16-65



歓喜に沸くドレスローザ。
しかし──厳しい表情が消えぬのは、受刑者達。


鳥カゴが、消えないのだ。


ピクリとも動かぬドフラミンゴに、鳥カゴを維持し続ける意識がないのであればそれは消える筈。
消えぬのであれば、ダメージを食らいこそすれど…
その男はまだ戦えるという事。

空を見上げる者がそれに気付きだす頃には既に
ルフィが今度こそとどめを刺す為、拳を構えていた。


「ハァ…もう一発!!!!“ゴムゴムのォ”〜〜!!!」


突如街から飛び上がり、まだ動かぬドフラミンゴ目掛け迫るルフィ。
それを指差す国民達は、運命の瞬間を一体となって見守っていた。









だが──









無情にもタイムリミットのゴングは鳴る。
突如風船が萎むかのように、ルフィは勢いを無くし地に落ちた。


そう。
ギア4は強力な技故に、副作用が存在する。
これを限界まで使用すると──体力を大幅に消耗する上にその後10分間覇気が使えない。


傷だらけで倒れゼェゼェと荒い息を吐くルフィを、リク王は希望と言った。
ふらつきながらも立ち上がろうとするその希望に手を貸そうと国民達が集まる中







バキバキバキバキィ!!








台地の側面に埋まる男を中心に走る大きな亀裂。


王宮前の広場からそこまでの距離は遠く、その中心に“居る”人物の生き死にを肉眼で確認出来る者等いない。
だがしかし──国民達は皆状況を正確に察していた。


“ドフラミンゴは生きている”
“ここは危険だ”と。


再び起こる大混乱。
国民達が生を諦めないからこそ、混乱はより大きくもなる。
皆我が身が第一。
鳥カゴから逃げるべきか、ドフラミンゴから逃げるべきか。

そこに集中するがあまり、弱ったルフィそっちの気で国民達は右往左往を繰り返した。


「海賊麦わら!!俺が誰か分かるか!」


そんなルフィの腕を取り声をかけたのは、コロシアム実況を務めていたギャッツという男。
彼はコロシアムに関わる仕事に着きながらも、ドンキホーテファミリーではない。

ただ彼は好きなのだ。
“戦い”というスポーツが。





今日行われた“メラメラの実”を懸けたコロシアムの剣闘会。
その優勝者ルーシー。

決勝戦はサボと入れ替わりはしたものの、実況者としてその戦いを観察し誰よりも近くでそれを見ていたギャッツは
鳥カゴの中で行われるこの、ドフラミンゴと麦わらの戦いを見て一目でルーシーが麦わらであることを見抜いた。


幾多の戦いを見てきたギャッツでさえも、ルーシーの戦いぶりには心を奪われた。
更にそれがこの国を救う希望。


「ドフラミンゴが来るぞ!この試合!!何か協力出来る事はねェか!!?」


ギャッツの目に迷いはなかった。
自分が助かる為というのも、多少はあるかもしれない。
しかし今ギャッツを動かすのは
純粋に、戦いという格闘技のプロを応援する熱烈なファンそのもの。

