16-59
ディアマンテは、優雅に歩きながらレベッカの後を追う。
本気で追わずとも追い付け、そして逃がしはしない獲物相手だからこその余裕。
彼は楽しんでいた。
弱者が己から必死で逃げようともがく姿を。
一部の愉快犯にとって、死ぬ間際の人間が見せる様は何よりのご馳走。
疲弊させ、痛ぶりながら少しずつ獲物を弱らせたディアマンテは遂に
スカーレットの命を奪った銃をその娘、レベッカへと向けた。
斬り付けられ、動けぬ状態で己の止めを刺すだろう相手を見上げるレベッカの目には
恐怖や生への執着、仇への恨みや果たさねばならぬ役目、そして──
父とは知らぬまま守られて過ごした“おもちゃの兵隊さん”に娘として会いたいという願いが、混ざり合い渦巻いていた。
ガチャリと撃鉄をおろす音に更に濃くなる恐怖の色。
レベッカがもうダメかと諦めかけたその時
「家族を二人も…奪われてたまるかァ!!!!」
絶体絶命のピンチを救ったのは、ルフィにと準備されたバリアの階段をルフィを押し退け我先にと駆け上がったキュロス。
完全に油断していた所を斬り付けられたディアマンテは、続いて四段目に姿を表した2つの影に驚愕する。
無事レベッカから鍵を受け取り海楼石の呪縛から放たれたローが一瞬で、追っ手をかい潜って来たゼンマイ仕掛けのおもちゃをアンピュテートでバラバラに解体した。
「ドフラミンゴは任せていいか!!」
「「勿論だ!!!」」
レベッカの母の仇ということは、キュロスにとっては妻の仇。
このドレスローザの平穏を取り戻す為には、ドフラミンゴを討たねばならない。
しかし──
キュロスにとって、この相手こそ“必ず自分が”討たねばならぬ相手。
「じゃあここは任せるぞ!兵隊!!」
「ああ」
父とは名乗れず、傍にいながらずっと寂しい思いをさせて来た娘が今
背後で己を父として見上げている。
キュロスにとって、それだけで百人力。
「俺達はドフラミンゴの所へ!!行くぞ麦わら屋…“ルーム”!!」
「行こう!!」
ひまわり畑にて、キュロスとディアマンテのカードが激突する。
そしてそれと同時に
ルフィとローは遂にドレスローザ王宮内へと足を踏み入れた。
「わ!ここ王宮か!?…便利な能力だ!」
一面真っ黄色の花畑は一変し、王宮内部へ無事侵入出来た。
久しぶりの海楼石のない身軽な体。
腹の傷は痛むが数刻前に殺されかけて今がこれなら大分マシな部類だろう。
「その分体力を消耗する。錠が外れずお前にここまで運ばれたのは…不幸中の幸いだったかもな……ウッ」
「え!?どうした!?」
体力云々は置いておいたとして、気になるのはずっと放置していた撃たれた傷口。
「ハァ…ハァ…、オペをした…。…わざわざ鉛弾を…あの野郎…!!」
「そんなことも出来んのか!お前すげぇな〜!!」
腹の中に埋まっていた銃弾は3発分。
これだけ撃たれて放置したにしては、血を失った感覚が薄かった。
それに合わせて──気を失う前に感じた熱と肉の焦げる臭い、そして“あの”夢。
あの状態での覚えなんてものは、いくら我が身に起きた事だとしても正直アテにならねェ。
だが──
傷口は丁度局部的に、何かで焼かれた形で止血されていた。
「まさか…な」
「ん?どうした?……何だあのコドモ」
なんでもねェと麦わら屋をやり過ごし、雑魚兵であろうと極力消耗せずにドフラミンゴまで辿り着く方法を検討していると
王宮の奥から現れたのはまだ幼い女のガキ。
「こんにちは。お兄さん達見ない顔だけど…だぁれ?」
「俺はルフィ!海賊王になる男だ!!」
「バカ!!お前は少し危機感を持て!!」
敵陣のど真ん中で、いくらガキ相手だろうと堂々と名乗り出す麦わら屋に
相変わらずブレねェなと頭を抱えた。
にしても…だ、誰だこのガキ。
今王宮に居る時点でファミリーの関係者である事は確実。
見た目で油断するのは旨くねェ。
「かいぞく!!凄い!カッコイイ!!ねぇ、私のおやつ分けてあげるから、冒険のお話聞かせて?」
「あ?何だブドウか〜。俺は肉が食いたいんだ!!」
「オイ麦わら屋…さっさと上に──「きゃぁぁああああああ!!!!!!!」
「「?」」
なんだ?
