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「この子本当に、一時の感情でただがむしゃらに怒っては…少し落ち着いて自分を省みたんじゃないかなって思ったから」


それも想像に易いな。


いつもそうだ。
アイツは自分が冷静な人間だと思い込んでいる割に
自分の許容範囲を超えて、更にそれに自分の大事なもんが関わってくるとなると
途端に周りが見えなくなる。


「…何て言えば良いのかしら。被害妄想?最悪な状況でものを考えるっていうか…考え過ぎるっていうか」


アンの見解が、自分のそれと相違なさそうな気配を感じて
やはり踏み込むべきだと思いつつも

なんでアイツはそうなんだろうと頭を抱えたくなる。


「あんな事して貰ったら、嬉しい以外の何物でもないのに。なんでこの子私に謝ってるんだろうって、そういえば不思議に思ったわ」













決定打だ。


ウイは例えそれが最悪な言い分でしかなかったとしても
知らねぇから、分からねぇから過敏になっている。


「迷惑かけたな。そこに関しては申し訳ねぇとしか言い様がねぇ」
「あら、なぜ?…私は自分でも作り出せないようなあの人をぼろっくそになじって貶めてくれるウイの言葉に…救われたわ」


本当に、何をしでかして来たんだこいつらは。













ただ思う事は
右ポケットの中に納まるコイツをあのバカに贈ろうと思いつつも

照れや恥じらいもあって若干気後れしてしまうそんな自分の後押しを
アンがしてくれた。


例え最悪一時アイツが泣こうが俺を恨もうが
ウイが本当の意味で心から笑えるには、それしかねぇと思えた。








ウイは今、ブラーヴェからも離れてずっとトラウマでしかなかった物を克服しようとしてる。

その途中経過だからこそ、俺の言動1つにあそこまで過敏に反応してしまう程に依存傾向が強いのも
それを喜ばしく思ってしまうのも自覚した上でも、“これ”は必要な事に思えた。


アイツにとって、必要不可欠な存在でいたいと切に思う。


だが…
今のウイが心から幸せではねぇことは
色惚けし腐ってるらしい俺でも十分理解していた。




朝目が覚めれば、隣にウイがいない。


どれだけもう無理だと言うウイを抱き潰しても
ワノクニから戻ってから、朝起きてウイがまぬけな面で隣に眠っている事はなかった。


「あ、おはようロー!今日はこの前シャチが釣ってくれたお魚の塩焼きだよ!味見したらすんごい美味しかったの!!ね、ジャンバール!」
「これは塩焼きがベストだな。絶妙な淡白具合に脂も乗ってる…」


いつでもジャンバールと朝飯を作っては、ジャンバール一人でも十分満足してた飯のクオリティーを更に引き上げた。













「シャチ!!いいよ私やるから!鍛練行ってきなよ」
「おー。悪ぃな、つい癖で」


シャチが担っていた洗濯物を始めとする諸々はいつしか、当然のようにウイが取り仕切るようになっていた。









「おい…何やってる、こんな時間に」
「ん?筋トレ!アンさんに教えて貰ったらなんか体も軽いし!続けようと思って!」


飯の後、片付けも済んだ後
目を離せばウイは汗だくでその身を鍛えていた。

体力が付くのは一向に構わない。
寧ろ俺の手の及ばねぇ場所でも自分の身を守れる可能性の増すそれは、喜ばしい筈だった。









だがしかし
日を追うごとにウイは俺の嫌いな顔をするようになっていった。


一見当たり障りなくやってる。
シャチは目に見えて負担が減ったように見えるし、ジャンバールに関して言えば寧ろ物足りなさを感じている程に。


ウイをそうさせる原因に心当たりがありすぎるからこそ
サグアへの到着を待たずに引き出しの奥にしまった物を渡してしまいたいと何度も思った。


そうした所で、アイツの心の奥深くに巣くう闇は俺には消してやれねぇ。
だとしても


日に日にやつれていくようにすら見えるウイが
クルー達の何倍もの汗を流す程に自分の身に鞭を打つその姿が
ただいたたまれなかった。


得意じゃねぇ自覚はある。
それでも伝わるように、言葉や行動で示しているつもりだった。






だがそんな事じゃ拭いきれねぇくらい、ウイが抱える闇は深い部分に根付いている。


よりマシにと思ってそれを決心した考えを捨て去ってしまう程に
その闇がウイを飲み込んでしまう事をただ恐れた。





朝抜け出すのは気付けねぇのに
夜中に起き出すウイを一度も見逃してねぇ自負があった。


どうせどうしたかを問い詰めても吐きはしねぇ。


だからこそ、寝惚けたふりを装ってそんなウイを抱き締めて腕の中へと連れ戻した。


どう手を尽くしても伝わらないのなら
寝惚けていると思われればこそ伝わる何かがあるんじゃねぇかと、そう思った。

一時でも
体の力が抜けてすり寄ってくるウイに、少しは救われた。













「ねぇ野暮用ってなに?サグア?私行ったことないけど何するの?」
「ブラーヴェ、行くんだろ?通り道ついでの寄り道だ」


島の影が見え始めて
覗き込むように目の上に庇を作ってそこに目を向けるウイに

それで拡大される訳なんてねぇだろとため息を付きつつ返事をした。







ただのアホにしか見えねぇんだ。
俺といるって設定上のこいつは。


あれから船を進める中で、変にトニー屋に対抗意識を燃やしていたベポのその対象が
アンへと移った。

気が付けばアンと髪を巻いてみたり、編み込みの練習をさせろとその頭を貸してみたり
立ち入り禁止の札をドアに張り付けては二人で長風呂をしてみたり

麻雀が始まれば師匠気取りなウイがいつでもアンの後ろにつく。
酒の作り方を教えては、飲めないアンでも辛うじて大丈夫そうなそれを作ってみたり

二人で何やらひそひそと笑いあってみたり。


見苦しい程にそれに妬くベポがいるからこそ、俺が冷静になれたとしても
同性だってのも理解はした上で、少し距離が近すぎやしねぇかと思ってしまうこのくそだせぇ気持ちが沸いて出るのは
止められなかった。






