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ドフラミンゴが取った行動。
それはヴィオラの両手首を頭上で縛り上げ拘束し、操ったレベッカにその命を奪わせようというもの。

愛する者に殺されるのも
意思はないとしても、愛する人を自分の手で殺めてしまう事も
それは両者に普通の死別以上の傷を残す。


それを分かってこの男はやっているのだ。
それほどまでに、ドフラミンゴにとってのヴィオラの裏切りは“許し難い事”なのだ。


涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、操るイトを必死で拒絶するレベッカは
全身を震わせながら一歩、また一歩とその足をヴィオラに向けて踏み出す。


「やだよ…!!ヴィオラさんを斬るなんて…私嫌だよ!!」
「ごめんなさい…レベッカ…!!あなたを巻き込んでしまって…!!」


奇跡の復活まではあと数十秒。
二人の麗しき女性が起こそうとしている悲劇に、それを真横で見守る男は不気味に笑った。


そして中心街の裏路地で起こるこれを見ている目が“2つ”。





『さァ皆さん!!!もう少しの辛抱だ!!!“スター”は甦るっ!!本日のコロシアムの剣闘会に!!キラ星のごとく現れた…!!』


ルフィを預けた後、コロシアムの実況者ギャッツは戦況を把握しようと王宮の聳える台地を駆け上がった。

そこで見たものはヴィオラとレベッカの刃傷沙汰。
傍らに立つドフラミンゴを認めすぐに、彼は状況を理解しマイクを取った。


『愉快で…大胆不敵なあの“スター”!!誰もが恐れる殺人牛を手懐け!!雲をつく様な巨人をなぎ倒し!!コロシアムを…このドレスローザを沸かせた小さな優勝者!!』


ドフラミンゴはルフィを探している。
そして国中に響き渡るスピーカーでの実況、それを台地という目立つ場所から行う事は
ドフラミンゴの目を、注意を引きやすい。


『かくも自由でかくも痛快な試合をするこんな男を!私はこれまで見た事がない!!!その名も!!“ルーシー”!!!』


ドフラミンゴだけではなく、国中に届くその声に
国民達は釘付けになった。
コロシアムでの“その”戦いは、国中が知っている事であったのだから。





『そしてその“ルーシー”こそ!!またの名を!!麦わらのルフィ!!!真の王!リク王様に“希望”と言わしめさせた男!!彼はこれを約束してくれた!!』


ギャッツの実況はエスカレートする。
国民達を鼓舞する為に、そして──


『ドフラミンゴの!一発KO宣言!!!』


ドフラミンゴの注意を引き、ヴィオラとレベッカを守る為に…!!


『聞こえているか!?ドフラミンゴ…!!王を操り!世界を欺き!!このドレスローザに居座った偽りの王!!』


肉眼では目線まではわからない。
しかしドフラミンゴにこれが聞こえている事は紛れもない事実。

ギャッツは震える足を叱咤しながら、張れる限りの声を張り
それを叫んだ。


『──ここが貴様の…処刑場だァ〜〜!!!』
「「「「「「「ウオォオオオオオ!!!」」」」」」」


歓喜に沸く国民達。
リク王が言うのならば、それは信ずるに値する希望なのだろうと頑張ってきた。
だがそれ以上に、今ドフラミンゴを討とうとしている相手がコロシアムの“ルーシー”。

奇跡すらも難なく起こしてしまいそうな彼の愉快痛快な戦いぶりは
ドフラミンゴの一発KOですらも本当に実現させてしまいそうなものだった。


『ルーシー復活の瞬間まであと──10!!』


遂にカウントダウンが始まる。
それに耳を傾けながら、肉眼とは違う方法で叔母と姪の悲劇を見守る男は
疲労と貧血で震える体を鞭打ち3本の指を構えた。


『ルーシーが鳥カゴを消すまで!5、4、ドレスローザよ!!どこかで聞いているスターの!!“ルーシー”の名を呼べぇ〜〜っ!!』
「ルーシー!!」
「ルーシー!!」
「ルーシー!!!」


