5-6


ガチャっ


「ひぃぃっ!」
「うわぁああん!!」
「うるせぇんだよ!黙ってろ!!」


薄目で見てれば、放り投げられたそこは明かりのない暗い部屋。
私を運んで来た人は早々にそこを去っていった。


「おんなのひとだ!」
「大丈夫かな…おねえさん!しっかりして!!」


気を失ったふりをした体がゆさゆさ揺すられる。
出ていってから結構経ったし、もう大丈夫でしょ。


「ふぅ…大丈夫大丈夫!君たちこそ大丈夫?」
「「「ぅわぁぁあぁ!」」」


意識がないと思っていた人間が急に普通に喋り出したらそりゃ驚くか。
叫び声をあげる子供達の口を慌てて覆った。


「しっ!驚かせちゃってごめんね。…君たちを助けに来たの。大きな声は出さないで。約束できる?」


口元に人差し指を押し当てて笑えば、その子たちは涙目でこくこく頷く。
部屋に明かりはなくても、窓から差し込む月明かりのおかげで辺りは見渡せた。

子供たちは話の通り3人。
シュウとリュウとユウ、男の子二人と女の子一人。
3人は兄弟みたいで、公園からの帰り道に拐われたみたいだった。


「ユウ達もうお家に…帰れないの?」


こんなに小さいんだ。
ふぇ、と泣き出したユウをお兄ちゃんのシュウが抱き締めて宥めてくれた。


「大丈夫だよ、絶対に帰れる。お姉ちゃんが約束する!」
「ほん…とぉ?」


子供の力って偉大だ。
なんとかしなきゃって思うこの気持ちは、力になる気がした。


「勿論!お姉ちゃん約束破らないことで有名なの!」


ドヤッ!ってふんぞり返れば、散々泣き腫らしたユウの赤い目がふにゃりと笑った。
それに安心したらしいユウと末っ子のリュウは、気付けば隅で丸くなり寝息を立ててた。


さて。
こっからどうするかだな。


流石に酒場で聞いた以上の情報は殆どない。
でもなんとかしなきゃ、この子達は明明後日ヒューマンショップに引き渡される。


「本当に…逃げられんのか?」


流石お兄ちゃんだな。


きっとずっと気になってたそれが、弟達が寝て不安を煽る心配がなくなったせいで吐き出された。


「大丈夫だって!大人に任せなさい!!」


シュウは12歳らしい。
流石に事の深刻さを理解してるらしいこの子は、下の子達みたいに安心してすやすや寝息を立ててはくれないみたいだった。



「あいつら剣や銃持ってんだぞ。丸腰のウイが…勝てるのか?」


痛い所つくな…。


ぐっと唇を噛み締めてるシュウの手は、カタカタ震えてた。
きっとこの子は解ってる。
逃げ切れなければ自分たちがどうなってしまうのかを。

その不安を抱えながら、弟と妹を励ましてたんだ。
こんな暗い部屋で。


「勝てるよ」
「だからどうやって!」


シュウはもう涙目だった。


ユウとリュウが寝てしまって、お兄ちゃんでいる必要がなくなって
押し込めてた不安が溢れちゃったのかな。


ちょいちょいって手招きすると、シュウは素直にこっちに来てくれた。
その震えてる体を力いっぱい抱き締める。


「よしよーし!頑張った!お兄ちゃん今までよく頑張った!!…子供は安心して守られてたら良いの。女でも丸腰でも、私ずる賢いから大丈夫!!」


ぐりぐり頭を撫でてあげたら、ぐすって鼻を啜る音が聞こえて来た。
ぎゅうってしがみついて来るシュウが啜り泣く姿に
可愛いなって、こんな状況なのに思ってしまった。


大丈夫。
私が守ってあげる。

ただ無鉄砲に捕まってあげに来たつもりはない。




「兄貴!あの女の酒すげぇ値で取引されてる!!やべぇよ!!」
「ガキ売って終わりよりも安定した金が入るな」
「ああ!今女の船を探させてっから!とりあえず船にある分捌いて金にしましょうぜ!!」


まずい。
ロー達にバレてしまう。
まぁ…それは後で考えよう。


子供達のとこまでは連れて来て貰えた。
そして時間もまだある。
2日間はこの子達は売りに出されないし、私の方はお酒作らせて使おうって思うように誘導した。

そこまでは成功。
扉に耳を押し付ければ、男達の声もなんとか聞こえる。


私意識ないと思って油断してるのかな。
そもそも壁が薄いのか?


酒を作らせる以上、必要な作業とかこつけて普通の人質よりは自由に動ける…と願いたい。
普通の人はお酒がどうやって出来てるかなんて知らないだろうし、どんな愉快な作り方にしようか考えとこう。

