17-4
ローがコラさんの敵討ちの為にドフラミンゴを倒すっていう話なら
「あぁ、絶対言うなときつく言ったな」
「私、四年前どころかもっと前にローから聞いたよね?コラさんの話もドフラミンゴの話も!だから私、理由はそれとは他の事だって…」
ベポだけじゃない。
ペンギンだってシャチだって
その話をする時に口止めされてる雰囲気なんて全然なかった。
「お前に知られて困るのは、ドフラミンゴをぶっ飛ばす予定だった事ではねェ」
「…どゆ事?」
私が危ない事しないようにって
だから言えないって
ベポが少しだけ教えてくれたヒントを手がかりに、これに関してなら今まで何度だって考えた。
知ってしまえば
役に立てればって、後から考えたら無謀で危険過ぎる事でもやりたくなってしまう性分なのは私にもちゃんと自覚がある。
それが間違ってるとか直せるかって言われたらまた別の話だけど。
ローはその事を言ってて
“その何か”が解決しない限りは一緒に旅を続ければ私がまた色々やらかすから
だからあの時は仲間にするのを諦めたって、そういう話なんじゃなかったの?
ドフラミンゴの件をあのタイミングで伏せた所で私がそれに関して何もしない期待値ってどれだけよ?
元から知ってたんだよ?
現にしたじゃない。
おかしいでしょうが…!
「そこに関しては納得するしねェに関わらずそれが事実だ。…二年前は悪かった。予想外にお前が先に“蹴り”をつけた。結果的に俺のせいで今まで待たせた」
「だから待って!!ストップ!!」
つい声を荒らげて続きを遮った。
じゃあ良いよ。
納得出来ないけど、理由はドフラミンゴで解決したのはつい最近で良い。
けど…
「やっぱりダメだ。確かに約束してた。ローの方が先約だった。でもごめん!…私の話を先に聞いて!」
それならローの話はこれ以上聞けない。
私の話を聞けば、ローは話をする意味自体がきっとなくなる。
「ごめんなさい!!──私好きな人がいる。もうその人以外を好きになる事はないのに、もっと早く言わなきゃいけなかったのに…本当ごめん」
ガバッと頭を下げた。
頭だけじゃない、綺麗に垂直になるように腰を折った。
これは誠意の現れなんかじゃない。
後ろめたくて怖くて…ローの顔が見れなかっただけだ。
どのくらい沈黙が続いたんだろう。
きっと数分。
いや、1分も経ってなかったのかも。
それなのに
顔を上げられずにいた時間は何時間かと思うくらい長く感じた。
「──もっと早くって…それはいつからだ」
恐る恐る顔を上げて視界に入ったのは、感情の読み取れないローの顔。
静かな声には、怒りどころか何の感情も感じなかった。
「2年、前。その話をして別れて、すぐだった」
嫌われない為の言葉はいらない。
怒られない為に取り繕う必要もない。
本当の事を話す為に来た。
「──それを今まで黙ってた、と。あの話の後で」
「本当にごめんなさい」
怒鳴られても罵られても
何なら殴られたり切り刻まれてもしょうがないと思う。
「普通あの流れで…理由が何かは分からなかったとしても、俺はずっと解決出来なかった何かの解決を“お前の為に”急ぐだろうと考えなかったのか」
「…考えも浅かったし、言えなかったのも言いづらかっただけ。本当にごめんなさい」
言い訳はしない。
しようと思えばいくらでも出来る。
急がなくて良いから危ない事しないでって言ったよね?
