイドウの怒りを買う事になったとしても。

麦わら屋が腹を括ってるのに、俺が括らねェ訳にはいかねェ。







所々驚きながら話を聞く麦わら屋は最終的に


「そうか!分かった!!」


とだけ言った。

あり来たりな同情でもなく、何をどう分かったのかすら謎な返事ではあったが
これで良い気がした。


どうせこいつは譲らねェとこは譲らねェ。
でも何かしら頭に残った情報は、予想だにしねェ所で何かに繋がっていく。












相変わらず乗り心地の悪ぃ牛での移動は続くものの
俺と麦わら屋の間に特に会話はなかった。


下の喧し集団は雑魚を一掃したようで、俺らに続きピーカの脱け殻を登って来るのが見えたのと
そろそろ一段目に到達しようとしている俺ら目掛け、上で待ち構えるファミリー達が威嚇射撃を始めた位。



ドレスローザに到着した時から
寧ろパンクハザードに降り立った時から
随分と状況は変わった。


良く傾く時もあれば、悪く一変する時もある。
多少マシになったとは言え、今が最も最悪の状況に違いねェんだろう。


空を覆う鳥カゴは、カゴの中身を殲滅したい時にドフラミンゴが使う大量虐殺の術。
13年前にこれを内側から見た時も、全てが終わったと思った。


あの時はコラさんに救われ生き延びた俺が
またこうして鳥カゴの中にいる。


もうただ泣き叫ぶしか出来ねェガキじゃねェ。
ただ死を待つだけの無力なガキじゃねェ。


知恵も付けた。
力も付けた。


果たすべき約束もある。
守りたい存在も
帰りたい場所も
待っている仲間達もいる。


何を弱気になっていたんだ俺は。











必ず討つ。
ドフラミンゴを。


決意を胸に、頼もしい相方の肩越しに見える王宮を
そこにいるだろうドフラミンゴを睨み付けた。





「あったわ!!」


明るい声が響いたのは、ピーカが王座の間からロー達を弾き出した先。
鳥カゴとピーカの暴れようでドレスローザの地形は大いに変動し
そこは今、塔のような台地に変形していた。

手荒に放り出されたせいでローの手錠の鍵を紛失してしまったヴィオラはこれまで
その“ギロギロの実”の能力、千里眼で鍵を探していたようだ。


「やっと見つけた…何とかして届けなきゃ…!!」
「待てヴィオラ、アイツらが何だと言うんだ!海賊だぞ!!」


ローを解放しようするヴィオラを止めたのはリク王。
彼は“海賊”には恨んでも恨みきれぬ遺恨がある。
今現に国民を苦しめ、国を恐怖のどん底に突き落としている張本人がそれなのだから。


「お父様、気持ちは解るわ!でも私…彼らに賭けたの!!」
「!?」


ドフラミンゴを王とは認めぬヴィオラにとって、ならば誰を王と考えるかと聞かれればそれはこのリク王。
そしてリク王はヴィオラの父。

大抵の事であれば従ったのであろうが、今のヴィオラにとってこれは譲る訳にはいかない事。


「世界政府が称号を与えこの国に君臨した海賊、ドフラミンゴに私達はこれだけのキズを負わされたのに!今更正義をかかげた海軍や政府なんかに助けて欲しくない!!」


どこかで聞き覚えのある台詞。
何が正義、誰が為の正義…。


実際国内放送であれだけ派手に自らの罪を認めたドフラミンゴであると言うのに、海軍は未だあちら側。
彼を七武海として認めその敵である受刑者相手に、海兵達は今も力を奮っている。


「彼らには聞こえないのよ、自ら出した犠牲者の声が…この国の怒りの声が…!!!権力者の耳は都合よく出来ているから…!!」
「…!!!」


麦わら一味とローの同盟を援助しないのであれば
海軍に助けを乞えとでも言うのだろうか。
リク一族だけでドンキホーテファミリーに立ち向かえとでも言うのだろうか。


「少なくとも彼らの言葉には血が通い!行動は心と共にある!!」


ヴィオラはずっと待っていた。
“ヴァイオレット”と名を変え、殺したくて仕方のない者達と行動を共にし
このチャンスを掴む為だけにどんな命令にも従って来た。
ファミリー達から姐さんと呼ばれる立ち位置に身を置いても、それすらもこの為だけに耐えてきた。

