18-19
「一番…気がかりだった事も、それはないって否定して貰えたし」
「そこで踏みとどまれるようなやつは家族に銃口なんて向けねぇよ」
ローのその言葉は、そこら辺の誰かが言うのより数倍重みを感じる気がした。
家族に銃口を向ける。
コラさんに、ドフラミンゴがしたこと。
ちょっとした事だったなら、あんなに反省してる父様を私は許したと思う。
でも父様は
可哀想でも、根っからの悪党じゃなかったとしても
母様を殺した。
私達を売ろうとした。
どんな理由があっても
したことはドフラミンゴと同じだ。
あれ…でも私、ローの恩人の仇って知ってても
なんだか嫌悪感みたいなのを感じなかった気がする。
良くない人っていうか、危ない人だなっては思ったんだけど
言ってる事に納得してしまったっていうか…なんて言うか…
やめよう。
今はそこを考える時じゃない。
そういう人は周りの制止なんて聞き入れられないらしいローの見解を
自分に出来る事はなかったって事にして貰えるそれを、今はありがたく採用しよう。
勝つために取らせると決めた駒だったんだ、あの時の私は。
目的上仕方ない犠牲の声には、何の影響力もない。
「もう…誰彼構わずってのは何か違うけど…話せない事では、なくなったかな」
「なら、聞かねぇよりは良かったんじゃねぇか」
聞いて良かった。
それは本当に思う。
でも、許せるか許せないかって事を
わからないっていうよりもどうしても考えられない。
決めてしまいたくないのかな。
本当にそれで良かったか後悔するんじゃないかって、自信がないのかな。
考えようとすると頭の中がざわつくの。
「白か黒かじゃねぇこともある」
私…また考えてる事声に出してた?
言葉にした自覚のない悩みへの返事っぽいそれに
またやらかしたのかってびっくりした。
「おまえは嫌がるかもしんねぇが…やっぱ親子だな。…おまえには能力があった。おまえの力になりてぇと周りが思う"何か"を、おまえは持ってる」
褒めて貰えてる筈なのに、その前の言葉が引っ掛かり過ぎて素直に喜べない。
「だが自分を追い込みやすい部分と、度が過ぎるきらいがあるとこは、…似てる」
父様と、私が…似てる?
それは絶対嫌でしかない事なのに、どこが似てるか言われたその特徴は私がよくローや皆に怒られてた所で
聞いた話の中の父様にも言える事で。
え…似てるの?
似てる??
…嫌でしかない。
不満なんだけど、否定もしきれなくて
凄い複雑な顔でローを見た。
でもローはそんな事お構い無しに話を続ける。
「気付いてねぇか?おまえにはそこが解るから悩んでんのかと思ったが」
悩んでるってことは許す選択肢があんじゃねぇのかって、それを言われて固まった。
え、そうなの?私。
もう自分でも把握出来ない自分の気持ちは、ローにはそう見えていたらしい。
それにもびっくりだけどそんな事より
似てるってとこの方が引っ掛かって引っ掛かって仕方ないんだけども私。
「俺なら悩まねぇ。どんな理由があろうと、どれだけ同情はしようと。そうすることを選んだのは他の誰でもねぇ本人だろ」
それは…確かに…
「高い目標を掲げる事が悪ぃ事だとは言わねぇ。だがどんな事でも何か目的を果たすには、それ相応の努力や犠牲が要る」
それも…確かに…
「状況を読んで、都度軌道修正をして…必要なら目的自体も改めざるを得ねぇ事もある」
仰る通り。
「それもしねぇで突っ走って自滅して…自業自得としか思えねぇ。ガキじゃねぇんだ。それで人様に迷惑かけたってんなら、そこの責任は取るべきだ」
私も…そう思う。
「今どんなに悔いていたとしても、所詮は責任取りきれねぇ事をやる前に想定出来ねぇ人間だ。俺なら許す許さねぇ以前に、見限る」
あ、新しい選択肢。
"見限る"
それは考えつかなかった。
許したらどうなって
許さなかったらどうなって
見限ったらどうなるんだろ。
「俺はおまえみたいに優しくねぇ。例えドフラミンゴがコラさんを殺した事を悔やんでいたとしても…それを聞いた感想が違っただけでその後の俺の行動は変わらなかった」
私優しいのかな。
そういうのとも違う気がするんだけど。
ローの言ってる事は正論だ。
何もおかしい事言ってない。
でも待って、そこより気になる所がある。
「似てるなら…私いつか…ローに見限られるんじゃって、今凄く、怖い、です」
脱線してるってわかってる。
でも今は何よりもそれが気になった。
「そこまで追い詰められる前に普通気付くもんだ、自分の許容量以上の事をしてる事に。そこで言えばおまえはあの男より重症だな」
え…私父様よりヤバいの?
っていうか皆何か決める時自分の許容量とかそういうの考えてるの?
「私ただ、ああする以外思い付かなかったんだと…思うんだけど」
「除外してんだろ、他の方法を」
他の方法、ねぇ…。
あったのかな。
そこに気付けないから、似てるの…かなぁ。
「あの男はそこまで追い詰められて初めてやっと、自分を守ろうとしたんだろ。…やり方はさておき」
そうだね。
取り返しのつく内に、もっと早い内に
そんなにツラくて仕方ないなら逃げてくれてたら良かったのにって思う。
でも父様も私と同じで、そんな道があることすら気付けな…かったのかな。
「おまえ一度でもどこかで自分守ろうとしたのかよ。シュウの時も、ベガス聖の時も、頂上決戦の時も、ドフラミンゴの時も…してねぇだろうが」
ローにそれを言われるまで
私その事が父様と似てるとこに当てはまるって、思ってもなかった。
捨てられるのが怖いから、人と近付き過ぎないようにしようって
そう思ってたあれの事しか考えてなかった。
…してないね。
してないけど…でも別にあれは私…
「そこでおまえ一度でも考えたか?シュウ達を、俺らを、エースを、俺を…売れば、殺せば自分は助かるって方法がもしあったとして、おまえはそれを選んだか?」
「そんな事するくらいなら最初から何もしないよ」
驚く程間髪おかずに、無意識にそれは口から飛び出した。
だって元も子もないじゃないそれって思って
その元も子もない事をしでかしたのが父様だって、少し遅れて思った。
「そこがおまえとあの男の違いだ」
なんかよくわかんないけど
私捨てられない?大丈夫?
