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女子供を監禁しておくにしても、随分セキュリティーの甘い小屋だな。
「おい。ハートの海賊団はてめぇの何だ?」
「あな、たたち誰…?ここはどこなの?」
動揺したふりを装って口元に握りこぶしを持って行った。
この人達が海賊で、金目当てに私を拐って、ここが町外れの森にある小屋って事くらい知ってる。
不安そうな顔を張り付けてきょろきょろ周りを見渡せば
宝箱が積まれてる脇の棚に、目当ての物を見つけた。
大事な物纏めて置いててくれるなんて…
なーんてわかりやすいんだー。
「それはお前が知る必要のねぇ事だ。返答には気を付けな、こちとら時間がねぇ」
時間ないのか。
了解!
言葉と共にジャキン、と弾を込められた銃口がこっちを向く。
ひっと息を飲んで後ずさってみた。
実際この人、今私を殺すメリットないからどうせ出来ないんだろうけどね。
懸賞金ゲットの為の人質にしても、シードルで一儲けするにしても
今殺したら全部おじゃん。
一銭にもならない事の為に8000万ベリーの懸賞首と戦うとか、そこまで馬鹿ならもう仕方ない。
「私…は!彼らにお酒を作るように言われているだけです!」
「下手な嘘はつくな。酒場で酒飲んでたのをこっちは知ってんだ」
「船を、占拠されてるんです。あの船は、私の大事な船なの…!」
中々迫真の演技だと思う。
設定考えといて良かった。
でまかせが口からスラスラ出てくる。
「じゃあ俺らが奴等をぶちのめしてお前を解放してやるよ。その代わり、お前は俺達のために酒を作れ!」
「本当ですか…!?でもあの人達、多分強いんだと、思うんです…けど…」
「たった四人だろ?それに俺達が負けるとでも?任せろ、約束は守る」
濁った心で必死に目を輝かせた。
救世主に出会えたかのように。
ダメだ。
笑う。
笑っちゃいけないのに笑いそう。
堂々としてればこんなアホな設定も通用するものなのか。
ハートの海賊団だろうとこの人達だろうと
結局捕まってお酒作らされるなら変わんないじゃん。
それに喜ぶ人なんている訳ないじゃん。
「トラファルガーっつったか?あの男能力者らしいじゃねえか」
「私も良くはわからないんですけど…そんな気がします」
ローの事を多少は調べたらしい目の前の海賊の口振りに違和感を感じた。
普通、嫌じゃないか?
能力者。
「海楼石って知ってるか?海と同じように能力者の自由を奪う石だ」
ごくり、と自分が唾を飲む音が聞こえた。
文献で読んだことある。
悪魔の実程ではないにせよ、概ね海軍が所有するらしいそれは巷に出回る代物じゃない筈。
「俺らは海籠石の弾を持ってる。能力に頼りきった雑魚なんてむしろ好都合だ」
ニヤリと笑うその顔に、背中に冷や汗が流れた。
海水に浸かったローの状態が頭を過る。
一発でも喰らえば、ローは戦えない。
これはまずい。
自分の猿芝居に笑うの堪えてる場合じゃなかった。
「だかな、能力が分からねえ以上油断もできねぇ」
舐めるような視線を送ってくる頭目に、この人達が私をこっちに連れてきた意味をなんとなく悟る。
「解放してやるから情報を寄越せ。おまえは何を見てあの男を能力者と思ったんだ?」
「いえ…あの…なんとなく…」
突っ込まれるとボロが出る。
どうしよう。
ただでさえ不利なのに能力まで知られたら更にまずい。
おどおどしながら視線を落として必死に言い訳を考えてたら
パァンッ!!
