18-20



善?は急げっていうじゃない。
やっと纏まった答えを父様に話してくるって伝えたら、ローは一人で平気かって。


ちょっと大人げない事も言いたかったから、大丈夫って伝えてローとはそこで別れた。


父様のとこに行く前にね、明後日の結婚式に向けてローに頼まなきゃいけない事を伝えたの。










「…おまえマジでそれ俺にやらす気か」
「好きにして良いって言ったじゃん。ちゃんとキュンってなる素敵なの考えといてね!"ふ"だよ!!」


すんごい嫌そうな顔で固まったローに、それだけ伝えて言い逃げしてやった。


嫌がるだろうなとは思ってたんだけど
ちょっとローを困らせたかったって言うか何て言うか。


でも楽しみ。


凄いうんざりしながらも、でもちゃんと考えてくれるんだろうなって思いながら
客室への階段を降りた。
















コンコン


「はい?」
「私。ウイ」


さっきのがあったからなのか、父様は扉の鍵を回さないでいてくれた。


「思っていたより早すぎて、私の方が心の準備が間に合ってないのかもな」
「そっちのが良い。準備された返事なんて聞きたくない」


気持ちがスッキリ固まると、こんなに強気になれるんだって我ながら驚いてる。


私もう父様が怖くない。
父様に何を言われても、平気。

だって決めたから。


「それは…参ったな」
「結論。…私母様を死なせた父様を許さない」


扉越しでも、その先にいる人が息を飲んだのが分かった。









良かった。
許さないって言われて、傷付いてくれる人で。


やっぱり父様はわかりやすい。
色んな事が下手くそだ。


「最初の動機は私達の為だったかもしれないけど、それを台無しにして寧ろマイナスになるような事を、父様はした」
「その…通りだな。すまない…言い訳がましい事でしか…ないな」


それを教えてくれたのは間違いじゃないよって、心の中でだけ返事をした。


確かにあれの最初のきっかけが、私達を思ってって事だったのは私を惑わさせた。
どうすべきかに迷ってしまう事だった。

でも知れて良かった。


あの時と今は違う。

私はもう大人になった。
ローも皆もいてくれる。


父様とちゃんと一人の人として向き合えるのは皆のお陰だなって、改めて感謝した。






「ローに言われた。私父様に似てるんだって」
「…似ていないだろう。どこも」


自分で似てる事を自覚した今だけど、でも似てる事を認めたくなかった気持ちが
父様本人が否定してくれた事で喜んだ。


悔いてる自分に似てるって事を、認めて貰いたかった父様が否定してくれた。
それはなんだか、何の勝負かわからないけど勝った気になった。


「私、解るよ。父様がつらかった気持ち。誰にも言えなくて解って貰えなくて、でもそれをしたくて、するしかなくて」


同じなら解る。
あのつらさを、大変さを。

それが難なく出来る人でありたかったのに、やっぱりつらい
理想と現実の差に打ちのめされる苦しさとか、悔しさ。


「父様が勝手に決めた事。私も母様もそんな事頼んでない」


自分の事じゃないから。
父様の事だからこうやって心を抉る言葉を言える。


私がそう言われたら、一番キツい。


人と距離を取って、でも寂しくて、愛されたくて、居場所が欲しくて。

それを誰も頼んでないだろって、おまえが勝手にしてることだろって
自業自得だろって言われたらつらい心のいき場がない。


だから敢えてそれを言った。


「でも、大切な人の為に何かをしてあげたいと思ったのも。それを成し遂げようとする大変さも、孤独さも。…私解るよ」


私にした事は許してあげる。
けどその代わりに、ちゃんと父様も傷付いて。

自分がした事への後悔だけじゃなく
私を傷付けた事に傷付いて。


「父様のせいでね、私自分に自信がなかったの。差し伸べて貰えた優しさを、また切り捨てられるんじゃないかって、ずっとそれが怖くて受け取れなかった」


私がそう思ったのも、誰に強制された事でもない。
でも私本当に寂しくて辛かったから。


許す代わりにそれを父様のせいにしたかった。


「深く関わらないって決めたのは私なのに、孤独で、寂しくて、つらかった」


私が父様の気持ちを解ってしまったように
父様にも私の気持ち、解るんじゃないかな。


過去の自分を悔いてて、私と似てて、遠路はるばる謝りに来た父様になら
これが一番の仕返しになるんじゃないかって、思ったから。





「本当に…私は取り返しのつかない事をしてしまった。本当に…すまない」
「許さないけど、全く解らなくはない。…私なら父様と同じことはしなかっただろうけど」


これで良い。
これが私の後悔が一番軽くて、少ないだろう素直な気持ちだ。


これを父様に言えて、謝って貰えて
これで私やっと過去に出来る。


引きずり続けてきた事から、つらかった過去の思い出に
出来る。


「…折角わざわざ来たんだし、出てよ。結婚式」
「良い…のか?」


父様の返事を聞いて、嬉しくなった。


出たかったんだって。
こんな性格の悪い事ちくちく言うような、一度は捨てた娘の結婚式を
父様見たかったんだって。


「勘違いしないで。言ったでしょ、絶対許さないって」


これは大人になりきれない私の仕返しだ。


もう諦めて逃げたなら、全然悔しがってもくれないかもしれないけど


「…自分が捨てた娘がどれだけ素敵な人達に愛されてるか、知って悔やんだら良い」


逃した魚はなんだっけ?


