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散々自分で呪いだなんだと喚き散らしていた癖に
いざそうだと肯定された時のウイの顔は中々に酷かった。
冤罪で死刑を宣告された顔、もし例えるとするならそんなところだ。


「どういうつもり?…キャプテンが一番信じないじゃん、そういうオカルトちっくなやつ」
「信じてねぇよ。だがそれじゃラチがあかねぇだろ」


流石と言うべきか、付き合いの長いベポは俺の事をよくわかっている。
寧ろウイより付き合いの短いジャンバールやアンですらも
俺がこの手のモンを信じねぇ事くらい知ってる気がする。


呪いだ、信じてねぇだで一々真面目に反応する今のコイツが普通じゃねぇだけか。


「呪われてねぇと誰に何度言われようとどうせこいつは納得しねぇ。ならその設定に乗ってやんねぇと話が進まねぇだろ」
「え、じゃあキャプテンはウイの呪いかっこ笑いで死ぬの?」


こいつらのこの冗談めかした態度がウイを余計ムキにならせたと言うのに
ベポは態度を改める気はないらしい。

実際確かに、正気かと疑いたくなるレベルの言い分だ。


「俺はそんな呪いごときじゃ死なねぇよ」
「そんな事わからないじゃん!!」


呪いだと言われれば落ち込んで
それが通用しないと言われれば噛みついてくる。


恐らく今のウイは混乱しすぎて
自分でもどうすべきかがわかってねぇんだろ。


「もし呪い殺されようと、俺が知ってて選んだ事だ。誰にもおまえを責めさせねぇ。俺もおまえを恨まねぇ」
「簡単に言わないで!!責められなくても恨まれなくても、私は嫌!ローが死んじゃったら、死なせて…しまったら…!」


面倒以外のなにものでもなくても
じわりと滲むこの涙が溢れる前に、拭ってやりたくなった。
小刻みに震える肩を、抱き締めてやりたくなった。


「私はもう、生きていけない…!…大切な人を亡くすつらさなら、ローにだって解るでしょう?」


もし本当にウイが呪われた女だとしても
こいつになら殺されても良いとその身を差し出す男は後を絶たないんじゃねぇかと、そんなアホな考えが一瞬頭を過った。




それほどに、すがるように見上げて来るウイには庇護欲を擽られる。






ここまで真剣に悩んでるウイには悪ぃが、呪いも副作用も勘違いの思い込みとしか言えねぇ。

母親に関しても火拳屋に関しても、言い方は悪ぃが死に不可解な点は皆無。
殺意や動機、状況の全てに説明がついちまう。

だが俺も海賊──死とは隣り合わせの身。
呪いに関わらず、俺が死ぬ可能性はどう頑張ってもゼロにはならねぇ。

俺が死んだ後、自分のせいだとコイツが悩み苦しむくらいなら──









「もし、そうなれば──責任とっておまえも死ね。ついてこい」








虚ろげだったウイの目がハッと見開かれた。


愛する女に言うべき言葉ではねぇと思う。

だが俺は、こんな脆くて危なすぎる女を残しては死ねねぇ。
そして絶対に死なねぇってのは、例え海賊を辞めようと生きている以上不可能な事だ。


「それなら問題ねぇだろ。まず俺は簡単には死なねぇし、例え死んでもおまえがそこを悔いながら生きていく事もねぇ」


恐らく
ウイが欲してるのは"守られる事"でも"慰め"でもねぇ。

頼った相手が、全力で愛する相手が
自分の命が尽きるその瞬間まで、ずっと傍に居る事の安心感。


「これで文句ねぇだろ」
「本気で、言ってるの…?」


普通なら、こんな狂ったことを本気で抜かしてんのかと
そういった意味にしか取れねぇだろうこの言葉。


「冗談で言わねぇだろ、こんな事」


でも違ぇんだ。

この馬鹿はきっと
死ぬ覚悟で踏み込んで来て欲しくて、現世のみならず死後ですらも愛され続ける事を望んでる。


「今度は俺がおまえに聞く番だ。おまえは…俺の為に死ぬ覚悟があんのか」


命懸けの恋と言えば聞こえは良いが、これは言ってしまえば度を越えた共依存。


そこに身を落とす覚悟があるのか。
自分の寿命とは別に、命の節目を増やす覚悟はあるのか。






ウイは泣いた。
顔を両手で覆い、立ち尽くし、声を殺す事もなく。

今日だけで何度も見た泣きじゃくるその姿が、今だけは違って見えた。



呪いを恨むでも、度を越えた束縛に怯えるでも、気持ちの移り変わりを嘆くでもない。





親を見つけた迷子。





目の前の愛する女は、なぜかそう見えて仕方なかった。









『もし、そうなれば──責任取っておまえも死ね。ついてこい』





それを聞いたときね、ほっとしたの。

ほっとしたとも違うかな。
肩の力が抜けた?