「シュガー様ァ!!!」
「大変だ!また気絶を!!」
謎のガキに絡まれ、ふと追い風と共に黒い影を見た気がすれば
ガキはすげぇ顔面で金切り声を上げ失神。
よくわかんねぇまま、ガキは見るからにモブっぽいファミリーに運ばれ王宮の奥へと消えて行った。
「なんだァ〜??」
「知るか。…あっちに侵入がバレてる可能性がある以上、上まで直行するぞ」
麦ワラ屋の腕を掴み一応確認の為その顔を覗き込めば、ガキに肉を要求した時とはまるで顔つきの変わったそれがただ黙って頷いた。
「一応…聞いておこうか。万が一って事もある…二人ともここに何をしに来た?」
王座の間は、さっき現在の主が壁ごとぶった斬ったせいで見晴らしの良い屋上へと変貌を遂げ
その中央には設えられた椅子に腰掛けるドフラミンゴと、その後ろに控える最高幹部、トレーボル。
シャンブルズで姿を現した俺らにさして驚いた様子もねェとこを見ると
やはり侵入は既にバレていたようだ。
「お前をぶっ飛ばしにだ!!!」
「同じだ」
「そうか──重ね重ね…失望したよ」
さっきも思ったが
評価を求めていない相手に上から目線で品評されるというのは中々に不快だ。
あれだけの事をしておいて、未だに上司ヅラ出来る神経を疑う。
「丁度俺も用があった。…お前らのやってきた事を考えてみろ。用件は…言うまでもねェよなァ…!!?」
まぁ…
全部が全部細部まで合致してるかは知らねェが、キレてるからこその“鳥カゴ”で“ゲーム”。
不都合そうな事を狙ってやってきたからには、覚えは十分過ぎる程ある。
乗せられてはいけない。
こいつのこの手口に乗ったからこそ、さっきは負けた。
好きに言わせておけ。
「極めつけがコレだ。俺のクビを取る気だ?…バカにしやがって──まるで13年前の絶望を再び味わっているようだ!!」
そうは思えど
13年前のアレを、自分に非がねェとでも言いたげな口振りに
冷静を努めていた感情が暴れ出す。
「あの事件がなけりゃ!俺はこうしてお前の前に現れる事もなかった!!!」
今起こっている事の全ての発端はこの男。
13年前お前がコラさんを殺さなければ
血を分けたのと同じように、コラさんの優しさが少しでもお前の中に流れていれば
こんな悲劇は起きなかった。
「あの事件がなかったら、お前は3代目コラソンとしてここにいたさ!!──“影騎糸”!!!」
「!!」
間をおかずに返ってきた言葉と、現れたイトの分身。
あぁ、こいつと話すだけ無駄かと
やはりこの男を止められるのは力だけだと確信し
鬼哭を握りしめ足を踏み出した。
ガキィィンっ!!
ガン!ガンっ!
「くっ!!」
本体じゃなかろうと、これを動かしてンのはドフラミンゴ本人で扱う能力も同じもの。
即刻負ける事はないものの、これをさばいて本体に辿り着くのは正直厳しい。
「じゃぁ俺が!!本物の方だ!!!」
「べっへっへ、まずは俺が相手だ麦わらァ〜!!!」
しまった…。
麦わら屋にトレーボルの能力を話し忘れた。
「え!?どうなってんだ!?武装色で当たらねぇ!!」
「麦わら屋そいつは──ガキィィインっ!!!
「おいおいロー…戦い中に余所見とは随分と余裕じゃねェか」
くそっ…!!
