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だが違う。
俺がこの男をブッ殺そうと思ったのは俺が“D”だからじゃねェ。


トレーボルに注意を促される程、傍目に見ても焦燥感の滲み出るドフラミンゴ。


「“インジェクション──ショット”!!!」


何にも遮られねェ鬼哭は今度こそ、ドフラミンゴの腹を貫いた。


「コラさんも百も承知だ──名前一つでお前に勝てりゃ世話はない。それはただのきっかけだった…」
「ガフッ…!!」


この男があの日、コラさんを殺さなければ
俺の意志だけでここに来る事は決してなかった。

俺を守る為に命を落としたコラさんの願いが
この男を止める事ならば


「俺は…優しいコラさんが“あの日”引けなかった引鉄を!!代わって引きに来ただけだ!!!」


だからこうしてここまで来た!!


片膝を付くドフラミンゴに、畳み掛けるように次の一手を整える。


「“アンピュテート”、──“タクト”!!」


王宮の外壁塔のひと隅を切断しその標的はドフラミンゴに指定した。


「うお!!んねー!!飛んで来るー!!!」


ラジオナイフの効力は切れたようで、いつの間に体を元に組み立て直したトレーボルは慌ててドフラミンゴから離れるように駆け出す。


これで潰されてくれンなら、それはそれで有り難い。
だが恐らく…こいつはこれを回避する。


「“蜘蛛の巣がき”!!!」


王座の間とほぼ同じだけの大きさの外壁塔の欠片。
それは丈夫過ぎる蜘蛛の巣の盾に阻まれた。
しかし自重で粉砕されたそれは、瓦礫の山へと姿を変える。


「──まだだ…!“タクト”!」


防がれたデカイ一撃は無数の攻撃手段となりドフラミンゴに襲いかかった。


イトイトの実はロギアじゃねェ。
実体を消せねぇこの男は、武装化でダメージは緩和できたとしてもすり抜ける事は不可能。

…足止めで良い。
気を散らせられればそれで良い。

咄嗟の武装化であれば、俺はそれを上回れる事を立証済みだ。


案の定、基本的には瓦礫を避け、避けきれねェものは武装化で防ぐドフラミンゴは大したダメージも追わずにそれを回避していた。


だが向かってくる瓦礫を把握しているのならば、
背後を取るタイミングは予測出来る。






“シャンブルズ”。


やはりこの男は、脅威になり得ねェサイズの石クズは眼中に入れていないようだ。


「“メス”!!」


届けば心臓を抜ける。
俺の武装色の覇気はこいつを上回る。

どんなにこいつの身体能力が、覇気が、悪魔の実の能力が手強かろうと
抜き取られた心臓は無抵抗な上に命の要。


この男に勝てる…!


一瞬──ドフラミンゴの趣味の悪ぃ派手なコートに指先が触れた。


「!!!」
「無駄な攻撃を繰り返すんじゃねェよ。すっかり根性丸出しの熱い男になっちまいやがって…これは何だ?あの商人の…“ウイ”の方の影響か?」


しかし、それが左胸に届くより前に、右手首はドフラミンゴに掴まれ捻り上げられた。


空中戦でも特に不都合のないイトに支えられているらしいドフラミンゴと、シャンブルズでの高速移動以外にそこに留まる術を持たない俺。
メスを繰り出す為に瓦礫に使ったタクトも解いたせいで、腕一本で吊し上げられ為す術がねェまま目の前の男を睨み付けた。


「俺は今の自分に悔いる部分なんて1つもねェっ!!誰にどう影響されたとしても!それは俺が選んで望んだものだ!!」
「随分と俺を批判してェようだが…コラソンはともかくあの女…ウイは今のお前よりは確実に、俺や昔のお前寄りなのを理解してンのか?」


