17-8



「あれが噂の。手配書は見たことあったけど…ウイ面食いだったのね。それにしても…癖の強そうな男だよい」
「違う!いや違くない、けど!でも…違う!」


早く泣き止みたい。
話したい聞きたい。

それなのに何でマルコは更にややこしくするの。


「まあ落ち着きなよい。凄い睨んでるけど…今手ぇ出して来ないなら邪魔する気はないだろうよい」


落ち着くの邪魔してるのマルコじゃん。


喋るとまた嗚咽が復活しちゃいそうで、何も言わずにマルコを睨んだ。
伝わったのかは知らないけど
頭をぽんぽんしてくれる大きなあったかい手に、少しずつ気持ちが落ち着いていく。


なんでかな。
付き合いならローやペンギンの方が格段に長いのに
私二人には見られたくなかった泣き顔も、マルコなら良いやって思ってる。













「……なんで、なんで連絡くれなかったの。…私のでんでん虫の番号、全員揃って忘れるなんて有り得ないでしょ」
「久しぶりだってのに可愛げのない…」


やっと落ち着いた声で、早速ずっと不満だった事を問い詰める。
海を眺めていたマルコは一瞬だけ視線をこっちに戻したと思えば、げんなりした顔でそう呟いた。


いや確かにそれはそうかもしれないけども。

でも元気だった?とかそんな見て分かるような社交辞令、今はいらない。

ずっと心配で不安だった。
そんなのマルコ達にだって分かりきってた事な筈。

理由を聞かなきゃ、2年間も音信不通だった事に納得なんて出来ない。


「…悪かったよい。ティーチ…黒ひげの動向が読めてなかった以上、もう後ろ楯にもなれない俺らとの関わりはリスクでしかない」
「…!!マルコは!皆は!!…安全だから、守って貰いたいから私が皆と居たって、そう思ってるの!!?」


言いたい事は分からなくもない。
でもそれは不本意というか、私が望んでる事はそうじゃない。
寧ろ真逆だ。


「だから落ち着きなって…誰もそんな事は思ってないよい。大事な妹を危ない目に合わせたくない兄心。あいつらの過保護っぷり、ウイこそ知らないとは言わせないよい」


やれやれって呆れてるマルコの優しさも、皆の気持ちも
分からなくはないんだ。


ただ私はこの2年間、出来た家族を失っただけなのに
ゼロどころかマイナスに余裕で食い込む程寂しくて悲しくて

つらかった。







「私は安全なんかより皆に会いたかった!!皆まで死んじゃったんじゃないかって…!ずっと、ずっと心配だったし怖かった…!!」
「そこに関しちゃ悪かったとは思うが…だからと言ってそうしない選択肢は俺にもアイツらにもなかった訳で…」


興奮しながら捲し立てる私の目には気付けばまた涙が浮かんでて


「分かった!俺らが悪かった!だから泣くんじゃないよい!!」


それに気付いたマルコはお手上げだと両手を上げて降参の構えだ。


私別に、誰が悪いかを決めたい訳じゃない。
それは誰がなんと言おうと…ティーチだと思うから。


「何の偶然なんだかな。でも会えて良かったよい」
「それはこっちの台詞だよ…!」


そうだよ。
本当に会えて良かった。

家族がまだ残ってる事が解って
思い出を、エースの話を分かち合える相手が居てくれて。


夜な夜な耳では聞こえない会話をエースにしてた事を思い返したら、また涙が滲んできた。


返事は想定しなくても、ちゃんと鼓膜を震わせて返ってくる。
あの日私が知らなかった現場での事も、マルコは知ってる。


「──マルコは何でここに?ここに居る人達ってワノクニに行くんでしょ?マルコワノクニに何か用事??」
「いや、ここにはエースの弟…ルフィが居るって聞いてな。顔見に来ただけで俺はすぐ戻るよい」


