18-13




「コラさんのお墓参りしたいってアレも嘘!?私がそれでも行きたいって言ってたらどうするつもりだったの??ぬか喜びさせて地獄の底に突き落として…これで満足!?」


あんなに優しく抱き締めてくれたのも
全部この為だったのか。


「どうせ私がブラーヴェの皆の気持ちを蔑ろに出来ないって!知ってたでしょ!?どんなにツラくても、もう結婚式なんてしたくなくても!!それでも何事もなかったかのように取り繕うって!ローなら解ってたでしょ!?」


そうだよね
ローならそこまで頭が回った筈。


「そんなに私が嫌い…?これ何の仕返し??凄いね、こんな手の込んだ嫌がらせローにしか出来ないよ。流石お医者様は頭の出来が違うんだね」






私が今こんな醜くてドロドロで
どす黒いヘドロにまみれた気持ちでいることも全部

ローの想定通りってことか。




何それ。
怖っ。

















「言いてぇ事はそれだけか」
「…時間さえくれればいくらでも沸いて来そうだけど?」


今思い付く限りの事は全部ぶちまけた。
でも本当に、時間があればあるだけ不満も文句もまた生まれそう。
思い出しそう。


「…区切りってもんを、大事だとは思わねぇか」
「…何の?父様のことはここでケジメを付けろって、そういうこと?…許せって?自分を売ろうとか殺そうとかした親を?」


ローのまどろっこしい物言いに、さっきは腹が立った。
でも今は
もうあれだけ性格の悪さ丸出しな胸の内をぶちまけた今なら

不満箱をつついてくれるこれも悪くないって思える。


もうこの際だから言ってやる。
ローが何を言っても、それは私がウサを晴らす材料にしかならない。


「許したくねぇなら許すな。おまえらの関係を修復させたくて連れて来た訳じゃねぇ」


許せって言われても
心から許せる事なんて絶対ないと思う。

ただ当て付けで
もうなんでも言う通りにしますよって投げやりな態度で許したりはしたかもね。
これで満足でしょって。

絶対その後二度とローの前で笑う事も何かを話すこともしないと思うけど。


「もう…何年経つ。昨日今日の事じゃねぇそれを、忘れようって思ってる時点で忘れられねぇ事だって、そう考えられはしねぇのか」


怒ってる顔じゃない。
でも顔を付き合わせてそう話すローの目は真剣だった。






「忘れらんないから…だからあれだけローに好きって言うのも怖かった!!だから何?それを今どうにか忘れようって頑張ってたんじゃない!!」
「忘れようと思った事を忘れられる程、人間都合良く出来てねぇ」


なんなんだろう、これ。
聞かれた事に答えても、的外れな答えが投げ返される感じ。


父様と皆は違うって、そう言ったのはローじゃなかった?
それって規格外のそれを忘れろって。
つまりそういうことだよね?

それを忘れられない事もある?


じゃあどうしろって言うのよ。
何が言いたいのよローは。


「あの話をした後、おまえ何度俺を疑った」
「あの話って、何よ」


あの夜フリーウィングで話した事だって言われて
馬鹿真面目に自分のこれまでを振り返ってしまった。


疑う?
何を…?


「行き過ぎて笑っちまったが、林檎農園での勘違いは何だ?…毎晩魘されて飛び起きてんのはどこのどいつだ」













知ってた…の?











ぞっとした。
つむじから足の指先まで、一気に血の気が引いた。







あれからも、夢を見た。
そこはいつも
もう見慣れてしまったあの、真っ白な空間だった。


母様を失った私と、エースを失った私はね
もう私に何も言ってこないの。

ただ私の少し後ろで、膝を抱えて座りながら私を見てる。


何度も見た夢は、登場人物は同じなのに
色んなバリエーションで私を地獄の底へと突き落とした。


カイドウに殺されてみたり
海で溺れ死んでみたり

おまえの役立たずぶりにはガッカリしたって見放されたり
行き過ぎた面倒臭さに愛想尽かされてしまったり


いつも死んでしまうか、捨てられる。


みっともなく縋るのに
抱き締めたローは氷みたい冷たくなって動かないか
去っていってしまう。


それをね、あの子達がほらねって言わんばかりの目で見てるの。





泣いて泣いて
もう戻らないのに、届かないのに

それでもいなくなってしまったローに手を伸ばし続けて


気付けば飛び起きてた。




何度か起こしてしまった事はあったけど、寝てた事もあったのに





狸寝入りしてたの。
そう、知ってたの。











落ち着け。
内容まで知られてる訳じゃない。







父様をここに連れてくるまで
不安にさせないでって言った私に、ローは百点満点以上で応えてくれてた。


あんな夢を見た事も
笑って頂けたらしいけど、プロポーズの時の勘違いも

ローの気持ちを信用してないとしか言えないこんな私は、失礼以外のなにものでもない。


…あぁ、疑うってそういうこと。









誤魔化せやしないだろうか。


あの夢を
ローが知ってる状況だけで辻褄の合う魘されるような何かに…












「怖ぇんだろ。目が覚めて俺がいねぇんじゃねぇかって。どんなに俺や周りがおまえを大事に思っても、些細な事で全部ひっくり返されるくらい、怖くて不安で仕方ねぇんだろ」
















それは、きっと欲しかった言葉で
でも知られたくなかった事。

隠して、でも解って欲しくて
それでも知られたくない事ってある。


私の心はいつだって、面倒臭い。











今度こそ、あれだけ嫌味を並べて
それでも自分は間違ってないって強気でふんぞり返ってた自分が怯んだ。


不安に思う度に、そんな事考えるだけでローにも皆に失礼だって
バレないように、知られないように隠してた気持ちは







「だから周りの役に立とうと、必死なんだろ」









挽回しようと頑張ってた事は、全部ローに筒抜けだった。









でも、だからなに?


