18-6



ローが行ってしまった。


ブラーヴェの皆と結婚式の打ち合わせをしながら帰りを待つ毎日は、今まで通りのようでやっぱり何かが違う。

要望に応える側から打って変わったお客様ポジション。
帰る場所がフリーウィングからポーラータング号になった違い。


"仲間"から"お客様"になっただけでこんなに変わるものだとは思わなかった。


結婚式の招待状を出したい人をあげていったらね、どんな文面でそれを出したいかだけ聞かれて
後はこっちに任せてって最後までやらせてくれないの。

式の段取りもね、あれやりたいこれやりたいって
一緒に企画してきたからわかるそれの準備をさせてくれないの。


ブラーヴェの結婚式は、招く側の新郎新婦が完全ホストって訳じゃなくて
新郎新婦にも楽しんで貰う為に要望だけ聞いて後はブラーヴェが最終段階を整える段取りになってた。
招かれるお客様に完璧なサービスを提供するのは勿論、進路新婦にも特別なその日を負担をかけずに楽しんで欲しいっていう
そんなコンセプトだ。


でもいざその立場になってしまうと、そわそわするっていうか
本当にこんなに楽でいいのかなって落ち着かない。


大体の枠組は出来て、どうしても譲れなかった引き出物はやらせて貰って
でもいざ自分でやるとなると、日数の足りなさに頭を抱えた。


ローには早く帰ってきて欲しいんだけど
果たしてほぼ一発勝負のこれをちゃんと仕上げられるんだろうか。












「どうしよう…ひと月後だとね、試行錯誤しようがないんだよ!!」
「どんなにマズかろうとウイの気持ちは伝わるわよ。…一気に何個か試作して、それで一番良いのを引き出物にしたら良いんじゃないの?」


打ち合わせが終わった途端ブラーヴェを追い出されて、ポーラータングに戻ってきて即刻アンさんに泣き付いた。


「大丈夫…かなぁ…」
「今まで何年もやってきた勘ってものがあるでしょ。ほら、買い物なら付き合うわよ」


悩んでたって時間は刻々と過ぎて行く。
アンさんに促されるままに、半分パニックのまま街へと繰り出した。






引き出物はね、来てくれる皆にありがとうって気持ちを込めた
オリジナルのお酒を贈りたいんだ。







招待状は今まで出会った全ての人に出す事にしたの。

ベガス聖に、シュウの家族、ブラーヴェの皆にレイリーさんにあゆみちゃん。
麦ワラ海賊団にロイにクザンさん、マルコやシャンクスさんにも。


誰一人欠けても今の私は居ないと思う。
沢山お世話になって、沢山色んな事を乗り越えて、ここまで来れた。


時には衝突した事もある。
励まして貰った事も、暖かさで包んでくれた事も。

本当に色んな事があった。


それをね、お酒で表現出来たらなって思ったのに…


「あー!!!もう!!どれだろう!!どれなの!こんなに品揃え良いのにパニックなせいで選べない決まらないどうしよう!」
「ウイ煩い」


デロアの青果店はシードルに使ってる林檎だけじゃなく、ありとあらゆる果物が揃ってる。

揃ってるんだけど!


「パイナップルとかキウイとかレモンとか、試作した事あるんでしょう?レモンのとか私でも飲みやすかったし美味しかったわよ?」
「レモンかー…あれは一番色々試作してるし万人受けもしそうだし…うーん…」


出来が普通でも、皆は優しいから確かに喜んでくれそう。
でもそれは私が嫌だ。

折角ならとびっきり美味しいのを作りたい。


「でも…なんか今まで試作したやつで出来の良いものって、このために作った訳でもないしって納得いかない気もするし…」


美味しいのを作るなら試作品の中から特に出来の良かったものにすれば良い。
どれだけ気持ちが込もってても不味いお酒よりマシだ。

でも出来る事なら1から新しく作りたいって気持ちも捨てきれない。


「悩むのは勝手だけど、時間は待ってくれないわよ」
「あぁぁぁあ!!もう!!わかってるよ!わかってるんだけど…!!」


そうなのよ。
試作品を更に微調整するにしても、新しいの作るにしても
只でさえ足りない時間はこうしてる間にも減っていく。






…一回、一回ならいける。
一回試作して、それを量産するなら間に合う。


よし。


「すいませーん!果物今あるの全種類下さい!レモンとキウイは多めで!」
「お!ウイちゃん試作かい?こりゃまた豪快だね!」


馴染みのおじさんが手際よく果物を袋に詰めてくれてるのを待ちながら、既に頭の中でシュミレーションを開始した。


やるぞ。
大丈夫、私なら出来る。





「やっぱり新しく作る事にしたの?…凄い量ね」
「保険でレモンとキウイとパイナップルのも微調整して試作して、新しいのが上手く行けばそっちにする!」


ふーん、って言いながら紙袋の中から香る完熟果物の香りを吸い込んだアンさんの顔が綻んだ。


「見たことないものも沢山だけど、良い香りね。全部混ざってどれが何の香りかわからないけど」
「……!!良いね!!それ!それ良い!!…でも更に難しいかな…糖度とかも調整して…」


アンさんは天才なんだろうか。


新しいものって言っても、桃とか洋梨とかマンゴーとかバナナとか
これまで手を出して来なかった果物でやってみようって思ってたんだけど


ミックスしたら新しいの出来そう。
甘味も酸味も苦味も掛け合わせ方で複雑でオリジナリティのあるものが作れる。


…皆に伝えたい事って、色んな想いが複雑に混ざり過ぎて単純じゃないから
単品の果物を研ぎ澄まして作ったものよりも、私の込めたい気持ちにあってる気がする!!


