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「…まあ良い。今日は寝かせとけ。明日本人を問い詰めれば分かることだ」
「子供たちも明日ウイにお礼を良いに来るって言ってたよ」


本当に、随分と懐かれたものだ。
まぁウイも気にかけていた。
喜ぶんじゃねぇかと思う。


そんな事を考えながら、先程水をくみに来た際放り投げたままの奴等の心臓の包みが目が止まる。


さて。
どうしたものか。


「ガキ共の言うとおり、アイツを拐った連中が小屋で全員伸びてた」
「そういや言ってたな!ウイが助けてくれたって。なに?ウイ実はすげぇ強かったりすんの?」


もうすっかり気の抜けた調子に戻ったペンギン。
ソファーにだらりと寝転ぶその姿を見て、そういえばコイツは結構な人数を片付けた事を思い出した。
疲れてなくとも常にだらけてるんだが。


「さぁな。それも明日アイツに聞くとして…これをどうするかだな」


包みをリビングに置き、結び目を解く。
バラバラと広がるキューブ状の心臓に、それに見慣れたクルー達は説明なしに状況を察した。


「明日俺とシャチで行ってくる。ガキ共が来るならベポは置いていった方が良いだろ」
「任せた。数が多いだけでさして腕の立つヤツはいねぇ」


ペンギンは誰の物かも知れない心臓をくるくると宙に放り投げてはキャッチしながらそれに頷く。
シャチもそれで問題なさそうだ。


「今日は解散だ。ご苦労だった」


よく考えればシャチとベポはガキ共の送迎くらいしかしてねぇが、時間も時間だ。
二階に目を向けている所を見ると、ウイが気になるらしい。
だが結局、欠伸を噛み殺しながら地下へと降りて行った。
誰もいなくなったリビングで散らばった心臓に目をやる。


アイツらに任せておけば問題ねぇか。

ペンギンだけじゃねぇ。
シャチも腕は立つ。
それにこれもあれば返り討ちに合う事はねぇだろ。


俺も走るくらいしかしてねぇが汗はかいた。
風呂に入ろう。




風呂から上がると、時計の針はもう明け方の3時を指していた。

冷蔵庫から酒を一本失敬し、治療の為に借りている俺の部屋へと運んだウイの容態を見に階段を駆け上がった。




扉を開いた途端、聞こえて来た苦しそうなうめき声に目を見開く。
ウイの横たわるベッドへと駆け寄ると
月明かりに照らされた頬は赤く、その顔は苦悶の表情を浮かべていた。

額に触れれば、汗ばんだ肌は尋常じゃねぇ熱さを伝えて来る。
脇に体温計を挟み、腕を押さえそれを固定し体内をスキャンした。





熱はあるんだろうが原因が見当たらねぇ。
感染症を疑ったが体内に目ぼしい異物は見当たらなかった。

上昇を止めた体温計が指し示す温度は40度を越えている。


「ウイ!起きろ!ウイ!!」


高熱にしても、この魘されようは尋常じゃねぇ。
悪夢でも見ているのかと、そこから覚まそうと肩を揺すった。

ぼんやりと目を開けたウイの目は、あの小屋で踞っていた時のそれを連想させる。


「おいウイ!しっかりしろ!」


高熱の体を揺さぶるのも気が引けたが、このまま悪夢に魘されるよりはマシだろうと
更に強く肩を揺すった。


やめろとでも言いたげなウイの手が腕を掴んで来るものの
その力は弱々しく、依然として目は虚ろなままだ。


「だぃじょ…ぶ、…から!」
「こんな時まで寝汚なさ出してンじゃねぇ!いったん起きろ!!」


普段ならまだしも、悪夢にすらすがり付こうとするウイを引き戻そうと必死で揺すり続ける。


「私…いじょ、ぶ…からしなな…で…」


途切れ途切れの要領を得ない言葉。
こっちの言う事が聞こえてんのかは定かじゃねぇが、それだけ力なく呟いたウイの目は閉じられた。

閉じられた瞳からは、一筋の涙が流れ落ちた。





力なくシーツに投げ出された手を取って脈を計る。
規則的に脈打つ音は特に異常を伝えてきやしなかった。


悪夢からは解放されたのか、眠るウイは穏やかな寝息を立てている。
頬に留まる涙の雫を、手の甲でそっと拭った。




私は大丈夫だから、死なないで。




聞き取りにくかったが、そう聞こえた。

ガキ共は目立った怪我もしていなければ、さっき伝えた言葉から死を連想するとは思えない。
俺らも同様。


踞って震えていたウイの様子を思い出す。


海賊共にビビってたと思われたアレは、今思えば不自然でしかない。
自分で捕まりに行って、自分がああした相手に
あそこまで怯えるもんだろうか。


「んぅ…」


頭を枕に押し付けるように身を捩ったウイが、脈を取って握ったままだった手を握り返して来た。
今は穏やかに眠る様子に、繋いだこの手が悪夢に落ちぬよう繋ぎ止めている気がしてそれを握り返す。