「その足りねぇ頭捻り出せ!!何かあんだろ!何か!!!」
銃声と怒鳴り声、それと一緒に
左足に痛みと熱を感じた。
こんな人達に頭足りないとか言われるのは不本意だけど、あの設定で納得してるなら
なるほど確かに私今頭足りない女だわ。
撃たれるって結構痛いな。
「おいやめろ。悪かったな、だが何でも良い。能力でも弱点でも…それがおまえを救う助けになる」
撃たれたとこが、どくどく脈打ってる。
さっきの非じゃない汗が止まらない。
頭足りない事になってるから仕方ないんだけど、止めてるつもりでローの弱点聞き出そうとしてるこいつ腹立つわ。
いったいなぁ…もう。
「意外と強情だなぁ?まさか連中とデキてんじゃねぇのか?!あぁ?」
「まぁよせ。だがこいつらは短気でな。俺の言う事なんて聞きゃしねぇんだ。悪い事は言わねぇ、何かねぇか?」
そうなんだよ短気でなぁって、ゲラゲラ笑ってるこいつが一番ムカつく。
顔だ。
そもそも顔が下品。
っとに…!!
「おぉっと、足が滑った!!」
ふざけんな。
滑った訳ない動作で、同じような腹立つ顔の男が撃たれたとこに蹴りを入れてくる。
流石に立ってられなくて、その場に倒れこんだ。
この痛みをどうにか堪えようと、地面に手を付いたまま息を吸い込む。
そこに下から蹴りが飛んで来て、息が吸えないくらいの痛みと共に壁に打ち付けられた。
「酒作る事に頭持ってかれて他は空か?同じ船に居たなら何かあんだろ!!お仲間の方でも構わねぇよ…ちったぁ役に立てバカ女が!!!」
この設定ミスったかな。
本当に腹立つ。
「おにぎりが…好き…みたいです」
でも…急にマトモな事言ったらこのリンチはもっと酷くなる。
取り敢えずそれを貫いた上で何か喋っとこうと思って
嘘じゃない事を口にした。
「仲良く飯食いに行く訳じゃねぇんだよ!てめぇホンモノだなぁオイ!!」
ですよねーとかし言えない言い分と共に髪を引っ張られて上を向かさせられる。
何の根拠もないけど
こんな人達にローは負けないって思った。
皆の戦うとこは見たことないけど、人間性として圧勝だ。
それが戦いにも物を言うって思いたい。
相変わらずゲラゲラ煩かった下品な笑い声が、遠のいていくのを感じた。
その代わりに聞こえ出したのは沢山の鼓動みたいな音。
この感覚には覚えがある。
最近なら、ローが海に落ちたとき。
海の中から魚達のそれに混ざってローの音が聞こえた。
不思議と消えた足の傷みに、立ち上がり頭目の男の方へと足を進める。
不満はないけど、体は勝手に動いた。
「…あなた達、煩いのよ」
「あ?なんだと?聞こえねえなぁ?」
きっと一番大事な人。
そのすぐ目の前に立つ私に、取り巻き達は警戒することもなく
おどけたようなこの男に同調するように笑ってた。
「目障りだ黙れ」
自覚なく動く口が紡いだ言葉は、海賊達を黙らせてランプに灯っていた炎を消した。
自分でも不思議だなってそれを眺めてたら、静かになった男達が後ろで白目を剥いて泡を吹いてた。
本当に不思議。
なんなんだろう。
…あの時も、こうだった。
よく分かんないけど、何とかなって良かった。
気付いた時には、足の痛みは戻ってた。
動かすと軋む気のする至る所の鈍痛は、蹴ったりされた時のだ。
足を引きずりながら棚からエターナルログポースを失敬して、子供達の待つ部屋に戻ろうとした。
でもちょっと結構痛過ぎるこの足じゃ、そこまで行けそうもない。
撃たれた足は乾いたどす黒い血がこびりついてて、割りとグロい。
近くにあった酒瓶の中身で血を洗い流すと、さっきよりそれは大分マシになった。
念の為それをスカートの下に隠して、扉の先へ声を張り上げる。
「シュウ!!もう大丈夫だよ!皆起こして出てきて!」
よく聞こえないけど何か話てるみたいな声が聞こえて来て、少ししてからシュウに手を引かれたリュウとユウが奥の部屋から出てきた。
