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「気付いてねェもんなのか。これが“最高”クラスだってンなら、ハートの席に座らずに済んで良かった。こんなバカ共と一緒にはされたくねェ…!!」
悪ィな、ウイ。
この身動き一つ取れねェ状況で、敵を引き付ける為とは言え挑発するという事は即ち
死を意味する。
「最高幹部こそファミリーの礎っ!!バカにする事は絶対に許さんんね〜〜!!!」
必ず戻ると、話を聞くと約束した。
俺の死後、麦わら屋とドフラミンゴのどっちが勝つかも分からねェ。
俺のせいで危険に晒しちまう事もあるかもしれねェし、でもそんな事よりも…そうなりゃアイツはきっと泣くんだろう。
ウイがなぜ火拳屋に心変わりしたのかは知らねェが…死ぬ事で心に残れるのならば
これで気持ちを取り返せるんだろうか。
『ふざけた事抜かしてンじゃねェ!!オイ腕だ!てめェの腕!!さっさとあのサークルを張りやがれ!!!』
また空耳…幻聴だろうか。
頭に直接響く、聞き覚えのある声。
もう動けねェと言っただろう。
こっちは限界なんてとっくに越えてンだ。
立ち上がる事すら出来ねェのに、能力なんて使えたもんじゃねェって──
『やっぱ“不能”じゃねェか!!仕方ねェから力を貸す!!あの鼻水野郎だけでもてめェで仕留めろ!!!』
味方するように聞こえるこの声の主には
俺の記憶が間違っていなければ敵意しか向けられた覚えがねェ。
助けてくれと頼んだ覚えもなければ、やるとも言ってねェのに
体中の血管に何か温かい液体でも注がれたかのように全身に何かがみなぎった。
開けた視界に、さっきまではそれが狭まる程に自分が危うかった事を知る。
「おいのるなトレーボル!ローが“ルーム”を構えてる!!」
「バカいえ!!元々瀕死のガキの動きを!!“ベタベタ”で更に封じてる!!!反撃も何もできやしねェ!!」
力任せに展開した“ルーム”の中に、鬼哭を握ったまま転がる右腕を見つけた。
「さァ口を開けろ!ノドを貫き串刺しにしてやるんね〜〜!!」
確かに俺一人なら、お前の言う通りこれは狂言でしかなかった。
だがなぜか今、ここには俺に力を貸す“奴”が確実に存在する。
『今だ!不能野郎!!』
「…“タクト”!」
グサッ!
俺を跨ぎ杖を構えるトレーボルの腹に、鬼哭の刃が突き刺さった。
「なっ…!!手!!?」
技名を口にしさえすれば、それが発動される訳じゃねェ。
指一本ですら動かせる余力もねェ筈が、ちゃんと頭で描いた通りにオペオペの実は右腕が握る鬼哭を連れてきた。
いつも感じる体力の消耗…疲弊感は、全く感じねェ。
消耗なしで使えるならば、せめて確実にトレーボルだけでも仕留められるように
丁度中央、トレーボル本体に刺さる刀を縦回転させその傷口を広げる。
「ピギャ〜〜〜!!!!」
トレーボルはロギアじゃねェ。
あらゆる液体の形状を変えられる“ベタベタの実”の能力者。
さっき麦わら屋の攻撃が効かないかのように見えたのは、服と粘液で大柄に見せているだけで
こいつの本体はもやしレベルのガリ痩せ体型だってだけだ。
頼んでねェが助かった。
俺もだが、──“てめェの弟”の戦いの方にも…水を差さずに済んだようだな。
「お…のれ…ロー!!」
血を流しよろめきながらも、辛うじて立っているトレーボルからは
止めどなく粘液が流れ落ち見ているだけでも気色悪ィ。
石畳に張り付けられたまま頬を引きつらせつつも、返事のねェ声の主の気配を探ろうと辺りに意識を集中する。
もう疑いようのねェこの声の正体。
理由は知らねェが、“用があるから”ここに居るんだろう。
そんな中まだしぶとくも息絶えねェトレーボルは
杖の先のライターの火を
「…ゼェ…忘れたか…?俺のベタベタは可燃式!!」
「危ねェ!!引火する気か!!!」
最後の力を振り絞り吹き広げた。
「道連れ…だァ〜〜!!!!」
ボォ……ン!!