明日1日従順なふりをして油断して貰って、夜に子供たちとエターナルログポースを失敬して逃げ出す。
今のとここれしかない。


ロー達には飲み過ぎて二日酔いで店に泊めて貰った事にしようと思ってた。
そもそも島に滞在中、必ず船に戻らなければいけないルールなんてないし。

でも船の酒に目をつけられた。
それは考えてなかったな…。




怒られる…んだろうなー。
皆意外と心配性だから。


いつの間にか寝息を立てていたシュウが頭を擦り付けてくるのを、可愛いなって思いつつ
ここを乗り切ってもお説教が待っていそうな状況に苦笑いだ。

安心したように眠るシュウの頭を撫でてあげれば、くすぐったいのが身を捩る。


とにかく。
この子達は絶対に親の所に返してあげなきゃ。

ヒューマンショップの手に渡ってしまえば、この子達はきっと
想像を絶する酷い扱いを受ける。

こんな可愛い子達を、そんな目に合わせたくない。






「兄貴!大変だ!!」


そんな事考えてたら、隣の部屋が急に騒がしくなった。


「あの女嘘付きやがった!!連れがいたんだよ!船に!しかもアイツらハートの海賊団だ!!」
「ハートの海賊団?聞かねえ名だな」
「北の海の死の外科医だ!8000万ベリーの賞金首!!」
「あ?8000…それより医者が海賊なんてやってんのか?世も末だな」


これはどうも、バレたくさいな。




「頭数は?」
「トラファルガー・ロー本人を含めて四人だ!内一人は白熊だった」

「やつらとあの女の関係性は?」
「そこまでは…船の周りうろついてた白熊にウィングカンパニーの女の話してやったら血相変えて船に戻ってったぜ?」

「ほぉ。捕まってるにしては自由に出歩いてやがったし…使えそうだなあの女」
「一気に8000万ドカン!は最高過ぎるぜ!四人程度ならなんとでもなる!」
「あの女を餌に連中を誘き出せ」


ベポ…。
どうしてくれんのよ…。


これこそ本当に想定外だ。
確実に巻き込んだ。


ロー達が戦っている所って実は見たことはないけど、オペオペの実ってチート過ぎるし懸賞金だってバカ高い。
他の皆もグランドラインに入ろうって考えるくらいだからそれなりに強いんだろうけど
でもこの人達人数多いし、ガタイ良いんだよな…。


皆、大丈夫かな。
どうしよう。











「キャプテン大変だ!ウイが拐われたかも!!いや、多分そう!!きっとそう!!」
「…状況を話せ」


ベポは外で見聞きした事を仲間達に説明した。


「連中は?」
「外にまだ何人かはいると思う」
「取っ捕まえて居場所を吐かせろ」


船長直々の指示に、ペンギンが船室を飛び出す。
普段ふざけてばかりの彼も腕利きだ。
ウイと一緒によくつるんでいた彼が、彼女を拐ったらしい連中に腹を立てぬ訳がない。

半日くらいならと、己の慢心が招いた結果にローは舌を打った。

犯人達がウィングカンパニーの名前を出し、船にやって来た状況から
ローの頭はウイを拐った目的を金に絞る。
ただの"女"として拐ったのであれば、その身の上も船もどうでも良いだろうから。
目的がウイのシードルとそれを生み出す彼女の腕であれば殺されてはいないはずだ、と。

しかし命は無事な可能性が高くとも、ローは気が気ではなかった。
命は取られないとしても、ウイは女。
彼の恋は盲目フィルターを抜きにしても、通りすがる男の目を惹く程にその容姿は整っている。

凌辱などされでもしたらと
ローは腸の煮えくり返る思いでペンギンを待った。




怪我させられてねぇだろうか。
泣いてんじゃねぇだろうか。


ペンギンが出ていってまだそんなに時間は経ってねぇのに、数分ですらも長く感じる。

場所を吐かせて乗り込む。
プランは単純だ。

これ以上考える事のねぇ状況は、ウイが今どうしているだろうと
そればかりを考えさせた。


そういえば、アイツが泣いたところを見たことねぇ。
いつもへらへら笑ってる。

いつか泣いた姿も見てみてぇ。
だが、今は御免だ。


「キャプテン!西の森!!そこの小屋にウイ居るって!!」


外の連中を一人で全て片付けたらしいペンギンがウイの居場所を掴んで戻った。

船探しに駆り出される連中なんて恐らく下っ端。
だとしても
怪我どころか息一つ上がってねぇペンギンのこの様子じゃ、連中は然程腕が立つ訳でもねぇ気がする。


「行くぞ」


刀を手に立ち上がると、頷いたシャチとベポもそれに続いた。
甲板で、ペンギンの事情聴取にあった連中が縄で一括りにされ気を失ってる。


20…は居ねぇか?

だがこの人数を相手にあの時間で戻ったのか。
アイツ中々やるな。


「急ぐぞ」


西の森を視界に入れ駆け出すと、後ろからは3人分の地を蹴る音が聞こえて来る。
少しでも速くというのはコイツらも同じなのか
珍しく、無駄口の一つも聞こえては来なかった。









「あ?!見張りがやられた?全員か?!」
「俺以外は全員!出てきた男が強ぇのなんのって!アレっすかね!?死の外科医!!」
「ほぉ…中々やるじゃねえか。作戦変更だ!小屋の周りを固めろ!女を連れてこい!!」
「おう!」




「起きろ女!!」


奥の部屋にやって来た男はシュウを抱いて眠るウイの腕を乱暴に引き、立たせた。


「…ここは?あなた…誰?」
「ゆっくり説明してやる。着いてこい」


その衝撃で目を覚ましたシュウが不安そうな目でウイを見上げる。
しかし彼女はおどけたようにウィンクをして親指を突き立てた。


任せろ、と。


その様子にシュウの顔から緊張が和らぐのを見届けたウイは
腕を引かれるがままに連れ出された。






destruct at reality.