ぴったりな言葉が選べない。
でもね、悲しいとかそういうマイナスの感情は一切沸かなかった。


私やっぱり、変なのかな。
死ねって言われて嬉しいなんて。




夢の中でね、耳を塞いでも声は聞こえてた。
私のせいだって責める声が。


違う、そんなことない、いやそうだって
一人で疑っては打ち消してを繰り返してた。

でもやっぱりその時も、絶対に私のせいじゃない証なんてどこにもなくて。

自分の声を否定する事に疲れて、私のせいなんだって思った時
私、困ったの。




エースにも母様にも、償う方法が何もなかったから。











呪われていたくなんてない。
ローを死なせたくない。

ただローの言葉は、もし呪われてても良いかなって思わせてくれた。


償わせてくれる。
置き去りにされる事もない。
…死んでしまえば悩みも苦しみもなくなる。

それに
こんな私でもいいんだって。

死んだ後ですらも、一緒に居てくれるんだって。










私ずっとね、
もう裏切られたくなくて、周りの要望に応えるように自分を偽る癖がついてしまっていた。

ちゃんとしてれば嫌われない、裏切られないって
強迫観念みたいに思い続けてた。


でも
愛されてるのはどうせ本当の自分じゃないって虚しさと
ボロが出たら嫌われるって恐怖がどうしても消えなくて。



深い関わりに怯えながらも
泣き叫び駄々を捏ねる子供でも親がちゃんと家に連れ帰るように
私もそんな、無償の愛が欲しかった。










良いところも悪いところも
面倒臭いところも呆れてしまうところも

全部ひっくるめて、この人は私を愛してくれる。



こんな私でも──"愛すること"を許してくれる。









『今度は俺がおまえに聞く番だ。おまえは…俺の為に死ぬ覚悟があんのか』








愚問だね。










私はあなたの為に生きて
あなたの為に死にたいです。









泣きすぎて、言葉が出てきそうもなくて
でも落ち着くまでなんて待てなくて、取り敢えず頷いたんだけど


伝わるかな、この気持ち。







「ヒュ〜♪キャプテン男前〜!」
「え?男前なの…?重くない?寧ろ怖いよ死ねって。…本人達が良いなら別に良いけど」


ベポの歯に衣着せぬ物言いに、まだしゃくりは収まらなくても顔は自然と苦笑いしてた。


「確かに重いね。激重」
「大丈夫よ。そもそも呪いなんてただの思い込みだから」


それに続くペンギンと、気にすることないわってフォローしてくれるアンさん。







変なの。
呪われてても良いんだってほっとした途端、本当に何事もなければ良いな、勘違いだったら良いなってそればかり願ってしまうんだから。

さっきまで散々ああでもないこうでもないって反論してた私はどこに行ってしまったんだろう。







「そっちが思い込みでもさ、これからウイキャプテンの心臓持ち歩くんでしょ?本格的にヤバイ人達じゃん。…本人達が良いなら良いけど」
「そうかキャプテン死んだらウイも死ぬのか…ウイに心臓持たせとくの危なくねぇか?」


ベポとシャチのやり取りで、いつかのトランスモードの時を思い出した。
あの時は私も、そう言って心臓を返した事になってたなって。

本当はバレたら困るから返したんだけど。


「それだとキャプテンが死ぬ分には構わないみたいに聞こえんの俺だけ?」









ペンギンの冷静な突っ込みに、確かにそうだと皆がじわじわ笑い出す。
シャチはあたふたしながら弁明してたし、ローは結構洒落になってない感じでシャチを睨んでたけどね。


「ほら、俺が死なねぇように大事に持ってろ」


改めて差し出されたキューブを、まじまじと見つめてみた。
規則的に脈を刻むこれが止まってしまったら、ローは死んじゃうのか。
















「やっぱりこれ、いらない」


手のひらごとキューブを突き返すと、ギロっと音がする程にベポが睨まれてた。

おまえが余計な事言うからまたややこしい事になるじゃねぇかとでも言いたげだ。
いや、これは多分思ってる。


事実しか言ってないじゃんって開き直るベポに、乾いた笑いが込み上げて来た。


そんなに私、重…いな。うん。
重くて面倒臭くてどろっどろだ。







でも私今、
大好きな人がいて
ありのままの自分でいられて



心から幸せだよ。






二人がこのまどろっこしい関係になってからもう、どのくらい経ったかな。

お互いにお互いを好きな癖に、もう感心するわってくらい意地を張りまくってここまで来たキャプテンとウイが
たった今、晴れて恋人同士になった。

長かったなって気持ちと、これからは一緒にいられるっていう嬉しさに、ウイがいなくならなくて良かったっていうほっとした気持ち。



後は───















不満だ。不満。











結果何事もなく纏まったからこそ言える事だって知ってる。
だから正面切って文句言ったりはしない。

でも腹立つ。
ムカつく。


なに?
エースを好きになってたって。

それってつまり、俺たちとはもう一緒に旅する気なかったってことでしょ。


キャプテンが告白してるって気付いた時、何よりも先にこれからウイと何しようって楽しみにしちゃった俺の気持ちを返して欲しい。

俺この船の航海士だし、仕方ないから航海士様直々に潜水艦の操縦教えてあげようかなとか
枕変わったら寝にくいだろうし、仕方ないから俺のお腹貸してあげても良いかなとか考えてたのに。


さっきはさ、ウイがいなくなったらどうしようってもうそればっかりだった。

俺がいるじゃん、俺人じゃなく熊じゃんって。
あの時俺言ったじゃん…おじいちゃんとかおばあちゃんになっても一緒に居たいって。

なんで信じてくれないの?
嫌なとこがあっても嫌わない。問答無用で直させるのにって。

本当に必死だったし焦ってた。










でもそれなんとかなったから。
今はもう解決したから。

そしたらさ、今はとんでもなく腹が立つ。





内訳はさっきのウイへの不満と、ちょっとのヤキモチ。

2人が上手くいくことを望んでた。
でも──、今までは俺が一番相談しやすくてウイに一番近い理解者だと思ってたのにな。










腹立ったから、重いとか怖いとかヤバいとか
思い付く限りの悪口を言ってみた。


キャプテンは黙ってろと言わんばかりの目で睨んで来たけど全然気が収まらない。
だって、当の本人は全く気にした素振りもなく笑ってるんだもん。

今までウイってこんな顔して笑ってたかな。




その笑顔がまぁ、悪くなくて。
それにまた腹が立った。



destruct at reality.