静かに、そして瞬く間に燃え広がる炎は
まるで音のない大爆発のようだった。
助かったと思った途端降ってくる絶体絶命のピンチ。
さっきの要領で脱出を試みようとルームを展開したその時
「トラ男!!!」
炎を掻き分け姿を現した麦わら屋が、俺と腕を抱え屋上化している王座の間から飛び降りた。
霞み出す朦朧とした意識の中
奴──火拳屋がなぜこんな場所に居るのかを考えた。
弟を救いに来たのか
それとも前回のも幻聴ではなく本物だとすれば…俺に生き延びて帰れと、ウイを頼むとでも
──言いてェんだろうか。
王座の間にて、最期の足掻きにトレーボルが起こした大炎上は
そこで起こる戦いを見守る受刑者側の者達の心に動揺を生んだ。
ひまわり畑でその炎を見ていたのは、ディアマンテとの戦いを終えたキュロスにロビン、レベッカ。
そしてマンシェリーと彼女を救出したレオ。
炎から飛び出た影がルフィと片腕を失ったローである事を認めた彼らは
ローがもう戦闘に出られる状況ではない事を察し、その身柄を確保する。
息があるとは言え、危険な状況である事に違いないローの治療に当たったのはトンタッタ族の二人。
“ヌイヌイの実”の能力者であるレオが右腕を縫い合わせ、“チユチユの実”の能力者であるマンシェリーが腕と全身の傷を癒す。
マンシェリーの癒しの力があれど、再び戦える程までは回復しない。
それほどに酷い状況であった。
安静にしていれば命に別状はなく、いざと言うときにいくらかであれば自力で能力が使える程度となったローは
王宮でのルフィとドフラミンゴの戦いをただじっと見守る。
周囲の人間が、巻き添えを食わぬよう避難しろと言う言葉も聞き入れずに。
もう託すしかないから、と。
勝つのならば近くで見届けたい、負けるのであれば共に殺されるべきだ、と。
他の者達がひまわり畑を去る中、ローの視線の先では
その激しい戦いぶりを表すように
爆音が鳴り響き、壁は次々と崩れ落ちた。
受刑者とドンキホーテファミリー最後の戦い。
大将戦、ルフィVSドフラミンゴ。
拳を打ち、イトの刃で斬りかかりながらもドフラミンゴは言った。
お前らが来なければこの国は平和だった
通りすがりの海賊のヒーローごっこで俺の邪魔をするな、と。
巨大化させた腕や鞭のように伸びる脚をドフラミンゴ目掛け飛ばしながら、ルフィは答えた。
お前は俺の友達を泣かせ、仲間を怒らせた。
“お前が”俺の邪魔をしたんだ、と。
戦いも言い分もどちらも一歩たりとも譲らぬ中
ルフィは勝負に打って出る。
制限時間付きで攻撃力を大幅に増長させるその技の名は──
「ギア“4”、“バウンドマン”!!!」
その戦いの行方はいかに。
ルフィにギア4の隠し弾があったように、ドフラミンゴにもまだ見せてはいない手の内というものが存在した。
それは悪魔の実の能力者に稀に起こる覚醒。
悪魔の実の能力は大きく3つに分類される事を覚えているだろうか。
1つ目は「動物(ゾオン)系」、この能力者は対象の動物への変身能力を持つ。
2つ目は「自然(ロギア)系」、この能力者は体を自然物そのものに変化させ自在に操る事が出来る。
三種の中で最も希少かつ、実体を持たぬ為武装色の覇気を扱えぬ者に対しては無敵の強さを誇る。
3つ目は「超人(パラミシア)系」、この能力者は人智を超えた能力が身に付く。
ルフィのゴムゴムの実、ドフラミンゴのイトイトの実は共にパラミシア系であり
己の体をそれぞれの特質に変化させる事が常。
