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「“インジェクション”──」
「やめろォ!!!可愛がってやったのを忘れたか!!くらえ!!“鼻水真剣白刃取り”!!」


こんなくそ汚ェ粘液の邪魔が入ったところで外さねぇ。
急所に一撃、確実に仕留める。


鬼哭の切っ先、それを寸分の狂いなくトレーボルの眉間に合わせた。


これなら即死。
本体とイト人形、俺と麦わら屋
これで本体にも手を出せる。


「“ショット”!!」
「うぎゃ〜〜!!!来るなァアアーーーっ!!!」


噴射する如く、素早い突き。
それは鼻水製の防御ごと切り刻み


ギィィィインっ!!


そのまま進めば、この最高幹部は息絶える筈だった。








「チっ…!!流石…“家族想い”だな…!!」


やはり本体から繰り出される攻撃の重みは格別。
トレーボルを貫く筈だった刀は、ドフラミンゴ本体の蹴りで弾かれ不発に終わった。


嫌味にも動じた様子のねェこいつをどうにかして、ラジオナイフの断面が接合出来ずにいる間にトレーボルを片付ける。
麦わら屋が分身の相手をしている今この状況なら、こっちへのアレの加勢はない…!!


後ろの麦わら屋達の状況を確認したほんの僅かな間だった。


「!!?…トレーボル!!」
「べっへっへ!!!」


しまった──


死角から接近していたらしい粘液の塊が俺の両足を捕え、5本のイトを構えたドフラミンゴが腕を振り下ろす。


「“降無頼糸”!!!」


ドスドスドスドスッ!!