「起きててくれて助かったー。シュウナイスだよ!」
目を擦っているリュウとユウは、さっきシュウに起こされたんだろう。
「…こいつら、全部ウイがやったのか?!銃声とか聞こえたけど怪我してないか!?」
シュウは動揺を隠しもせずに海賊達があちこちに倒れる部屋を見渡した。
「任せとけって言ったでしょ?」
ニヤって笑って見せると、すげぇや!ってシュウが目を輝かせた。
まだ寝惚けているリュウとユウに家に帰れるぞ!って笑顔で話すシュウの姿に、自然と頬が弛む。
「私流石にちょっと疲れちゃった。少し休んでから追いかけるから先に3人で戻ってて?」
年かなってわざとらしく疲れた感を出しまくった。
「待ってるよ?お姉ちゃんも一緒に帰ろうよ」
「そうだよ!」
一緒にそれを望んでくれる事は凄く嬉しい。
でもこれを気付かれたら、この子達はきっとここに残る。
こうなった理由が分からない以上、海賊達がいつ目を覚ますかも分からない。
「すぐ追い付くから。お姉ちゃん大人だから足早いの!皆のペースに合わせてゆっくり歩いてたらかえって疲れちゃう」
自分達の望みは迷惑をかける。
含ませたんだけど、それにちゃんと気付いた年少二人が揃って視線を落とした。
シュウに似て、この子達も大分賢いな。
二人の頭を撫でてあげて、最低でも逃せないものを託そうとシュウを呼んだ。
「シュウ、お願いあるんだけど」
この子達だけが頼りだ。
「これ預かっててくれない?」
ポケットから先ほど失敬したエターナルログポースを取り出し、シュウの手に握らせる。
「大切なものなんだ。明日港の羽の旗付けた船に届けてくれると助かる!」
「追い付いて来るんじゃねぇのかよ」
鋭い。
本当に賢いなシュウ。
ここで伸びてる海賊達以上だよ!本当に!!
取り敢えず適当な言い訳をしておいた。
「白熊の友達にサプライズプレゼントなの。今日より明日の方が驚くと思うから預かってて?」
疑わしい感むんむんな視線が痛い。
でもこれは嘘じゃない。
「約束!必ず追い付くから!私が約束破らないのちゃんと分かったでしょ?ほら、行った行った!」
シュウに約束という言葉は思った以上の効果を発揮したみたいで、不満そうな顔をしながらも弟達の腕を引き町の方へと歩きだしてくれた。
「お姉ちゃん!ユウ待ってるからね!!」
「早く来てね!!」
手を引かれる年少二人に了解って返事をして手を振ると、手を振り返してくれる。
子供たちの足音が聞こえなくなって暫く経った後、無理矢理スカートの中に隠してた足を傷みを堪えながら伸ばした。
血がこびりついている時はそれに隠れて見えなかったけど、どす黒く変色してる上この痛さ。
多分これ、折れてる。
他の痛みは休んだせいか大分マシだ。
片足けんけんで頑張れば、時間はかかるだろうけど帰れそう。
手すりを掴んで立ち上がろうとした瞬間
いつの間に意識を取り戻していた頭目の男の見開かれたそれと目があった。
びくって、今度は演技じゃなく驚いた。
でもその目はどこか虚ろで、涙と涎をだらしなく垂れ流した男が膝をつき手を合わせ拝んで来た。
「頼むっ!助けてくれぇ!!命だけは!命だけはぁっ!!」
その無様な姿を、私は前にも見たことがあった。
『ウイ待ってくれ!!助けてくれ!だって私はお前の……』
遂には土下座までし出した男のそれより、それに引っ掛かり引っ張り出されてしまった過去の記憶の方が
不快感を呼んだ。
胃の中の物がせり上がってくるような吐き気を感じる。
「頼む!何でもしよう!!だから助けてくれ!!」
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
ドクドク煩い動悸が、吐くのを堪えてる胃を唆した。
凄く気分が悪かった。
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