なんだそうなの。


随分腕を上げたようだって、ここからルフィくんの船を見下ろしてるマルコは嬉しそうに笑ってた。


「…あの、マルコ。──聞きたい事がある。私、あの時離れた場所に居たから何がどうなっ──「赤犬だよい。…サカズキが親父を馬鹿にしてエースを挑発したんだ。お前も知ってるだろ?アイツに"それ"は聞き流せない事を」



まるでそう聞かれる事をわかっていたかのように
全部を言い切る前に聞きたかった答えは帰ってきた。

サカズキからルフィくんを庇って傷を負ったってしか聞いてなかったから
そんな経緯があったのは初耳だ。


「エースらしい…ね」
「本当だな…。サカズキもメンツを守る為に必死だったんだろうよい。せめてエースかルフィ、あわよくば両方の首を…ってな」


知らない、あっちの都合なんて。


もし都合を考慮して何かが許されるなら
あれだけ沢山の人が命をかけて助けに来たエースこそが、許されるべきだった。





「ウイも見てただろ?ルフィはあそこに乗り込んで来た時点で既に満身創痍だったよい。それに加えてあの実力差だ。それをエースが庇って…死んだ」












ルフィくんがあの時どんな状況だったかなんて知らない。

遠かったし。
私は戦いの事なんて何もわかんないし。

でも──


「エースさ…。きっとルフィくん守れてなかったら…生きて帰ってこれても死んだように落ち込んで、手が付けられ、なかっただろう…ね」


いつもルフィくんの話してた。

アイツは弱虫だ、まだまだだってそう言いながら
いつだって好きが駄々漏れだった。


「助けに、来て貰…って!…それ…ぐすっ…でエースだけ助かって、も!!…っ!…喜ぶ人じゃないもんね!」
「そうだなぁ…。まぁ、俺らは俺らで…死んでも取り返す腹積もりだったけどよい」


堪えきれなくなって流れていくこの涙は、ただの水分とは何かが違う。


こんな事、誰に話したって過去が変わる訳じゃない。

でもマルコに
エースをよく知ってる人に話せただけで、肯定して貰えただけで
重たい何かが涙に溶けて体から出ていくような気がした。


「エースね、凄く…葛藤してたんだ。こんな状態なのに、皆に申し訳ないのに…生まれてきてから今が一番幸せだって」
「そうか…。生き残ってりゃもっと良いことなんて五万とあったのにな…」


マルコは話しながらも終始海の方を見てて。
もしかしたらだけど、きっと当たってると思うけど
…泣いてるのを見られたくないのかなって思った。


でも嬉しい。

2年も前の事なのに、マルコの中でもエースはちゃんと生きてた。












それからね、あの時のパパや皆、助けに来てくれた傘下の海賊達の話を聞いて
今どうしてるのかとか、そんな話になった。


マルコは今パパの故郷で守り人をしながら島医者をしてるんだって。
そしてその島に、…エースとパパのお墓があるんだって。

それをたてたのは、なんとびっくりシャンクスさん。
また会えるかはわからないけど、会えたら私もお礼言わなきゃなって思った。








「…あの、マルコ…」
「?」


一通り話し終えて
でも私はまだ話したい事が実はあって。

きっとこれが一番大事な話で。


「あの…ね、私達実は、付き合ってる、の!」


マルコは、どんな顔するのかな。








「?…そりゃあれだけ威嚇されれば。そんなこったろうと思ってたよい」
「…は?」


喧嘩か?って半ば呆れたようにこっちに向き直ったマルコに
何言ってんだこの人はと、そんな心の中を忠実に再現した顔を向ける。


「あぁ、もしかして…ローのことだと思ってる?違うよ?エースだよ?」
「あぁ、エース。………はぃ?!」













負けじと信じられないような顔で凝視してくるマルコに、やっぱり今の私って人をビックリさせちゃう状況なんだなって改めて思った。


「だから、エース!あの時処刑台で私、エースに告白したの。エースも私のこと好きだったのマルコも知ってるでしょ?」
「いや、それは知らないヤツの方こそいないだろうよい…。──それより…正気か?」