胸くそ悪い言葉に、無意識に眉根が寄る。


ウイがお前に似てるだと?
どこがだ。


出会ってからの年月も過ごした時間も、乗り越えてきたものの数も
何もかもが俺に及ばないこいつに、知った風な口を利かれるのは胸糞悪ぃにも程がある。


「そのツラ…腹の中身が筒抜けだと言ってンだろ。…あの女が腹に抱えた闇は計り知れねェ。普段抑えてる分、タガが外れりゃ俺なんかよりよっぽど──「お前にウイの何が解る!!おまえの価値観なんか聞いてねェ!俺は俺が見たもので判断する!それが俺にとっての事実だ!!」


何を言おうとこの体勢では説得力もクソもねェのも
何でこれに対して煽り耐性が低すぎるのかも、止められねェが解ってる。


さっき井戸で言われた言葉。

俺はこいつが話す“ウイに関する事”に
異様に過敏になっている。






「──何とかは盲目ってか!?現実から目を逸らしてンのはお前だ…ロー!!お前が描いてる“理想”とやらは“未来”なんかじゃねェ!」


苛立ちが止まらねェ。


こいつの言葉に耳を貸すな。
もう十分解った筈だ。
まともな話し合いが通じる相手じゃねェ。

どんなに筋の通った正論をぶつけようと、ずっと欲しかったコラさんへの謝罪、悔い改めの言葉がこいつの口から沸いて出ることはない。
犯した罪の重さに気付き、後悔で心を痛める事も…。


無駄だ。
まともじゃねェんだ。
相手にするな。

落ち着け…!


「お前がもし本気で俺を殺したかったのなら、カイドウと俺をぶつける作戦だけに終始すべきだった。敵わねェ敵を消す方法はいくらでもある…!!」


出来るものならそうしていた。
出来ねェから、かと言って諦める訳にも譲る訳にもいかねェ事だから
軌道修正し選べる中の最善を尽くしこうなった。


「──だがこの有り様。感情を露にし、俺に直接一泡ふかせようと思った瞬間…おまえの“死”は確定した!!覚えてるか?あの時の“文書”」


感情的になった事は否定しねェ。
あの日の事も…忘れられる訳がねェ。


血まみれで瀕死の重症を負いながらも、海賊と海軍の取引の裏をかきオペオペの実を手に入れて来てくれたコラさん。

少し止血に時間が要るからと
その間海軍に筒入りの文書を届けてくれと
あの時コラさんは俺にそう言ったんだ。


「コラソンはこのドレスローザを救おうとしてたんだ!!お前があの日ヘマをしなけりゃ、この国に降り注いだ数々の悲劇は起きなかったかもしれねェ…」


それを俺が…
既に海軍に潜入し顔も知らなかったヴェルゴに渡しちまった。

そのせいで文書は海軍に届く事もなく、重傷のコラさんの居場所もコイツらにバレた。

コラさんに関して言えば…無知とは言え全て俺の責任。






ただ──それに関してはもう十分悔いた。
足りねェならまだ後で、いくらでも悔いよう。

今はそこに囚われるべき時じゃねェ。
そして、ドレスローザに関して言えば


「……“お前が”そう思うのか?」
「!…フフフフ、フッフッフ!!流石にそこまでは馬鹿にもなってねェか。その通りさ!!」


これを悲劇と称しその責任の所在を決めるのであれば
“この男”が“他の誰か”にそれを押し付ける時点で見当違いも良いところだ。




「俺に言わせりゃあの“文書”がどうあれ作戦を変えこの国の王座にはついた!!──コラソンが命を賭けてやった事は結局全てムダだった」


この男の言葉に一々腹を立てている時点で、結局俺はこいつの一挙一動に影響される程度の器な訳だ。


俺が死ねば、この男の主張が残り
この男が死ねば俺の主張が残る。


「──何度も言わすな。それはこれから俺が決める!!俺が死ぬまでにやる事の全てがコラさんの遺した功績だ!!!」
「成る程。そりゃ泣ける話だ…」


ここでいくら何を言い合おうと
こいつを負かさねェ限りは何も分かりやしねェんだ。


「どんな悲劇も失態も…起きちまった事だけが現実…!」


ドフラミンゴの左足のアキレス腱に、キラリと光るイトが見えた。
それを吊し上げられている側の肩に押し付けられ、咄嗟に危険を察知し全身に焦りが過る。


それを見たヤツの顔は愉悦を湛えたように歪み、振り上げた足はそのまま





──勢いよく降ろされた。


「ぐわァアア!!!」


腕一本で全身を支えていた筈の重みが消えて
落下する以上の速度で落ちていく重心は、ただ手を離されただけではない事を物語る。


ドォンッッ!!


