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「次の島は結構近くみたいだよ。フリーウィングなら3日もあれば着くんじゃないかな」
「どんな所かなー。楽しい所だと良いなー」


彼らの目的はウォーターセブンを指すエターナルログポースを手に入れる事。
ルンルンバースにそれがない以上、貯めたログの指す島へ向かうしかない一行はそこへ向けて出航した。


「次の島はね、サザンスターっていうんだって。そこも結構栄えてるみたい」
「へー。名前はあんまり面白くないね」
「ヤル気を感じねぇな」


ログポースの指す島は全てが人の住むそれとは限らない。
一般的に言えば物資の補充が可能なだけで当たりの部類に入ると思われるのだが
ウイとペンギンの基準はそこではないらしかった。

島から十分に離れると、ローはシャンブルズの連続移動訓練を再開する。
島に滞在中は目立たぬよう控えいたそれは、もう既に大分安定していた。


「ねぇロー!そろそろ海で横の移動やってみようよ!」


落ちたら助けに行くから!とウイは救出役を買って出る。
本人もそろそろ頃合と思っていたようで、それに黙って頷いた。


「キャプテンダメだよ?ウイに助けに来て貰いたいからってわざと海に落ちちゃ」
「水着だもんなー。生肌で密着は美味しいよなー」


水着に着替えると部屋へ向かったウイのいない甲板では、ローがニヤけたクルー達からの精神攻撃を受けていた。
そんな事するかと言わんばかりのローの睨みは、口笛を吹き気付かぬふりをされ全く通用していない。

口ではそう言う彼らも、救出用の浮き輪とロープを手配している辺り
ただからかって遊びたいだけなのだろう。


「お待たせ!やるか!」


水着姿で登場したウイに、ローはごくりと生唾を飲む。
黄色とオレンジのニット素材のビキニは、ウイの白い肌をより一層引き立てた。

すっと伸びた細い手足に、厚みのない腹。
普段は目立たぬお世辞でもふくよかとは言えない胸も、流石に水着になればその存在をある程度主張してくる。
ある程度、ではあるが。


何度も見かけた筈のその水着姿は、初恋に気付いたばかりの青年の目には
毒でしかなかった。





邪心を吐き出すように海に向かって深呼吸した。
それでもウイの水着姿は頭から離れない。
目を閉じなくとも腰のラインや胸元を再生し続けるこの頭は正に異常。


これまでも理解不能な動悸や行動は頭を悩ませたが
自覚したらしたでこれはやはり考えものだ。


いつまでもそうしている訳にはいかず、ミサンガからビーズを千切り取り何とか集中しようと試みる。


救助があるとは言えノーリスクじゃねぇんだ。
幸い海は穏やかであるものの、これは存在事態が自分にとって天敵。


船縁に足をかけようとした時、何かが腹にまとわりついた。


「ちょっと!多分絶対落ちるんだから上だけでも服脱いでよ!」


それの正体はウイだった。
水を吸うと重くなる服を脱げと迫るその言い分も正論。


だがそんな事より
服を通して徐々に伝わってくる熱と、背で押し潰される柔らかい感触に頭の中が占拠される。

下半身が反応しようとするのを気合で諌めた。
あっちにその気がねぇ以上、訓練に付き合うつもりしかねぇ相手にこれはマズい。






何とか平静を保ち脱いだ上着を、受け取ろうと腕を伸ばしているウイを視界に入れねぇようにつとめ手渡した。


「…これ、タトゥー?」
「あぁ」


隠していたつもりはなかったものの、ウイはこれを知らなかったらしい。
上半身に彫られたトライバルタトゥーにその目は釘付けだった。


確かに海で泳ぐこともない自分はこれを晒す機会もそうない。
風呂上がりに半裸でリビングを通ることは何度かあった気もするが
この様子ではその時ウイはそこに居なかったんだろう。


未だ読めねぇ顔でタトゥーを凝視し続けるウイに、何事かとその意図を考え
1つの仮説に行き着いた。
海賊であれば珍しいものでもなんでもねぇこれは、一般人にとってもそうとは言えねぇ。


ビビらせたというか、引いたりしてんだろうか。
これは。


感謝と信念の象徴としてこれを入れた。
消えぬ物を体に刻んだ事に悔いなんてものは毛頭ねぇ。

だからこそ
それがウイに負の感情を抱かせる物であっては欲しくないと、そう思った。




「これ痛くないの?」
「今は何ともねぇ」


ウイが恐る恐るタトゥーと地肌の境目を指で撫でる。
その触れるか触れないかの絶妙な力加減に、体がピクリと反応した。


「…ビビってんのか」


聞きたいようで、もしそうであれば聞きたくはない。
だが相変わらず曖昧さを嫌う性格がそれを口にさせた。


「いや全然?でもびっくりはしたかも!こんな間近で初めて見たー」


ほっとした。
本気で。

一瞬、これが原因で距離を置かれる事を想定しそれを良しとしない頭が確かにあった。

よく考えればこういうヤツだ。
好奇心旺盛。
悪魔の実の時もそうだった。
未知の物への探究心が半端ねぇ。


だがしかし、この状況にこの距離。
顔を近付け指を触れての分析をやめる気配のねぇこいつは如何なものなのか。


拷問か。


ここまで来ればもうこれは正常な反応だろう。
だがしかし、恐らくそうしてはならない。


境目が気になるらしいウイの指がそこに触れるのを、必死で虫が這う妄想で誤魔化した。











「うわキッツー…流石にあれはキャプテン気の毒だな」
「なんで俺ら隠れてんの?」
「邪魔しちゃ悪いでしょ!何か起きそう!!」


三人はウイの刺青分析のせいで内心酷い状況になっているだろうローの姿を、船室の影に隠れ覗いていた。


「アレは俺なら押し倒す。ウイが悪い」
「ちょっと前までお前らあれと張るレベルべたべたしてたじゃん」


シャチの言い分もごもっとも。
ペンギンが敢えてそうしていたにしても、一般的にあれは距離の近すぎる馴れ合い。


「いやー…これは別物でしょ。だって水着に半裸よ?それに俺別にウイに変な気起きねぇもん」
「俺も!」


ペンギンはともかく、ベポは熊にしか興味がないのだからそれは当然だろう。
覗きを楽しむ彼らを尻目に、背中のタトゥーも一通り観察し終えたウイは再び胸元のそれに関心を示した。
凝ったデザインの方が彼女の興味を引くらしい。