流石にそれは失礼だろ。

私がエースと付き合うって、気でも狂わないと有り得ないって
そう言いたいんだろうか。


「正気だし本気。大切な人だから、2年前だってあんな無茶しようと思った。エースが死んでしまったからって気持ちは変わらないよ」


何を言われたって私の気持ちは本物だし、おかしいところなんてどこもない。
何を言ってこようと論破する気満々で胸を張った。


「……ナルホド」


それなのに当のマルコはと言えば
肯定的に受け取られてないことは一目瞭然だけど、何が言いたいのかイマイチ釈然としない微妙な顔。


「なに」
「いや……これはどうしたもんかよい…」


ため息を付きながら頭まで抱え出されるのは正直心外過ぎる。
エースがマルコに何て言ってたかとかは分からないけど
マルコにならきっと私のことも話してたと思うし、マルコだって応援してたんじゃないかなって気がするのに。


「1つ確認だよい。…ウイはこの先一生、男も作らずエースだけを思い続けるつもりか?」
「そうだけど。…寧ろそうじゃない場合ってどんな場合なの?」


そうかよいって、更に困惑の色を濃くしたっぽいマルコは私に背を向けて海の方を向いてしまった。


いつかは心変わりするつもり、くらいの軽い気持ちじゃない。

命懸けで助けに行った。
沢山の人に心配も迷惑もかけた。



この気持ちと引き換えに捨てたものだって
そんな軽いものなんかじゃなかった。







「おまえ、筋金入りの頑固者だからなァ…」
「だからなによ、さっきから」


関わりたくない感満載のげんなり顔。
掃除当番1ヶ月分擦り付けられた級の嫌そうなやつ。

何がそんなに嫌なのか知らないけど、失礼であることは確定済みだ。


「…あのな、あー…人生ってのはまだまだ先が長い訳で。…特におまえはまだ若い。あとは…黙ってりゃそこそこ可愛い顔してるよい」
「ありがとう。面倒臭いから簡潔にお願い」


あーとかうーとか唸りながら
頭抱えたり米神を抑えたりしながら
しどろもどろに語られようとしているこの話は、このまま聞けば絶対長い。


「──生きてる人間とじゃなきゃ味わえない経験ってものが沢山ある。…そこを捨てるには、ウイは流石にまだ早すぎだよい」
「そんなことわかってる。全部承知の上、だよ」


女の子の憧れな結婚式だってなくて良い。
話しかけても、想像通りの答えしか返ってこなくたって良い。

愛してくれる存在も
抱き締めてくれる人も
これからを生きて行ける相手だって、たった今切り捨ててきた。


「──エースがそれを…望んでるとでも思うのかよい」
「…望んでると思うな。──マルコはピンと来ないかも知れないけど、私とエースって似てるの。私だったらずっと変わらずにいて欲しい」


だからエースもきっと、そう思ってる。

何があっても、何を知っても
決して変わることのない気持ち。


私たちがずっと欲しかったものだよ。
それをエースがいらないなんて言うのは…強がりでしかない。


「寂しくないのかよい。…言ってたよい、さっき。不安で怖かったって。そんなこと生きてりゃこの先何度でも訪れる」
「だとしても!不安で怖くたって、ほら!私今元気で平気でしょ?…覚悟の上。それでも私はエースが良い」


私の人生はきっと、100%で満たされる事なんてないんだろう。
"何か"は得られても"何か"が欠ける。

私に腕一杯の荷物は持ちきれない。
それならば、手の中に残るのはエースが良い。


「やっぱ無駄かよい……ならもうごちゃごちゃ言わないよい」
「そうだよ。マルコはエースも私もよく知ってるんだから、寧ろ応援してよ」


何を言われても説き伏せる気でいたけど、ほっとした。


肩の力が抜けたのも束の間
最後にマルコが放った言葉は、私の心臓を鷲掴みにしていったんだ。




destruct at reality.