彼らに全てを賭ける、ヴィオラには1ミリの迷いすらない。






「ヴィオラ、近々新世界最初の島、デロアで商人と会談がある」
「…それはあの、シードルのお嬢さん?ブラーヴェ、だったかしら」


彼からそれを聞かされたのは二年程前の深夜の事。
私がドンキホーテファミリーに入った時からずっと続いてきた、何日かに一度呼び出される夜伽の日。


最初こそ恐怖と嫌悪で死んでしまいたくなったその時間。
ただ、人間慣れとは恐ろしいもの。


「あぁ。SMILEの取引開始の記念に…特注で作らせた酒の件でな」
「随分と粋な事するのね。でも相手はあの男でしょう?そういう感覚、解るのかしら」


いつの頃からか、このドンキホーテファミリーのボスであるドフィにも
こうなってしまうだけの過去がある事を知った。


たまに夜中に、魘されて起きる事を知っている。
幹部やファミリー達の前では動じぬ立ち振舞いをしていても、自分の傷に触れる出来事があった日には狂ったように私を抱く事を知っている。

この男も人間。
寂しさや悲しさ、悔しさやもどかしさの昇華の仕方が特殊なだけな、ただの人。


「わかンねェだろう、な。どんな酒作ったのかは知らねェが、心意気は伝わらなくともあの女の酒が一級品でカイドウの好みである事は違いねェ…」
「そう…」


かと言ってならばこの人を許せるかと聞かれればそれは否。
けれど
こうして情事の後に、心を乱さずに肌を合わせ他愛のない話を出来る程度の関係にはなってしまったのだと思う。


「──ヴィオラ、お前“ロー”の事を聞いた事があるか」
「…“ロー”?確か…私より前にここに居たファミリー…だったかしら」


月明かりの中、見上げたドフィの顔からは表情が読めなくて
ただ私の言葉を肯定するように頷いただけだった。


「取引にそのローが絡んで来る可能性がある。久しく会ってねェからどうしてンのかは知らねェが…良い噂は聞かねェな」
「そう…それがどうかしたの?」


素知らぬフリをしたけれど、本当はよく知っている。
ドフィの弟であるコラソンと、珀鉛病の少年、ローの話。
彼らと何があって、どんな経緯で彼らがここを去ったのか。







仲間になったフリをしながらも
ずっと復讐の機会を見計らってきた。

コラソンは亡くなってしまったようだけれど、ローは生きて“最悪の世代”とまで言われる程の海賊となり同じこのグランドラインに居る。
僅かな可能性だとしても、彼はドフィを恨みこの国を救ってくれる可能性を秘めた人間。

どんなに今が苦しかろうと
身を潜め生き伸びているお父様やレベッカ、そして志を同じくして不本意ながらドフィの下に付いた国王軍達の為にも…私が諦める訳にはいかない。


「お前の能力を借りたい。──身構える事はねェ、ただ可能であれば、ローの頭の中がどうなってンのか…知れたらと思ってな」


この男が私を抱くのは、愛や特別な感情故のものではないことを知っている。
その証拠に、ドフィにとって重要な相手の頭の中を覗く任務をこうしてたまに与えて来る。

それは身分を隠し対象に近付き、色仕掛けで油断させた男の目を通し本心を覗く任務。


「…分かったわ。上手くいくか分からないけど」
「フッフッフ…!お前の色香に落ちねェ男はまずいねェ」


それを言い渡される度に気落ちしたけれど、それはこの男を愛しているからではない。


人として、女として、ファミリーとして、幹部として
私はいつまで経っても元国王の一族として見下されている事を痛感するから。

ドフィは見た目が幼女のシュガーや年配のジョーラは兎も角
私と同じような年齢のモネやベビー5にはこんな任務も与えなければ、自分の相手もさせない。


「機会があればで良い。もし機会がなけりゃ、お前も休暇とでも思って好きに過ごせ」
「お言葉に甘えて。そうさせて貰うわ」


この定期的な夜伽の時間は、真に仲間と認めた訳ではない事を私に知らしめさせる時間なのだとある時悟った。


でも良いの。


私だってこの男も、ファミリーも、仲間だなんて思った事は一度もない。
こんな扱いのお陰でチャンスに触れる事も出来るのだから。


カイドウは例外。
あれは思考が普通と違ければ、自分に便利に動くドフィに悪い感情等微塵も抱いていなかった。
でもローには初めから、僅かだけど期待をしていたのは事実。







二年も月日は経ってしまったけれども
まさか本当にあの時の彼がこの国を救う光となってくれるとは、ここまでやってくれるとは
──当時の私は思いもしなかった。





destruct at reality.