乗り越えようと努力はしてたよ?
結果ローの気持ちを疑ってしまった事もあったけど。


ローに対して失礼だった。
それは事実。


でも
だからって、それがここに父様を連れて来て良い理由にはならないと思うんだけど…






弱気になりかけた心にまた、闘志が宿る。
だからなんだと言わんばかりにローを睨み付けた。


「なんでか解るか?」


こっちはこんなにぐちゃぐちゃに心を掻き乱されてるのに
まったく動じた様子のないローのポーカーフェイスは癪に障る。












私が卑屈で、被害妄想激しいからでしょ。










褒められた事じゃないから、口にしたくはなかった。
胸張って言える事じゃない。

でも
そんなの今に始まったことじゃないじゃない。


知ってたでしょ?
解ってたでしょ?


それでもそんな私を好きって、あなたはそう言ったんでしょう?







「おまえが父親を"知らない"からだ。知らねぇから、それは時によって良いようにも悪いようにも傾く」







父様を…知らない?
知ってるよ?

寧ろ、この世界中の誰よりも本当の父様を知ってると思う。


父様は自分の為に
娘の気持ちなんて無視して道具として使うような人。

使えなくなったら
娘だろうと平気で切り捨てるような、そんな人。


「子供だ、当時のおまえは。周りから隔てられて、今みてぇに歯向かう事も何が正しくて何が間違いかも解らず、──ただ与えられたものを受け入れるしか出来ねぇ"子供"だった」
















そうだよ。

何も知らない子供だったの。
父様が用意した世界しか、見た事がなかったの。


世の中にはこんなに温かくて優しい人がいるなんて
"普通"がこんなに眩しくて尊い事だなんて、知らなかった。

父様が、私の生活が
あんなにも"普通"じゃない事なんて、知らなかったの。


「聞けよ、おまえが何度も自問自答した事を本人に。俺もそこは聞いてねぇ。だが綺麗事じゃねぇ真実を話せと言ってある。あっちもそんなつもりは恐らく、ねぇ」



聞く…?
何を?


ローは私の何を知ってるっていうんだろう。


自問自答したこと?
…だから何のことよ。


「おまえが知らねぇ何かが聞けるかもしれねぇ。またおまえが怒り狂う内容かもしれねぇ」


私が知らない…何か?













私が…知りたかったこと。
父様に聞きたかったこと。











どんな気持ちだった?あの時。
私の気持ち、少しは考えた事…あった?
なんであんな事したの?












私がもっと上手く出来てれば、あの過去は変えられた…?












そんな事今更聞いてどうなるっていうんだろう。
腹立って終わりな気しかしないんだけど。


「だが聞け。おまえが今後曖昧な物に惑わされねぇように、自分をあんな目に合った事の真相を、原因を──おまえは知るべきだ」


何言ってんだ分からず屋。


苛立ちの滲み出たそんな態度で睨み付けてた私の肩を、ローは両手で掴んで説得するようにそう言った。


そんなローは戻って来てから今までで一番、必死に見えた。









…知りたい、かもしれない。
本当に真実を語ってくれるのならば。




本当に、そうだった。
優しい人に出会う度に、父様が異常だったんだって何度も思った。


でもふとした時にね、本当にそうだったかなって思うの。


悲しい時、落ち込んでしまった時
なんでか心細くて、この世界で私は一人ぼっちなんだって孤独に思ってしまう時

これは当たり前なんじゃないかって。
自業自得なんじゃないかって。


私がこんな人間だから、今隣には誰も居ないし
本当は皆私が大嫌いなんじゃないかって、怖くなった。


それは…私が父様を知らないからなのかな。



「必要ならば横に居てやる。聞いた上で、殺してぇなら俺があの男を殺してやる。打ちのめされたなら俺がおまえを支えてやる」










…本当に、心強いな。
なんなんだろ。本当にやめて欲しい。













ローが真っ直ぐで正しくて眩しければ眩しい程
私の至らなさが嫌になる。

私が好きになったこの人は、私が考えもしない事を平気で思い付く。


それはいつも強くて、折れ曲がる事なんて決してなくて
そんなローを好きになった。


歩いてる道がちゃんと真っ直ぐなのか、いつも不安だった。
弱いから、強い人間になりたかった。
そう見られたくて、自分が周りからどう見えるかっていつも気にしてた。

些細なことで、いつも心が揺れた。


自分にはないものを、憧れてる全てを持ってる人だから
なりたい自分の理想像で、そんな理想が持てる全ての優しさを
私に注いでくれる人だから。













私またやっちゃったんだね。
簡単に疑っちゃったね、ローのこと。






ごめんね。
ダメすぎるね。

こんな私でも、支えてくれるっていうローは、本当に私にもったいなさすぎる旦那様だ。




destruct at reality.