ここまで遅くなったのは、何度も話そうとしたのを遮ってきたローにも責任はあるんじゃない?って。
でも
言わない事を選択したのも、あんな告白未遂をした後で心変わりした癖にそれを伝えなかったのも
全部私が決めたこと。
全部私が悪い。
「──そんな兆候なかったよな。何度も顔を合わせてた。パンクハザードに向かう途中も。…お前は好きでもねェ男にあんな態度取ンのか」
あんな態度ってどれだろう。
こんな事思う時点で思い当たる節が何個かある訳だから既に最低だ。
飲んでた時も
パンクハザードに着いた時も
それ以外のなんて事ない時間だって
ローに勘違いさせるような態度を全くとらなかったなんて嘘でも言えない。
何度もローが好きだった時の気持ちが蘇りかけた。
どんなにエースが好きでも
見えなくて触れられなくて、傍にいてくれないのは寂しかった。
「お酒飲んだり…危ないとこ行くって思ったら色々錯覚しちゃったり…とにかく私が自制出来てなかった。私が…ズルかった」
あぁ痛い所ばかり突かれるなって思って
…自業自得だって自らを省みた。
自分がした事の酬いは、ちゃんと受けないといけない。
「へぇ…お前、最低だな」
「…そんな最低な人間の為に、ずっと時間を無駄に使わせて、危ない事を急がせて…本当に、本当にごめんなさい」
“最低”って言葉は、思いの外胸に深く突き刺さった。
分かってる。
本当にその通りなの。
最低なの。
でもそれをローに面と向かって言われて
自業自得の癖に、泣いちゃダメって分かってるのに、理屈に沿って働いてはくれない涙腺が緩みだす。
せめて潤んだ目を見られないように、もう一度深く頭を下げた。
「それで?お前の話の結論はなんだ」
…結論?
え…なんだろう。
これを伝える事が目的だった訳で、だからどうしようとかは考えてなかった。
「それを聞いた俺に、どうしろと」
「どうって…ローの話はもう私には受け入れられないって事と、申し訳ないと思ってる事が、伝われば良いなって…思ってる」
うん。
それが全てだ。
「けど許してとは言えない。ローがもう二度と私の顔も見たくないなら、今後ハートの海賊団の皆にも近付かないよ」
「──謝罪でも何でも、口で言うだけなら誰にでも出来る」
緩んだ涙腺で声が上ずらないように、うっかり言い訳をしてしまわないように
気を付けながら言葉を紡いだ。
ローはつまり、何か言葉以外の謝罪をよこせと
そう言ってるんだよね。
口先だけのつもりはない。
見せられるものならこの申し訳なさでいっぱいの心を寧ろ見せたい。
でもそれは私の尺度であって
償いたいなら、ローの基準と要望に合わせるのが当然の筋だ。
「本当に反省してるなら態度で示せ」
「態…度?」
頭丸めるとか
土下座とか
そんな感じだろうか。
具体的にどんなのだろうって思って、続きを視線で促した。
「最低でも有り得なくても俺はお前が良い。悪かったと思ってて、そんな俺に詫びる態度っつったら答えは決まってンだろ」
「いやあの…!言ったよね?他の人を好きになる事はもうないって。反省はしてる、お詫びもしたい、でも出来る事と出来ない事がある」
どうしたロー。
何だろう。
さっきから変な違和感を感じる。
なにかが噛み合ってないような、不自然な違和感。
そもそもそんな事が可能なら、批判されるのを承知でこんな事話さない。
出来るものなら黙ったままローを受け入れてたよ。
「出来ることしかしねェのは…果たして本当に反省と呼べンのか?」
「軽んじてるとかそういうつもりじゃない!!ただそれだけは私だって譲れない。他の事なら何でもするよ、でも…ローの気持ちは受け取れない」
お金払えとか何か探して来いだとか…死ねって言うなら死んだって良い。
ただこれだけは本当に譲れない。
軽はずみな気持ちでエースを選んだ訳じゃない。