ローが言ったその出来事は、今だから言えるのかもしれないけど
私別にそうした事にはそこまで追い詰められてはなかった。
確かに一歩間違えたら死んでたかもしれないけど
でもそれなら私、本望だったんだ。
あの時は私、死ってそんなに怖いことじゃなくて
誰かを守ってそれで死ねるなら
役に立ってこの人生を終えれるなら、楽しい事だけじゃない生きるって事を終わりにできるならそれも良いって
本気でちょっと…思ってたから。
「おまえはきっと潰れるまで気付かない。潰れても気付かない。良いとこでもあるんだろうが、程度ってもんを考えろ」
今はもう、死にたいとか思ってないって言ったじゃない。
改めようとしてる事を言われてしまうとちょっと癪に障る。
でもローが私を思って言ってくれてるのも解るし
実際私思い立ったらいつも凄い勢いで突き進んじゃってたから、本当にちゃんと変われるのかなって思うとこもあって
なら釘刺されるのも当然かってムッとした事は心の隅っこに隠した。
はいって返事をして、そこを考えるのは終わりにした。
でも本当に私、父様と似てるとこが…あるね、これは。
悩んでるって時点で、許す選択肢があるからだって事も
きっとその通りだ。
一人で抱え込む孤独とか、ツラさとか、苦しさが…解ってしまうから。
私もローがいなければああなってしまってたのかなって、他人事とは思えなかったから。
…私のことはもういいよ。
でも母様を殺した父様を許して、それで私後悔しないのかなって
そこで悩んでるんだと…思う。
「俺もどっか…おまえの父親と似てる部分が、あんだろうな」
「え、どこが?寧ろ正反対じゃん」
結局どうしようって頭を悩ませてたら
突拍子のなさすぎる事を言い出したローにちょっとビックリした。
どこも似てない。
外見も性格も何もかも。
「おまえ母親そっくりだな。おまえの部屋で写真見て…一瞬おまえかと思った」
あの部屋、ロー見たんだ。
それはまた、複雑な気持ちを生んだ。
今どうなってるかは分からないけど、あんなとこにずっといた事を知られたくないような
知って欲しいような…。
殆ど何もない私の部屋には、確か三人で写った写真を飾ってた。
父様も母様も幸せそうに笑ってた頃の、家族写真。
確かに外見は私、母様寄りな気がする。
母様はもっと綺麗だったけど。
「これの笑った顔があれば他はいらねぇって惚れこんだとこは…同じだろ」
照れ隠しなのか、私のほっぺをつねりながら呆れたようにそんな事言い出したローに
全身の血が顔に集まって来た。
だから笑ってられるように今はもう少しふんばれって言われて、なんだかこそばゆい心地にふわふわする。
不意打ちとかズルい。
「頑張るから、踏ん張るから手伝って。…私、父様のつらかった気持ち…解る。でも母様を殺した事は…絶対許せない」
嬉しくて恥ずかしい気持ちを誤魔化すように、しなきゃいけない話を進めた。
私は両極端なこの気持ちの結論を、どう持っていったら良いのかわからない。
どうすれば後悔しないのか、決められない。
「でもさっきのローの話は、その通りだって思った。…そこに納得出来てしまうなら、ローが出した"見限る"って結論が正解なのかな」
「俺とおまえは違う人間だ。考え方も経験してきた事も違う。俺の判断がおまえの正解とは限らねぇ」
うわー…
出たよまたごもっともな正論が。
自分の事なのに
それを考えて貰ってるって言うのに
じゃあどうしろって言うのよ的な不満を感じてしまう。
私ローになりたい。
ローなら気持ちがどこ向いてるのかごちゃごちゃにならずに、いつも正しい答えを選べそう。
「そもそも…ねぇよ正解なんて」
「…私本当にもう後悔とかしたくない。後悔しないような答えを、選びたい」
ローの頭の中の次元が高過ぎるのか
さっきから補足がないと会話が噛み合わない気がするのはなんでだろう。
もう振り返らないように父様と話したんだから、ここで間違いない決断しないと意味ないじゃん。
「世の中後悔が1つもねぇ人間なんていねぇ。…俺も、全くなくはねぇ」
「それどんな?」
んな事今はどうでも良いだろってはぐらかされた。
聞きたかったのに。
ローがしてる後悔ってどんなのなのか。
…ちぇっ。
「ただ、減らせる。軽くは出来る。言ったろ、白か黒じゃねぇって。その纏まってねぇ状態が答えで何か問題あんのか」
「……ない…かも」
そっか。
本当だ。
これでいっか。
なんかそう思ったら凄く、心が軽くなった。
母様を殺した事は絶対許せない。
しんどくなったからって目的見失ってああなったのとかも全く理解出来ないし最低だと思う。
でも
話を聞く前みたいな恨みっていうか憎しみみたいなのは形を変えた気がする。
可哀想って。
あとドンマイって。
本人には絶対言ってやらないけど、部分的には許すみたいになっちゃったから。
その代わりっていうか鬱憤ばらしに
父様をしれっと上から見下してやりたいなとか思っちゃう私は、大人げないのかな。