16-63
及ばねェ事を認めるのは正直癪だ。
見えねェ時は、実際に対当しねェ内は
計り知れない強敵相手に勝つ事を、越える事を想定して力を磨いて来た。
実際にこう何度も痛手を負わされ
与える事が出来た数発の攻撃すらも、真っ向勝負とは言えねェ裏をかいてやっと叶った程度のもの…
圧倒的な力で捩じ伏せ、及ばぬ力の前にひれ伏すドフラミンゴが見たかった。
だがドフラミンゴが言うように
──“勝つ”為には、認めなければいけねぇ現実ってもんは確かに存在する。
死体に処刑を代わって貰い、その後聞こえた銃声は8発。
後半は殆どが心臓目掛けた銃撃で、夥しい量の血が俺の服を纏う体の周りを埋め尽くしていた。
完全に死んだと認識してか、視線すら寄越さねェあいつらを尻目に元の位置へと戻り麦わら屋を待つ間
よく言えば裏をかく、悪く言えば騙し討ちのプランを脳内でシミュレートしていた。
どんな手を使ってでも…勝って戻らねェといけねェ。
例え捩じ伏せた後に卑怯だと罵られようが、勝ち方に拘るのはやめにした。
そんな事を言えるレベルに、俺は達していない。
分身を倒し上がってきた麦わら屋は俺の一見死体にしか見えねェ状況を見て、予想通り怒りに震え動揺してくれた。
有り得ねェとは思っていたが、全くスルーされでもしたらどうしたものかと少しぐらいは心配したもんだ。
そして麦わら屋に伝えた、2度目の合わせ技の概要。
それがこれだ。
「消えるのはお前だドフラミンゴ!!──“ガンマナイフ”!!!」
「──いけっ!!トラ男!!!」
「ぐおあァアーーーーっ!!!!」
ガンマナイフは内側への攻撃。
外傷こそねェものの、この技は体内から人体を破壊する。
「なぜ生きてるてめェ〜〜!!!なぜ“ルーム”もないのにオペオペの攻撃を!!?」
「ここは“ルーム”の中、さっきの粉塵に紛れ目の届かねェ程の巨大な“ルーム”をずっと張り続けてた…!!」
メスよりも集中力の要るこれを武装しながら行うのは困難。
だからこそ事前に発動するだけの状態で構えておく事と、麦わら屋の繰り出す攻撃とはズラしたタイミングで意表を突く必要があった。
俺がこの男にダメージを与えられるとしたら、もうこれしかなかった。
「ガフ!!」
体内で進行する破壊は、誰にも防御出来ねェ
即ち──これならこの男も耐えきれない!!
「ドフィ!王たる者これ以上ヒザをつくなァ〜〜!!」
血を吐き膝から崩れるドフラミンゴ。
これは効いている証。
「…やってくれたな…ゲホ、ロォー!!!」
相当キツそうではあるが流石だ。
苦しみもがきながらも執念でイトの刃を出したドフラミンゴの手が
俺の頭を掴もうと震えながらも伸びてくる。
だがしかし
この男のしぶとさを理解しているからこそ、少しでも体内の破壊を進行させてェ思いがガンマナイフのオペを続ける左手をヤツの心臓から離すのを拒んだ。
「“ゴムゴムのォ──JETスタンプ”!!」
「おォ!!!」
ガシャァン!!
