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ドンキホーテ・ドフラミンゴが敗れた後、切り刻まれ壊滅状態のドレスローザは
滅んだと称するに相応しい状況であるにも関わらず、国民の顔は皆晴れやか。
また新しく再生される国を治めるべき人物に、国民達はリク王を推した。
しかし等の本人は誤解が解けたにも関わらず、その首を縦には降らない。
戦わぬ王として戦争を拒んで来たリク王政権。
国民や近隣国からの支持はあれど、外からの攻撃への脆さが此度こんなにも痛手となって証明された。
だから自分はもう、王となる資格はないのだと。
片や海軍はドンキホーテファミリーの幹部及び最高幹部、そしてドフラミンゴを取り抑え連行し
大将藤虎の指示でドレスローザ隣国への映像でんでん虫の放送準備を行っていた。
他国へと写し出される映像は、豊かで栄えた国であった筈のドレスローザが瓦礫の山と化した姿。
そのあまりにも酷い変わりように、中継先ではどよめきが収まらない。
何がどうなってこうなったのだろう…
いや寧ろ──これは本当にドレスローザの映像なのだろうか、と。
そんな中次にスクリーンに映し出されたのはリク王の前に現れた海軍大将藤虎と、それに従えられた海兵達。
藤虎は言った。
凶悪な海賊を七武海という制度の下、王と認め君臨させたのは紛れもなく“世界政府”。
この一件に関して、リク王に責任を引き受けて貰っては困る、と。
そして映像でんでん虫がその姿を生中継で届けているにも関わらず、藤虎率いる海軍一行は
国民及び王家に向けて謝罪の言葉を述べ頭を下げた。
それは最敬礼どころではなく
地面に膝と手のひら、そして頭を付ける──“土下座”と称されるもの。
ドレスローザで起きた悲劇の責任はどこにあるのか
土下座で許される事なのか
それはさておき…
この放送をもって、ドレスローザ隣国から世界へと
この大ニュースは届けられる。
それは強国ドレスローザの偽りの栄華とその本性、世界最大の闇の仲介人ドフラミンゴの失脚、そして海軍本部大将藤虎の土下座に…モンキー・D・ルフィとトラファルガー・ローの海賊同盟がドフラミンゴを討ち取ったという事実。
それは世界の隅々へと一瞬で広がった。
勿論──マリージョアで大切な“友”の無事を祈る一人の商人の元へも
この報せは届けられる。
「ウイ〜!!!ニュースだえ!ニュース!!ビッグニュースだえ〜〜!!!」
「ど、どした…?」
夕暮れ時のマリージョア。
ベガス聖邸宅のバルコニーで、沈む夕陽を眺め感傷に浸っていたウイの元へも、そのニュースは届けられた。
ただ事ではなさそうなニュース配達人の様子に、どんな報せかも知らぬ彼女は若干引き気味だ。
「実はかくかくしかじか!!あーでこーでこうなんだえ!!!」
「なんと!!それは大変!!」
これを俗にノリボケと言う。
息も切れ切れで新聞を片手に部屋の扉を押し開けたこの屋敷の主は、ウイの両肩を掴み揺さぶりながらも深呼吸で息を整える。
「ウイ!…ふざけてる場合じゃないえ!!これ!!見るえ!!」
「ごめんって。どしたの?」
感傷に浸っていたのは、大切な友人が危険な戦いの中に身を置こうとしているから。
そして報せを持ってきたこの人は、ウイの心を悩ませるその原因を知っている人物。
しかしまさか、こんな悩み始めた即日にその解決が新聞に報じられる事を期待する程までにはウイも楽天的ではない。
だからこそ、見出しを見た途端、驚いた。
「う…そ…」
「嘘じゃないえ!良かったえ!あ…でも暫くこっちに居ると思ってウイに食べさせたい熟成肉取り寄せたばかりだったえ!それは食べて行くえ!!」
震える手で新聞を握りしめ、大きな瞳を涙で滲ませながらも文字を追うこの女性に
