17-2



ベポのビブルカードが指していた場所を遠くから見た時は、まるで島か何かだと思った。
近付くにつれてそれが船が何隻も集まった影だったって分かったんだけど1,2,3…4隻、かな?


ポーラータングだけで20人、ルフィ君の麦わら海賊団の他に2隻?
人が多そうだ…。


ハートの海賊団しか居ない中でも、二人で話せるような機会ってそうそうなかった。
全くなくはなかったけど…私があれこれ言い訳して怖じ気付いて
チャンスを潰してただけか。




でも…今回ばかりは後回しも逃げるのも出来ない。
話すって、聞いてくれるって約束した。
過去のしがらみを清算したばかりのローになら、タイミングだって悪くない。
寧ろ今回を逃せば一生言えない気がする。


…でも折角だからルフィ君とも話してみたい。
エースの大事な、大好きな兄弟。

ローと話す前かな、後かな…。











「行ってくるね、エース!…きっとけちょんけちょんに落ち込んで帰って来るから、こんな日くらい…ちゃんと慰めてよ!」


色々気になることとか不安はあるんだけど
肺に溜まった重い空気を吐き出して気合をいれた。


ちゃんと終わらせよう。
話すのも怖いけど、このままずっと悩んでるのはもっと嫌だ。














船の停泊準備を始めたウイはこの時
今日彼女を待ち受ける怒濤の出来事達の予感すらも感じ取ってはいなかった。


それは、予想だにしていなかった人物との再会と
このタイミングで届く愛する人からのメッセージ。

更にもう1つ挙げるとするならば
彼女はなぜ、これまでも散々我を通して来たあの男が“その話”は受け入れると思ったのだろうか…。


ウイもまた、人の事を言えないレベルの頑固者。
だからこそきっと、ローの“そういう所”が目につく。
お互いに譲る気等微塵もないからこそ、相手がそれを受け入れない想定なんてものはしないのかもしれない。


異なる2つの未来にお互いが存在している場合、それは一体どうなるのだろう。
相容れぬ未来は、どちらかが妥協しなければ例え片方であろうとも実現しない。


どちらが納得する未来が待っているのか
どちらでもない別の形が生まれるのか


本日ここに、頑固者同士の熾烈な我の通し合いが勃発する。







「久しぶりだね!船ここに停めちゃって大丈夫?」
「いんじゃないっすか?皆何も考えないで適当に停めてると思うんで!」


甲板で釣りをしてたらしいエイジ君達に一応確認を取ってから停泊準備に取りかかる。
帆を畳みに行ってくれた皆と、錨を降ろしながらキョロキョロと目的の人物を探す私。


中にいるのかな。
見当たらないや。


「お!キャプテンっすか〜?さっきウイさん着いた事知らせに行ったんで!そろそろ出て来るんじゃないスかね!」
「そっか…」


いつもなら照れたり怖じ気付いたりして、違うって反論したのかな。
でも今回の私は違うから。


来て早々に話をしてしまったら
きっと怒られる…?いや呆れられるかもしれなくて。
どっち道険悪な感じになってここには居ずらくなるんだと思うの。


「わ〜!これすげーウマそう!!貰って良いンすか!?」
「うん。ベガス聖から皆にお土産だよ。食べるのは一応ローに渡してからね」


ベガス聖チョイスの珍しいお菓子に目を輝かせる皆とも、こうやって話すのは最後になるかもしれない。


そう思うと勝手に一人で寂しくなっちゃったりもするんだけど
自業自得…いや、なんだかこれは聞こえが悪い。
…自分が選んだ道!そう!!
自分で決めた事なんだから、仕方ないんだ。


沢山詰め込まれてる袋の中身を漁る皆を何とも言えない気持ちで眺めながら
視線は船内に続く扉、そして麦わら帽子の海賊旗がたなびく船へと移った。


手配書で見たことがある麦わら一味の緑の髪の男の人が、その人の数倍以上の大きさの…あれは重り?を剣みたいに振ってて
きっと鍛練の一種なんだろうけどその光景が衝撃的過ぎて一瞬固まってしまった。


ローですらあんな筋トレしない。
あれはもうストイックの域を越えてる。


あんな芸当出来るくらいだ。
距離があるからよく見えないけど
きっとあの人は私が見てるのも、若干引いてるのも気配とかで気付いてるんだろ──「どこ見てる」
「ギィャァアアァっ!!!」


