17-47
「それに私だって、ベガス聖とか…ブラーヴェとか!ルフィくんやローの名前も、ごめん勝手に…出しちゃった。だからあっちが──
「続きは後で聞く。──おまえはここで待ってろ」
そう言ってローは、私をソファーに座らせてくれた後リビングから出ていってしまった。
扉が閉まってこの空間に一人きりになると、今更だけどとんでもない事をやらかした事に気付いて打ちのめされる。
確かにあんな頭のおかしい人、捨て身になって自暴自棄になって何かしてくる可能性もなくはなかったんだ。
上手くいったから良かったけど、確かにあれは危ない事だった。
言い合いになることもなく、咎める事もなく静かに出ていってしまったローに
今度こそ見捨てられてしまったんじゃないかって不安ばかりが膨れ上がる。
私はいくつローに嫌われてもおかしくない理由を作れば気が済むんだろう。
何でいつもこうなんだろう。
気を付けてたつもりだったのに…
俯いて自分の有り得なさに打ちのめされてたら、ドアが開いた。
そこにはローと、アンさんが立ってた。
「なんですか?話って」
「おまえふざけんな。護衛に付けた意味解ってんのか」
ドアが閉まった途端、絶対怒ってるローの声がアンさんを責めだすのを聞いて
私はもう一つ大事なことに気付かずにいた事を悟った。
「違う!!ロー違う!!アンさんじゃなく私が!私が連れてって無理に頼んだの!!アンさんは何も悪くない!!」
「結果連れて行ったなら同じだろ」
違う。
本当にアンさんのせいじゃないのに。
アンさんはあんなに怒り狂った馬鹿に手を焼いて仕方なく私の言う通りにしてくれただけなのに…!!
「あぁ、そういうことですか。気に障ったなら申し訳ないとしか言えないですけど。…私だって戦えるのキャプテンもご存知ですよね?ちゃんと武装して行きましたけど?」
「その相手がただの中年のジジイだったなら何も言わねぇよ」
確実にローは怒ってるのに
アンさんは動じた様子もなく私も言いたかった言い分をすらすら述べてくれる。
「違ぇだろ。おまえあのジジイにどんな目に合わされた」
淡々と言葉が行き交うその場で、私は何も言えずにただそれを聞くしか出来なかった。
「あっちがそこを見越して過去を掘り起こして来ても、おまえは俺が知る実力を絶対に発揮出来ると言えんのか」
「あら、随分私をか弱く見積もって下さってるんですね」
言われて初めて思い至った。
私にとってはただの一般人の中年のおじさんは、アンさんの心に深い傷を与えた張本人だって事を。
両親の命を奪った、冷静でなんていられる筈もない相手だったって事を。
「ウイが言い出したから連れて行った。それは事実。でも…私だってあの人に一泡吹かせたかったから行ったのよ」
「違う私が!!本当にアンさん困らせるぐらい喚き散ら──
「おまえは黙ってろ」
アンさんの方が、冷静に話せてるって解ってる。
私なんかが口を挟まない方が上手く事が進むって事も。
でも自分のせいでアンさんがローに怒られてるっていうこの状況に
黙ってられる筈なんてない。
「あれがどんなに最低な生き物かって、私が誰より解ってる。それ前提で乗り込んだわ」
矢面に立たせてしまっているアンさんは私と違って至極冷静で
私のせいなのに、それなのに私を責める事もせずにローと戦ってくれてて
「結局全部ウイが打ちのめしてくれたし、私が武力行使するより参ってたわ。キャプテンの恋人は中々良い性格してらっしゃるのね」
私の事まで庇ってくれて
私が気に病まないようにって絶対気まで遣ってくれてて
「感謝してるのよ、本当に気が晴れた。私としてはウイを危険に晒さないようにって万全を期したつもりだったけど。至らなかったのならごめんなさい」
ごめんなさいアンさん。
でも、本当にごめんなんだけど
「…以後気を付けろ」
「肝に命じておきます」
大好き。
ありがとう。
でもごめんなさい。
あのローを言い負かすとか、アンさん偉大過ぎる。
きっとあのまま私が何を言っても、ローは納得しなかった。
「ウイ、もう立てるか」
「え、…うん」
腰の変な脱力感はとうに消えてた。
それどころじゃなかった。
「ジャンバールの手伝いでもしてろ。俺はアンに話がある」
「お説教ならやめて!聞いてたでしょ!?私が言い出したって!!」
おまえは邪魔だって言われてるのは、バカでも分かった。
「アンさんは私が気付けないとこまでちゃんと備えて!その上で連れていってくれた!!これどっから見ても馬鹿やったの私でしょ!?」
「あぁそれは違いねぇな。憤ってるとこ悪ぃが別件だ。そこはもう良い」
ムキになって突っ掛かって来るウイを落ち着かせようと可能な限り怒りを圧し殺した。
だが実際、もう怒りはねぇ。
ウイが騒いだのもアンがそれに折れたのも理解した上で
俺が心配する程アンも馬鹿ではなかった。
アンは冷静だ。
自分を過大評価も過小評価もしねぇ。
そんなヤツがそこまで腹を括って乗り込んだなら、俺が心配する事は本当に起きようのない取り越し苦労でしかなかったんだろう。
「…本当に、私出てった後もアンさん責めたりしない?」
「しねぇよ。悪かった、俺の見込みが浅かった。アンはおまえほど向こう見ずじゃねぇよ」
本当にその通りだ。
自分に比べれば戦力も判断力もまだまだだとあれこれ手を出して来たが、俺の知らない所でクルー達も成長してる。