ウイの顔が安心したように、緩んだ気がした。


繋いだ手をそのままに、持ってきた酒瓶のコルクを片手で開け口をつける。
体にこれといった異常がないのであれば、原因は精神的なものか。


エビデンスがねぇにせよ、精神的な要因で発熱する例は文献で読んだ。
主に小さな子供に多いその事例は、心的外傷、トラウマが引き起こすと報告されていた気がする。


「お前も…訳有りか」


返答がある筈もない事を解ってはいても、ついそれが口から出た。

なぜか今はウイの笑顔ばかりが頭に浮かぶ。
こいつはこの笑顔の裏で、何か辛くて重い過去を抱えていたりするんだろうか。



目蓋越しの眩しさに意識が覚醒していく。
どうやら昨日はあのまま眠ってしまったらしい。
不自然な体制で眠ったせいか体の節々が痛んだ。


手に自分以外の人肌を感じて状況を思い出す。
傍で眠るウイは魘されてはいなかったものの、額はまだ熱かった。


体感やスキャンで正確な温度は計れねぇ。
体温計にそれを託し時計に目をやれば、既に10時。
昨晩遅かったこともあるがそろそろクルー達も起きている筈。


その後脇から抜き取った体温計は、依然として40度の辺りを指していた。


「ウイ、起きれるか」


握ったままの手を揺らしてみても、掛けた声にも反応はない。
これは、眠りが深いというよりも昏睡に近い気もする。

そっと手をほどき、点滴の準備に取りかかった。
原因不明の高熱も気掛かりではあるが、その状態で水分が取れねぇのは確実に事態を悪化させる。





「キャプテンおはよう。ウイは?」


水を調達しに降りたリビングでは、ベポが優雅に紅茶を啜っていた。
シャチとペンギンは目をギラつかせながら西の森へと出掛けていったらしい。


「昨日から熱発している。意識もねぇ」
「ええっ!?昨日ピンピンしてるって…!!」


慌て出すベポを横目に湯を沸かす。
浄化装置を通しているとは言え、血管に直接流す物は極力滅菌が必要だ。


「何かに魘されてるみてぇだ」
「昨日の海賊のせい!?」
「分からねえが…違う気がする」


怖い夢でも見てるのかなと心配そうに呟くベポを視界の隅に入れながら点滴の準備を続けていると、扉を叩く音が響いた。


「はーい?」


ベポの返事に遠慮がちに開かれたその先から、昨日のガキ共が顔を出す。


「ベポ!」


ユウというらしい女の子供がベポを見るなり飛び付いた。
こいつも昨日送っていく途中で随分と懐かれたらしい。

弟の方がリュウで、兄貴の方がシュウ。
そっちも続いて船室へ入ってくる。


「ウイは?」


リビングに見当たらない目当ての人物に、シュウは疑問の声を上げた。




「あー…ウイはねー、えっとー…」


どう返答すべきかに悩んだベポの視線がこっちを向いた。
それを考えつつも、人肌に冷えた点滴液を氷水から取り出す。


足の傷を伏せたままガキ共を逃がしたということは、ウイはそれをコイツらに知られたくはねぇんだろう。


ウイの居所を聞くガキ共がそれをベポに問いかけ、ベポの視線の先には自分。
それを辿って集まった視線が、答えを求め今か今かとそれを待ち望んでいた。


「ウイはまだ寝てる」
「ウイお姉ちゃん、ねむねむなの?どこ?」


それでも引かない無垢な瞳は、ウイに会わせるまで帰る気はなさそうだ。


「体調を、崩してる」
「なんで!?ウイどうしたんだよ!?」


シュウが興奮したように声を荒げた。
チビ二人はともかく、ある程度頭が働くらしいこっちには恐らく
下手な誤魔化しは通用しねぇんだろう。


答えろと、シュウはじっとこっちを睨み付けてくる。


ガキに好かれるどころか、ビビられるタイプな自覚がある。
コイツも恐らく、出来れば関わりたくねぇ存在なんだろう俺は。


それ程までにウイを気にかけるシュウにため息が出た。
ベポにチビ二人を甲板に連れ出すように言付ける。


外で遊ぼうとリュウとユウを誘ったベポ達が出ていく扉が閉まるのを確認して、依然として睨み付けて来るシュウに視線を落とした。


「アイツは昨日、お前らを捕まえていた奴らに怪我を負わされた」
「…!!銃声が、聞こえたんだ。ウイ、アイツらに撃たれたのか?」


思い当たる節があったのか、シュウははっと息を飲み唇を噛み締めた。
その言葉に黙って頷く。


「昨日はピンピンしてた。治療も済んでる。ただ…傷口が化膿したのか今は高熱で意識がねぇ」


恐らくあの熱はケガが原因ではねぇ気がするが、それに確証がねぇ。
原因不明よりはマシだろうと、取り敢えずそういうことにしておいた。


「ウイ…死んじゃうのか?」


責任を感じているのだろうか。
シュウの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。







destruct at reality.