「ウグ!!!」


上空より降り注ぐイトの矢。
急所は避けたものの、内臓がいくつか損傷した。


「トラ男!!」


倒れこみながら見えたのは、俺の名を叫ぶ麦わら屋。


俺はまだ戦える、平気だ。
だから今はトレーボルを──


逃したくねェ絶好の機会。
だが気持ちはあっても流石に声が着いて来ねェ。


イトの矢の何発かが先に打たれた銃痕を貫通し、焼け止められていた血がドクドクと体外へ流れ出るのを感じた。

今度はこっちに気を取られた麦わら屋に、本体と分身、それにイトの連携攻撃が襲い掛かる。


「麦わら屋ァ!!!」
「──俺が一番キライな事を覚えてるか?ロー…!!見下される事だ…!!!」


一方的なタコ殴りの末
どさり、と地に崩れ落ちる麦わら屋の姿に
今自分達が対当している相手の手強さを犇々と感じた。





「てめェらみてェなガキ共に!!一瞬でも勝てると思い上がられた事が耐えられねェ程の屈辱!!!いいか!?俺ァ世界一気高い血族…!!“天竜人”だぞ!!!」


この王座の間に立っているのはドフラミンゴただ一人。
トレーボルも現在ほぼ戦闘不能ではあるものの、ダメージの蓄積で言えば俺と麦わら屋が分が悪い。


「えェ!!?」
「だが!その生まれ持った世界一の権力をある日父が放棄し、一家四人でこの──ゴミの掃溜めのような世界に降りてきた!!何が起きたと思う!!?」


突如始まったドフラミンゴの昔話。
さっきも聞いた気がするこれは麦わら屋は初耳だったようで
頬を石畳に付けたまま驚きの声を上げた。


「10歳にしてこの世の天国と地獄を見た俺は、元凶である父を殺し、その首をマリージョアへ持ち帰った…!!」


酒でも飲みながら話したかったらしい自分の生い立ち。
結局話し出す所を見ると、どうやらこの男は余程そこに執着があるらしい。

驚き聞き入っている麦わら屋の傷は打撃による負傷。
内臓までゴムなのか、どこも出血が見られないその中身に
ドフラミンゴの話そっちの気で感心した。


「だが天国にいる天竜人達は“裏切り者の一族”を二度と受け入れなかった…!!この地獄から出る術はない──その時俺は誓ったんだ」


自分の腹の傷も応急処置で止血はした。
痛みはあるがまだやれる。

さぞ気の毒な身の上話のお陰で、大分休めた。


「こいつらの牛耳るこの世界を…!!全て破壊してやるとな!!お前らの生きてきた人生とはレベルが違う!!!ガキと遊んでるヒマは俺にはねェんだ!!!」


コラさんに出会わなければ
俺はこの身の上話に同情し、悪行にも納得出来たんだろうか。

全く同じ身の上で、こうも違う。


ただ、俺は──
ドフラミンゴの言い分も解る気がした。


「お前らには計り知れねェさ…!!墜ちた天竜人に人間達が“何をするか”!!想像出来るか…!!?人間は皆残虐だ」


自分に何一つ過失すらねェ中で、誰かの都合で全てが奪われる。
人間本当に何もかもを奪われ我が身が脅かされた時
願う衝動は周りの、世界の破壊だ。


こいつは昔の俺だ。
巡り合わせによっては、俺もきっとこうなっていた。


興奮気味に過去を話すドフラミンゴが
ただ哀れに見えた。






「お前からだロー…!処刑を始めようか…!!」
「べっへっへっへ!!んね〜!!」


昔語りは気が済んだらしいドフラミンゴが、麦わら屋をハンマー代わりに石畳を砕き階下へと落とした。

あっちに分身を送ったところを見ると、俺が相手をすべきは変わらず
本体とあと何分かはほぼ役立たずのトレーボル。


「腑に落ちねェ事がある」
「?」


トレーボルの事だけを考えるなら、ここは一刻も早く片付けるべき。

だが本体もこっち側のこの状況…ダルマ落としの如く切り刻まれたトレーボルは、“体”は使えなかろうと“能力”が生きてやがる。
さっきのようなサポートに回られる可能性を考慮すれば、焦って攻めいればこっちが不利。


「マリージョアから墜ちた元天竜人のお前に、なぜまだ権力がある…!!お前は今朝、“世界政府”を動かした!!」
「──フフフ、そんな事…死ぬのに知りてェのか…?」


休めれば休めるだけ、僅かではあるが回復も出来れば
隙やチャンスが生まれる機会も増える。

こいつがベラベラ話す内容に、何かしら有用な情報がある可能性もある。


「俺が聖地マリージョア内部にある“重大な国宝”の事を知っているからだ!!それは存在自体が世界を揺るがす」


国宝…?

マリージョアにそんなものが存在する事は噂ですら聞いたことがない。
だがこの話が本当だとするなら、そっちの方が逆に信憑性は増す。

相当ヤバい何かが、マリージョアにはあるって事か。


「あいつらにとって俺は最悪のカードを持った脱走者。殺そうにも死なねェ俺に天竜人達は実に協力的になった…」


取り敢えずこいつはやろうと思えばいつ何度でも今朝のような事が出来るって事は理解した。
次があるかは疑問だが、情報としては悪くない。


「──更にお前の“オペオペの実”の能力があの日、俺の手中に入っていたら…マリージョアの国宝を利用し俺は世界の実権さえも握れていた!!!」


……。


これはどこからどこまでが真実で
どこからがこの男の妄想なんだろうか。


全てが事実であるなら、あらぬ疑いを被せて申し訳なくも思うが
入ってくる新しい情報が現実離れし過ぎたスケールであることと併せて、この突き抜けた自己の尊重。


ここまで来ると正直、力を得てしまった自己愛性パーソナリティ障害患者としか思えねェ。








「それ程利用価値のある能力なんだ!!お前は知ってるのか?古来よりの人類の夢さえも叶う…“究極の悪魔の実”と呼ばれるに至った技を…!!」


やはりそれか。

寧ろ俺には
他にこいつがオペオペの実を欲する理由が思い浮かばなかった。


「…あぁ、知ってるさ。俺は興味ねェがな。人に永遠の命を与える不老手術──だがそれをやれば、能力者当人は命を失う」
「フフッ!!そうさ!!お前に食わせる気はなかった!!恩を仇で返しやがって!!!」


両の手の指の数…
10本のイトの刃を纏ったドフラミンゴが地を蹴り上空へと跳んだ。

休憩は終わりらしい。
恐らくあのイトでの連続攻撃。


腰を落とし鬼哭を構えた。


「お前に世界のいろはを教え!!」


ギィイン!!
ギキィン!!