「ドフィ〜〜っ!!」
俺の意図をくんで尚、自分の主張も通したのか
麦わら屋はイトの刃が触れる直前でドフラミンゴを蹴り飛ばし俺の命をまたもや救った。
そのまま駆け出しトドメを刺そうとするのは
「待て麦わら屋!!…ハァ、あいつだけは…!!!」
「おい!!…動けんのか!?」
自分の足で立つことも出来ず這いながらも止めさせて貰った。
ここぞという正念場でなければ、攻撃するどころの状況じゃねェ。
いくら応急処置を施そうと
失った腕と血液、それに回復しきらねェ傷の積み重ねは確実に体を蝕んでいた。
「ゼェ…ゼェ、……“ルーム”。…ドフラミンゴ、お前は──もう助からねェ…ガンマナイフは外傷なく内臓を破壊する…」
王座の間が屋上ではなく“広間”だった頃の壁、そこに打ち付けられ瓦礫に埋もれるドフラミンゴ。
俺も満身創痍だが、それはこいつも同じだ。
「ウ…!!」
「医者が言うんだ、間違いない…」
「ぐぬぬぬ…おのれロ〜〜!!ドフィに何をし──ぶほゥっ!!!」
例え相手が死にかけであろうと、散々苦しめられた強敵を前に
同じく死にかけの頼りない人間に最後を任せる事など普通しねェだろう。
それもあれだけ『ドフラミンゴは俺が倒す』と言って聞かなかった頑固者が、だ。
自分なら俺の数倍早く動けただろうに、手を出さねェでいてくれて
更には割って入って来ようとしたトレーボルは牽制してくれる。
普段空気が読めねェアレはわざとなのかと思いながらも、立ち上がり息を整え
未だに起き上がれずにいるドフラミンゴを見下ろした。
「てめェは…自分に都合の良い存在を家族と呼び!お前の暴走を止めようとした実の弟コラさんは射殺した…」
「…ああ…裏切られ…残念だった…ハァ、──俺に銃口を向けるとは、な」
どこまで行っても平行線。
この男と意見が交わる事等ねェことを嫌って程思い知って尚、どうしても言いてェ事が一つだけあった。
「コラさんが引鉄を引かない事をお前は…知ってた。俺なら引けた」
「フッフッフッフ!!だろうな…ゲホ…!!どれだけ変わる事を願おうと、おまえは俺と同類だ…だからこそ同じものを持つ、ウイに惹かれる…」
他の部分はもう良い。
好きに言え。
確かに俺はコラさんみてェに心の底から綺麗な人間じゃねェし
抱える闇がありながらそれを表に出しもしねェウイだからこそ、俺がどうにかしてやりてェと思った。
「…ああ、それで結構だ。そこはもうお前の思う通りで良い…だが、あの日死ぬべきはお前の方だった!!!」
だがどうしても、これだけは言わねェと気が済まねェ。
例えそれが、理解も共感も、納得もされなくとも…!!
「…お前の聞きてェセリフを言ってやろうか、ロー…俺にとってコラソンは……足手まといで目障りだった…!!あの日ブチ殺してせいせい──「“カウンターショック”!!!」
感情的にならねェのは、拘りのある事程難しい。
頭ではそれが利口ではないと理解していても
激情が己を突き動かす。
「ウグ!!!」
「…!!くたばれ!悪魔野郎!!!」
「ドフィ〜〜!!!」
もう機能を維持出来ねェ程に破壊されたであろうこの男の内臓。
まだ絶命しねェのであれば、この一撃でトドメだとばかりに
今撃てる最大の電圧でそれを撃った。
頭に血が昇ったのも
大声を出したのも
能力を使ったのも
きっと今のこの体には致命的なダメージを与えた筈。
倒れたドフラミンゴの心臓に向けて放った電流が霧散するのと同時に
しゃがみこんでいる事にも耐えきれねェ体がそのまま後方へと倒れ視界が空へと切り替わる。
俺は出来得る事の全てを出し尽くした。
それなのに──
視界に広がる青空との間には、たった数ミリの自由を阻む檻が今も尚
行く手を阻むように立ち塞がっていた。
「え!!?」
「流石だ我らが王!!」
空が“晴れない”から
なんとなく嫌な予感はしていたんだ。
原理は分からねェ。
普通の人間ならまず、生き延びられはしねェ筈。
だが、奴の生存を示すあの檻は消えねェから。
「時間さえくれりゃあ、俺は自分で応急処置できる…!俺の体内では今…イトによる内臓の修復作業が進んでいる」
「…!!何、だと…?」
まさかそんな技をも習得していたとは…
医者でもねェこいつに
人体も臓器もそれを形成する細胞の仕組みをも理解してねェ人間にそんな事が出来る筈がない。
だが“イト”という形状、そしてそれを体内で自在に操れ尚且つ、逆を返せばそれらの知識があれば
理論的には可能である“この”言葉の信憑性は高い。
「能力は使いようだ…回復とは少し違うがな。自爆ご苦労…!!息の根くらい止めてやるよ!!」
「くそォ!!!」
もう、お手上げだ。
ガッ!!!
