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「これでこっちは解決、だな」
「そ…だね。アハハ」


所変わってこちらは黄色い潜水艦。
昨晩あれだけ頭を悩ませた事が嘘のように解決してしまい、拍子抜けで笑うしかない恋人の姿に
ローはほっと肩をなでおろした。

片や乾いた笑いを浮かべるウイは
自身が物事を厄介にする天才説を本気で考え始める。

考えなしはそれはそれで問題なのだが
考え過ぎも同じように問題。

何事も適度にが丁度良い。
その適度の加減が難しいのではあるが。


「で?ワノクニの方は諦めついたのか」
「…その言い方さ、俺が正しい感満載でなんかやだ」


ウイの頭を悩ませるもう1つの問題。
ゆっくり考えろと言っておいて、それを翌日に問うこちらもこちらでせっかち。

片や悩んでいた方も、結論が出たからこそその口振りにのみ不満を唱える。


「これに関してはそうでしかねぇだろ」
「まぁ…そうなんだけど」


共に戦える力どころか、足手まといである事が明白なその身体能力を解らない程ウイはバカではない。

必ず戻るという恋人の言葉に嘘はなかろうと"死"というものは予測不可能に訪れる。
そのリスクが海賊である分いくらか高いとは言え、自分が着いて行けばそれは更に高まり
かと言って行くなと言うのもまた違う。


「本当に、気をつけてね」
「当然だ」


自由の身となった恋人を縛りたくはないと
例え生き死にの話ではなかろうと、それを望んだのは他でもないウイ自身。


心配は消えぬものの、晴れて二人の間にあった問題は解決した。







完全後付けで船番と船長の恋人のお守りを任された彼女が鼻で笑いながらもそれを了承したのはまた、別の話。


「本当に心配性なんですね、色んな意味で」
「おまえ…大分ふてぶてしくなったな」


アンはその身を鍛えだしてまだ日が浅い。
しかし今回その役目を任命したのは、ウイと同じ理由ではない。

彼女は今や列記とした海賊。
クルーの中でも上から数えた方が早い程の戦闘力をその身に備える。
だからこそ、大事な恋人を任せた。


あとは──


「もう恋愛として好きでもない人の前で猫被っても仕方ないですから」
「……」


とある方面で殊更心配性な船長は、その相手が誰であろうと
恋人を男と二人きりにはしたくないのだろう。






「…わかった。だが具体的にいつになるかの目処は着かねぇぞ」


「こっちのケリが付き次第連絡する。──あぁ、肝に命じておく」








ウイがポーラータング号での生活に慣れ始めた頃、ワノクニへの出立もまた近付いていた。
そんな中、ローにかかって来た一本のでんでん虫。


その通話を終えたローは、受話器を置くと同時にため息をついた。


その頭を占めるのは
迫るワノクニでの戦いと、恋人であるウイのこと。


毎晩とまではいかないものの、ウイは夜中に飛び起きるように目を覚ます事が多かった。
その理由を問いかけても、返ってくるのはいつぞやのように寝惚けていたという言葉とどこか引きつった笑顔。

ある時
ローはつられて目を覚ましたものの狸寝入りを決め込んだ。


悪夢に魘されでもしたかのように、飛び起きた恋人の呼吸は荒い。
その息遣いが、あるタイミングで変わった。

薄目でそれを伺い見れば、ウイは隣で眠る自身の存在を目に留めては
ほっとしたようにその呼吸を落ち着かせていた。


そのまま何事もなかったかのようにまた眠り、朝にその話をしてくる事も一切ない。


ウイの性格、これまでの出来事
以前ベッドを抜け出てきた自分を尋常ではない様子で探しに来たその時の様子と
稀とは決して言えないペースで何かに魘されているらしき事実。


それを考慮して原因を考えると、ローは1つの可能性に辿り着く。







「ねぇちょっと!洗濯出す時ポッケに変なもの入れないで!」
「え、何か入ってたっすか!?」


一見、平和過ぎるだけの光景。

不安の欠片すらも垣間見えない幸せそうな恋人。
抱え込み過ぎる癖は未だ抜けぬものの、気付いたタイミングで吐かせては解決するようローは心掛けて来た。

いずれ、抱え込む方が良くないと自ずと気付き改善されるだろう事を願って。


だがしかし、"これ"は聞いてやるだけでは
自分で出来る範囲では解決出来ぬであろう事。

でんでん虫によって知らされた事と"それ"を考えるとその延長線上に
どうしても一人の人物が浮かび上がる。

だがそれをすれば──


「へんな紙くず入ってた!洗い直しになったじゃんもう!」
「え、っていうか俺っすかそれ」


ウイはまた荒れるだろうと、そんな確信がローにはあった。






「本当に行っちゃった…」
「そんな大掛かりなドッキリ仕掛ける程暇じゃないわよ、私達」


ここからは戻り道が危険だからって
ハートの海賊団の皆は途中サウザンドサニー号に移ってワノクニへと向かっていった。


何度も、何度も何度も
絶対気をつけてねって念を押して別れた。


どんどん遠ざかる皆を乗せた船はやがて見えなくなってしまって
なんだか母様を見送った時とそれは重なって見えて。









でも、行ってしまった。
ローと、皆とは沖合で別れた。

















それから私たちがどうしたかって?