完全にタイミングを失いウイを引き剥がせずにいるローは
もう頭の中で後先考えずに欲のままに生きる道を検討し出す程だ。


近い距離でそれを覗く彼女の吐息を肌に感じたその瞬間、それはローの逃げたい道への背中を押した。
彼の頭の中でぷつりと、何かの糸が切れた。




体をなぞる手首を捕まえ、それを引き寄せる。
突然のことに体勢を崩したウイは、ローの胸元に倒れこむように顔を埋もらせた。


「何急に。あたた…鼻、痛ー」


鼻を擦り見上げてくるその頭を、一回り大きな手が抱え込む。
それに驚き身を引こうとするウイを無視して、ローは更に顔を寄せた。


「お前、わざとやってんのか」
「な、なになになになに!近い!顔近いってば!」


二人の距離は鼻先がぶつかるほど。
逃れようともがくウイの手を捕らえていた腕は、いつの間にか腰に回されていた。
動揺し厚い胸板を目一杯押す#Name1#の力では、それはびくともしない。


「ねぇちょっと!なに!!どうしたの?!」
「どうしたもこうしたもねぇだろ。誘いに乗ったまでだ」


逃れられないのならば、せめて顔だけでも背けようとする首は
抱えこむローの腕に阻止される。
#Name1#の目は困惑で潤み、心臓の打つ速く強い鼓動はそれを抱える男の手にも伝わっていた。


「誘うって…!もうほんとふざけないで!離してやめてっ!!」
「ふざけてんのはそっちだろ」


腰に回された手が、触れる脇腹をすっとなぞり上げる。
ビクリと縮こまる反応にローは口角を吊り上げた。
首筋に埋めた顔が、暴れ踠くウイの首筋をペロリと舐めあげる。


「やっぁ…!ねぇなに!本当やめて!!やめてって…ばぁっ!」


喘ぐようなその声は、ローの体にぞくりたものを走らせた。
だが開け放った事で付いた勢いとは裏腹に、抑える事に割いていた頭の余力が冷静に働きだす。
これ以上は流石にマズい、と。

まだ今なら悪ふざけで済ませられるだろうと
仕方なく拘束していた腕の力を弛めたローを、顔を真っ赤にしたウイが見上げた。


「足りねぇなら続けても構わねぇが」
「ち、違う!そんなんじゃない!!」


慌てて距離を取ろうと彼女の腕が胸を押す。
しかし力は弛めたものの、ローの腕は彼女を解放しようとはしない。


「男ってのがどういう生き物か分かったか」
「え?」
「無防備にべたべた男に触るなって言ってんだ」
「わ、分かった!すっごく分かったから!だから離して!」


再び顔を近付けたローに、ウイはあわあわと泣きそうになる。
そんな彼女を今度こそ、彼は仕方なく解放してやることにした。





「もう!何なの!!嫌ならそう言えば良いじゃん!」


パタパタと顔を扇ぎながら文句を言うウイの顔はまだ若干赤かった。


「別に嫌な訳じゃねぇ」
「え?」


じゃあなんでと、#Name1#はきょとんとした顔で尋ねてくる。


刺青を興味本意で触られたことを咎められた気でいるコイツは
絶対俺が言った事を理解してねぇ気がした。


「お前がその気なら歓迎だっつってんだよ」
「なっ…!!」


何言ってんのと再び顔を赤くしたこの様子では
忠告は理解していなくとも、これの意味は理解出来たようだった。


アオイ相手に頬を染めたウイに、それを勘ぐったこともあったが
この様子ではウイはただこの手の事に免疫がねぇ線が有力。

いつかけろっとこっちが驚く発言をしてのけた事に、意外とやることはやっているのかと過去の男達に怒りが沸いた。
だがそれも、取り越し苦労だったようだ。

鈍そうなウイが相手では、もしかしたらこれで気付くんじゃねぇかと期待を込めたさっきの言葉も
どうせ伝ってはいねぇんだろう。


「あれ?もう始めんの?」


なんとも言えねぇ状況を、さっきから影でこそこそ覗いていたシャチ達がそ知らぬ顔で打ち破る。
呆れた趣味だが今回のこれは助かった。

覗かれているからこそ、思いとどまれたのもある気がする。
あのまま続けていたら
鈍感過ぎるこのバカを泣かせ、本当に欲しいものは消えてなくっていた可能性も捨て切れねぇ。


「折角気ぃ利かしてやったのに」
「…面白がってただけだろ、どうせ」
「さすがにおっぱじまったら退散してたって!」


バレてたのかとペンギンが言い訳がましく喚いた。
それをため息であしらい、今度こそ訓練を始めようと船縁に足をかける。


「ロー!最初っから遠くはダメだからね!」


さっき何をされたのか、この女はそれを理解しているんだろうか。

危険予測のできないガキでもあるまいし、最初からそう遠くまで行くつもりはない。
一応了承の意を伝えると、ウイはにこりと微笑んだ。


「頑張って!」


口煩いそれすらも悪く感じねぇこれは、本当に重症だと自分でも思う。




destruct at reality.