夕飯までには降りて来るようにとだけ伝えたベガス聖はそっと部屋を後にする。
部屋に一人残された彼女の速読の速いこと…
一言一句逃さずにそれを読み終える頃にやっと、目尻に溜まった水分が頬を濡らした。
「良かった…、本当に…良かった…ぁ…」
そして心の中で彼女は恋人にお礼を言った。
彼に願った思いが最高の形で、こんなにも早く実ったのだから。
両手で顔を覆いぺたりと座り込む彼女に、柔らかい髪を撫でるように一筋の風が吹く。
それはただの潮風だったのだろうか。
それとも──風は、髪を揺らし戻りを報せたのだろうか。
『もう渡してあんだろ。すぐ向かえ』
「いや…そうなんだけどね、ベガス聖がお肉食べてけって…」
もう何回目になるだろう、このやり取り。
無事だったのは本当に心から嬉しい。
それにローの悲願が達成されたのも嬉しい。
嬉しいんだけどまだ信じられないっていうか…
本当に凄い人だったんだなって、改めて思ってみたり。
あの日の夜はね、ベッドの中でずっとでんでん虫とにらめっこしてたら夜が明けてた。
ベガス聖と奥様方、子供達と一緒にめちゃめちゃ豪華なフルコースを頂いて
美味しいんだけど、でもでんでん虫が気になって。
お風呂もカラスの行水かってくらいささっと上がって。
ワインでも飲もうって言ってくれたベガス聖のお誘いも断って。
そんなに気になるならかけたら良いのにって思ったりもするんだけど
ドフラミンゴを倒したとは言えまだ油断出来ない状況が続いてるのかもだし…
あんな大きな事件の直後じゃ疲れてるかもだし…って思っちゃって、出来なかった。
待ってる間にね、色んなことを考えたんだ。
私こんなに待ってるけど、実際かかってきたら何て言うんだろうって。
おめでとう?
お疲れ様?
怪我とかしてない?
ローはどういう風に報告して来るのかな。
流石に少しはしゃいでたりするのかな。
それとも色々感慨深くて神妙な感じ?
案外「終わった」とか素っ気なかったり?
考え出したらキリがなくて
星はこの日も綺麗に見えたと思うのに、窓から夜空を見上げることすらも忘れてたの。
あのそわそわするような、急に鼻先がじんとして泣きたくなるような、それでいてむず痒い感覚は
一体何ていう気持ちなんだろう。
一人であれこれ自問自答しながら長い夜を過ごして
はっと気がついたのはメイドさんが朝食を知らせに来てくれた時。
一睡も出来なかったのか、知らない間に寝ちゃってたのか…。
結局でんでん虫が見覚えのある形相で着信を教えてくれたのは、お昼の少し前くらい。
新聞見たよって、おめでとうお疲れ様って伝えたらローってば何て言ったと思う?
『今起きた』って。
やっぱり疲れてたんだなーって思いつつも喋り出したら止まらなくて
ただひたすら私が喋ってローが返事してっていうやり取りが続いたの。
それが一段落した後、冒頭に戻る訳ですよ。
ドフラミンゴを倒した後、ローもルフィ君達も皆死んだように寝てたらしい。
激闘って言葉がぴったりくらいの状況だったんだと思う。
他の人達はわかんないけど、ローってアレだ。
ショートスリーパーって言うの?
私と違って惰眠を貪る事がないというか、寝るのは基本私より遅いし
朝も私より早く起きてるか同じくらいな気がする。
そんなローが昨日の夕方から今日のお昼前までぶっ通しで寝ちゃうとか…
尋常じゃなく疲れてたんだろうな。
でもまだルフィ君は起きないらしくて。
起き次第、ベポのビブルカードを追ってゾウに向かうらしい。
だから私もさっさと出航しろって言われてるんだけど…
「いや…だからお肉がね!」
『肉ぐらいいつでもいくらでも食わせてやる。だからさっさと出航しろ』
流石にこんなにお世話になってる上に楽しみにしてくれてるベガス聖の好意を無下になんて出来ない。
そして全く興味がない訳でもない、最高級熟成肉のステーキ…!!