あと僅か
ほんの僅かでルフィの覇気は復活する。
しかし剣を構えるレベッカは、もうヴィオラのすぐそばまで迫っていた。


「よけて!!お願い!!ヴィオラさん!!!!」
「目を閉じるのよレベッカ!!何も!何も見なくて良い!!これは悪夢!!何があっても全部忘れて!!」


『2!!1!!!0ォ〜〜!!!』


果たしてルフィは間に合うのか。


「私はあなたを恨んだりしないから!忘れてね!あなたは何も悪くない!!」
「いやあぁあ〜!!!」


愛する家族を傷付けぬように、迫る死よりもそれを気遣いヴィオラは笑った。


そして駆け出させられたレベッカの握る剣は──力一杯振り下ろされた。








「──“シャンブルズ”」


ガキィン!!!


「ふんがァ〜〜!!!!」
「麦わら…!!ローか!!」
「ルージー!!!」


『あ、現れたァ〜〜!!ル〜〜〜シ〜〜〜〜!!!』


カウントダウンの果てに、起こった奇跡は1つ以上。
ローに匿われていたルフィの覇気は復活し、振り下ろされた剣の先にいたヴィオラとルフィが入れ替わる。

石頭…いや、武装色を纏った頭はレベッカの剣を叩き折り
またもや自分を、大好きな叔母を救ってくれた奇跡のヒーローにレベッカは号泣した。


「大袈裟な復活だな…かろうじて覇気が戻っただけ…立ってるのが精一杯だろ…?」
「それは、ハァ…お前も同じだろ!!」


裏路地に崩れる瓦礫をイトの刃と化し、ドフラミンゴはルフィとレベッカ目掛けそれを放つ。
避けることが叶わぬ体でさえも、しっかり局部的に武装色でガードを施すルフィはこれを意図的にやっているのだろうか、はたまた本能か。


巻き込まれては太刀打ち出来ぬレベッカをも回収した影の立役者は、流石に瀕死の割に能力を使い過ぎていた。
しかしレベッカに、いや──彼女を愛するこの叔母に
ローは借りがあった。


「有り難うトラファルガー・ロー…!助かったわ!レベッカ!!大丈夫!?」
「ヴィオラさぁぁあ〜ん!!!ごべんなだいぃ〜!!」


涙を流し抱き合う二人。
無事生還を果たしたヴィオラとレベッカの心からの包容に、ローはふんと鼻を鳴らした。


“まだ”勝負は終わっていない。
寧ろここからが正念場。

ローのオペオペの実は酷使しすぎれば術者の命をも縮める。
体自体も重傷である今、恐らく命に障らず使える能力はあと一回──それ以上の使用には命の保証がない。


しかしローに躊躇いはなかった。
もしこの戦いで、自分のサポートがルフィの助けになるのであれば
ドフラミンゴを潰せるのであれば

ローは何度でも命が続く限りそれを使うつもりだ。


負ければどうせ待っているのは“死”。
結果が同じならばせめて…足掻ける所まで足掻いて、そして命を終えたいと
ローはルームの中の二人の激闘に意識を集中した。





ルフィとドフラミンゴの最後の戦い。
それはまさに激闘。

町中をイトに変え、その全てで攻撃を仕掛けるドフラミンゴ。
幾重にも連なるイトの刃。
防御すべき場所がもう“部分”ではない。
多すぎる攻撃の手は武装の追い付かぬ部分を確実に貫き、それは血飛沫を生んだ。


それでも尚倒れぬルフィ。
ドフラミンゴは鬱陶しげに舌を打つ。

どいつもこいつも…自分のカゴの中で大人しく操られていればこんな大虐殺はせずに済んだ、と。




その言葉に
ルフィの堪忍袋の緒が切れる。


「お前はどいつもこいつも操ろうとするから!!俺は息が詰まりそうだ!!!“ギア4”!!!」
「血を恨め!お前たちは操られる為のゴミとして生まれたんだ!お前ら人間と俺は違う!!!」


