18-8




「いや、別に良いんだけどさ。なんでここ?」
「流石に人間の雄と同じ部屋でウイ寝させたら、俺がキャプテンに殺されそう」


あぁー…って微妙な顔で納得してくれてるウイには悪いけど
嘘だよ。

キャプテンが度を越えたヤキモチ妬きっていうか、独占欲強すぎなのは事実だけど。



俺が邪魔されたくなかった。
男部屋で寝たら皆が話に入ってきて、結局ウイと話せる時間をとられちゃいそうだったから。


「久々だー!!もこもこ!ねぇ、クマの毛って老化で毛艶悪くなったりするの?」
「確かにあの時よりは年取ったけど、俺ウイと同い年だからまだ老化って年じゃないんだけど」


リビングに敷いた布団に仰向けに寝転がれば、ウイがお腹にダイブしてきた。


そこまで致命的に痛くはないけど
ウイそこまで重くもないけど

でも人一人が飛び込みダイブしてきたらそれなりの衝撃なのちゃんと解ってんのかな。


「ベポは白髪になってもわかんないね」
「元から白いしね」


相変わらずのそこなんだっていう言葉に適当に相槌を打ちながら、こそばゆいからやめてって何度も言ったお腹でゴロゴロ転げ回るウイを懐かしく思った。


「結婚、するんだねぇ」
「そうだねぇ。なんかまだ実感沸かないな。あの頃は想像も出来なかった事だよね!」


俺の呟きに
ん?って顔をこっちに向けるウイが言うあの頃って
一緒に旅してた頃の事を言ってるんだよね。


あんなにキャプテン好き過ぎて仕方なかったのに、結婚とかそういうのは考えてなかったんだってふと思った。


ウイが泣き喚きながら胸の内をぶちまけたあの夜、本当に転び方によってはウイは逃走しようとしてたんだろうなって思うと
なんか複雑だ。


キャプテンとウイがくっついた事はただ嬉しかったしめでたいって思う。
でも、ウイが抱えてた物から這い上がろうとするきっかけを作るのは俺でありたかった。

だからあの時面白くなくて不貞腐れた。







「引き出物楽しみにしてて!」
「上手くいきそうなの?俺手伝ったのに」


でもほら、ベポがやると毛が混入するからって笑うウイに
劣等感が刺激されないのが謎だ。


クマで悪かったね。
手も毛むくじゃらで悪かったねって思うけど、怒りも悲しさもない。


俺、別にクマな事を触れられたくない訳じゃないんだ。
人とは違うところに触れられると傷付く時もあるけど、でもそこを避けて会話されるのは逆に気にされてるみたいで。


「ベポは仕込みじゃなく別なこと手伝って!皆の分ってなると大量だから絶対重い!」
「凄いさらっと荷物持ち扱いしてるよね」


ウイがクマの俺を好きでいてくれるって、疑いようがない程わかってるから。
だからこういうやりとりも嫌じゃなくて寧ろ楽しい。


アンとかチョッパーに対抗心抱いたのは事実だけど
2人にはウイ、こういう風にからかったりしないから。


誰と仲良くなろうと
こうやって好きでいてくれて、俺をからかいたくて仕方ないウイは変わらない。

大丈夫。
俺は"特別"。


「いつかローは陸に降りるのかな」
「なに急に」


ぽつりと呟かれた言葉の意図が分からない。
ウイは陸で生活したいの?

海でのこの暮らしを、海賊っていう生業を
本当は嫌だって思ってたりするの?


「いやだってポーラータング縁側ないじゃん。私達がおじいちゃんおばあちゃんになるまでは、縁側作るか陸に上がってて貰わないと」












俺ね、実は本当に
あの時言った言葉が実現する未来を今でも結構楽しみにしてるんだ。


縁側に腰かけて、お団子と緑茶がお盆に乗ってて
庭ではキャプテンとウイそっくりな孫がキャッキャウフフ騒いでるの。

その孫が俺のもこもこが大好きで、いつも飛び付いてくるだけどウイはベポも年だからやめなさいって叱って。

馬鹿にすんなって調子乗って抱き上げたらぎっくり腰になっちゃって
キャプテンに白い目で見られながら診察して貰うの。


ぎっくり腰とかやだしなんでそんな妄想って思うけど
俺とウイと皆の関係がこのまま続いたら
そうなるんじゃないかなって思って、本気でそれを楽しみにしてるんだよ。







「でもほんと、色々懐かしいよねー。誰かさん雨の中泣きながら水風船作ってたよね」
「あはは!なっつかしい!!…そんな事もあったねぇ」


思い返すと本当感慨深いな。


でも理由を解った今それを振り返ると
どんだけ強がりで偏屈なんだって呆れる。


「あの時さ、皆でキャプテンとっちめに行ったの。何それ聞いてない!って」
「おお、裏話!!」


お腹の上でガバって顔を上げたウイの目は輝いてて、それが知りたくて仕方ないのが丸解りだった。


「凄い納得いかなかったんだけどさ、本当にキャプテンの言う通りだった」
「何て言ってたの?ロー」


言う通りだったから、あれで正解だった。
でもあの時はなんでこんな事するんだって理解出来なかった。

キャプテンにも、仲間になりたい癖にそれを受け入れて一人めそめそしてたウイにも。

もう時効だよね?
キャプテン自分でも言ってたし。


「ドフラミンゴの件片付いたら迎え行くつもりな事、ウイに言ったらそのタイミングで逃げるから言うなって」
「…流石だねぇ。あんな前から私の事お見通しだったんだ…」


もしあの時、"仲間にするのを諦めた"じゃなく"ドフラミンゴを倒したら迎えに行くから待ってろ"だったら
ウイが雨で涙を隠しながら悲しむ事はなかった代わりに、今ここにウイは居ないんだ。









