17-40



「ねぇこれ…わざとでしょ。絶対わざとでしょ」
「え?何が??こういうのあった方良くない?」


ジャンバールとね、宴に出すご飯の準備をしたの。
ローは本当にフリーウィングの中身を全部移してきたみたいで、食材は山のようにあった。

何にしようかってあれこれ話しながらのお料理は凄く楽しかった。


皆、お酒冷やしたりとか準備してくれてるんだろうなって思っては見てたよ?
見てたけどさ。


「なんっでこれ使うのよ!!?他にあるでしょ紙とか布とか!!」
「は?ウイ海の上での生活舐めてんの?資源は大事に使わなきゃいけないんだよ」


"おかえりウイ会"と、何とも適当なタイトル。
それは"♡祝♡初夜♡"の文字を雑に二本線で消したものの上に申し訳程度に書かれていた。


「やめてよ恥ずかしい!!」
「もう良いでしょ別に」


ねぇ?って示し合わせたように頷き合うベポをはじめとする皆の顔はニヤついてて、全然もう良いなんて思ってない事が筒抜けだ。


「あらもう始まっちゃう?チョッパーとモモに聞いたわよ。何て言うか…大変だったわね」
「ナミさん…」


そうこうしている内に、ルフィくん達の船、サウザンドサニー号から顔を出したのはナミさん。
ナミさんは今日もほぼ水着な服装で、惜し気もなくそのナイスバディを披露してくれつつも
今日の出来事を労ってくれた。


「あ、そうそう。シードル凄く美味しかったわ!名前だけじゃないのね!通りで未だに品薄な訳だわ」
「本当?嬉しい!あ、良かったらナミさん達も是──
「やだいいの?!ありがとうそれじゃ遠慮なく!」


満面の笑顔で両手を捕まれて、同性なのにドキッとした。
惚けてる間にナミさんはシードルが大量に冷やされてる桶の方へと駆けて行く。







なんだか現金な人だなって、薄々勘づいて来たぞ。
そこも可愛いんだけど。

くそぅ…っ!





その後ロビンさんに、昨日会えなかった剣士のゾロさんを紹介して貰って。
ハートの海賊団と麦わら海賊団入り乱れての宴は幕を開けた。

明るい声が、そこかしこで上がっていた。







見当たらない見知った顔を探してルフィくんに聞いてみたら、マルコが昼間の内にパパの故郷へ戻ってしまった事を知った。

挨拶しようとしてくれてたみたいだけど
立て込んでたからって、そのまま。

落ち着いたらで良いから待ってるって伝言だけを残して。


マルコはそこでお医者さんしてるみたいだから、あんまり長くは島を離れられないらしい。
解ってるけど、ちゃんと話したかった。

エースの事とか、こうなった事とか。



いつか必ず会いに行こう。
それも、早い内に。

エースもパパもそこに居るわけじゃないって解ってしまった今だけど、二人の体が眠ってるそこに
ちゃんとお墓参りしたいなって思うから。





もう一人の会いたかった人。
私に母様の声を届けてくれたモモの助くん。

お礼も言いたかったし、私に伝えてくれたところ以外で何を話してたのかとか
聞いてみたかった。

でも頭痛から解放されたモモの助くんはあの後すぐ眠ってしまったみたいで。


よく考えたら私のせいであんなに苦しんでたんだもんね。
悪いことしちゃったな。


それもちゃんと謝ろうって決めて、飲ませ合いが激化してる輪の中に飛び込んだ。


今日は飲もう。
沢山飲んでいっぱい笑って、寝て起きたらきっと色んな事が落ち着いて考えられる。

重い気持ちの足を引っ張るのが得意なこの夜の闇に打ち勝つ為に、今はお酒の力を借りよう。






楽しい宴の席では飲ませ合いやらルフィくん達の一発芸やら、楽しい事は探さなくても沸いて出る。
ナミさんやゾロさんはローと張る位お酒が強いし、目ざとく見つけられてしまった消された筈の横断幕の文字をからかわれるし
サンジさんが差し入れてくれたおつまみは想像を絶する美味しさだしって
楽しくてそれはあっという間で。


気付けばもう、日付が変わる時刻に差し掛かってた。


この時間になってくると、もう見慣れてしまったけど
甲板で寝落ちする脱落者が続出する。
起きてる人達は少人数の輪をいくつか作っては、今度はあれこれ語らいながらしっぽりお酒を酌み交わし始めた。


ちょっとこの酔いが回った状態で、物思いに耽りたいなと思ったの。
お酒と楽しさを浴びる程味わった今なら考えすぎる事も悲観しすぎる事もなく、程よく色んな事を考えられそうだったから。