何より


「うわああああああぁぁあ!!!」
「お前が“オペオペの実”を食って逃げた事も!パンクハザードで俺に牙をむき!今ここにいる事も!!」


右腕に走る焼けるような痛み。
そしてその先の、“あった筈のもの”が存在しねェ妙な感覚。


「べへ〜〜っ!!やりやがった!べっへへへへ!!!“糸ノコ”!!“糸ノコ”!!」
「フフフ!何に感化されてか…お前が直接俺に挑んで来たのも、起きちまった現実!!──だから俺は許す!!!」
「あああああああああぁっ!!!!」


熱、痺れ、冷や汗、激痛──


ただ、じっとしてられねェ。
それで痛みが緩和される事等ある訳もねェのに
声を抑える事もできねェ。


「実の父と弟を“許した様に”…!“死”をもってな!!!処刑はやはり鉛弾に限る…!!」
「くっ……!!!」


右の上腕。

遥か上空から叩き落とされ王座の間へと戻って来た俺は
夥しい量の血液が濡らすそこを左手で抑え、銃口をこちらへ向けるドフラミンゴを睨み付けた。


痛む患部より先に、いつも鬼哭を握っている手はなかった。





「“白い街”という地獄に生まれ…未来等ただの暗闇だった幼少期。コラソンに出会い寿命を引き伸ばされるも、まるで奴の亡霊かの様に俺を恨み…復讐の為に生きてきた…」


痛ェ事は痛ェ…ただ、痛みの峠は越えた。
心臓がそこに移動でもしたんじゃねェかって程に、右腕が、右腕だった場所がドクドクと脈打つ。


何の為かは知らねェが、再び始まったドフラミンゴの語り草。
人を亡霊呼ばわりとは気に食わねェが、時間をくれるのは有難い。

この隙に応急処置で止血させて貰う事にした。


「実に意味のない13年間…折角他のゴミクズ共と同じような人間らしい感情でも学んだかと思えば、結果はコレだ。──同情するよ。」


ごみ屑…か。
それはどう足掻いても消えようもなく、6年前からずっと俺の中に居座り続けるこれの事を言ってるんだろうか。

確かに綺麗なもんでもなければ、便利で都合の良いもんでもねェ。


──ただ…
さっきのアレが夢か妄想…いや、万に一つの可能性で現実だったとする。

俺の処刑前の余興らしき口上を述べるこの男が言うように
俺の勘が訴えるように
ウイの気持ちの先は火拳屋に向いていたとする。










なら尚更、俺はあのバカを放っておけねェ。

アイツは人を内側に踏み込ませねェ癖に
病的に強がりな癖に、本当は誰よりも弱ェ人間だから。



腕一本失ってまで、それでもアイツの元に戻らなきゃいけねェと思わせられる程には
ごみ屑が抱くその感情ってもんは悪くはないらしい。


「──今からお前は“間違いなく”死ぬ…!!救いのねェ犬死にだ…!!だがどうせ死ぬんだ。利のある最期にしないか?」


まだ…“それ”を諦めてなかったか。


「俺にオペオペ究極の業…“不老手術”を施し、そして死ね…!それと引き換えに…俺はお前の望みを何でも叶えよう…!!!」






どれだけ素晴らしい名案を述べてるつもりかは知らねェが、その身振り手振りの大きさには尋常じゃなく痛む腕を抱えながらでも
呆れるに十分だった。



舐められるにも程がある。

価値観の、人間性の相違。
それはもう埋められねェこいつと俺の間にある溝だ。
だが──


これまでのやり取りを
お前が俺に、俺の恩人であるコラさんにしてきた事を思い返してもみろ。

ここでお前の為にそれをするってのは、どんなカスだ…!!

1896



destruct at reality.