「ねぇ、なんであの時教えてくれなかったの?被害妄想激しすぎなウイの悩み。…俺そんなに信用なかった?」
「信用してないとかじゃ、なかったよ?…大好きだから、失いたくないから、付かず離れずで…いたかった」


お腹の毛を指でくるくる弄りながらそう話すウイの言い分はなんだか、しっくり来ない。

ウイがどうとかじゃなく俺がどうだったかを聞いてるのに。


「私今でもふとした時怖くなる。…人じゃないからベポは他の人と違うって言ってくれても、ローが心臓やるからそれで脅せって言ってくれても」


不満な気持ちのままそれに続く言葉を聞きながら、俺は大きな思い違いをしてた事に気付いた。





俺、ウイはあの夜全てをぶちまけてキャプテンともくっついて
それで解決したものだとばかり思ってた。






そういう目で見るのをやめたからかもしれない。
注意して見てれば解ったかもしれない事を見逃して、チョッパーやアンに対抗心燃やしてたのかもしれない。


今に始まった事じゃないけど、皆にからかわれてる時もプロポーズされたって話してきた時も
それ以外の気持ちなんて存在しないってくらい照れてたし喜んでたように見えたから。


でもそっか。
まだそれは健在なのか。


「面倒臭っ」
「──でも!大丈夫だよ!!もう決めたから!皆を信じるって」


ほんの一瞬。
反論してくる前の、本当に一瞬だけ
ウイの顔が何かに怯えるように歪んで見えた。


これはまずったと思った心が急速に冷える。


この冗談は、冗談にならなかったやつ。


「…嘘だよごめん。面倒臭くなんてない」
「本当に!大丈夫だよ!…怖くなってもちゃんと毎回違かったって思えてるし!ベポがヤキモチ妬いてくれてたのとかも、…ごめんだけど嬉しかった」







なんか…微妙。
これ、絶対ダメだったやつ。


一見俺が気に病まなくて良いように取り繕われた、俺が触れられたらちょっと恥ずかしいその話。


ウイのこういうのって、上手すぎるんだ。







気を遣わせたくないから相手の事考えすぎて、やらかしたこっちの気を引ける憎まれ口とかこういうのを挟んでくる。


でもそれは本当は傷付いたから
だから相手も反省してるだろうって想定してこうしちゃうんでしょ?

傷付いてる自分より
傷付けた側の良心ばっかり気遣っちゃうんでしょ?




本当に面倒臭い。
直球で言えば良いんだ。

気にしてない事なら寧ろ言い過ぎるくらいズバズバ言うじゃん。

面倒臭いって言われて傷付いたよ。
そういうの言われたら益々不安になっちゃうって、何で言えないかな本当に。




今更謝ってもそんな事ないって冗談めかしてはぐらかされるし、そこも踏まえてどうすれば良いかとか考えるのが本当面倒臭い。


「…言った事守らなきゃとかの義務じゃなくて、これからもちゃんと俺にも構ってね」
「どうしたベポ。キャラ変えた?…そんなおっきな図体して…」


こっちが下出に出たら出たでコイツは…!





ちょっと強めにウイの頭を小突いた。
苛っとするけど、これで正解だったっぽい事にほっとしなくもない。


本当面倒臭っ。





「へー。引き出物の試作上手くいくといいね。でさ、招待状なんだけど暖色系と寒色系だとどっちがいい?オレンジっぽいのと水色っぽいのなんだけど」
「…暖色系かなぁ?」


あれだけ練りに練ってたのに
いざ始動!ってなると細かい調整が出てくるものだ。
確かにあの時招待状の色なんて考えもよらなかった。

寒色系も爽やかな感じがして捨てがたいけど、でもやっぱり私が皆に送りたい気持ちって言ったら暖色系の暖かさだ。


「引き出物ってそのお酒とかジュースだけでいいの?他にもこっちで準備したの付ける?」
「あ、それお願いしたいかも。あれだよね?男女年齢層別にセットで準備してたやつ。それも付けて欲しい」


オッケーってメモを取るカレンに、企画する側にいたあの頃を思い出した。


文字どういう風に印字するのかな。
堅っくるしい感じじゃなく丸い感じにして欲しいな。
只でさえ遠い人とかが行かなきゃ!って義務に感じないような招待状。


「ねぇ、出来たら見たい!招待状!」
「それは!!式が終わった後記念に一通プレゼントするわよ!今は!お楽しみ!!お楽しみよ!!!それは!」












…え?

まぁ、皆なら任せられるけど
そんなにサプライズ重視なのか。

どんなのにしてくれるんだろう。
楽しみ。


「あ、そういえばカレンにお願いしたい事あるんだ!引き出物のラベルお願いしたいんだけど良い?」
「全然オッケー!!どういうのが良い?」


流石に裸瓶渡しってのは気が引けてて
ラベルに印字して欲しいお酒のタイトルとか、それに合わせたデザインとかをカレンと打ち合わせた。


白地のレースプリントに、丸文字で印字して欲しいの。
試作が上手くいってこそのそれに見合う完成度なんだけど。

でももし上手くいかなくてもラベルはそういうのが良いな。


「レースの柄とかは?私勝手に良い感じにやっちゃって良いの?」
「カレンのセンスに全面委託だよ。文字はね……」









本当に、上手くいってくれると良いな。







ローの招待客って、ハートの海賊団の皆と麦ワラ一味くらいだから私もほぼ顔見知りみたいなものなんだけど

私だけじゃない。
ローをここまで支えて来てくれた人達にも届けたい。





ロー、元気にしてるかな。
私は頑張ってたよ?







destruct at reality.