しかしドフラミンゴのように覚醒したパラミシア系の能力者は、己の体以外をもその特質に変化させる事を可能とする。
地面や建物までをもイトと化し戦うドフラミンゴと
ギア4──武装色で皮膚を固めゴムの張力を何倍にも引き上げた攻撃を繰り出すルフィの戦いは王宮内に留まらず市街地へと及んだ。
お互いに先程より格段に戦闘力は上がるも、この戦い──やはりルフィが優勢。
ルフィの繰り出す攻撃一つ一つの威力が莫大な影響で、それに弾き飛ばされるドフラミンゴの行く先々へと戦いの場は移動する。
ルフィがドフラミンゴを圧倒しているのは素人目に見ても明らか。
鳥カゴから逃げ惑う国民は、決して敵わぬと思っていた現国王のその姿を見てどよめいた。
これまで受刑者側の作戦本部と化していた“王の台地”。
そこはドレスローザの丁度中心に位置する。
しかし鳥カゴの中心地点は王宮の真上、縮み続けるそれはいつか王の台地をも切り刻むだろう。
そこを降りた彼らは各々が己のすべき事を為すために動き出す。
まだ戦える者達は中心部へと逃げる国民とは真逆、迫る殺戮イトの方へと駆け出した。
覇気が使える者は覇気で、それ以外の者はバルトロメオのバリア越しに
縮むイトを反対側へ押し返そうと力を込める。
それを見かけたSMILE工場破壊組も工場が海楼石製という点を利用し、同様の行動に出た。
少しでもイトが縮む速度が遅くなるように、と。
受刑者やそちらに付く者達が勝利を諦めぬ中、中心部へと逃げ惑う国民達の心の糸はポツリポツリと切れ始める。
数十分全力で走り続けているのだ。
健康な成人だけではない。
子供も、年寄りも、お腹の大きな妊婦もいる。
乳飲み子も、病人も、怪我人も。
一人では逃げられぬ者を担ぎ、手を貸し走る事は一般人からすればかなりの重労働。
そして諦めてしまいたくもなる最も大きな要因。
それは逃げた所で果たして助かるのか
あのドフラミンゴがこの鳥カゴを解除する事は、誰かに敗れる事等有り得るのかという事。
ヴィオラに現在の戦況を聞いたリク王はスピーカーへと続くマイクを取った。
彼が告げた言葉は、国民へ届けた言葉は、現実。
生易しい綺麗事だけの励ましではない。
記憶にすらなかった大切“だった”人が、オモチャにされていた。
愛する人が、剣を、銃を振り回し襲いかかって来る。
全てを切り刻む殺戮イトが迫って来る。
突如ふりかかったこの“現実”は、夢ではない。
今日突然起きた事でもない。
ドレスローザは自覚なきままに10年間、ずっと良いように操られて来たのだ、と。
しかし──それが今終わろうとしている。
誰も敵わぬと諦めていたドンキホーテファミリー幹部は既に全滅。
討つべき敵は今や、ドフラミンゴただ一人。
そしてそれも現在、最悪の世代と詠われる麦わらのルフィと交戦中である。
勝つも負けるもあとたった数十分、だから──
息がきれても、足が折れても生き延びてくれ。
希望がある内は、どうか…諦めないでくれ、と。
厳しい事も過酷な事も理解した上で
必ず救われるという保証もなく
それでも生き抜いて欲しいというリク王からの涙ながらのメッセージ。
それは心が折れかけた人々を再び立ち上がらせる光となった。
人々は手を取り助け合い、再び中心地へと人の波が動き出したその時──
王宮の聳える台地の二段目、その側面に
爆音を響かせ叩きつけられた人影が1つ。
それはドレスローザ国民ならば誰しもが見覚えのある風貌の、桃色の羽を纏う男。
台地に叩きつけられピクリとも動かぬこのゲームの首謀者に、国民達は勝利を感じ歓びに震えた。