「基本は甘いのが良いな…発酵時間考えても度数はそんなに強く出来ないし…でもさっぱり感と少しアクセントになるのもいれたいし…」
「いつだったか誰かが言ってたのはこれの事なのね。確かに意味不明だわ」


じと目で見下ろして来るアンさんにハッとした。


「ありがとうアンさん!凄い名案だよそれ!後は頑張るだけ!なんか楽しくなってきた!」
「私何かしたの?…まあ楽しいなら良かったわね」


ため息までつかれちゃって、どうしたのって聞いてみたら
全部喋ってるつもりなのか何も口にしてないつもりか知らないけど、唐突に脈絡のない一人言言い出されたらびっくりもするわって
笑われてしまった。












前にも誰かに言われたな、それ。
誰だっけ…









「あ、ローだ!そう!ローに言われた!」
「早速意味わかんないわよ。何で急にキャプテンが出てくるのよ」


本当だ。
今のは自覚がある。


「え…どうしよう。私結構これやっちゃってる気がする…変な人だと思われてたらどうしよう」
「変なのはそこだけじゃないから今更気にする事ないわよ」


ふふって笑ったアンさんが、さっさと帰りましょうって足を進めた。




アンさん…それ全然フォローになってないよ。





ポーラータングに帰ってすぐ、キッチンを占拠した。


試作した事のあるやつはさっさと仕込んでしまって、本命の試作に移る。

酵母は林檎のを使う事にしたの。
特に癖が強い訳じゃないし、第一そこから作ってたら確実にタイムオーバー。


「桃…マスカット…レモン?グレープフルーツ?洋梨…パイン入れても美味しそう…苺…!?でも苺のやつ前やった時なんか微妙だったんだよなー…」
「私手伝えるのはここまでかしら?ジャンバールもキッチン使うだろうから、搾ってしまって別の場所で調合なさいよ」


果物の皮剥きや瓶の煮沸を手伝ってくれてたアンさんに言われて時計を見れば、そろそろ晩御飯の準備が始まる時間。

またうっかりして今度はジャンバールに迷惑かけるとこだった…。


買ってきた果物を全部搾って瓶詰めにして、冷蔵庫にしまうと
ダイニングテーブルでノートを広げて組み合わせを練る。


適当に混ぜてみるより多分、ある程度纏めてからの方が早い。


「もう良いのか?今日くらい外で食べても良いんだぞ?」
「ごめんジャンバール、いつもありがとう。まだ纏まってないからこっちは大丈夫だよ!」


そうか、とキッチンに回ったジャンバールが無駄な動き1つなく夕飯を準備する脇で、再び頭を抱えた。







伝えたい気持ちは、お礼だ。
ありがとうって伝えたいけど、そこに至る経緯は皆違って。

でも、…なんだろう。
私だけじゃなく皆にも、私と出会えて良かったなって思って貰えたら嬉しい。

一口飲んで、色んな味がして
幸せな気持ちになれるような配合…。





私迷惑しかかけてないのにこれで挽回?
ハードル高っ…!!





「うーん…」










皆の事を考えながら
紙の上で、良さそうな組み合わせをいくつか作っていく。


本当にこれまで、色んな事があった。





ベポとシャチとペンギン。









グランドラインに入る前からだから、もう随分長い付き合いになる。

まさか酒場で偶然居合わせたフリーウィングを盗もうと企んでた海賊がこんなに大事な人達になるなんて、あの時は思いもしなかった。


一緒に旅をして、すぐに皆が大好きになった。
あれから通り過ぎていった月日の分だけ
皆も私もそれなりに年を取って、それなりに大人になった。


一緒にバカやって、真面目な話もたまにして、喧嘩したり、助けて貰ったり
お説教も沢山された。


今は他のクルーの皆も大好きなんだけど
離れてる間に仲間が増えたって聞いた時は、それを寂しく思った事もあった。
私の大好きなハートの海賊団って存在が変わっていってしまう気がして、子供みたいに拗ねてた。


あの時の私にもし教えてあげる事が出来たなら、何て言うかな。


大丈夫だよ。
仲間が増えても皆は変わらないよ。

新しい仲間も皆良い人達だよ。
心配する事なんて何もないよって、言うのかな。





…そんなお告げがあったとしても
私はやっぱり気を揉んで1人でごちゃごちゃ考えてたんだろうな。

それに、あんな些細な悩みだって
あれがもしなければ今はないかもしれない。




悩め悩め。
それも後で思い返せば良い思い出になるよって、やっぱり何も言わないかもなぁ。








アンさんとだって、今はベポが焼き餅妬いてくれちゃうくらい仲良しになったけど
こうなるまでは色々あった。

きっと嫌われてただろうあの時も、どんなに冷たくされてもなんでか嫌いって思えなくて。
でもへこたれてしまいたくなる時も実はちょっとあって。


どうせ素っ気ない
そう思って、話し掛けに行く時はいつも気合いれてた気がする。

皆と居る時の"私"ってキャラクターがこんなだったから
鬱陶しがられても纏わり付く事が出来たけど…
本当にあの時、頑張って良かったな。







destruct at reality.