結構濃い日々を過ごしたよ。
おかげで心配で仕方なくて待ち遠しくはあったけど
ただぼーっとしてるよりは早く感じたと思う。







初恋蹴散らしたお詫びしなさいよって、ローと離れて落ち込んでた私をアンさんはつれ回してくれた。
エステにカジノに高級レストランにって私持ちで豪遊した。

ビギナーズラックなのか向いてるのかは解らないけど
カジノで大勝したアンさんのおかげで、減ってお詫びになる筈だった貯金が増えたのはどうなんだろう。


海中を進む中で色んな事を沢山話したし
ポーカーの特訓とか麻雀の練習もした。


色々あったけど
無視されててもアンさんの事好きだなって思ってたあの時の私の目に間違いはなかったなって改めて思った。

アンさんを今まで以上に大好きになった。





沢山話した中でね、アンさんがハートの海賊団に入る前の事を聞いたの。
張本人が引いてしまう程に怒り狂った私を、アンさんに宥めさせてしまった。


私がアンさんを気遣わなきゃいけなかったのに。
本当に最近、それをしてくれたアンさんの優しさが嬉しくて
私もアンさんがつらい時には絶対に何かの役にたとうって、そう決めたのに。

逆に宥めさせちゃうとか
本当なにやってるんだろうね、私。


でもそれなのに


「私そこまでバカみたいに怒れる性格じゃないから、…代わりに怒ってくれてありがと」


って。
半分以上呆れてたと思うんだけど、アンさんそう言って笑ったの。


でも大人げなくてバカな私は、それでもその人が許せなくて。



連れて行って貰った。
アンさんの故郷に。








あんな人相手に容赦なんていらないんだろうけど
ブラーヴェにベガス聖、ローは勿論ルフィくん達のお名前までお借りしてそれはもう脅してきた。

アンさんの後ろにはどれだけの人が付いてるかを持ち出して
謝らせて、それでも気が収まらなくて。

直接危害を与えた訳じゃないかもしれないけど
沢山の人の命を奪ったこの人を多少は服役させて罰金払わせたのかもしれないけど
それだけでこうやって野放しにしてる軍にも怒りが沸いてきて。
その分の八つ当たりも存分にさせて貰った。


その場限りでなんとでもなる言葉じゃなく行動で反省を示せってあっちにそれを委ねておきながら
それで足りると思ってるのかって。

何をするって言ってもそれで勘弁してやるつもりなんてない癖に、冷や汗だらだらであれこれ言葉を並べるその人を見て
少しだけ気が済んだ。


ドレスローザであれだけ世間を騒がせたローやルフィくんは、一般人にとって恐怖の対象でしかなかったみたいだし
ブラーヴェの存在は長閑なこの島にだって伝わってる。
そんな発信力のある相手にあの悪行をバラされでもしたら、どこに逃げようとどれだけひっそり生きようと
世界中から自分の居場所なんてなくなるんだから。

ベガス聖の威力なんて説明するまでもない。
天下の天竜人様々だ。


実際皆に私はもう散々迷惑かけてる。
私の都合でこれ以上個人的な事なんて頼めない。

完全な脅しでしかないんだけど、でも。
この小さな島で、散々悪行を働いてでも周りから慕われたいって思ってたみたいなその人に
皆の名前は効果覿面だったみたいだから。

勝手にこんな所に巻き込んでしまった皆には、心の中でこっそり謝っておいた。



帰り道にね、勝手に色々やってしまって
アンさんに対してはなんだか申し訳ない気持ちが沸いてきて。
あの人相手にじゃないよ?

アンさんは思い出したくもなかったかなって。
やっと冷静になれてそれを謝ったらアンさんはクスクス笑ってた。


「ウイ結構容赦ないのね。良い性格してるわ本当に。…でもありがとう──あの顔は傑作だったわ」


って。
2人でどちらからともなくハイタッチをして、顔を見合わせて笑った。


二人で大犯罪でもやりとげたみたいな気分になっちゃって
これは私たちの距離が凄く縮まった事件になった。





海賊船に乗ってるんだから少しは鍛えなさいって、ローと離れてから毎日筋肉痛になるようなトレーニングを私に課してくるアンさんが鬼に見えたんだけどね

でもそれも少しはまともにこなせるようになって、キツいんだけどその間は心配ごととかも考える余裕もないから有難いなとか思ってたら

なんだかその感じには覚えがあって。
ニシキの島での出来事を思い出してしまって、それを懐かしく思った。





「アンさんって実はペンギンに似てる?かも!」
「は?」


心底嫌そうな顔で振り向いたアンさんが可笑しくて、思わず噴き出してしまった。


「この筋トレとかさ、ローに言われたの?鍛えとけって」
「?言われてないわよ?寧ろあんまり遅くなるようならキャプテンの大好きなウイがムキムキマッチョになるわよってこっそり思ってたわ」


その返事にまた噴き出した。


私より負荷かけてトレーニングしてるアンさんの体は、マッチョっていうより綺麗に引き締まってる。
嫌がらせみたいに言ってるけど、そんな事になってもローかえって喜ぶんじゃないかな。


「どこが?似てないでしょう、全然全くこれっぽっちも」
「…アンさんってペンギン嫌いなの」


その言葉が合図にでもなったかのように
関を切ったように大爆発したペンギンへの不満の勢いが凄まじ過ぎて

お、おう…って若干後退った。


ローを好きでいた時、アンさんはそれはそれは散々ペンギンに嫌味言われたり否定されたりしたらしい。

いくらでも沸いて出るそのエピソードはどれも「ペンギン…」って分からなくもないような頭を抱えちゃうような物ばかりだったんだけど
それを話すアンさんはぷんすかしてるのに、なんだろう…


あんまり本当に嫌いそうには見えない。


「まぁ、あの後はそういうのもなくなったし。それももう良いんだけど。でも私絶対あんなじゃないわよ」
「うーん。…でも嫌いでは、ないよね?ペンギンのこと」


自分でもなんでそう思っちゃうのか解らないけど、そう感じたから聞いてみた。


うん。
本当になんでだろ。





destruct at reality.