急に背後から聞こえた聞き覚えのある低い声に、驚き過ぎてすごい勢いで何歩か飛び退いてしまった。


「ロ、ロー…!びっくりさせないでよ!し、心臓止まるかと思った」
「…こっちの台詞だ。耳痛ぇ」


心臓の音は止まるどころか、太鼓みたいに煩かった。




「麦わら屋の船に何か用でもあんのか?」
「え?いや!?特には、ないんだけど…」


挙動不審過ぎる自覚はあって。
そんなに久しぶりって訳でもなくて。

でもやっぱり凄く心配だったから


「良かった…本当に。そんな大怪我とかは…なかったんだね」


ちゃんと生きてて五体満足で目の前に立っているローを上から下まで眺めて、改めてほっと胸を撫で下ろした。


「──本」
「え?」


良かったなって、しみじみ見つめてしまっていれば
少し居心地の悪そうなローが頭を掻きながらそんなことを言い出す。


「パンクハザードに向かう途中、読みかけだったやつがあっただろ。続き読むから貸せ」
「あ、あぁ。一冊だけ残ってたね、確か」


一冊だけなんだから読んでしまえば良かったのに
そんなにかさ張らないんだから持っていけば良かったのに
なぜか頑なに拒絶されたそれ。

ローがそんな感じだったから、さして興味がある訳じゃないのかなって思ってたのに。


「あ、ちょっと待ってってば!」


別に貸すのは構わないんだけど、お土産もまだ渡してないし中に居るだろう他の皆にもまだ顔すら見せてない。
そんな事お構い無しなローは勝手にフリーウィングの扉を開けてはスタスタと地下の書庫に降りて行った。






…何なの本当に。





「ごめん、これそっちに運んでてくれる?ローに本渡したらすぐ行くから!」
「ごゆっくり〜!俺らの事なんか気にせず!!ゆっくり!愛でも語らって来て下さい!!副船長達にはちゃんと言っとくんで!!」


言わんでええわ!!


ひゅーひゅーと指笛を鳴らしながら、お土産袋を持ってポーラータングの中に消えていく皆の背中に心の中で突っ込みを入れながら
意外と簡単に、早速二人きりになれてしまいそうな事に心の準備が追い付かない。


でも
きっと一生そんな準備なんて出来ないんだ。


だってローが大切な人である事は変わらないし、心から尊敬してる。
沢山助けて貰った。
色んな事を教えて貰った。
ローが居たから、色んな人にも出会えたし今の私が居るって本気で思う。


そんな人を今から、私は切り捨てに行く。
絶対に傷付けてしまう。


それを受け入れる心の準備なんて、何年経とうが出来る気がしない。
どうせ出来ない。



だから──今しかないんだ。







「──場所わかる?」
「わかる訳ねェだろ」


ですよねー。


リビングから階段を降りて地下に顔を出せば、難しい顔で本の背表紙に視線を走らせながら本を探すローの姿が目に入った。


「イイ線いってたんだけど残念!…ここでしたー」
「チッ…悪いな」











なんだその舌打ちは。











ジャンルとタイトル別に並べてある私のコレクション達。
目的の本のすぐ傍を探してたみたいだけど、まだあと二段くらいあったから先に渡してあげたのに。
貸したげて本も探してあげて、何で舌打ちとかされなきゃいけないのよ!!


引き抜いた本を私の手の中からすっと持っていったローは、そのままソファーにどさりと腰を降ろした。


「──あの…ローさん?」
「なんだ」


目線も合わせずにパラパラとページを捲っているこの様子では
確認するまでもなくローさんは今からここで読書をされるようだ。


「──おコーヒーでも、淹れて来ましょうか」
「悪いな」


さっき降りたばかりの階段をまた登る。
コーヒーを淹れなくては。
ローさんお好みの濃いやつを。


トントンと階段を小気味良く登りきり、ケトルでお湯を沸かす。
いくら読むのが早いローさんとは言え、流石に5分10分で読み終わる訳はないからコーヒーカップより沢山入るマグカップにしよう。

お菓子は──いらないな。
ローさん本読みながら食べたりされないですもの……って──












私は一体何をやっとんじゃぁッ!!!!!?












逃げたい気持ちと相変わらずのローの我が道突っ走り具合のせいで
危うくカフェの店員さんごっこでもおっ始めるところだった…!!


…ダメよウイ!!
ペースを乱されちゃ…!!

これ持っていったらその時に!
話があるってちゃんと言うの!

私も逃げたくてずっと先伸ばしにしてたけど!
ローのこれのせいで言えなかった部分だって多大にある!


今日の私はいつもの私じゃないんだから!


「ぃよっし!!!!」


折角だから私も飲みたいしってことで
2つのマグカップの持ち手を握って再び気合を入れ直した。


いざ!決戦の地へ!!




destruct at reality.