だがしかし、サグアが近付いている。
あの長閑なこれといって特徴もない島が。

通り道だと言う事に嘘はない。
だがしかし、こいつは覚えているんだろうか。


いつか買い出しに付き合ったあの時
店員が話していた話を。


ブラーヴェに唆されたから、こうも明らかな形でそれをしようと思った。
だがそうでなくとも
そういう話をする時はそれをもじろうと、あの時密かに心に決めたのを今でも覚えている。


それがどんなものかを調べた時に、桜によく似た
ウイに似合いそうな花だと思った事も。





「着いたー!!で、結局何するの?こう言っちゃアレだけど…特に栄えてもなさそうな感じ?私は買い出し行ってくれば良い?」
「おまえら、ジャンバールに必要なもん聞いて買い出ししとけ。今日のうちに出航する」


クルー達に指示を出して、じゃあ私は?と役目を欲しがるウイに向き直る。


「おまえは俺に着いてこい。行きてぇとこがある」
「え?…うん。それはいいけども」


何の検討も付いていないだろう呆けた面で、それを了承したウイを連れて港に足を下ろす。
目的の場所までは、シャンブルズを使っても良かった。


ただ、早く渡したいと思う気持ちは嘘じゃねぇにしても
出来レースでしかねぇ事も解った上でも
何となく尻込みしてる自分が居る。


「こうして見ると結構良い感じなとこだねー。で?どこ行くの?」
「ここを抜けた先に、…おまえが好きそうな場所がある」


決して賑やかとは言えねぇ商店街。
旅の人間が楽しむ目的と言うよりは、そこに住まう者達の生活の為に営まれる商いは逆にウイの興味を引いたらしかった。


「…私をそこ連れてってくれる、用事だったの?」
「ここのはそこまで大規模でもねぇが、いつか連れて来たいと思ってた」


これがなかったとしても
喜びそうな場所に好きな女を連れて行きてぇと思うのは何も普通のことだろう。

だがウイは心底意外だとでも言いそうな顔で俺を見上げてくる。








「えへへ、…何か嬉しいな。何だろ」









久しぶりに、取り繕われていないウイの素の表情を見た気がした。
照れたようにはにかむウイを連れて、商店街とその奥に続く住宅地を抜けた。









「あ!ねぇもしかしてこれ?」
「あぁ」


辺りに建物すらもなくなって、木々の生い茂る道を進む途中
流石に商いを営んでいるのであれば致し方ないとは言え、寂れた看板がウイの目に留まってしまった。


"リンゴ農園、このまま直進、すぐ"


「私がリンゴ好きなの覚えててくれたんだ!」
「おまえの耳に付いてるのが何だか忘れたか」


あ、と思い出したかのようにピアスを触るウイがそうだったと苦笑う。


本人の目に付きにくい物であろうと、そこは覚えておけと心の中で突っ込んだ。






「凄ーい!!良いね!こういうとこ!こんな色んな品種取り扱ってるとこ初めて見たかも!!」


ローが連れて来てくれたリンゴ農園は、農園だけじゃなく直売所も併設されてて。


そんなに大きくないって言ってたのは確かなんだけどね、でも凄いの!


一言でリンゴって言っても、品種によって香りや甘味と酸味のバランス、食感だって全然違う。
生で食べるのに向いてるもの、加工品に適したもの、それはもう多種多様だ。

お土産コーナーに生のリンゴは勿論、ジャムやベーグルにジュースにドライフルーツなんかも沢山並んでたんだけど
イートインコーナーに凄く心が踊るものを見つけてはそれを頼みたくて仕方なくなった。


「ねぇ!休憩がてら食べて行こう?」
「あぁ」


私はりんごとクリームチーズのベーグルを頼んで、ローはアップルパイとコーヒーを頼んだ。
私もコーヒーか紅茶飲みたいなって思ったんだけど、でもどうしても頼みたいものがあったから苦渋の決断で諦めた。


「あとこれ下さい!」
「ありがとうございます」


それは生搾り利きリンゴジュースセット。
なにそれ心踊り過ぎる。


利きリンゴジュースってだけで絶対飲んでみたかったのに
注文入ってから搾ってくれるんだって!!


だから少し時間がかかることと、何も加えてないから早めにお召し上がりくださいって。
それでも少し変色しちゃう事とかも店員さんが説明してくれた。








「期待を裏切らねぇな」
「え?何が?」


私たちの他にお客さんはいなくて。
窓際の席でリンゴジュースを待ちながらベーグルにかぶり付く。


さすが利きジュースとかやるくらいだ。
このリンゴ水分量少なめなのかベーグルがじとってしてないし、自然な甘味がクリームチーズとあわさって最高だ…!!


「あれ見かけた時、おまえなら頼むんじゃねぇかと思ったから」
「…そんな事、思ってくれてたの?」


頼まなかった癖にやっぱりコーヒーが欲しくなって、ローの頼んだコーヒーカップに口をつけながらとんでもない嬉しさに襲われた。









私だけじゃないんだって
私がいない時でも考えてくれてたんだって、嬉しくて仕方なくなった。


結局ローはそんくらい考えもするって、シナモンがキツめのアップルパイに顔をしかめてて。


一口貰ったらそこも相まって絶妙に美味しかったのにな。





destruct at reality.