ベガス聖の太鼓判のお肉…!!
「だ、だってさ!今回もこんな早くに何とかなっちゃったとは言えすんごい急に無茶お願いしたんだよ?大丈夫だったから帰るねってムシが良すぎるでしょうが!」
『──ならいつだ。いつ来れる』
私の中のよこしまな欲望には気付かれなかったのか
やっとローが引き下がってくれそうな雰囲気を醸し出しはじめた。
ローもね、私がいつもベガス聖をふりまわしちゃってる事は理解してくれてると思うんだ。
「んー…お肉が届いてご馳走になったらマリージョアは出ようかなって思ってるけど…ブラーヴェの方も私がストップかけてるようなもんだし…」
『ソニアには俺から言っておく。そこを出たら直行でベポのビブルカードを辿れ』
「いや私が連絡す──ガチャンッ、ツー、ツー、ツー
…。
ローってさ
確かにあんまり人の言うこと聞いてくれないっていうか
こうする!って決めた事は絶対譲らないっていうか
ゴーイングマイウェイ的な典型の人だけど…
ここまで酷かったっけ…?
念のためソニアにかけてみたでんでん虫は見事にお話中で繋がらなくて
うわー行動早ー…って引きつる鼻の脇を抑えながら繋がらなかった受話器を見おろしたの。
結局ブラーヴェの方はドフラミンゴ失脚の影響で更に船の納期が遅れるみたいで。
戻ってきても予約も受付られないから準備のしようがないって、ソニアは長期休暇の延長を快く許してくれた。
『愛されてるわね』っていうからかい付きで。
この世の物とは思えない程、柔らかくて脂も甘くて
美味しいって言葉はこれを形容する為にあったのかってくらい衝撃的なお肉をご馳走になったのがそれから5日目のこと。
美味しすぎて悶絶する私のリアクションに、ベガス聖はさぞご満悦だったみたい。
そこからベポのビブルカードを頼りに大海原を走り続けて
左右の振れ幅からそう遠くないなって判断出来る程度に近付いたのはそれから更に10日近く経ってから。
その間に皆と合流したらしいローの行き先はゾウからワノクニって所に変わってて
これからも一緒に行動するらしいルフィくんや他の人達との集合場所に私もお邪魔する形になるみたいだった。
集合場所って言っても、いつもの如くそこは海の上。
ローもルフィ君達も世間を賑わせたばかりな上に、今回一緒にワノクニに行くメンバーは結構目立つ見た目の人達らしい。
まあそれも全部、聞いたのはベポからなんだけどね。
ローが臨時で持ってたでんでん虫は気付けば不通になってて
ハートの海賊団にかければローが最初に出る訳もなく、代われって言われる事もなく。
だから来いって言われたっきり、ローとは全然話せてないの。
でもかえって良かったかもしれない。
会えば話さなきゃいけないこと。
ドフラミンゴの話も聞きたいし、直接おめでとうって言いたいけど、今度こそちゃんとお別れしなきゃいけない。
私はもう、エース以外の人を男の人として好きになる事はないのをちゃんと伝えなきゃいけない。
そんな大前提があるのに、事前にどんな気持ちで何を話せって言うんだろう。
気持ちが変わってしまったのはもう、2年も前だって言うのに。
「ねぇエース。もしかしたらね、私ブラーヴェ以外に友達居なくなっちゃうかもしれない」
ローに対しても
分かりやす過ぎるらしくてほぼ公認みたいに思ってる皆からしても
私が今から伝えに行く事は良い話じゃない。
寧ろ最低だ。
「言うよ?ちゃんと言うんだけど……怖いなー…」
こういう時、エースからの返事が聞こえた事ってね
一度もないの。
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