「…っくそォ…」
情けねェと思いながらも
体も動かなければ残った左腕で覆い隠した両目からはとめどなく涙が溢れて来る。
指の隙間から見える滲んだ映像は、頭目掛け降ろされようとするドフラミンゴの足を
同じく足でとどめる麦わら屋の姿。
巻き込み、過信と意地で振り回し
それなのに何度も俺は麦わら屋に救われた…!!
情けねェ…!
本当に、自分が情けねェ…っ!!!
結局俺はドフラミンゴの言うように
13年という時間を、身の丈に合いもしねぇものを望み無駄に生きただけの
ゴミみてェな存在だった…!
コラさんが命を賭けて生かしてくれたのは
そんな価値のねェ人間だった…!!
泣いたのは恐らく
コラさんが死んでから初めてだ。
体は成長しても
結局俺はあの頃と同じ、無力でちっぽけなガキのまま。
「なぜ止める…ローの頭を、叩き割ろうとしただけだ!!!」
バリバリィっ!
「んな〜〜!!!“覇王色”の衝突〜〜!!?奴も“そう”なのかァ〜〜!!?」
それは丁度、頭の真上で起こった。
突如そこを中心に巻き起こる爆風に吹き飛ばされ、ビリビリと肌に伝わるこの感触には──覚えがあった。
懐かしくて得体の知れねェ感覚だ。
最近は全くこれを使う場面を見ていないが…これはウイの覇気と同じ…!!
アイツは“亜型”らしいが
ドフラミンゴはともかく麦わら屋も…、覇王色の覇気の使い手だったのか…。
滅多に居ないと聞いている覇王色の覇気の使い手。
それが今目の前でぶつかっている。
唖然としすぎて、涙が止まった。
俺の時とは違い、二人は言葉も交わさずただ攻防を繰り広げる。
武装度合の割合、武装部分の移動の素早さに加えその強度。
身のこなしや能力と覇気を組み合わせた技のバリエーション。
初めて全力で戦う麦わら屋を間近で見た。
普段の行いから言って、申し訳ねェが頭が回るようには見えねェ。
ただ動物的というか勘が鋭いというか、その戦いを見て思う事は
“強い”より“上手い”だ。
薄々勘づいてはいたが、やはり麦わら屋の力量は俺より上らしい。
ドフラミンゴが攻撃を食らう機会も多ければ、戦いは寧ろ麦わら屋優勢。
そう感じるのは俺だけではないらしく
丁度トレーボルが、その“ベタベタの実”の能力でドフラミンゴを援護しようと麦わら屋に手出ししようとしているのが見えた。
「…お前も哀れなもんだな、トレーボル。利用されてるとも知らねェで、踊らされいい気になり…めでてェ奴だ」
「んなァ〜にィ〜!!?最高幹部の俺達とドフィの間に格差はない…!!なぜなら!!天から落ちてきたその才能を育て上げたのは俺達だからだ!!」
もう流石に起き上がれもしねェ。
だが…二人とも全部、麦わら屋任せって訳にはいかねェだろう。
「俺達は対等にファミリーを想い!!ここまで守り立てて来た!家族のようにな!!」
「そう思ってンのはお前らだけだ。──俺の目には、参謀気取りのお前ですらドフラミンゴのマヌケな操り人形にしか見えねェ…!!」
最高幹部である事を誇りに思い、その実誰よりもプライドが高いトレーボルならば
体を張らずとも少しの間麦わら屋の元へ向かわせねェ事くらいは出来る。
「ん〜〜!何をこの死に損ないが!!“ベタベットン・ランチャ〜〜”!!!」
汚ェ粘液の弾が、只でさえ動けねェ体を石畳に縫い付けるようへばりついた。
このまま何も出来ずに鳥カゴが閉じきるのを眺めているくらいなら、例え死期を早めようが可能性を秘めた麦わら屋に賭けてェと
一役買いてェと願う俺は間違ってるんだろうか。