私にとってエースは今も支えだ。
白ひげ海賊団の、家族の安否が分からない今
私以上にエースを忘れずに居る事が出来る人なんていない。
エースを1人になんて出来ない。
ローには凄く悪いことをした。
我ながら本当に酷いと思う。
臆病な我儘で私が今までしてきた事は
実際に言葉で指摘されればこんなに耳も心も痛過ぎる。
それでも
「その人のこと…大好きだから」
揺らがないよって気持ちを込めてローを見上げた。
反省が見えないとか、許す気がないならそれで良い。
「…一応確認だ」
元からあんまり感情を表に出す人じゃないんだけど
あまりにも静か過ぎて逆に怖い。
言葉もなくただ視線がぶつかる事数十秒、相変わらず表情すら変えないローが口を開いた。
「おまえの“好きな男”ってのは、“火拳のエース”の事を言ってンだよな」
「…!!」
なによ。
やっぱり気付いてたんじゃない。
知ってたんじゃない。
兆候なかったとか言っておいて…。
私が悪い。
それは大前提。
でも弁解もせずに責められ過ぎて
言ってる事もその場その場で変わって
「そうだよ。…知ってたんだ」
これじゃあただ、私を責める為だけにその都度ローが設定を変えてたみたいなものじゃない。
少し、トゲのある口調だったと思う。
たださっきから少し感じていた違和感が苛立ちに変わりつつあるのは事実だ。
「何がお前をそこまでさせる。責任か妄想かは知らねェが、本人の知らねェとこで勝手に未亡人ヅラされても、あっちだって迷惑だ」
は?
何急に。
何でローにそんな事言われなきゃいけないの。
ローにエースの何がわかるのよ。
「未だにお前は、自分のせいで火拳屋が捕まったと思ってンだろ。その償いのつもりかは知らねェが勝手な──「煩い」
流石にこれは、我慢の限界だ。
「何も知らない癖に勝手なこと言わないで!私が1人でエースと付き合ってるつもりになってる訳じゃない!!」
我慢の反動は、止まらなかった。
「ちゃんと伝えた!エースだって知ってる!!同意の上!!!…あの時無事に帰ってこれてたら!!今もきっと…ちゃんと普通の…恋人同士だった!!!」
怒りで震える手が
興奮で滲む視界が、ツンと痛くなる鼻の奥が
まだ言い足りないって暴れてる。
でもこんな事を言う人に涙なんて見せたくない。
さっき泣いちゃダメだと思った時とは理由が違う。
これ以上ない位に睨み付けても、眼力で相手にダメージを負わせられる事はないらしい。
激昂した私に全く動じた様子のないローが、つかつかと静かにこっちへ歩いて来る。
ひっぱたかれるんだろうか。
いや、叩きたければ叩けば良い。
こんなネチネチ言われ続けるよりそっちの方がマシだ。
ドン!!
「どういう事だ?…お前、どうやって“あの後”火拳屋に接触した。ンな機会ねェだろうが」
前後には本棚とロー、両脇には逃がすまいとばかりに長い腕が行く手を阻む。
一瞬しまったと思って動揺した。
でも今さらだ。
これはちゃんと話さないと埒があかない。
「…あの日本当は、マリンフォードに忍び込んでた。エースが処刑台に着いてからあそこが崩壊するまでずっと…ずっと二人で話してた」
言葉にするだけで鮮明に思い出す。
あの時の事を誰かに話すのなんて、そういえば初めてだ。
「私も好きって伝えたし、エースも受け入れてくれた。妄想とか責任じゃない!私とエースはちゃんと付──んぅっ!!」
キスされたとか
これはそういう色めきたつ物じゃなかった。
「んぅ…ゃだやめっ…!!」
噛みつかれて、這い回る舌に口の中を荒らされて
息も出来なくてくらくらする。
これが幸せで堪らない時も確かにあったのに
「…ロ…ぉ、…ゃめ、ふっ…!!」
気持ちの変化のせいなのか、乱暴なせいなのか
押してもびくともしない体も、どこに逃げても追ってくる舌も…
でも何よりも一番、冷えきったローの灰色の目が怖かった。