相当頭に来ているのか、動きも粗けりゃ力任せ。
大振りのそれはさっきより重いものの、見切り易い。


「戦闘の全てを叩き込んでやったのは俺達だ!!!」


ギィンっ!!
ガキィン!!


俺がこの男の過去が理解出来たように、この男も俺の過去を理解出来るんだろう。

だからこそ期待され
育てられ
オペオペの実を食わせる対象から外された。


「あぁ!──そして今があるのはコラさんのお陰!!」


勝手に期待され、失望され、ぶちギレられたところで迷惑だ。
俺が選んだのはお前じゃねェ…!


「感謝してるよ、この力でお前らを討ち取れる!!!…“ルーム”!」


優しさと命をくれた、俺の自由を望んでくれた
コラさんだ!!!


「モンキー・D・ルフィをどう思ってる!?俺は今日初めて…お前が天竜人と知った」


攻撃を受け流しながら
手首のビーズを千切りドフラミンゴの後方へと弾く。

タイミングは受けた直後より、その直前。
過去を思い怒りで冷静さを欠いているこの男の一撃は重い分、空振りだろうと歯止めが利かない。


「“シャンブルズ”…“D”をどう思ってる!!?」


想定通り寸分の狂いなくウイのビーズを砕くこの男の背に


ドスッ!!


コラさんの果たされなかった渇求を込めた刀を突き刺した。







腹に突き刺した筈の刀が…抜けねェ!


やたらと筋肉の発達した人間は、いくらか腹筋だけで刺さる異物を留める動きを見せる事がある。
だがこれはそんなの比じゃねェ力。


「っ!!」
「お前には関係ない!!ならば“麦わらのルフィ”は…!運命に導かれて…!!神の血を引く俺の首を取りに来たってのか!!?」


土手っ腹に突き刺したと思っていた鬼哭は、武装化したヤツの手でしっかりと握られていた。

多少出血している所を見ると、ヤツの咄嗟の武装よりは俺のそれが勝っているらしい。


だが──


「バカバカしい!!」


血が流れるのも構わずに鬼哭ごと俺を引き寄せ、顔面目掛けイトの刃を繰り出してくるこの男に腕力が及ばない。
やむを得ず鬼哭を手放し、両の手を武装化しそれを防いだ。


ギリ、ギリリッ!!


さっきは言わなかった。
さっきはここまでの決意もなけりゃ、目的も違った。

だが──今は違う!!


「俺も“D”だ」
「!!!」


見るからに動揺を示したドフラミンゴが近距離での攻めぎ合いを拒むように、力で押し切り俺との距離を取る。


昔コラさんに言われた事、寧ろ…
コラさんはそれを知ったからこそ俺を気にかけ優しくしてくれたのかもしれねェ。


「お前が“D”!!?隠し名か…!!お前がここへ来たのも運命とでも言いてェのか!!?」











俺の“正式な”名前は──
トラファルガー・D・ワーテル・ロー。

家に代々伝わる名らしいが、これは人に言ってはいけないものだと幼い頃に教わった。
あの優しい両親から引き継いだ名前が、この狂暴で凶悪な生き物の天敵とは俄に信じ難い。


ガキン!!キィン!キン!!
ガンッ!!


さっきより見るからに余裕をなくしたドフラミンゴが、力と勢いだけ増した攻撃をただがむしゃらに繰り出してくる。


「コラソンはお前に何を吹き込んだ!?“D”なら俺を止められるとでも!?“天敵”なんざ迷信だ!!」
「オイオイドフィ!気を付けろ!!ローの能力圏内だっ!!」






『“D”の一族は神の天敵。ここから出ていけ、お前はドフィの傍に居ちゃいけねェ』


全ての発端は確かに、コラさんのあの言葉だった。


1891


destruct at reality.