憧れの選手が、何の縁もゆかりもない我が国の為に命懸けで戦っているのだ。
“この男の役にたちたい”、それがギャッツの心からの願いだった。


「10分ほしい…覇気さえ戻れば…あと一撃で必ずカタをつけられる…!!!」


元から人を疑う事等しないルフィではあるが、素直に好意に甘え協力を要請する程度には
ギャッツの熱意は伝わり、状況も逼迫しているのだろう。


「“あいつ”の支配は…それで終わるんだな…!?10分稼げば…俺達を鳥カゴから出してくれるんだな…!!?」
「約束する…!!」


それはギャッツが、自分以外の戦力を鼓舞する為に敢えて確認した言葉。


「10分だ!!頼むぞお前ら!!!」
「「「「「「ウオオオオオオオ〜〜!!!」」」」」」


ルフィの言葉に、辺りから怒号のような雄叫びが響き渡った。
数にして100、いや200を越える屈強な戦士達。
彼らは受刑者狩りに回った方の大会出場者。

長いものには巻かれろ精神でドフラミンゴ側に付いた者達が、口々に反省の言葉を述べ己の武器を構え散っていく。


彼らが向かう先にいるのは、台地の側面に埋まっていた筈のドフラミンゴ。


「よし!半分ついてこい!!」


ドフラミンゴ相手に、何人束でかかろうと敵わない事等皆承知の上。
これは時間稼ぎ。

ルフィを背負ったギャッツがドフラミンゴを取り囲む大会出場者を背に、残りの荒くれ者を連れ走り出した。


10分、いやあと──9分すら切った。


600秒を懸けた戦い、これは
ドフラミンゴとドレスローザ国民の真の戦いである。







逃げるギャッツ。
足止めを試みるも次々と散っていく戦士達。

そして中心街にいては巻き込まれると、王宮の聳え立つ台地を昇ろうと必死な国民達。
しかし、平面を全速力で駆けることですら重労働。
それが崖のように傾斜の付いた台地であれば、疲労困憊な現状では心は諦めずとも体が着いて来ない。



そんな中、傷だらけのドレスローザに白い雪がふわりと舞う。
いやこれは──雪ではなく“綿毛”。

ドレスローザ上空をイエローカブに乗り、その能力を使い涙を流すのはマンシェリー。
“チユポポの綿毛”、それは広範囲の人々に奇跡的な超回復をもたらすチユチユの実の技。

この綿毛に触れた者はどんな重傷者でも、何もなかったかのように回復する。
しかし、それは“数分間限定の超回復”。
ルフィが回復するまでの時間を稼ぐ為、それまでに力尽き鳥カゴに身を刻まれる人を少しでも減らす為
マンシェリーは国を憂い涙を流し続けた。

そしてそれに触れた人々は、まやかしの回復の恩恵を受け
それぞれの戦いに再度挑み続ける。

この回復により、
中心地への避難を完了する女子供に老人。
一瞬でドフラミンゴに切り捨てられた戦士達も
再びもう一撃、一人あと数秒ずつでも稼げればと駆け出して行く。
そして男達は、鳥カゴを押す受刑者側に加わり
少しでも収縮の速度を弱めようと国民総出で工場を押した。



誰も考えもしなかった、“鳥カゴ”を止める等という試み。
国中の力とここに集う屈強な戦士達の力が合わさり
一瞬、ほんの一瞬だけ、地や建物を削る鳥かごの音が止んだ。

鳥カゴの際では、その収縮を少しでも遅めこれによる死者を減らす戦いが続く。
彼らもまた、諦める事はない。





鳥かごを押す事をしない受刑者が3人いた。
しかし“彼ら”は諦めた訳ではない。
戦えぬほどに負傷している訳でもない。


ロー、ヴィオラ、レベッカは

それぞれの思い、すべき事の為に動いた。







回復しては切り捨てられ、また回復しては切り捨てられ…
ドフラミンゴにとっては鬱陶しいコバエに集られているようなもの。

そのコバエは徐々に数を減らしはするものの
数の力で確実に1秒1秒を積み重ねた。

背後の様子を伺いながら、徐々に近付いてくる戦場に冷や汗をかくギャッツの前に現れたのは3つ星受刑者のロー。
“一刻を争う”勝負故、ローはルフィを預けろと申し出た。


マンシェリーの治療を受けたとは言え、彼も瀕死。
しかしギャッツは判断した。
例え一見死にかけだとしても、ローは自分よりも麦わらを匿う能力があると。


「“シャンブルズ”」


ルフィを受け取ったローは、中心街から姿を消した。





そしてリク王により鳥カゴが及ぶのが遅い王宮へ向かうよう言われたレベッカは、中心街へ降りていた。

彼女もこの国を救いたいと願う人物の一人。
王家の血を引く者であり、ドフラミンゴによって母と、父の記憶を奪われ虐げられて生きてきた。

自分がすべき事はより安全な場所でただ見ている事ではない、自分にも出来る事があるならそれをしたい。
そしてそれがあるとすれば、そこは中心街──ドフラミンゴがいる場所だ、と。