それはアンだけに言える事じゃねぇ。
「後でアンさんに聞くからね。少しでも変な事言ったら許さないからね」
「あぁわかった。おまえもアンがそこまで腹括ってんの見てたからこそ連れて行かせたんだよな。…悪かったよ本当に」
ウイも、他のクルー達も
100%とは言えなくとも何かを経験する度に学んでる。
いつまでも全てを管理してやらなきゃいけねぇ子供じゃねぇんだ。
「それは…そこまで考えてなかったけど…」
「そこは考えてたとか言っとけ、一応」
俺がアンを締め上げる気がねぇのは伝わったのか、ウイがいつもの調子でえへへと笑った。
おまえはやっぱりもう少し学ぶべきだな。
本当に。
「じゃあご飯の準備手伝って来まーす」
「私辛いの食べたいわ。…周りを信用しなさすぎる誰かさんに私今苛ついてるの。よろしく頼むわね」
アンのオブラートに包めてねぇ嫌味に、ウイがけたけた笑いながらオッケー!と返事をしながら部屋を出ていく。
最初はここまでとは思わなかった。
優秀な人材を拾えて良かったと、嫌味が痛い所に突き刺さりはするものの
ただそう思った。
「それで?お説教じゃないなら何のご用かしら」
扉が閉まったと同時に、向き直ったアンの冷静な顔がこっちを向いた。
「まず、悪かったな。信用してねぇとかじゃねぇ。何かあったらどうすんだって、…心配した」
「こちらこそそこはごめんなさい。キャプテンの大事な恋人を預かってるのなら、私ももう少し気を付けるべきだったわ」
アンの言葉に、信用どうこう以前に少しは自分の普段の行いを改めようと切に思った。
「ウイだけじゃねぇ。おまえもだ。次また腹の虫が納まらねぇ事があればいつでも言え。俺がいくらでも手を貸す。一人で抱え込むのも動くのも金輪際やめろ」
「……あらどうしましょう。何だかとっても嬉しいわ、ありがとう」
クルー達を蔑ろにしていたつもりなんて微塵もねぇ。
だが、俺が按じていたのがウイだけだとしか思ってねぇアンの口振りに
本当に反省せざるを得ないと感じた。
「でも本当にコテンパにやってくれたから、あの子。流石にあんなにガタガタ震えながら泣いて謝る姿見たらもう気も済んだわ」
「何やったんだ…おまえら」
その様子を思い出したのか
若干呆れたように笑うアンがこれまで抱えて来ただろう引っ掛かりをウイが解消してくれた事に、散々責めておいてなんだが
感謝した。
秘密、と不敵に笑うアンは口を割りそうにはなくて
アンのお気に召しただろうそれには触れない事にした。
「それで?別件ってなんですか本当に」
「──アイツ、特に変わった事はなかったか」
やっと移った本題。
本人に聞いても求める答え等返ってくる事はないことを知っているから、こうして第三者にそれを聞いた。
「…本当に聞いてるこっちが呆れる程の愛の深さですね。特にいつも通りでしたけど?…キャプテンが心配で堪らなそうではあったけれども」
「夜、アイツは一人で寝てたか」
欲しい答えではないものの
本人もそう言ってはいたものの
そんなに心配していたのかという話に気分が高揚した。
自分でも呆れる程に、ウイの気持ちの在りかに踊らされている自覚があった。
「夜?私の部屋に転がりこんで来て一緒に寝てましたけど?」
「夜中、…魘されて起きたりしなかったか」
アンの口振りで、強引に枕を持ち込んでアンの部屋で寝ただろうその様子は容易に想像出来た。
「…あの子普段魘されてるの?ごめんなさい私寝たら起きないから。…気付けなかっただけかもしれない」
「いや、毎晩じゃねぇ。他も特には、普通だったんだよな?」
急に深刻な顔付きへと変わったアンは、記憶の中からそれに思わしき事を再度探してくれているんだろう。
これまではそこまでの仲には見えなかったが、アンを護衛に付けて良かったと心から思った。
あんなヤツだからこそ、こんなにも心配して気に掛けてくれる存在はありがてぇと本気で思う。
「素振りとか、じゃないけれど…今思えばあの子、私に自分を重ねてたんじゃないかしら…?」
「それは?」
考え抜いた先の言葉に
客観的に物を見れるアンの見解に
続きを促す声がそれを急かそうとするのを何とか押し込める。
「本当に、こっちがびっくりする位怒ってくれたのよ。私も勘違いもいくつかあったけど、あの盗み聞きしてた時ウイの父親殺してやりたいくらい腹が立ったし」
アンとウイ…、事は違えどどっちも中々な経験をしている。
当事者じゃねぇからこそ、そこに関連性は見いだせねぇが
何だ?
この二人にある共通点は。
互いに互いの恨みを抱く相手に怒り同調してしまうような共通点…
「関係ないかもしれないし、これは私の個人的な見解だから。あってるかはわからないんだけど…」
「言え」
それはこれを確信して良いかの判断材料に必要な気がした。
そこを踏み込むかどうかの参考にしてぇのも勿論ある。
だが、こうも周りから呆れられる程に溺愛しているらしいその相手が第三者からはどう見えているのか
それがただ気になっているというのも否めない。
「あの子、ああ見えて自分に自信が大分ないんじゃないかしら。あれだけ大騒ぎして連れてけって言っておいて…全部終わった後私に謝って来たのよ」
アンが何を言いたくてその話をしているのか、情けねぇが検討がつかなかった。
やりそうだなと思いつつも、それにアンがどういう見解を持ったのかが
気になった。