皆の輪から抜け出して、船縁に肘を付いた。






「しっぽりモード?はい、おかわり」
「ペンギン…」












私、何やってるんだろう。


2人が並んで夜の海を眺めている場所から、そう遠くない船室の影で
身を隠して聞き耳を立ててる自分がいる。

最近少し心配な副船長が、一人輪の中から抜け出したウイをお酒を片手に追うのを見て
体が勝手に動いた。


あれこれ他愛のない話に花を咲かせては笑い合う2人は、振った人と振られた人には全く見えない。


でも、話が途切れた少しの沈黙の後、事態は動いた。







「ウイちゃんさ、もっと我儘言ったらいんじゃないの」
「…なにいきなり」


ウイに激しく同意。


我儘って言われたら少し違う気もするけど、ウイはどちらかに分別すれば絶対好き勝手自由きままな方の人間。


「昼間のあれ聞いてて、ウイちゃん本当はもっと言いたい事とかしたい事あんだろうなーって、思ったから?」
「……」


暫く、"昼間のあれ"が何なのか、理解出来なかった。


でも我儘を推奨する副船長の言葉に
ウイが母親に行かないでと泣き崩れた時の事を思い出す。


「黙ってるのはなに?図星?」
「…我儘ってさ、実は難しいよね」


私我儘なんて言わなかったじゃないって、あれのことか。


話の内容に何とかついていきながらも、私が気にも留めてなかったそんな一言を意味のあるものとして聞き流さずにいた副船長の洞察力に感心した。

相手がウイだからってのも、十分あるんだろうけど。


「一見結構得意そうに見えるのにね」
「…それは、どうも」


私はウイの過去を副船長ほど詳しくは知らない。
でもその後に出会った筈の副船長もその全てを知ってる筈がない訳で。

そんな事言ってしまえば、当時傍にいたとしても他人の心の中なんて誰にも分からない。






それでも人の心の内を見抜いてしまう副船長は凄いと思った。
私はその"一見"を真に受けてしまう方の人間だから。








「大丈夫よ、何言っても。それがどんなに誰かを困らせても」


私はウイじゃない。
考え方も性格も違う。

寧ろ正反対に近いと思う。


「少なくともうちのクルーは全員、度を越えれば黙っちゃいねぇし。文句も言うし」


でもね、思ったの。


「離れて行く前に改めろってちゃんと教えてくれるから。だから大丈夫よ」
「ペンギンってたまに…怖いよね」


本音とは違う振る舞いをしてるって事は、ウイはそれを知られたくはないんだと思う。


でもきっと、本当の自分とは違うそれを演じるのは多少なりとも疲れる訳で。
隠したくても解って欲しいって気持ちは存在する筈で。


本当は欲してる筈の言葉をこんな風にかけて貰えるのは、堪らなく嬉しいんだろうなって
そう思った。


「あらそれはまたどうして」
「私、見られたくなくて。知られたくなくて隠そうとする癖が…多分あると思う」


ウイの言葉を聞いて思い出す。


この子が本当はあれこれ考えすぎてしまう性格で
それを隠してああ振る舞っていることを。


だって本当に名演技なのよ。
ただの能天気な楽天家にしか見えないの、普段のウイは。

まだあれからそんなに日が経ってないっていうのに、あんな結構な出来事をうっかり忘れてしまうくらいに。


「そうね」
「それってペンギンには明け透けな気がして…ゾッとした」


ケラケラ笑いだす副船長は、どんな気持ちで笑ってるんだろう。


本当に心底嫌そうにそれを言うウイは、出来ればそれを知られたくなかった感じが凄く滲み出てて。
片や変に否定して隠すでもなくて、片や嫌がられても笑ってて。


なんだかウイと副船長の絆みたいなものを見せつけられてるような、そんな気分になった。







「いんじゃないの?それ見えててもペンギン先生ウイちゃん大好きだし。わかっちゃうもんはしょうがない」
「…ねぇ、ペンギン…」


ウイの声色が、少しだけど変わった気がした。
どこか緊張したような、それでいてどこか言いにくそうなその物言い。


でも──


「でも少しずつでも変わっていかねぇと」


その続きを待たずに副船長は話し出す。
流石のこれは、私にだって理解出来た。


「我慢してても、それが報われるとは限らねぇの…わかったっしょ」
「それは…そうだけど…」


副船長は、ウイが言おうとした言葉の続きを聞きたくなくて
敢えてそれをはぐらかした。


「困らせたらいいじゃん。俺もアイツらも。…すげぇ顔して俺の事睨んでる誰かさんも」
「え"…」


その言葉に少しだけ身を乗り出して向こうの様子を伺う。

副船長が顎で指す方向の先には、射殺さんばかりに二人を睨み付けるキャプテンの姿があった。


「焼き餅焼きだねぇ。…俺が殺される前に行ってきたら?」
「ごめんペンギン……ありがとう!」


なんだか、副船長の言動に過剰に反応するキャプテンの気持ちが解った気がする。


この人は普通じゃない。
例えウイがどんなにキャプテンを好きだろうと、油断ならない何かがある。


今までも私は、それなりに副船長を認めてたと思う。
でも嫌な事しか言ってこない、私の気持ちの邪魔をする人って認識が先行して
あまりこの人を知ろうとはしなかった。


例え一時だろうと、副船長がおモテになる事は知ってた。
でもそれは、その場だけの適当な事を囁いては
頭と尻の軽い女を唆してるだけだと思ってた。










違う。

この人は…そんな単純な生き物じゃない。





とんだキレ者で、食わせ者で
優しすぎる、不器用な男だ。





destruct at reality.