「え…ヴィオラさん!!?」
「レベッカ…!!何しにここへ!?…バカな事考えちゃダメよ、あなたを死なせたらキュロス義兄様にもお姉様にも合わせる顔がない」


悲鳴と喧騒をたどり行き着いた場所でレベッカが見たのは、ドフラミンゴと向かい合うように立つ叔母、ヴィオラの姿。
ヴィオラもまた、自分のすべき事の為にこの男を訪れていた。


「──じゃあお前は何をしに来た、ヴィオラ」
「ドンキホーテファミリーが崩壊すると言うのに…幹部だった私が…何のケジメもつけないなんてムシが良すぎるでしょ…!?」


ボスと幹部、男と女、立場を突きつける為の関係、それとも他の何かか…
お互いに一度たりとも心を許した事はないとしても──他の者達とは違う関係がここにはある。


「私が死ぬか…あなたが死ぬかよ!!“ドフィ”!!」
「フッフッ…!!情熱的だな…“ヴァイオレット”」
「そんな…!!」


外套を外し短剣を構えるヴィオラは死ぬ気だ。
ドフラミンゴに勝てる筈がない。
それを察したレベッカは、衝撃でただ唖然と立ち尽くした。


お互いの呼び名に込められたその意味は、何なのだろうか。




ドフラミンゴを止めるべく立ち上がったコロシアムの戦士達は全力で立ち向かい、奇跡の恩恵を受けて尚破れ去った。

ドフラミンゴを阻むものはなくなり、後はもう
ルフィを匿う者とドフラミンゴの追いかけっこ。
ルフィの覇気回復までの時間は、まだあと2分強。


この状況で自分がこの場所に居るという事に
ヴィオラは運命を感じていた。

ドフラミンゴに勝てる筈などないことは百も承知、だが──“自分なら”2分と少し、稼げるかもしれないと。


「もうやめて!!ヴィオラさん!!」
「ハァ、ハァ…!!ふ!!」


ガン!!


覇気も使えぬ女。
元ドンキホーテファミリー幹部とは言え、10年前までは戦う事とは無縁のお姫様。
ヴィオラが繰り出す蹴りは難なく防がれ、全く歯等立っていない。


「10年…共にファミリーとして過ごしただけで俺がお前を殺す事に躊躇するとでも思ったか…?ヴァイオレット…!!」
「愚問ね…ハァ、何度もあなたの頭を覗く機会のあった私が、あなたを見誤るとでも思っているの?」


何度止められようと、何度防がれようと
反撃を受け吹き飛ばされ、額に伝う血で視界が滲もうと
ヴィオラは立ち上がる。


「共に心中しようと…そういう事か。心中相手がファミリーかドレスローザかは知らねェが…。知ってるとは思うが念のため、だ」


ドフラミンゴは、ヴィオラをイトで切り刻む事をしなかった。
この実力差であれば、その気になれば数秒でカタをつけられた筈。

ヴィオラも“それ”を分かっていた。
自分はその他大勢とは同じ扱いは受けないだろうと。
ただ、1つ誤算があったとすれば──


「俺は仲間の“失敗”は咎めない。だが、“裏切り”は許さねェ…!!」
「!!?……!う…、ヴィオラさん…体が!勝手に…!!」
「やめなさい!!レベッカは巻き込まないで!!」


愛する姪がこの場に居合わせた事。


ヴィオラは分かっていた。
自分なら、“普通に”“簡単に”は殺されない事を。
真に信用されていなかったとしても、ドフラミンゴが自分に特殊な思いを抱いている事を。

その分だけ──彼は“裏切り”を許さない。
きっと一番苦しむ残虐な方法で、自分はこの男に殺されると。


「殺せ…!!」
「いやだよ…!!ヴィオラさんっ!!!」


でもまさかそれに
レベッカを巻き込んでしまうとは…彼女は思ってもみなかった。



destruct at reality.