惜しんで貰いたい。
悔しがって貰いたい。

私を捨てた事を、後悔して貰いたい。


明後日の式は絶対に素敵なものになる。
来てくれる皆は
それはそれは素敵な、私の自慢の宝物みたいな人達だから。


「…ありがとう…本当に、ありが、とう…」


父様の声は震えてた。
涙を、流してるんだろうなって思った。


嫌がらせだって言ってるのに、言ってるだけじゃなく本当にそんな気持ちもあるのに








許せなくても、どんなダメな人間でも
やっぱりこの人は私の父親だ。


私の幸せな門出を一緒に迎えられる事を喜んで、それで泣いてくれるって事が
…嬉しくて私まで泣きそうになってしまった。


「ウイ、少し扉から…離れてくれるかい?」
「…良いけどなに?」


そんな私の気持ちは絶対父様に教えてあげない。
気付かれたくない。


そう思って声が震えないように気合を入れたら、凄いドスの利いた返事になった。





「許さなくて良い、お祝いとして受け取らなくても良い。だがもし嫌じゃなければ…いびつになってしまったが受け取って貰えたら嬉しい」


鍵の回る音の後に、少し開いた扉から
細くて骨と血管が浮き出た腕が現れた。

その手は私が壊してしまった見覚えのあるものを廊下にそっと置くと
また扉の奥へと消えていった。





「これ…ごめんなさい。…壊しちゃって」
「ああなるのも当然だ。…ウイは本当に、素敵な人達に愛されて囲まれているんだな」


父様が手を離すなんて思ってなくて
これが床に叩きつけられて割れてしまった時、なんだか物凄い罪悪感に襲われたの。


…直ってる。
所々いびつだけど。


良かった。

どこの誰が作ってくれたかはわからないけど、誰かが気持ちを込めて作ったものを
その込めた気持ちを果たさせる前に壊してしまった事を
私凄く後悔したから。


なんで手を離すのよって
受け取る訳ないでしょって
父様のせいでまた嫌な事が増えたって…自分のせいなのにむしゃくしゃした。


「ペンギンくんに…諭されて、手伝って貰った。物作りをする人間として、それを壊してしまった事をウイは悔いてる筈だと」


…ペンギン?












疑問だった出来事が、今1つの線で繋がった。


皆と一緒にリビングにいなかったペンギン。
父様と話しに行く事をそんな必要ないって怒ってくれたベポが、ペンギンに何か怒ってた事。
慣れない事をしてきたってげっそりしてたあの様子。

父様と話して来るって言った時に、ただじっとこっちを見てたペンギンの心の中。











…そうだったんだ。









「もし機会があれば、直して渡してやってくれと…殆どペンギンくんが直してくれたようなものだが…本当にウイの事を理解してくれているんだな」


ペンギンらしい。


いつもそう。
私の気持ちを先回りして、私の気持ちを軽くしてくれるのに
でもそれは巧妙にわかりにくく隠されてて

でもいつも、助けてくれる。






『俺はウイちゃんが世界で一番大好きだから』






あれはもしかしたら、いつものおふざけとかじゃなかったのかもしれない。
ペンギンは今も私を好きでいてくれてるのかもしれない。


ちゃんとお礼を言って
…話さなきゃ、な。







父様からの結婚祝いで
これまで引きずって来たものをぶつけてしまった証で
ペンギンが直してくれた石膏のいびつな写真立て。


無事だった部分は花びらが丸みを帯びたフォルムを描いてるのに、粉々にしてしまったところはいびつでボコボコだ。
でも、色んな思い出の詰まった世界で1つだけの写真立てになった。


有りがたく使わせて貰おう。
これを作った人が込めた気持ちも、浮かばれるように。


「明後日、楽しみにしているよ。自分が犯した罪を痛い程実感できるのを。それが叶えば…もう私はこの人生に悔いはない」


父様が扉を隔てた先で、どんな体勢で話しているかはわからない。
ただなんとなく、扉に背を預けてるんじゃないかなって思った。


廊下をキョロキョロ見回して、誰もいない事を確認して








そこに寄りかかった。
写真立てを抱いたまま。


本人には出来ない。
したくない。
私がこうしてる事も知られたくない。

この扉があるから、誰にもばれないから
出来た事。





今だけ。
これは一時の気の迷いだ。







扉の先の父様にもたれかかってる気分になりながら
ありがとうって、心の中で呟いた。








destruct at reality.