出来ないと無理は同意義ではない。
可能であった所で、それが負担なく、労力なく、苦労なく出来るとは限らない。

しかしルフィは例えそれが無理であっても、可能であれば迷わず選ぶ。決断する。
踏みにじられた仲間の心。
侵害された自由。

ルフィはなによりも、それが許せない。


「お前をぶっ飛ばして!俺は出ていく!!!“ゴムゴムのォーー”!!!」
「やれるもんならな、小僧ォ!!」


お互いに恐らくこれが最後の攻撃。
空高く飛び上がった両者の放つこのぶつかり合いで、勝る方が勝ち劣る方が負ける。

勝負に気持ちの強さは関係ない。
それは酷だが現実。
しかし実力の拮抗するこの二人、共に疲労困憊で満身創痍。
そんな勝負の行方を決するのは──


「“キングコングガン”っ!!!!!」
「従えねェなら殺すだけ…16発の聖なる凶弾…!!“神誅殺”!!!!」


実力以外の、気持ちや背負うもの…いや他の、何か別のものかもしれない。
そしてそれに秀でる男こそ


モンキー・D・ルフィ、この男である。


疲弊しきったこの状況で、ルフィが繰り出す拳はこれまでで最も大きく、硬く、勢いのあるものだった。
対するはドフラミンゴの16発のイトの銃弾。

ドフラミンゴに迫る巨大な拳は銃弾とぶつかる度にその勢いを弱めるが、決して止まる事はない。

6発、7発、8発…


国民達は皆手を組み祈るように空を見上げた。
ファーのキャスケットの鍔を上げ空を仰ぐ一人の青年の目には
何とも言えぬ感情が滲んでいた。





9発、10発、11発


勢いが弱まるとは言え、それは極僅か。
そして素早く連射されるイトの銃弾が拳に敗れほどけていくのはほんの一瞬。


12発、13発


空を見上げる者達は皆、既に分かっていた。
この戦い、どちらが勝つのかを。


14発、15発


息も瞬きもせずに注視する。
最後の一発が散った後に、拳が撃つ相手の成れの果てを。


16発…!!


それが消えた後
ルフィの拳は“ナニカ”とぶつかった。
それは轟音を響かせ、重力で引かれる数十倍の速度で地へ落ちる。

受け止めきれぬ地面をもえぐり、地下へと落ちたドフラミンゴの落下が止まる頃







──ドレスローザの空は晴れた。





陽の光を遮るものが消えた代わりに…空より大分低い場所、地上1〜2メール付近で
塩気を含むスコールが国中の大地を濡らしていた。


何にも遮られる事のない空を見上げた人々の目に映るのは
希望の光である太陽と、そこに重なるように影を作る一人の男の滲む影。




ドンキホーテファミリーと受刑者達の決戦の勝敗は──
受刑者…いや
麦わら一味及びそれに加担した海賊達と、それに懸けた前王族であるリク一族、そして
ドレスローザ国民達の勝利で幕を閉じた。


今度こそ、真に歓喜に沸く国中の人々を余所に
力尽き倒れたルフィを回収し、それを抱えたローが立ち上がる。


「待って!!お礼を…!!あなたにも麦わらにもお礼をさせて!!」
「…ハナから俺には不要だ。麦わら屋にどうしてもってなら…、父親に許可取ってから出直せ」


ドフラミンゴが倒れた今、王位にはリク一族が返り咲く。
例え国を救った英雄と言えど、王族が海賊相手に気軽に頭を下げて良いものではない。


「ヴィオラっつったか…?海楼石の錠の件、助かった。後は…2年前の口止めの礼だ。世話になった」
「…そんな…!だってあれは…!!」


こちらがしたいと言った礼を、させて貰える所か逆にされ、納得出来ずにいるヴィオラが反論しようと身を乗り出したその時──


「“シャンブルズ”」


二人の海賊、2つの海賊団をそれぞれ束ねる男達は跡形もなくその場から消えていた。


例えドフラミンゴが倒れたとしても、ドレスローザや海軍はこれからやることが山積みである。

しかし海賊達は一足早く──ひと時の休息を貪るのであった。




destruct at reality.