「ムッダッだ〜〜!!べっへっへ〜〜!!」
「“ロギア”じゃねぇのか!!?パンチが当たんねぇ!?くっそ〜!!!」
なんたる不覚。
麦わら屋がトレーボルの能力を知らねぇ事を考慮してなかった。
アレを倒すには“ロギア”と勘違いしたままでは厳しい。
…俺があっちに回るか?
このままじゃ無駄な鉄砲撃ちまくってやがる麦わら屋を浪費させるだけ…!!
そうは思えど
俺をあっちへ向かわせないように
そして能力をバラさねェように
間髪入れずに攻撃を仕掛けて来るイト人形が中々鬱陶しい。
──そんな中
「トラ男!!もうブッ飛ばす!!!頭に来た!!!」
「──バカ!!“秘策”だと言っただろう!!!」
全く効果の見えねェ攻撃を繰り出すのに嫌気が差したのか
麦わら屋が全速力でこっちへ向かって走って来る。
使い所と
俺の今の状況を考えろ…!!
「てめェ…!!!覚えてろ…!!」
こっちはこっちで手一杯だってのに
相手の情報よりも優先して打ち合わせた“秘策”だってのに
っとにこいつは本当に禄な事しやがらねェ!!!
「んねーねー、ドフィ〜見ろよ!!ローをぶっ飛ばす気だ!!血迷ったか!!?麦わら!!面白ェ!!べっへっへ」
「?」
何発も受けている内に見えて来たイト人形の攻撃パターン。
麦わら屋の向かってくる速さと距離、それを横目で確認し敵の動きと噛み合わせる。
「“ルーム”」
「ゴムゴムのォっ!!!」
──三手後の僅かな間
タイミングはそこだ…!!
「“シャンブルズ”」
「“火拳銃”!!!!」
ゴムの収縮による勢いを付け、武装化された腕がその名の如く
火を吹いた。
ボォォオン!!
「グゥオ!!!」
油断しているドフラミンゴの土手っ腹に十分練られた一撃が綺麗に決まる。
「んべべっ!!?んドォフィ〜〜!!!」
急遽始まった一見すると仲間割れ。
向かってくる敵が居なくなったせいでアホヅラでそれを傍観していたトレーボルが
ボスが目の前で一方的に攻撃を受ける場面へと一変した展開に目を丸くした。
そしてもう1つの“変化”に、やっと気付く。
「──ん?」
それまでドフラミンゴが座っていた椅子に腰かけるのは俺。
麦わら屋の攻撃のインパクト直前に入れ替わった俺とドフラミンゴ。
同じく油断している中至近距離に踏み込まれ対応出来ずにいるトレーボルを
ズババババァ!!!
「“ラジオナイフ”!!!」
「ぬおォオオオ〜〜っ!!!」
バラバラに切り刻んだ。
まだ始まったばかりの序盤、それもあの状況でのデタラメなタイミング。
合わせられなければこの作戦は俺が深手を追うだけの結末に終わっていた。
「最悪だお前は!!」
「お前もその世代だ!!!」
どこか楽しそうにすら見える麦わら屋に舌を打ちつつも、自分勝手過ぎるこの男との共闘に高揚を感じている自分がいる。
膝を付き肩で息をするドフラミンゴの方は流石に致命傷には至ってねェんだろうが、まずは一匹を無力化。
結果は上々。
とりあえずここは多目に見てやるか。
「効いたかコンニャロー!!!」
一応バラしたトレーボルに鬼哭を突き付け、いつでもトドメを刺せる状態で背後に意識を向ける。
ドフラミンゴは立ち上がる様子もなく静かに血を吐き出していた。
「ロ〜!!お前の能力は全てわかってンだ!!“オペオペの実”は元々俺達が欲した能力なんだからなァ!!!──あれ?…あれ??」
“後ろ”は一先ず麦わら屋に任せよう。
構えを解いてねェ麦わら屋に油断の色は見えない。
俺はこの、切り刻まれた体を自分で元に戻そうとしている阿呆に
「“ラジオナイフ”は“アンピュテート”とは切り口が違う…!!数分間いかなる処置でも能力でも──お前の体は接合できない!!」
「え〜〜!!ピ〜〜ンチ!!鼻出るわ〜〜〜!!!!」
さっさとトドメを刺すとしよう。